第884話 パチャオ村の頼みごと①
アレンは指揮化して大きくなった鳥Bの召喚獣に3時間ほど乗って、暗黒大神官に貰った地図に書かれた場所に向かった。
行き先は大神殿から一番近い場所で混血人の被害が何度も出て困っているという陳情を出した村長のいるパチャオ村だ。
ここまでの道のりには切り立った山も大きな湖も深い森もあった。
このブラキウス大陸はローゼンヘイムのように自然に恵まれた環境が広がっているようだ。
しかし、暗黒界とあって日中であるが、日の光は厚い雲で弱められ、世界はとても薄暗い。
前後に座った前側から前方を見るイルゼが羊皮紙の地図を広げながら、地形を確認している。
「よく出来た地図だ。細かい村の位置まで乗っているし、地形も細かい。この山を越えた先の湖畔にある村だな」
アレンはメルスと特技「伸縮自在」で小さくなったリオンと3人で創生スキル上げをする。
5000メートル級の山を越えて山の裾野に出来た1000メートル幅ほどの湖には50軒ほどの家が集落を作る村があった。
アレンとイルゼは高度を下げ、木の柵をグルっと囲む村の外の門の側に着地した。
魔獣のいる世界なので門番が数人立っており、相変わらず槍を持っている。
どこの世界でもリーチの長い槍を使い数人がかりで侵入者を倒したり撃退する。
「混血人に荒らされた感じはしないな……。だけど、村が荒らされたって話は本当のようだな」
「ん? そうなのか?」
「これくらいの村なのに門番が随分多いからな。かなり警戒してるようだ」
クワトロの特技「万里眼」を使って村の中で壊され潰れた家はないか、村を囲む柵も壊された箇所はないかなどを見て周って確認する。
建物が破壊されるなど何かに襲われたような様子は見受けられなかったが、この程度の村なのに門番が10人近くいる。
しかも、この場所の門と村の反対側にも同じくらいだ。
多くても300人くらいの集落と思うが、そのうち20人近い村人が門番をするのは、人間界の常識や、最初に訪れたカラッタ村から考えて警戒態勢だ。
門番をする間、狩りにも行けないし農作業もできないので必要最小限の人数で、各家庭の負担を分散するために輪番が常識だ。
よっぽど危機的状況になければこんなに無駄に多い門番を村に配置しないとアレンは考える。
(なるほど、全員才能があるな。っていうか。ほとんどレベル60でスキルもカンストしているな)
この世界の者たちは全員才能があることを知ったアレンは幼雛化して肩に乗せているクワトロに鑑定させると、皆、なかなかのレベル上げっぷりだ。
ランクの高い魔獣が跋扈する暗黒界だとレベルアップは早いのだろうかと考える。
「誰だ、お前たちは!!」
「魔獣に乗って怪しい奴らがやってきたぞ」
「顔が見えねえな。薄汚ねえ混血人に違いねえ! フードをはぎ取れ!!」
ワラワラと鳥Bの召喚獣から降りたアレンとイルゼを取り囲もうと殺気だって獣人たちがやってくる。
(この村は全員獣人の村だな。さて、イルゼ、出番だぞ。暗黒騎士様に逆らうやつはボコボコにしてやってくれ)
「……やれやれ」
フードを深く被ったアレンが悪い顔しながら、イルゼを盾にするように背後に回り込んだ。
イルゼはため息を1つついて、槍を向けられ殺気立つ村の門番たちに向かって歩みを進める。
「あ、貴方様は……」
「もしかして暗黒騎士様がおいでになったのか……」
漆黒に輝くアダマンタイトの鎧を纏うイルゼが兜を脇に抱えて門番たちに語り掛けた。
どうやらこの鎧は特別の仕様のようで、暗黒騎士だとすぐに分かるらしい。
「守備ご苦労。村長はいるか? 暗黒大神官モラーナより頼まれて、この村の問題を解決しにやってきた。何でも混血人たちに被害を被っているとか?」
イルゼの言葉に村人たちの反応が返ってくる。
「おお! 村長の暗黒大神官様への陳情で暗黒騎士様がいらしたのか!」
「おい、さっさと門を開けねえか! 暗黒騎士様を村にお通しするんだ!!」
「ボケッとしてねえでダルトン村長を呼んでくるだよ!」
門番のまとめ役と思われる1人が、指示をすると門番たちがワラワラと動き出す。
メキメキ
ゴゴゴゴゴッ
ムキムキに筋肉の張った獣人たちが腰を落として両手に力を込めて数人がかりで門を開いていく。
門も周囲の塀も何かに対策してのことか丸太を組んで随分分厚く、そして周りの塀よりも高くなっていた。
案内されるままに門を抜けると、先ほどから気になっていたツンと刺激臭のある匂いがアレンの鼻を襲う。
「……これは何だ?」
塀を超えた門の裏側には、村が襲われた時陣形を組めるように、ちょっとした広場というか住宅地まで空間があった。
(門の外まで匂いが届いていたな。塀の高さを超えそうなドラゴンだな。ん? 胴体がすでにないな? もう解体が進んでいるのか?)
そこに何十メートルにもなる巨大な竜の死骸があり、獣人たちが総出でのこぎりなどで骨を関節から分けたり、翼を剥がしたりしていた。
解体を進めているのだが、アレンは鳥Bの召喚獣を使ってこの場に下りるとき、既に塀を挟んで村側にドラゴンの死骸を解体する現場を見ていた。
既に解体がかなり進んでいるので何の竜か判別できないが、大きさからAランク以上であるのは間違いなさそうだ。
だが、既に解体が済んでいるのか胴体部分は既になく頭部、翼、足、手、尾などが転がっている。
「おお、本当に暗黒騎士様ではありませんか。村長のダルトンです。態々、このような小さな村の頼みに暗黒騎士様自らがおいでになるとは……」
大柄で毛むくじゃらのバイソンの獣人が門番と一緒に凄い勢いで走ってやってきた。
「……村長か。暗黒騎士のイルゼだ。暗黒大神官に陳情したのはお前だな」
「はい、そのとおりでございます。本日は態々、村まで足を運んでいただきありがとうございます。我が家に案内しますので、そちらで説明してもよろしいでしょうか」
「うむ、我らで対応したいと考えている。事情を詳しく聞きたい」
「それは大変助かります」
自らの2倍以上生きたであろう獣人にも相変わらず、上からガンガン命令するのだが、お互いそういうものなのか全く違和感なく話が進んでいく。
村の中央にある他の家の高さも長さも奥行きも倍くらいある村長の家は大騒ぎになっていた。
どうやら暗黒騎士がやってきたとあって、村長の家の周りが獣人たちで溢れていた。
皆が皆、非礼にならないように玄関から出て、土の上に膝をついて頭を下げる。
(これが守護番長、暗黒大神官、ギルド長よりも偉い、暗黒界に13人しかいない暗黒騎士の立場か。まるで暗黒神そのものみたいな扱いだな)
村長の家の周囲は、村人が集まって必死にゴミを掃き、家の中に通じる廊下を雑巾で水拭きしている。
村長宅の裏手には獣人たちが籠に入った果物や野菜を運び入れている。
「……気にするな。いつものことだ」
「ああ、俺なら勘違いしてしまいそうだな」
「そのようなものは暗黒騎士にはなれぬ」
こんなに王様のように扱われると謙虚な気持ちを忘れそうになるなとアレンは思った。
カツカツ
村長を先頭にイルゼとアレンが後ろからついていく。
廊下の床板はまだ拭いたばかりか水拭きで少し湿っている。
一番奥の村内の会議などで使われる最も広そうな部屋に通される。
大広間の中央奥の上座に板が数段積まれ、その上に座布団が置かれている。
「イルゼ様、こちらにお入りください。長旅だと思いますのでお茶をすぐに持ってまいります。御付きの方もゆっくりされてください」
(誰が御付きの方やねーん! ほんまに怒るで!!)
「……御付きではないが、アレンよ。そこで一緒に話を聞いてくれ」
「ああ」
イルゼの少し後ろで側近の席のように置かれた座布団の上にアレンは腰かけると、すぐにお茶が運ばれてきた。
「この村で好まれているお茶の葉を使いました。お口に合えばよろしいのですが……」
「ふう。お茶が熱い」
アレンは暑かったのでフードをとって座布団の上で胡坐をかき、寛ぐことにする。
「え? 混血人ですと……。グルル!」
ズルズルとお茶を飲むアレンを見て憎悪を見せた村長は一瞬で敵認定し、腰を上げ、力を込めた両腕に血管が浮き出る。
「気遣いは無用だ。それとその者はその見た目だが混血人でもない。私が保証しよう」
「さ、さようでございますか」
イルゼの一喝で村長は落ち着きを取り戻し、ゆっくりと腰を落とした。
「それで、何でも腕の立つ混血人が村を荒らしているそうではないか。村の状況を詳しく聞かせてくれ」
「へ、へい。あの化け物が村を襲うようになったのは8年ほど前……。村の作物などが荒らされるようになりまして」
(8年って結構前だな。随分我慢したのね)
門番たちが見せた怒りようが分かったような気がする。
村長の話では、数年前から数ヶ月に1度のペースで夜な夜な村の家畜、作物、薬草などが盗まれるようになったと言う。
この村だけではなく、周囲にあるいくつかの村でも同じようなことが起き始めた。
「8年前か。何故守護番に依頼しない。村内でのもめ事や犯罪は暗黒神官の領分ではないはずだ。あとは冒険者ギルドに討伐依頼を出したのか」
「いえ、守護番様にも対応を依頼しました。それが、村人が総出で盗みの現場を掴み、取り押さえようとしたのですが逃げられてしまい……。冒険者ギルドへの依頼は出しております。ただ、何度やっても、すごい勢いで逃げられて依頼料ばかりがかさみ……」
苦しい村の現状を、肩を震わせて村長はイルゼに語る。
「ん? 犠牲者が出なかったということか。それだけの相手なのにか。混血人なのに村人よりも力があるようだし不思議な話だな」
「そのとおりです。とんでもない力と素早さを持つ者が、網を破りそのまま逃がしてしまい、それ以降は警戒心が強く……。我らの眼を欺いて盗みを働くようになり、食料にも余裕があるわけではないので助けを求めて……。こんな小さな村に来ていただいて本当にありがとうございます」
困り果てて遠く離れた大神殿まで救いを求めたと村長は言う。
アレンはイルゼと共に村長の聞き込みを続けるのであった。





