第918話 葉っぱの上の暮らし①
暗黒大神官ドリアーヌからエクスワイヤ大陸の地図を借りて3時間が経過した。
現在、共有するアレンの指示で、鳥Aの召喚獣がクワトロと一緒に目的地に向かって飛んでいる。
イルゼとタジンは5階にある訓練部屋でスキル上げの訓練を行っている。
2人は転職しても職業レベルとステータスバフがつくスキル以外は各大陸の課題が終わっても継続なので上げられるだけ上げたい。
修練用の武器と魔法具は既に各自に渡しているが、アレンの石Dの召喚獣と体力回復役のペクタンも稼働中だ。
神化した魔獣との戦いに備え、ステータスが上昇する職業(才能)レベルを6まで上げてほしい。
アレンは大神殿の3階の会議室を借りて創生スキル上げを行っている。
「やはり、ステータスが上がると。創生スキルのレベルを上げて、創生スキル上げを加速させると」
アレンは暗黒界にきて30日目の11月30日になった。
暗黒神の課題を達成しつつ、レベルアップ、創生スキルアップを上げた。
魔力、体力を指輪や加護で回復させて、全て霊力に置換して、創生スキル上げに使っている。
魔力の回復する速度も大事だが、これ以上の魔法具や加護は手に入れられそうにない。
回復する割合が変わらないなら、次に大事になってくるのは最大体力と最大魔力だ。
レベルが70上がり、天使系統と神系統の創生スキルの召喚獣開放により、体力と魔力が3割ほど上昇した。
結果、秒間で使用できる霊力量が増えて、想定していたよりも早くスキル経験値を稼げるようになっていく。
「1日も早く解除するぞ。お前のおかげで体力が50000も増えたからな」
睡眠を削り、命を消耗して、限界を目指して創生スキル上げに努める。
『……ふん。どうでもいいわ』
アレンの鎧となったオヌバが呆れているのか鼻息を立てた。
体力が5万上がるので、加護で体力が回復次第、霊力にどんどん置換していく。
『アレン様、目的のジャイアントレンゲの場所に到着しました。あちらの葉の上には村があるようです』
3時間経過したところで、鳥Aの召喚獣の側でクワトロが特技「万里眼」を発動していると、暗黒大神官から渡された地図の一帯に辿り着いたようだ。
地図にはジャイアントレンゲが浮き上がる場所と過去に村を作った記録しかない。
クワトロが見渡すと視界内の葉の上に村があった。
「分かった。あまり村人を驚かせないようにな」
『イルゼ、タジン。目的地に10分以内に到着する。速やかにこっちに来てくれ』
アレンは鳥Fの召喚獣の特技「伝達」で修業中のイルゼとタジンを急いで呼び寄せる。
らせん状の階段を駆け下りると音と共に勢いよくアレンのいる会議室に2人が入ってくる。
訓練のために召喚獣を出してあげていたメルスは2人の後ろからついてきた。
「待ってたぜ!!」
「タジン、魔法具の装備も忘れるなよ。あとこれで汗を拭け」
「お? イルゼ、戦いなのか?」
汗だくでイルゼから渡されたタオルを受け取るとタジンは、アレンに視線を向ける。
「周囲に魔獣はいないようだ。だが、海深くに隠れているかもしれない。油断するなよ」
鳥Aの召喚獣が村の側に転移用の「巣」を設置している間に、葉っぱを喰らう魔獣が周囲にいないかクワトロを旋回させる。
2人は修練用に装備した魔法具や武具を急いで切り替える。
「よし、巣を設置した。転移するぞ」
アレンたち3人はエクスワイヤ大陸の目的のジャイアントレンゲの上に到着した。
「おお! これが葉っぱの上か! なあ、アレン!!」
「たしかにそうだな。S級ダンジョンの4階層を思い出すな。あれよりも随分広いぞ」
「S級ダンジョンって何だよ!!」
「ふむ、結構しっかりしているな。これだけ頑丈なら葉の上で暮らせるか」
転移するなり三者三様の感想を漏らした。
タジンははしゃぐように緑色の葉の上で何度もジャンプする。
アレンも葉の地面に足を踏み込むとゆっくりと凹んで埋没していく。
ただ、ジャイアントレンゲの葉は肉厚で弾力があるためか、多少力を込めても破れることはないようだ。
上空に飛ぶクワトロの特技「万里眼」が全長10キロメートルほどのジャイアントレンゲという植物系統の魔獣の上にいることを教えてくれる。
「緑色の葉っぱの魔獣か。人間界でも植物系の魔獣は巨大になりがちだがそれ以上だな。こんなのがこの大陸に数千、数万体もいるのか」
アレンは地図と見比べながらも、植物の魔獣のジャイアントレンゲの大きさに圧倒される。
(数が多くて大変だし5年に一度、地図を更新しているのも頷けるな)
暗黒大神官からエクスワイヤ大陸について聞いた。
この深度30から100メートルの浅瀬にできた地形に、エクスワイヤ大陸の人々は住んでいると聞いた。
魔獣の死骸でできた足場の上に住む人々は大神殿、守護番の要塞、他の大陸と物資を繋ぐ港町など大陸内の要所のみで、ほとんどの人々はこのSランクの魔獣でジャイアントレンゲの上で暮らしていると言う。
このジャイアントレンゲはSランクの魔獣で数千年生きる上に、全長100メートル程度から最大で100キロメートルと1000倍に成長すると聞いた。
「今の10倍は大きくなるというわけだな」
「そういうことだ。ようやく誰かやってきたな」
アレンたちが葉っぱの隅であれこれ話し合っていると、村の守りをしている人たちであろうか、槍を持った魔族が3人ほど、こちらにやってくる。
「す、すみません。この村に何か用事でしょうか?」
アレンとタジンはもめ事防止のため、今はフードを被っている。
おかげで暗黒騎士の鎧を着ているイルゼがひと際、目立ってしまう。
さらに、やってきた者のうちもう1人も声を掛ける。
「あの……。もしかして、暗黒騎士様でいらっしゃいますか?」
3人のうち誰も槍をこちらに向けるような非礼を働く者はいない。
「そうだ」
まだ今回の課題について疑問の多いイルゼがゆっくりと口を開いた。
だが、全てを言い切る前にアレンが勢いよく語りだす。
「はい、そのとおりです。暗黒騎士イルゼ様が、この大陸での住場を失う問題の解決に着ました。村の中の事情での暮らしぶりや状況を窺っても良いですか?」
「おお!! これは……」
「おい、村長のところに早く行け!!」
「ああ、ご案内は任せたぞ!!」
3人のうち2人は村の中に向かってすごい勢いで駆けて行く。
「……」
「ささ、こちらでござえますだ」
イルゼは何か言いたげだが、村の守りを行っていた魔族の1人の後をついていくことにする。
「塀はないのですね」
村の構造の違和感を覚えたアレンは、一緒に村の中に入る村人に語り掛ける。
「んだべ、付き人様、わてらのような村に来るのは初めてべか? 荷物になるし、葉に上がってきた魔獣は狩るので、基本的に塀は立てとらんど」
(誰が付き人だ。それにしても、海上で暮らしているが前世でいうところの遊牧民みたいな生活だな)
前世で健一だったころ、移動式のテントで羊と共に遊牧する民族を思い出す。
「移動式の家屋にように見えますね。最近こちらに来たばかりですか?」
「そのとおりだべ。うちらミウタベ村は先週上がってきた葉の上に移動してきたんで……。申し訳ねえが、まだ荷物の片付けが済んでおらせんから散らかっていて申し訳ないど」
(口調に癖が強いんじゃ。原因追及のためにも暮らしぶりを詳しく聞かないとな)
やってきたアレンたちが村の中に入ってくるので村人の視線が集まる。
大人の数倍の大きさの乳白色の象牙のように湾曲した骨は、魔獣のろっ骨だろうか。
テント状の家を支える骨組みに使っており、葉っぱや魔獣の毛皮をシートにして覆っていく。
こちらを見る村人の情報を処理しつつ、案内してくれる村を警護する人に向き直る。
「構いません。陸地になった葉の上の状況が知りたくて、この村に着ました。お忙しいと思いますが、ジャイアントレンゲ減少問題の解決に向けてご協力ください」
「もちろんだべ。って、村長がきたど」
(ふむふむ、葉っぱが減って住処が減ってしまう問題は共有されているってことでよいかな。話が早くなって助かる。って、お? 神輿に担がれているのか)
「えっほ」
「えっほ」
「えっほ」
「何をしておるのじゃ! 道を片付けぬか! 暗黒騎士様が態々、いらして下さったのじゃぞ!!」
腰が曲がり、長い白髪の老婆が、何やら魔獣の皮と骨で作った担架に正座で座り、村人4人がかりで運ばれてくる。
イルゼの前に老婆を乗せた担架をゆっくり卸し、葉っぱの地面に大きな杖をつき、曲がった腰でゆっくりと体を起こして、イルゼの前に数歩前に出て、元々低い頭をさらに下げた。
「態々、ミウタベ村にいらっしゃってありがとうなのじゃ。儂は村長で占い師をやっておるバラサイというものなのじゃ。最近、とんと足腰が悪く正座できぬゆえ、このような姿勢で失礼するのじゃ」
(おお? 珍しいな。村長が占い師なのか。前世でも遥か太古の昔はそうだったと習ったことがあるぞ)
アレンが前世で健一だったころ、弥生時代前後は、占いによって人々をまとめていたと習ったような気がする。
魔獣の跋扈する世界で体格の良い者が村長の傾向の強かった暗黒界で初めて、ヨボヨボの占い師の婆さんが出てきたなとアレンは思う。
イルゼはアレンのようにあれこれ思考を巡らせることなく、自らの立場と使命を元に口を開いた。
「急に押しかけてしまい、申し訳ない。魚神ミンギア様の命を受け、暗黒大神官ドリアーヌ様の相談もあって、この大陸の惨状を救うためにやってきたのだ」
「お、おおおおお!! 何とお礼をしたらよいか……」
「礼には及ばぬ。暗黒神の子であるお前たちの救いを与えるのは私たちの使命だ。村が移動してきたばかりで忙しいと聞いているが、少し協力してくれると助かる」
イルゼが暗黒騎士モードで権威を振りかざしつつ、村長協力を求めたので、背後で運んできた村人も居住のための準備を進める者たちも跪いた。
「まだ少し散らかっておりますが、儂の家にお越しくださいなのじゃ。ほれ、儂を運ぶのじゃ。4人もいらぬ! 2人は走って戻り、家を片付けるのじゃ!!」
見た目の割に元気な村長は自らの家にアレンたちを招くのであった。





