第892話 生命球①
タジンが一緒に旅をしたいと言ったがアレンはきっぱりと断った。
(これからどれだけ厳しい課題があるか分からないし、責任が取れないからな。それに、仲間があんな思いをするのは十分だ)
アレンが断ったことで、泣きっ面のタジンを両親のラバンとカイアが慰めるように寄り添う。
ただ、アレンとしては魔王軍との戦いで仲間たちが厳しい目にあっても自分の力不足で守れなかった状況がつい最近あった。
さらに、まだ暗黒神の課題は始まったばかりだ。
今回は「パチャオ村の困りごとを解消する」で課題達成と思える形となったが、今後別の大陸ではどんな危険な目に合うか分からない。
人間界にいた時のように、前衛が欲しいとか、バフ職が欲しいとかでパーティーを大きくするようなことはしない。
「仕方なかろう。お前も集落の発展に貢献するのだな……。これは!? 暗黒神様!!」
イルゼもアレン同様にタジンがついてくるのは反対だと言いかけたところだ。
イルゼの鎧から漆黒の闇が溢れ出した。
ブワッ
『そうか。やはりヘルビーストが生まれていたのかい。3万年ぶりだね。生命球を捧げ終わったらその子を私のところへ連れてくるんだよ』
(暗黒神が魔導書のログみたいにイルゼを通じて言伝してきた件について)
「ん? 俺のことか?」
漆黒の闇が晴れて、現れたイルゼが口を開く。
「……どうやら暗黒神様がお前に会いたいようだぞ。タジンよ」
「そ、そんな。暗黒神様がどうして我が子を」
「暗黒騎士様、無事返していただけるのでしょうか?」
「それは暗黒神アマンテ様がお決めになることだ。タジン、ついてこい!」
「おう! やったぜ!!」
この暗黒界の絶対神に暗黒騎士を経由して呼ばれてしまい不安になる両親を他所に、イルゼはやる気満々のタジンに一緒に行動するように言う。
(なんか面倒ごとを頼まれたな。ただ働きなんてしている余裕はないんだが)
「……仕方ない。タジンもついてこい。まずは獣神ブラキノ様のいる大神殿に向かう。それではタジンをお預かりします」
「はい。この子は村で悪さしてしまったが全ては私たちのためにしたことです。何卒……」
「そちらについては、私からできる限り説明します。それでは」
(盗みを働いて信者たちに迷惑をかけた者を、神の下へ連れて行くわけだからな。心配だろうな。まあ、どんなことになっても俺じゃどうしようもないし。できる限りですしおすし)
アレンは頭を下げて懇願するタジンの両親の前で鳥Aの召喚獣の覚醒スキル「帰巣本能」を発動させる。
一気に視界が変わり、ブラキウス大陸の大神殿の入り口に到着した。
暗黒騎士が側にいるということでズンズンと1階の廊下を進み、礼拝堂から扉を抜けて奥へ奥へと勝手に進んでいく。
獣神ブラキノのいる大広間の扉を開くと暗黒大神官のモラーナが微笑みながら待っていた。
「イルゼ様、アレンさん、タジンさん、獣神ブラキノ様がお待ちです」
暗黒大神官の背後にはつぶらな瞳の獣神ブラキノが言葉通り首を長くしてアレンたちのところに頭部だけを寄こしている。
(お? タジンの名前を知っているのは暗黒神からタジンのことを聞いたのか? まあ、名前だけならスキルか何らかの能力で鑑定したのかも)
イルゼが暗黒神から指示を受けて1時間も経っていないのだが、暗黒神から獣神ブラキノに、そして、暗黒大神官モラーナへと情報が伝わったのかと思う。
『待っていましたよ』
「お待たせしました。まずは、獣神ブラキノ様の課題をどのように対応したのかご報告します」
『お願いします』
「獣神ブラキノ様のおっしゃる通り、ヘルビーストが魔族と獣人との子から生まれ、村々から食料を盗んでいました」
「だって……」
「タジン、黙っているんだ」
「……分かった」
口を尖らせて言い訳をしようとするタジンを黙らせて、アレンは話を続ける。
「食料はこのヘルビーストのタジンという子が100人ほどになる混血人の集落を支えておりました」
『それで、混血人の集落を暗黒神様の島に移動させたというわけですね』
「はい。周りに迷惑をかけずに彼らだけでも自活できるよう、手伝いは継続的にする予定ですが『混血人が周囲に迷惑をかけないようにする』という目的は達成したと思いましたので報告に伺いました」
今も霊系統の召喚獣たちが混血人の集落の手伝いをしている。
メルスには、パチャオ村の村長に、今回の一件が解決したので説明に向かわせている。
『混血人の集落を見逃していたのは私の責任です。アレンさんの働きでこの問題は解決したと見ていいでしょう。私の課題は解決したので、ぜひ、目の前の祭壇に生命球を捧げてください』
暗黒大神官の背後、獣神の顎の下辺りにある、階段状の祭壇に生命球を捧げるように言う。
「畏まりました。では!」
(よし、クエスト完了だぜ。報酬タイムはよ、こい!!)
アレンは暗黒大神官の横を凄い勢いで横切り、魔導書に入っている5つの生命球のうちの1つを出した。
「お? 勝手に動いていく……」
魔導書から出された生命球が手元から勝手に離れていく。
そのまま、階段上になった祭壇の上部までいくと、ふわふわと上昇し始めた。
獣神ブラキノの顎の下まで上がってきたので、首をひっこめるとさらに上がり天井近くまで上がったところでカッと光った。
「何だ、なんだ!」
「おお! なんて光だ!」
タジンもイルゼも何事だと、まるで目の前の太陽が現れたかのような眩しさに目を覆ってしまう。
(おお? 暗黒界にこのような眩しい光が現われるなんてすごいな。っていうか、祭壇がこんなに眩しいなら、今後、暗黒大神官はグラサンとかしないと大変だな。って、え?)
アレンも手で覆うほどの輝きが自らの視界だけじゃないことに気付く。
「おお? 何だ!!」
「空が割れるぞ!!」
「日の光だ。空が輝いているぞ!!」
村人たちの騒ぎを聞きつけたパチャオ村のダルトン村長のところで様子を見ていたメルスは騒ぎを聞きつける。
『天から厚い雲が割れていき輝いている。これが生命球を捧げた効果なのか!!』
メルスの言葉と共に、共有した視界で天の壮大な変化を目の当たりにする。
暗黒界はどこに行っても日中であるにも関わらず厚い雲に覆われて光に乏しい。
だが、空から厚い雲が左右に切り裂くように晴れていき、神々しいまでの日の光が地上にいる全ての者を祝福するように照らし始めた。
(マリアたちのいるガディアック島はほとんど変化ないな。ブラキウス大陸の大神殿の周りは騒がしいと。生命球によるこの大陸だけの効果なのか)
『素晴らしい光です。きっと大いなる恵みが与えられ、この大陸の者たちも喜ぶでしょう』
「いえいえ、自らの体にある生命の力をこのような形で活用できて幸いです。それで……」
アレンの頭の中は完全な報酬モードだ。
世界樹がたった1本で人間界の全てに恵みをもたらす役目があるように、祭壇に捧げられた生命球はブラキウス大陸に恵みをもたらすのであろう。
『法の神アクシリオン様の右腕です。課題を解決し、この大陸に恵みを与えたアレンさんにお貸ししましょう』
ドクンドックン
「祭壇から腕が出てくるぞ!!」
様子を見ていたタジンが仰け反って驚いたのは、祭壇の下から通過するように5メートル近い巨大な腕がゆっくりと現われたからだ。
アレンはリオンを召喚する。
『……これが儂の右腕か』
全長10メートルのリオンは当然のように右腕を突き出すと、吸い込まれるように祭壇の上に浮く法の神の腕が向かっていき、リオンの腕に重なるように溶け込んでいく。
ブンッ
『神Sの召喚獣は特技「合体吸収」の効果を発動した。右腕の封印を解いた。神Sは攻撃力と知力が10万増加した。覚醒スキル「右腕」は覚醒スキル「十束剣」に変化した』
「おおおおお!! めちゃくちゃ強くなったし、新たな覚醒スキルを手に入れたぞ。これであと4回封印解除して強くなれるのか。とんでもないことが起きている!!」
【種 類】神
【ランク】S
【名 前】リオン
【体 力】50000
【魔 力】50000
【攻撃力】150000
【耐久力】50000
【素早さ】50000
【知 力】150000
【幸 運】50000
【加 護】全ステータス15000、因果律調整(中)
【特 技】伸縮自在、不倶戴天、無限天元突、不死属性付与、合体吸収
【覚 醒】輪廻転生、因果応報、封印〈頭〉、封印〈胴体〉、十束剣、封印〈左腕〉、封印〈両足〉
※強化スキル、成長スキルの効果は省略
リオンのステータスを魔導書で見てみるととんでもなく、メルスを含めて他のSランクの召喚獣に比べて頭1つ抜けて強くなった。
『それは良かったです。暗黒神様がお待ちです。速やかに暗黒神様の下へお行きなさい』
「あの……」
『何でしょう。まだ、何かありますか?』
課題解決の報告を受け、報酬の封印された肢体を渡しただろうとラクダ並みにつぶらな瞳の獣神ブラキノが首を傾げた。
横でイルゼも他にまだ話があるのかとアレンの言葉に耳を傾けている。
「実は、古代神の皆様に私の召喚獣の覚醒スキルの封印解除をお願いしておりまして」
『何の話でしょうか?』
「獣神ブラキノ様や他の大神殿の神様方に、私の召喚獣の封印の解除をお願いしたいのです」
アレンは首を傾げる獣神ブラキノに事情を説明する。
アレンはイルゼから各大陸の大神殿に神々がいることを聞いた。
さらに、神々の名前を聞き、自らが神界を冒険する上で知った情報やメルスからの知識によって、大神殿の神々によっては古代神がいることを知る。
アレンのSランクの召喚獣は古代神たちに覚醒スキルの封印を解除してもらっているのだが、解除が終わっていない召喚獣たちがいる。
『なるほど……』
「こちらについても報酬として解除いただけないでしょうか」
事情が分かり頷く獣神ブラキノにアレンはさらにダメ押しの一言で懇願した。
『お断りします』
優しい表情とは裏腹に獣神ブラキノはきっぱりとアレンの願いを断ったのであった。





