第916話 エクスワイヤ大陸
アレンたちが魚神船に乗って3日目の昼過ぎだ。
「もうすぐ到着するって言ってるぞ。片付けろよ」
「もうちょいでスキル経験値がって、おい!!」
あと1回のスキルの発動を求めることの積み重ねが、遥か見果てぬレベルアップにつながると信じるアレンのことなどタジンには関係ないようだ。
すごい勢いで収納に創生スキルに必要な土の入った鉢など全て放り投げるようにぶち込んでいく。
「お? 大陸までまだ少しあるな」
船の周囲が通路となっており、乗客たちがゾロゾロと出てきている。
タジンに背を押され、乗船の際に説明を受けた10階層からなる魚神船の5階層に向かう。
魚神船の側面には既に小型船が接舷しており、下船の準備は整いつつあるようだ。
エクスワイヤ大陸は基本的に浅瀬となっており、パルーニャの港町に向かうためには魚神船を一度降りて小型船に乗り換える必要があるとイルゼに聞いた。
全長200メートルを超え、10階層中の下から4階層分は駆動炉、貨物室、乗組員のための部屋となっており、重量で船底がかなり低くなっている。
このような超重量の大型船は4階層当たりまで海の中のため、5階層に括り付けた小型船を出して乗客を港町へ運んでいる。
ここからは小型船が出ており、乗客は乗り換えて、エクスワイヤ大陸のパルーニャ港町に向かう。
「遅いぞ! そろそろ順番だ!!」
「ギリギリセーフのようだな」
イルゼの口調は今までどおりキツイのだが、何故か言葉の中にトゲを感じない。
この3日ほどの間にイルゼは気持ちを切り替え、この大陸での使命を果たすことに集中できているようだ。
5段階のグレードの一番上の乗客は既に小型船に乗って港町に向かっている。
アレンたちは上から2番目のグレードなので、暗黒騎士のイルゼがいても番は変わらず2番目の下船となる。
ズイイイイン
「すっげえ速いな!!」
小型船の淵を握り締め、タジンが細かい泡を海面に立てながら水上を走る様に感動している。
2番目のグレードを選んだ乗客たちと小型船に乗って港町を目指す。
アレンは元気だなと思いながらも、上空にクワトロを飛ばして、特技「万里眼」を発動させて情報収集に努める。
なお、港町につくまでの1分1秒を惜しんで創生スキル上げに務める。
(惜しまなかった結果、また副長に後れを取るかもしれない。絶対に負けられない。再戦があればイルゼに謝罪してもギタギタにする。絶対にだ)
そんなことを考えて15分もしないうちに、速度が減速して、目的地である発着の港街につく。
小型船の左端を接舷して、木製の桟橋に飛び乗って進んだ先は陸地なのだが、土や岩の地面の感じがしない。
タジンが自らの力で踏みしめるとゆっくりと靴底1枚分埋没していく。
「なんだ? 柔らかいし変な感じだな」
「まったくだ。地面じゃないのか」
「まあ、魔獣の背中だからな」
「襲ってこないのか!?」
「死骸の背中を使っている。港町は亜神に至った魔獣だと聞いているな。大神殿は神に至った魔獣だぞ。ほれ? 行列をならばされてもかなわぬ」
まるで浅瀬に打ち上げられた魔獣の上に町を作っているようだ。
(浅瀬が大陸とは何のか考えさせられるな)
エクスワイヤ大陸をクワトロが特技「万里眼」で周囲1000キロメートルを確認する。
水深50メートルもない浅瀬の海に、ぽつぽつと魔獣の死骸や巨大な蓮の葉などを利用して陸地を作り、そこに魔族たちが住む町を作っている。
この大陸の住人はこの「足場」を陸地の代わりに港を作り、街を作り、守護番の要塞、大神殿を作って暮らしているようだ。
(さて、俺に喧嘩売ったウイクが熟練騎士で治めている大陸ね。今は副長のレヴィナ、熟練騎士ラクスベス、熟練騎士ガライと一緒に4人でペゲシアス大陸の竜狩りに勤しんでいると。俺たちが次に行く大陸か。鉢会うかもしれないしイルゼに情報を聞いておくか)
アレンはこの3日の間で13人いる暗黒騎士の詳細を聞いた。
エクスワイヤ大陸はウイクが熟練として配置されているが、今は別件の討伐依頼に参加しており、この大陸にはいない。
【暗黒騎士たちの各大陸配属、性別、種族、星の数、略語、職業(才能)名など】
・①ガディアック島:1名 イルゼ(女3⇒5)
②ブラキウス大陸:2名 カミーユ(豹女5)、ホイロ(男4)
②コルブラン大陸:2名 ラクスベル(男5)、プリニッタ(女4)⇒ハンネス(男3)
④エクスワイヤ大陸:2名 ウイク(女5)、パテラ(女4)
⑤ペゲシアス大陸:3名 パーシャス(男5)、ガライ(熊男5)、レガート(男4)
⑥ロベタール大陸:0名
※暗黒騎士の中で獣人はカミーユとガライのみ
・全大陸配置の役職持ちの騎士たち
暗黒騎士長クライブ(男7)
暗黒騎士副長アイリス(女6)
暗黒騎士副長レヴィナ(女6)
・暗黒騎士の略語など
暗黒騎士長⇒騎士長
暗黒騎士副長⇒副長
熟練の暗黒騎士⇒熟練騎士
新人の暗黒騎士⇒新人騎士
・才能は暗黒騎士3⇒暗黒騎将4⇒暗黒騎王5⇒暗黒騎帝6⇒暗黒騎神7
アレンたちは入出管理局で手続きを済ませ、同じ港町にある冒険者ギルドにどんな依頼があるのか確認する。
手続きの最中、次の段取りを考えて鳥Aの召喚獣に大神殿のある島に向かって飛んでもらう。
ムラルガンの大穴で魔石の募集を済ませて、アレンたちは覚醒スキル「帰巣本能」で大神殿に向かった。
「変な山だな。こんもりしているが、これも魔獣なのか」
「……これはスーパーエルダータートルという魔獣だ。この大陸で生息の多い魔獣の亜神まで進化した姿だな」
転移するなり目の前にそびえるこんもりとした小山を見て、タジンが感想を漏らす。
クワトロが上空から見ると周囲を浅瀬に囲まれた300メートル以上の半球のドーム状の上に立っている。
ここはかつての巨大な亀の魔獣の死骸を足場にして、その甲羅のてっぺんに大神殿を築いている。
「ようこそいらっしゃました」
「暗黒大神官様がお待ちでございます」
タジンが驚いていると大神殿で仕える神兵たちが駆けよってくる。
案内されて中に入ると、他の2つの大陸同様に正面は礼拝堂だった。
「魚神ミンギア様、今年も豊作ありがとうございます」
「これ以上、足場を奪わないでください」
「安全な漁業ができますように」
(やっぱり足場が安定することを祈っているな。冒険者ギルドで相談受けた話と同じか)
アレンの知力だと礼拝堂にいる数十人の祈りの声を同時に聞き取ることができる。
祈る言葉が大陸で困ったことを現しており、先ほど冒険者ギルドで聞いた話とも合致する。
そのまま、神兵にアレンたち3人は最上階目指してぐるぐるとらせん状の階段を上がり広間へと案内された。
(潮風香るね。っていうか、祭壇があるけど広間じゃないのね。なんていうか、灯台感が半端ないな。さすが浅瀬の大陸だ。夜は光るのだろうか)
周囲数百メートル先は海に囲まれた最上階の祭壇のある広間はこれまでのどの大神殿とも違った。
広さは30メートルほどの円状の部屋となっており、これまでの大広間の何分の1の広さだろうか。
広間の周囲には東西南北だろうか円状の壁の4ヶ所に均等に風通しのよい窓ガラスのない風を通すための窓がある。
部屋の中央に段々になった祭壇があって、その上は空からわずかな光が差し込んでいる。
祭壇の上にはだれもおらず、アレンたちは広間に入ると横から明るい声がかかる。
「お待ちしておりました。暗黒騎士イルゼ様! 暗黒大神官ドリアーヌでございます! まあ、お若い暗黒騎士様です。私も暗黒大神官になったばかりなのですよ!!」
歓喜が伝わってくる甲高い声で話しかけられた20代くらいの見た目の女性が扉の側で待っていたようだ。
(暗黒大神官だけか。魚神ミンギアがいないね。まあ、神といっても魚だし建物内にいないのか)
広間にはテンションの高い暗黒大神官しかいない。
「暗黒大神官のドリアーヌか。お初にお目にかかるぞ。こちらの大陸に来るのに随分遅くなったが魚神ミンギア様から事情は聞いているだろうか」
「はい。もちろんです! 何でもできる素晴らしい方々が来られると聞いています。ささ、お茶の準備ができております!!」
これまでのどの暗黒大神官よりもテンションが高いなと思いつつ、広間の隅にできたゆったりできるソファー席に案内される。
暗黒大神官の正面にイルゼが、アレンとタジンが左右に座る。
「私が来る事情を聞いているのだとか?」
「はい!」
「……何を興奮しているのか分からないが、暗黒騎士として使命を果たしたいと考えている。もう少し落ち着いて受け答え頂けると助かるのだが」
(イルゼが暗黒騎士モードになったな)
こういった時に暗黒騎士として勤勉に振舞うイルゼに任せようと考える。
「申し訳ありません……。これまでブラキウス大陸、コルブラン大陸での素晴らしい活躍を聞いていましたので、このエクスワイヤ大陸で今起きている困難を是非救い頂きたく……」
「この大陸の困りごとか。私は暗黒騎士になって日が浅いからか。それほど困ったという話は聞いていなかったが……。冒険者ギルドでは、口々になんでも足場になる葉っぱがだんだん少なくなっているという話だな」
(ウイクはこの大陸は落ち着いているって言ってたな。暗黒騎士では解決できない問題を抱えているってことか)
「はい。原因は海の中で起きているようなことなので、我々ではどうしようもなく。イルゼ様はご存じだ思いますが、この大陸では時計回りに季節によって大陸が浮上します」
「大陸が浮上ってなんだよ?」
「おい、タジン。この焼き菓子でも食ってろ」
「いいのか? やったぜ!」
イルゼは余計な話で割り込もうとしたタジンに対して、自らの席の目の前に皿に山盛りになった焼き菓子を目の前に移動させる。
タジンは両手で焼き菓子を1つずつ掴んでワシャワシャと食べ始めた。
「たしか、魚神ミンギア様の御力でこの大陸は季節によって陸地になり、その恵みを享受してきた。そのように私も話を聞いている」
「はい。その営みの中で私たちは生きてきたのですが、だんだん、それが厳しくなってきた……。そう、ジャイアントレンゲの減少はこの大陸最大の苦難なのです」
エクスワイヤ大陸で起きた壮大な困りごとを暗黒大神官は語りだすのであった。





