第897話 雷鳴石
アレンたちは雷鳴轟くコルブラン大陸の発着場ライバルトで、横殴りでどしゃぶりの雨の中、冒険者ギルドを目指した。
ギギギッ
建付けが悪いのか、それとも嵐の暴風対策で頑丈に作っているのか、耳障りの悪い音を立てながら分厚い扉を開けて、冒険者たちがひしめく冒険者ギルドの建物内にアレンたち3人は入る。
「……」
「……」
「……」
冒険者ギルドの隅の3分の1は酒場になっており、テーブル代わりに樽が置かれており、その周りで酒を煽る冒険者たちの視線がアレンたちに集まる。
フードを深く被っていても分かる若い3人が建物内に入ってきたので、いぶかし気にアレンたちのことを見たが、すぐに興味を失ったのか、冒険者同士の会話に戻って建物内は喧騒が戻ったようだ。
「いらっしゃいませ」
アレンたちも別に冒険者に興味がないため、ツカツカと横並びに設けられた受付の冒険者ギルドの職員に話しかける。
「すみません。何か短期間で儲かる依頼があれば受けたいです」
当たり前のようにアレンが前面に出て魔族の冒険者ギルドの受付の職員と話をする。
暴れるなとアレンに言われたイルゼは無言で様子を見ており、対応を任せているようだ。
アレンは天の恵み100万個に必要な魔石を短期間で集めるため、各大陸の冒険者ギルドを回る予定だ。
14日ほど前、ブラキウス大陸発着場の街イシュバラにおいて、3週間分の魔石の募集をした。
その後、ヘルビーストのタジンを探すために罠を仕掛けている間に魔獣を狩り、金策したが、それも有限ですぐに金は尽きる。
今は魔石を十分に募集する金貨が欲しい。
さらに言うと、短期間で膨大な金貨が稼げる募集を求めている。
この世界の金貨で1週間分の魔石を募集しようと思うなら、78100枚の金貨が必要だ。
ブラキウス大陸発着場の街イシュバラの冒険者ギルドでも、討伐や採集など高額募集を何度も見てみたが、大陸内のどこにいるか分からないSランクの魔獣の討伐で金貨1万枚が最大の募集だった。
もしかしたら、討伐ついでにタジンの成長に寄与できる魔獣討伐などがあり、暗黒神より報酬の割り増しを狙えるかもしれない。
アレンがあれこれ考える中、外套の中を覗き込む冒険者ギルドの受付の担当が口を開く。
「短期間で儲かる依頼ですか……。すみませんが、冒険者のランクを伺ってもよろしいですか?」
「まだ登録したばかりで今はBランクです」
ヘルビースト探しついでの魔獣討伐で冒険者ランクがEからBまで上がっている。
(人間界ではSランクです。どやっ)
「ぶっ!? Bランクって聞こえたぞ。おいおい、まじかよ」
「いきったガキどもが来たな……。それでムラルガンの大穴を目指そうってか」
「Bに上がって気が大きくなったんだよ。ああいうのがすぐに死ぬんだよな。誰か助言してやれよ」
アレンたちの様子を怪訝な目で見ていた街の冒険者たちが嘲笑の声があちらこちらで聞こえる。
「……Bランクですと雷ねずみの捕獲でしょうか。こちらの街の周囲にたくさんおりますので3人なら狩りやすいと思います」
冒険者ギルドの受付担当者は、冒険者たちの態度は当たり前の状況なのか、淡々とアレンに提案した。
「雷ねずみですか。初めて聞いた魔獣ですね。どれくらいのランクなのでしょうか」
「Cランクの魔獣です。雷耐性の毛皮が取れますので、討伐に気を付けていただき状態が良い毛皮だと1体当たり金貨1枚で購入させていただきます。解体をして頂けると1割ほど購入価格が上乗せできますよ。多くの仲間を呼ぶこともあるのでCランクでも侮らないでくださいね」
(なるほど、コルブラン大陸の「雷ねずみ」は俺の知る「角うさぎ」くらい有名なのかもな。だけど、さすがに金貨1枚の仕事は出来ないぞ)
「申し訳ありません。冒険者になるのは事情があって遅かったですが、Sランクの魔獣を狩れる程度には腕に自信があります。もう少し効率の良い依頼や討伐対象はありませんでしょうか?」
従僕の狩猟番時代によく狩っていた角ウサギを思い出す。
「ぶふっ!? まじかよ!!」
「お~い、受付の姉ちゃん。雷鳴石が足りてねえんだ。こいつらに『雷王』のいる大穴の奥に行かせてやれよ!」
「おい、やめろって。何も知らないガキどもなんだ。引っ込みがつかなくなるかもしれないし、可哀そうだろ」
「そういうお前も笑っているじゃねえか! いや~Bランクってすげえなぁ」
様子を見ていた酒を覆る冒険者たちがアレンの言葉を聞いて噴き出した。
ガヤガヤする中、イルゼは小さくため息を吐いた。
「なんか俺、馬鹿にされている気がするな!」
フードの上から落ち着けと言わんばかりに、鼻息が荒くなったタジンの頭をワシャワシャとかき乱した。
「……申し訳ありません。ランクの低い冒険者には高ランクの魔獣の討伐依頼していないのです」
「なるほど、周りで話している雷王とかいうのは魔獣でしょうか?」
「亜神級の魔獣で『雷王グリオタン』になります。ただ、今言ったとおり、細かい話はできかねます」
(Bランクの冒険者に教えてくれるのは名前だけで亜神級の魔獣は依頼できないと)
「おい、イルゼ。暗黒騎士の力を今使ってくれ」
「何故だ、アレン。お前が金策したいだけだろうが。私は金貨が欲しくて旅をしているわけではない。断る」
「タジンを鍛えるためだ。暗黒神様がしっかり鍛えてほしいと言っていたのを忘れたか」
「ぐぬ。何でも暗黒神様のためだと言えば良いと思わぬことだ」
「ほら、受付の担当者が困惑しているだろ。早く! さあ早く!!」
「……後で覚えておれ。アレンよ」
アレンと小声でやり取りをした後、イルゼはもう1つため息を吐いたところで、フードを取り、暗黒神アマンテが創ったとされる全身の漆黒の鎧を見せた。
「へ? あ、暗黒騎士様!?」
「暗黒騎士様だって本当か!?」
「なんで暗黒騎士様が冒険者ギルドにいるんだよ」
「雷鳴石の回収の邪魔をする雷王を狩りに来られたってことか……」
「俺、別に暗黒騎士様のこと何も悪く言っていないぞ」
冒険者たちも突然の暗黒騎士の登場に一気に喧騒が広がり、中には驚きのあまりに樽に突っ込んで転げる者までいる。
嘲笑していた者たちが顔を覚えられないようにするためか、奥に引っ込み背中を見せて一切口を開かなくなった。
そんな中、イルゼは構わず、受付の担当者に問う。
「すまない。私は暗黒騎士の1人でイルゼと言う。暗黒神アマンテ様の命によりこの大陸にきたのだが、短期間で金策する用事があるのでな」
「へ? え? 左様でございますか……」
カウンター越しで直立不動になって受付の職員が答える。
(さすがにイルゼは詳しいな。自らの知識がありつつ、俺にも分かるように受付と会話してくれて助かる)
「雷石と雷鳴石とはたしか雷神船の動力であったな」
「そのとおりでございます。ここから北東に行かれますとムラルガンの大穴があります。これは雷神ソヴィ様が落とした雷によってできた大穴なのですが、その大穴には雷が宿った雷石があります。特に穴の奥深くには強い雷の力を宿した雷鳴石がございます」
(ムラルガンの大穴は有名だからな。イルゼの地図にも載っているし。でも、めちゃくちゃ丁寧に教えてくれる)
「すまないが、雷王というのはムラルガンの大穴にいる魔獣と言うことで良いか?」
「は、はい!? そのとおりでございます。穴底にいるとされております、雷王は最近神に至たったかもしれないと生存できた冒険者からの報告を受けております。目撃者が少なく、はっきりとした情報がなくて申し訳ありません」
「何? 亜神から神に至った可能性があるという話だな。その『生存した』というのはどういう話だ」
(イルゼでも知らないことがあるのか。まだ20歳だからな。暗黒騎士になってどれくらい経つんだろう。ガディアック島担当みたいだし、大穴に巣くう魔獣について細かい話は知らないと)
アレンの思考を他所にイルゼと受付担当者との会話は続く。
「おっしゃるとおりで、以前より凶悪な魔獣が住み着いて帰ってこない冒険者たちがいるという話になっており、亜神級の魔獣の討伐実績のある50名ほどからなるAランク冒険者たちが穴深くを目指しました。その後、『雷王グリロタン』と名乗る魔獣に遭遇し、重傷を負った3名しか生きて帰れませんでした。被害が大きいため大穴での活動は極力避けるように冒険者たちに周知させていただいております」
(50人の中にエクストラモードや星の数が多い冒険者がいれば亜神級までならいけるのか。装備や職業の構成にもよるけど。だから神級の魔獣かもしれないと言ってるんだな)
「前回雷神船に乗る際、定期券が金貨50枚から100枚に倍増したのって、もしかして雷王の影響ですか?」
アレンが2人の間に入るように、ブラキウス大陸に向かう際、1人当たり金貨100枚で定期券を購入した話をする。
その時、イルゼは定期券の相場が上がっていることに驚いていた。
なお、今回、タジンが新たに仲間に加わったことによる定期券購入費用は、話し合いの結果、アレンとイルゼでそれぞれ50枚ずつ出しあった。
「そのとおりでございます。雷王の荒ぶりによって雷石、雷鳴石が収集できず、雷神船は世界的に減便や渡航費用の料金を上げて対応しております」
「雷石や雷鳴石の回収の邪魔になるのですね。雷王の討伐報酬はいくらでしょうか?」
(なんか、前世だとある石油ショックみたいな話か。雷王の存在が雷石の回収の邪魔になって雷神船を十分に飛ばせないと。だが、大穴にいることが分かっているなら討伐しやすいかもしれないぞ)
ブラキウス大陸でもSランクの魔獣などは結構いたのだが、固定した場所にいる討伐対象は少なかった上に、タジンが大陸内を走り回り、この数年の間に食料にするために数体倒していたと本人から聞いた。
その上で冒険者ギルドに報告していないから、どの討伐対象の魔獣が生存しているのかも分からない状況だった。
それに比べたら大穴にいると分かっている雷王は狩りやすいとアレンは判断した。
「え!? 雷王を討伐!! 話を聞いていただいていたでしょうか?」
アレンの問いに受付の職員が絶句する。
流石に暗黒騎士の登場に静かに静観していた冒険者たちもざわついてしまう。
「おい、アレン。神級の魔獣を我らだけで倒せるわけがないだろう」
冗談にもならないことを言うと、共に行動する暗黒騎士である自らの立場も悪くなるとイルゼに叱られる。
「冒険者ギルドですので、仮に倒したとしてでの報酬を予め提示してください。あと雷石と雷鳴石とかの報酬も聞きたいです」
アレンは構わず、報酬はいくらなのか確認するのであった。





