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レベルとランクと

駆け出しの新米冒険者にとって、レベルを上げる事は絶対に必要な事だった。

しかしそれと同等に、ランクも上げたいと考えるのも当然だった。

強くなりたいが、金策もどうにかしたい……。

このジレンマに、常に囚われているのが新米だった。

 若い……と言うよりも、まだまだ幼さが抜けきらないマリーシェ達だが、その若さの勢いを駆ってクエストを精力的にこなし、全員が1レベルのアップを果たしていた。

 この時点で、リーダーのニックスはレベル5、キッソスも5、カナヴィは3、デンテは4、カメリアは3、そしてマリーシェとサリシュもレベル4となっていた。


「それじゃあこのパーティ、『獅子の牙(ブレザレアオン)』の今後の方針だけど……」


 宿屋の1階は、酒場兼食堂となっている場合が多い。マリーシェ達はまだまだ酒盛りを好んでするような年齢ではなく、ましてや昼間から酒を煽る様な者も皆無だった。

 そんな彼女たちは、大きな丸テーブルを囲んで、昼食前の軽い軽食を口にしながら会議中だった。議題はニックスの言う通り、このパーティの今後の方向性を決めるものだった。

 ちなみにパーティ名「獅子の牙」はリーダーのニックスが命名し、パーティ名に興味のないメンバーは特に反論しなかったのでそのまま決定した。やや青年特有の青臭い名称となっているが、そこは誰も突っ込みを入れなかった。


「そりゃあ、レベル上げるってので決まりでしょ?」


 そんなニックスへ、真っ先に意見を告げたのはデンテ=レアオンだった。彼女の出身や弓を得意としている経緯、そして本人がそれを望んでいるところから、メンバーからは狩人や射手として認識されている。

 さも当然と言わんばかりの発言に、恐る恐る反論したのはカメリア=トゥルベだ、


「あのぉ、そのぉ……。レベルも大切ですけどぉ……ランク上げも必要じゃないかしらぁ」


 攻撃系魔法使いである彼女は、その優し気に少し垂れた目元も相まっって、どこか気弱そうなイメージを受ける。実際その発言もどこか恐縮しているようで、デンテに対するに怯えている様にも伺える。

 しかし、確りと自分の意見を言い切るところを見れば、実は芯が強く負けん気な性格をしているのかも知れない。


「な……なるほど。ランク……かぁ……」


 そんなカメリアの意見に頷いて見せたのは、どうにも引っ込み思案な戦士のカナヴィ=ハンフだった。もっとも彼の意見はカメリアに賛同した訳では無く、1つの考えとして口にしたものだった。

 彼は戦士としてはどうにも自己主張が弱く、戦闘でも指示があるまで自ら動きだそうとはしない性格だった。今のこの場でも、自分の考えは口にはせず、誰かが決めてくれるのを待つ受け身姿勢を崩していない。


「下手にランクを上げると、手に負えないような依頼を受ける事になるぜ? それよりも、今はまだレベル上げに専念すべきだと思うけどなぁ」


 そして、カメリアの意見に真っ向反対を表明したのは、このパーティのナンバー2であるキッソス=カーゼブだった。

 彼は、レベルや年齢がニックスと同じでありながらどこか落ち着いた風情があり、誰も彼の意見を無視出来ないのが現状だった。そして、彼の意見は至極もっともでもある。


 新人冒険者として必要であり目標となるのは、レベル上げなのに間違いはない。冒険者と言う家業は、強くなければ立ち行かない事が多いからだ。自分の命を守る為にも、そして行動範囲を広げる為にも、レベルを上げる事は急務だと言えるだろう。

 一方で、カメリアの言うランク上げも無視は出来ない。

 ランクが上がれば依頼の質が上がり、それはそのまま報酬にも影響するからだ。常に金欠でもある冒険者たちにとっては、クエスト成功額が上がるに越した事は無かったのだ。

 もっとも、クエストの質が上がるという事は、そのまま難易度が上がると同意である。下手をすれば命を落としかねない冒険者家業では、難易度の高いクエストと言うのは悩みの種でもあった。

 このように、レベル上げとランク上げは、必ずしも一致してはいなかった。言うなれば、個人の能力を上げるのがレベル上げであり、パーティの質を上げるのがランク上げであると言ってよかった。


「ううぅん……。レベルを上げるか、ランクを上げるか、かぁ……」


「……あんたは、どっちがええのん?」


 中々方針が定まらない議論に、マリーシェ=オルトランゼとサリシュ=ノスタルジアも意見を交わしていた。もっとも、双方ともに明確な考えがあってのものでは無かったのだが。


「……そうねぇ。私としてはレベルを上げて、もっと早く強くなりたいかなぁ」


 マリーシェのこの台詞は、駆け出しの冒険者ならば誰もが抱く思いだろう。特に街の外では、女神の加護により慮外の力を発揮できるのだ。

 これまで忌避するしかなかった魔獣を、新たに得た力で倒すと言う喜びや楽しさは、冒険者の醍醐味の一つだと言って良いだろう。

 もっと強く、もっともっと……と渇望するのは、この場の全員が抱く思いに他ならない。


「……でもなぁ。……ランク上げて、報酬増やしたいってのも……ホンマの話やからなぁ」


 そして、サリシュの意見も決して間違いではなかった。

 冒険者は、兎に角金銭面で苦労する。普通に暮らすだけでも定住していないので、食事はほぼ外食であり、宿泊は宿を使う。

 安全に戦う為には装備の充実は必須であるし、もしもの為に色々と備えなければならないのも当然の話だ。

 しかも装備以外でそれらは、消耗品としてすぐに無くなってゆく。携帯食やら回復薬草に毒消し草、野営装備一式、それが人数分ともなれば結構な出費となる。

 だが、ランクの低いクエストでは多くの収入は望めない。だからこそ、早くランクを上げたいと思うのも本音だと言えた。

 その他にも、ランクが高くなるとクエスト受注料も高額となる。成功すればそれは返って来るものの、失敗すればそれはそのまま損失となる。確実に成功する為には、ランクの低いクエストが打って付けでもあると言うジレンマもあったのだ。


「それ、それよねぇ……。私も、新しい武器が欲しいぃ」


「……それをゆぅたらウチかて……新しい魔導書が欲しいわぁ」


 すぐに必要なのかどうかの話ではない。自分の武装の充実や、新たな魔法の習得は必須であり、常にそれらを渇望しているのだ。

 それらには当然の事ながらお金が掛かり、メンバーも同じ気持ちである事を考えれば、すぐに満たされる要望ではなかったのだった。

 強さか、資金か……。これは、常に冒険者について回る命題と言っても嘘ではないだろう。

 ちなみに、今の彼らのランクは最下級の銅石級(カッパー)なのだが、これまでの活動で、銀石級(シルバー)になろうと思えば程なくなれる実績はあったのだった。


「とりあえずさ、当面はレベル上げで良いんじゃないかな? もう少し強くなって、銀石級でも確実にやっていけるってなったら、ランクを上げるって事でさ」


「……そうだな。それで行くか」


 纏まろうとしないこの場を、キッソスが強引に纏めに掛かり、それをリーダーのニックスが肯定した。彼らが2人して同じ意見を唱えたのだから、他の面子に反論のしようもない。


「当面の目標は、全員のレベルをもう1つずつ上げる方向でクエストを受けよう。それから、ランクを上げて活動範囲を広げようって事で」


 ニックスが総括した事で、この場の話し合いも完全に終わりを告げた。


「ねぇねぇ。それじゃあさ、早速依頼を探しに行こうよ!」


 即断即決では無いのだろうが、すでに話し合いの場に飽きていただろうデンテが、勢いよく台詞と共に席を立つと。


「そ……そうだな」


「そ……そうね。そ……そうしましょうか」


 それに、カナヴィとカメリアが追随し。


「次はどんな敵が良いのかなぁ?」


「……丁度ええ敵の討伐クエストでも……あればええねんけどなぁ」


 マリーシェとサリシュもこれに続く。放っておくとどんな依頼を選ぶか分からない事を考えれば、依頼選定の場に顔を出さないと言う手はない。


「おいおい、お前らっ! 俺を無視して話を進めんじゃないっ!」


 そして当然の話、リーダーであるニックスもその輪に加わるべく移動を開始した。最終的な決定権があるので、彼抜きでは話は進まないのだが。


「……ったく、しょうがねぇなぁ」


 そして最後に立ち上がったキッソスが、仲間たちに合流するべく緩慢に動き出す。いつも一歩引いている彼の事を考えれば、彼が最後に動き出すのはいつもの事だと言えるだろう。


 だが、しかし。


 その場の誰も、気づけなかった。


 彼の瞳には、仲間に向けるような色が宿っていなかった事に。


レベルとランク。

若い冒険者にとっては、どちらを上げようとも苦労する事になる。

今回のマリーシェ達の決断は、決して間違ってはいない。

しかしだからといって、安全かと言われればそんな事は無かった……。

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