第896話 コルブラン大陸
「おい、俺の質問に答えろ! 俺のどこに攻略が進む要素があったんだ!!」
『山田健一様おめでとうございます。攻略達成率が50%を達成しました』
激高するアレンに対して、漆黒の闇からは語り掛けてくる機械的な言葉は同じだった。
アレンはいてもたってもおられず、立ち上がって漆黒の闇の中を歩きだした。
だが、闇はどこまでも続いていき、語り掛けてくる者のところへはたどり着けない。
「っていうか、ここどこなんだよ! お前は姿を現わせ!!」
『山田健一様おめでとうございます。攻略達成率が50%を達成しました』
アレンに対して、虚無の漆黒の闇から何度も同じ言葉を投げかけるのであった。
「何度も言うな。あと、俺は山田健一じゃない。俺の名はア……。アレンじゃないだと!?」
闇を振り払い、声の主を捕まえようと自らが伸ばした腕を見る。
それは17年間過ごしたアレンの腕ではなかった。
この世界に転生する前に山田健一が服を着た手が漆黒の闇に伸ばされている。
手のひらを自らの前に引き戻したが、明らかに、これまで17年、アレンとして共に生きてきたものではない。山田健一の手であった。
ゴゴゴゴッ
自らの名を叫んだその時だ。
地面が大きく揺れ出した。
アレンは立っていられるのがやっとなほど全身が揺れる。
「うおおおおおお!? た、立っていられないぞ!! 何て大きな揺れはって……お、落ちる!! ひ、飛翔が発動しないぞ! っていうか、召喚獣たちも出てこない!?」
全身が揺れたと思ったら今度は足元が抜けて、そのまま落ちていく。
鳥Aの召喚獣の加護「飛翔」は発動せず、ずんずん落ちてきたところで、何かがアレンに必死に語り掛けている。
「おい、アレン。起きろ、コルブラン大陸にもう到着するぞ!!」
漆黒の闇が壊れ、アレンは目を開いた。
目の前にはタジンが両手でアレンの両肩を掴んで揺らしている。
「なんだ、どうしたんだ? 俺はそうか。……雷神船の中にいるのか。寝てしまったか」
そう言ってアレンは目の前で叫ぶタジンから、床で黙々と天の恵みを作るメルスを見た。
『おいおい、アレンよ。急に立ち上がったかと思ったら何をやっているんだ。とんでもない叫び声だったな……。寝ぼけているようだが、目覚めたか?』
疲れているのかとメルスはアレンを見てあきれ顔だ。
タジンもアレンから手を離し、怪訝な目で見ながら様子を見ている。
「マリア、俺は寝てしまったのか?」
『はいデス。睡眠はしっかりとった方がいいデス』
メルスの横で天の恵みを収納する霊Cの召喚獣の記憶を覗き、何が起きたのか確認する。
狭い部屋の中でアレンは創生スキルを必死に発動している。
うつらうつらと頭を揺らし始めて、そのまま眠ってしまう。
そしたら突然立ち上がり、その後、手をバタバタと伸ばしたかと思ったら絶叫しだした。
まるでアレンが漆黒の闇の中で機械的な音声で語られ、自らが思考していた時間と一致する。
「俺は寝ていたのか。いや、あんな夢などこれまで見たことがないぞ。俺は一体……」
ワシャッ
アレンは答えてくれたタジンの額の角を掴んだ。
「おい、何で俺の角を掴むんだ!!」
「夢か。夢なのか。タジンが同じ部屋で寝たから悪夢を見たのか。暗黒神アマンテと法の神アクシリオンの子供……」
その時、夢の中で聞いたもの、考えたものは全て覚えている。
(そうだな。タジンを仲間にして攻略が進んだ。王様と会話する。町に入るでも攻略が進むことがある。俺の思考で攻略が進んでもおかしいことじゃないというわけか。まあ、ただの夢だと思うが。っていうか、何に対する攻略だと言いたい。言い返したい)
「あ? 俺は暗黒神の子供じゃねえぞ!!」
「ああ、分かっている」
タジンの様子に比べて、声が思いのほか耳に届かないのは部屋の外があまりにも煩いためだ。
雷神船の窓を見ると、激しく雨が打ち付けている。
ザアアアッ
カッ
ドオオオオオオオオオンッ
さらに、漆黒の雲から窓が震えるほどの雷鳴がいくつも轟いており、外は嵐のようだ。
(船体がかなり揺れているし、こんな船に乗っていれば悪夢の1つでも見るのかな。だが、あれはただの夢なのか。攻略が進んだらまた似たような夢が現われ、攻略達成率を教えてくれるのか。もう少しコミュニケーションを取れる形でお願いしたい)
雷神船の部屋を2室借りたアレンたちはアレンとタジン、そしてイルゼに分かれて数日を過ごした。
今回雷神船のスケジュールが合ったことと「雷鳴石」なる石ころを暗黒神が奈落の門の開放に必要だと言われたこともこの大陸を選んだ理由だ。
コルブラン大陸内は他の大陸よりも分厚い雨雲で覆われており、嵐が吹き荒れ、雷鳴が轟いている。
横からの強い風に煽られ、船体が大きく傾く中、構わず大陸内にある発着場を目指している。
前世の記憶なら、こんな嵐の発着場に向かう飛行機などないのだろうが、雷神船の運航スケジュールの影響は与えないようだ。
ガチャ
「おい、タジン。アレンを呼ぶのにいつまでかかっている。あまり遅いと客たちと降りる時間が重なって入出局が混み合うぞ。……なんで2人でちちくり合っているんだ」
まるで2人で見つめ合うように、アレンがタジンの角を掴んだまま考え事をしていたら、イルゼが室内に入ってきた。
「よし、さっさと降りて入出局に向かうぞ。片付け、片付けと」
アレンはメルスたちと創生スキル上げセットの荷物を片付け始めた。
「ほれ、タジンはフードを被れ」
「なんだよ。そんなのめんどくせえ。何で俺が顔を隠さなきゃいけないんだよ!!」
「言うことを聞け! 船に入る時も揉めただろ!! アレンもタジンに言って聞かせないか!!」
創生スキル上げセットを片付け終わったアレンに対して、イルゼがタジンに躾るように言う。
「おい、タジン。外は嵐のようだ。フードを被っていないとびしょ濡れになるぞ。だからイルゼも被っているだろ」
そう言って、これまでフードで一度も顔を隠さなかったアレンは、既にフードを被っているイルゼ同様に装備の上から羽織りだした。
「そうか、分かったよ」
「タジンは反抗期だからな」
「そうだぞ、俺は反抗期なんだ」
「くっ!? お前たち覚えていろ!!」
ニヤニヤするタジンに対してイルゼは殺意を込めて睨んでいる。
そうこうしている中、コルブラン大陸の発着場のあるライバルトの街に到着した。
イルゼの暗黒騎士の立場を利用して、真っ先に雷神船を降りて、嵐の中、滑走路の側に設けられた入出局の建物に向かう。
「ここってずっと嵐なんだってな。なんか、すげえな!」
(タジンは余裕だな。まあ、突風に煽られても俺たちには圧倒的なステータスがあるからな)
アレンやイルゼと同じく、フードの下でタジンも台風のような風に煽られているのだが、涼しい顔でタジンが後ろをついてくる。
混血人でなければ才能のある世界なので、これくらいの嵐など誰にとってもそよ風程度で気にならないかと思う。
「さっさと雷神にお前の覚醒スキルを解放してもらうぞ、メルス」
『当然だ』
アレンは、5つの生命球のうち残り4つを各大陸に納めないといけない。
順番は暗黒神より任せられているのだが、今回の交渉で、生命球を治めるとSランクの召喚獣の封印された覚醒スキルを解放してもらえる運びとなった。
覚醒スキルの解放が終わっていないSランクの召喚獣は虫、草、石、魚、竜、天使の6つだ。
このコルブラン大陸には雷神ソヴィがおり、雷系統の特技や覚醒スキルの多いメルスと相性の良い覚醒スキルを与えてくれるかもしれない。
【各大陸の名称、特徴、治める上位神の名前など】
①ガディアック島:暗黒神アマンテと法の神アクシリオン(頭)
②ブラキウス大陸:獣神ブラキノ
③コルブラン大陸:雷神ソヴィ
④エクスワイヤ大陸:魚神ミンギア
⑤ペゲシアス大陸:竜神ゲフィオン
⑥ロベタール大陸:獣神ラタトス
(まったく6つのSランクの覚醒スキルの封印を解除しないといけないのに、ブラキウス分を断られたのは痛いな)
元々、5つの生命球に比べて、封印を解除して欲しいSランクの召喚獣は6つだ。
何とかして、ビルディガとオヌバは封印が解除された完璧な状態で召喚獣にしたい。
暗黒神となんとか交渉できないか考えていたらイルゼから怒られる。
「あまり、雷神『様』のことを軽く言うでないぞ」
「ああ、分かっている。まずは入出許可証を3人分貰うぞ」
それから30分も経過せずにアレンたちは入出管理局から出てくる。
「タジン、ちゃんと入出許可証を貰って良かったな」
「おう!!」
タジンはホクホク顔で入出許可証を首から下げている。
別に首から掛ける必要はないのだが、そういうものだといったら純粋なタジンは信じてくれた。
(この大陸はブラキウス大陸ほどの差別意識はないらしいけど、街にいる間は許可証を首から下げさせておくか。俺と違って絡まれても煽り耐性ないだろうし)
大陸によって獣人が多い大陸もあれば、魔族が多い大陸もある。
この国は魔族が獣人より多い大陸で、混血人に対する差別意識は比較的に低いらしい。
雨と雷が年中降り注ぐ大陸で、冒険者がとても多いとイルゼから聞いた。
なんでも力があり働きが良ければ何でもよいと冒険者たちは考えているらしい。
「それでどうするのだ? すぐに大神殿に向かうのか?」
「いや、冒険者が多いらしいからな。冒険者ギルドで魔石の募集をかけておこう。ブラキウス大陸の魔石募集だけでは足りないし。あと、金貨も足りないから何か金策があれば、それも聞いておこう」
「そうか。魔石の募集だな」
「イルゼは冒険者ギルド長と揉めるなよ」
「分かっておる」
雨と風に吹き上げられ、遠くに落ちる雷の音を聞きながら街中に入っていく。
「こんな雨の街だが、随分にぎわった街だな」
「人でいっぱいだな! なんか建物の天井から変な棒が伸びているぞ。何だあれは?」
横でタジンがワクワクしながら、街中の様子をアレンに尋ねてくる。
「あれはたぶん、避雷針じゃないのか。雷から建物を守っているんだ。それに、嵐が厳しい環境だからな。建物は低く、窓が小さいな」
(沖縄とか個人の家でもコンクリの頑丈な家が多いらしいし、そういうものか)
「アレンは何でも知っているな!!」
「いや、なんとなくだ。もしかして別の理由かもしれん」
こうしてコルブラン大陸に到着したアレンたちであった。





