第885話 パチャオ村の頼みごと②
パチャオ村の村長ダルトンから、あれこれ被害状況を確認した。
「悪さは盗みだけか。暴れまわる破壊の権化だと聞いた暗黒騎士長の話とは違うな」
討伐のため13人の暗黒騎士が総出で戦い半壊させられた話を聞いていたイルゼにとって、今回の件は本当に混血人の中に稀に誕生するヘルビーストなのか分からないと腕を組んで深く深呼吸をした。
イルゼの聞いた範囲で村長が答え終わったタイミングでアレンも気になっていたことを問う。
「門の前にあったあのドラゴンは皆さんで狩ったのですか? かなり大きな種類のドラゴンのようですけど」
「あれはダークブレードドラゴンの死骸だ。村から少し離れた山の裾野で発見してまだ使える素材や食料もあったので持って帰ったんだ。何か知らないが、たまに大型の魔獣が周辺で倒されていることがあるんだ」
(あれ? そういえば、討伐依頼を受けずに倒される魔獣が増えているって冒険者ギルドで言っていたな。関連があるのか?)
イルゼに話しかけるよりも随分、丁寧ではない口調だがアレンの問いにも答えてくれる。
「山というのはあの湖の奥の山ですか?」
「そうだ。山の麓で貴重な薬草が採れてな。そこで前来た時なかったドラゴンの死骸を見つけ、村人総出で持ち帰ったのだ」
(たしか、この世界の魔獣のランクはどうも人間界と同じようだからな。レベルアップとかスキルレベルアップとかそれなりに上げる文化があるようだし。人の力だけで持って帰ることができるのかな)
EランクからSランクの魔獣がいることを昼前に訪れた冒険者ギルドで、魔石の依頼の時についでに聞いていた。
さらに、どうやらこの世界の魔獣のランクと人間界のランクは一緒らしい
なお、アレンたちの決戦後、魔王によって魔獣のランクを上げる際、より上位の種族に変えるようだ。
魔獣の名前や存在そのままでステータスやランクだけ上げたわけではないようだ。
【アレンたちと決戦「前」の魔獣のランクと名前】
・Eランク:角ウサギ
・Dランク:アルバヘロン、ゴブリン
・Cランク:グレイトボア、鎧アリ
・Bランク:マーダーガルシュ、トロル、オーガ
・Aランク:グレイトウォリアー
【アレンたちと決戦「後」の魔獣のランクと名前】
・Dランク:ドリルウサギ
・Cランク:ハイアルバヘロン、ボブゴブリン
・Bランク:ヒュージボア、鋼アリ
・Aランク:キリングガルシュ、キングトロル、キングオーガ
・Sランク:ジャイアントウォリアー
※召喚獣のランクと種族は固定のため、ランクが上がると上位の種族となる
例:グレイトボアの名前のままBランクになることはない
アレンが人間界のことで一瞬だが、思考を持っていかれていると、2人の会話は続いていた。
「ん? 素材が残っていたとはどういう状況なのだ?」
「それは、イルゼ様。胴体部分がごっそりと引き千切られておりまして。手足にも肉が残っており、目玉は薬に、皮は防具に、頭の角や牙は武器になりますので、村人総出で持ち帰りました。持ち帰ったことは守護番に既に報告済みでございます」
「不自然な倒され方だな、他の魔獣ではなく。『村を襲う混血人』の仕業だと考えて良いというわけか」
(胴体だけ持って帰っているから魔獣同士で争って胴体部分だけ食われた状態ではないってことだな。混血人ね。ヘルビーストって言わないのは一般的に知れ渡っていないからか)
思考を村長との会話に戻し、アレンは大事なことを確認する。
「私がこの大陸に来たのは初めてなのですが、混血人が生まれると村を追い出されるってことでよろしいですか?」
「む? そのとおりだ。混血人が生まれたら5歳以内に子供を親が村の外に出す決まりだ。暗黒神様の思いに背き、異種族との間に子供を産んだのだ。当然だろう。どこの大陸でも同じように対応しているはずだ。まあ、守護番は殺してもよいと言われているがな」
村長はどこの村でも同じことをやっているという言葉を強調してくる。
「捨てられた子供はどうなるんですか?」
アレンは淡々と表情を出さずに混血人の生まれ時の処遇を確認する。
「そんなものは知らない。まあ、それを心配して両親のどちらか、それか両親共に村を出る者もあるな。親も一緒に村を出るのは、俺が村長になって十数年で半々ってところだ。当然、その後のことも知らない」
(Sランクの魔獣だっている世界だからな。まあ、魔石の募集からもCランクやBランクの魔獣もそれなりにいるが、そのための両親が一緒に村を出るのか。両親は才能があるだろうが、Sランクに遭遇したら無事じゃ済まんだろう)
エクストラモードで星が4とも5つもある守護番長や守護番補佐ならSランクの魔獣を倒せそうだ。
冒険者ギルドでビーストモードになれる冒険者ギルド長に依頼できるなら対応してくれそうだ。
だが、才能があるだけの両親の2人が子供と一緒に村を出てどれだけ長く生きられるだろうか。
「混血人の子供にもしかして見覚えがあるんじゃないんですか?」
村に盗みを働いたヘルビーストを村人が捕まえようとした。
その現場に村長もいて不思議ではないかと考える。
だったら、混血人の容姿を覚えており、混血人が村を襲った
この世界にも身を落とし盗人などの犯罪者になるものがいて、普通に才能があるらしい。
そういった存在を無視して、混血人だと断言するには不自然だ。
「まあな、両親ごと追い出したんだが、……8年くらい前になるかな。『あれ』は普通じゃなかった。化け物が生まれたんだ。角が生えた魔族なんだよ。あんなの初めて見たよ」
(ん? 今13歳くらいか。8年前くらいから盗みが増えたって話だし。追い出された村に食料を盗みに来たとかそういう話か?)
「これまでと容姿の異なる混血人の子供が生き延びて盗みを働いているかもしれないってことですね。その混血人が普段どのあたりにいるとか目星はありませんか?」
アレンの横でイルゼが感心していた。
「たしかに、場所が分かれば対応は早いな。そこに混血人の化け物がいるってことで間違いなかろう」
「すみません、イルゼ様。奴らは移動を転々としており、たまに場所を変えます。それと、ここ最近はそれも分からなくなり……。数年前になりますが、村の男衆たちが武器を持って向かったのですが既に影も形もなくなっていました」
だが、集落は蛻の殻になっており、それ以来、冒険者ギルドに依頼を出したが混血人の住処は掴めていないと言う。
(集落ね。混血人の化け物と一緒に暮らす者たちがいるってことか)
「もぬけの殻になった村はどれくらいの大きさなんですか?」
「この村と同じくらいじゃないのか。すまないが、俺は一緒に住処を見に行っていないからな」
(ん? なんか混血人が村を作っているかもしれないって話か? 結構大きいな。親と混血人の子供合わせて100人以上いるのかな。そのヘルビーストが両親だけでなく混血人の村の人々全員を養っているってことなのか。ヘルビーストってそんなことするのか)
村長の聞いた話ではかなりの量の食料を盗まれたようだ。
両親と子供の3人程度で食べるには随分と量が多いが、集落を作っているなら納得だとアレンは分析する。
「分かりました。村の中央に広場がありましたよね。食料を集めて罠を仕掛けましょう。また、他の村にも同様のことが起きていないか聞き込みを行い、私の召喚獣で集落自体を探しますね。イルゼもそれでいいか?」
ここまで聞き取った状況を鑑みて、アレンは作戦を村長とイルゼに伝えた。
「む? 問題ない。お手並み拝見といこうか」
「暗黒騎士様、助かります」
「では、作戦本部としてこの建物の1室を貸してくれぬか?」
「もちろんでございます、イルゼ様。この広間を解決されるまでお使いください。お2人分の寝室を用意し、お食事もご準備します。ただ、罠に使う食料を用意するのはどれほどのものをご用意しましょうか……」
「構いませんよ。私が魔導袋の中にたくさんありますので、そちらで対応します」
(こんな時のために大量の非常食があるからな)
「何卒、暗黒騎士様、村を救ってください」
「うむ。我らに任されよ。村の人にも安心するよう伝えるが良い。あと広場の罠にはむやみ近付かないように頼むぞ。危ないからな」
「はは! 助かります!!」
イルゼが締めると村長が床に頭をこすりつけるほどの勢いで頭を下げて礼を言った。
こうしてアレンは、パチャオ村のダルトン村長の家の広間を借りて「ヘルビースト討伐捕獲?作戦」が始まった。
村の広間には3000個の非常食が入った籠をいくつもに分けて山のように置いた。
さらに、イルゼとメルスの2人で他の村でも同じような被害が出ていないか聞き込みをしてもらった。
どうやら、定期的に他の村でも、食料や家畜が盗まれることがパチャオ村と同じくらいの頻度で起きているらしい。
だが、クワトロと3体の鳥Eの召喚獣が探し回っているのだが、混血人の村を発見するには至らなかった。
視界の遮られた樹冠の下を縫うように鳥Eの召喚獣を飛ばすが、集落のようなものはない。
山肌に洞窟があればそれらも隈なく見て回ったが、人々が住んでいた痕跡は見つけられなかった。
当然、村長たちの言っていた放棄された混血人の集落も見て回ったが、既に魔獣たちの巣窟になっており、人々が住んでいる気配は感じられなかった。
こうして、ブラキウス大陸にやってきて9日が過ぎた。
アレンは散策や村の対応をイルゼたちに任せ、創生スキル上げに集中した。
おかげで、神Dの召喚獣が解放され、創生スキルは4巡目を達成した。
さらに創生スキル5巡目の天使Eの召喚獣も獲得した。
これは当初の予定よりもかなり早い創生スキルのレベルアップになったが、ヘルビーストに対する待ち時間が長かった中、睡眠時間を削ってスキル上げに努めた結果だ。
さらに、ついでに金策をした。
冒険者ギルドで討伐依頼を確認し、召喚獣たちをそこへ向かわせる。
リオンたちを使って倒して、冒険者ギルドへ報告する。
創生スキル上げのついでの金策だが金貨50万枚ほど稼ぐことができた。
だが、依頼があった場所にいくと既に魔獣が狩られていることが数回あった。
今は、深夜3時ごろの出来事だ。
広間ではアレンは召喚獣たちと一緒に創生スキル上げを行っている。
「アレンよ。まだ起きているのか。交代しなくても良いのか」
「問題ない。眠くなったら寝るし、深夜の見張りと俺を起こすのは召喚獣に任せているからな。イルゼも起こしに来たらなるべくすぐに動けるように……」
アレンは特技「夜目」を持つ鳥Dの召喚獣を3体ほど飛ばしている。
そのうちの1体が異変に気付いたようだ。
「それにしても中々見つからぬな。アレンの作戦は問題ないようだが、闇雲に日数を掛けるわけにもいかぬ。他の作戦に切り替えた方が良いかもしれぬな。ん? アレン」
「……ホロウが村に塀を飛び越えて村にやってくる奴を発見したぞ。村の中を散策しているようだ」
「何だと?」
「ようやく食料を奪う盗人がやってきたようだな。俺たちの出番だ。すぐに出るぞ」
アレンの言葉にイルゼも緊張が走るのであった。





