次のクエストどうしよう?
パーティを組む事になったマリーシェとサリシュ。
どうにも馬の合わない二人だが、クエスト中は割り切るだけの理性はあったようで、特に大きな問題を起こす事も無く、新人パーティ「獅子の牙」は順調に活動していたのだった。
マリーシェとサリシュが参加したパーティは「獅子の牙」と言う、何と言うか少年の思い付きらしさ満載の名称だった。もっとも、そこに参加している者たちにとっては、パーティ名などそれほど重要ではなかった。
なぜならば、そこが腰掛け程度でしかなく、いずれはそのパーティを離れるか、解散する事になるかを知っているからだ。
「それじゃあ、次のクエストを受けて狩場に向かうか!」
リーダーはこのパーティの名付け親でもあるニックス=バックフォード。少しは使い込まれつつある装備を身に付けた、剣士を目指す少年だ。元気が取りえなのだが、その威勢がパーティの雰囲気を良くしており、結果として効率を高めていた。
「おいおい、ニックス。昨日クエストから戻って来たばかりだぜ? 少しは休まないと、体がもたないぜ」
そんなニックスに待ったをかけたのは、このパーティの副リーダー的存在を務めている少年であり、短剣を得意とした遊撃を務めている。
攻撃力で考えれば、短剣は剣や斧と比べれば大きく見劣ってしまう。遊撃ならば納得してしまいそうなのだが、彼らはまだまだ駆けだしであり、そんな器用な事など出来る訳もない。
職業と言う概念も希薄であり、何よりもこれからどんな方向に成長していくのかは模索中でもある。出だしから短剣を好んで愛用するなど、かなり珍しいと言えた。
もしかすれば短剣に拘りがあったり、短剣に適した職業を目指しているかも知れない。それぞれに目指す方向性を胸に秘めているだろうから、初めからそれに準じた武器を使うのがもっぱらではあるのだが。
「い……いや、キッソス。そ……そんな事は無いよ。ぼ……僕もまだまだ頑張れる……から」
そんなキッソス=カーゼブに、どこか恐る恐ると言った態で意見をしたのは、茶色い髪に濃紺の瞳、装備している武具はニックスと同じような戦士のそれだが、まだまだ華奢であり幼さが抜け切れていない少年だった。
キッソスに意見した彼だが、彼のどこを見ているのか分からないほどの糸目を向けられただけで、あからさまに顔を背けて縮こまってしまっていた。
「ちょっと、カナヴィ。早くレベルを上げたいあんたは良いかも知れないけれど、あたいはキッソスの意見に賛成よ。ここのところ、依頼を詰め込み過ぎてるって感じてたのよねぇ」
カナヴィ=ハンフの意見に、勝気そうな少女がキッソス支持を発言した。
赤みの掛かった野性味溢れる髪を短く切り揃え、好戦的な眼には薄い緑色の瞳がカナヴィを睨みつけている。本人に視線を厳しくしているつもりはないのだが、カナヴィの怯えようを見れば、目線を和らげる事に成功しているとは言えないだろうか。
足元には弓矢が置かれており、それが彼女の得物だという事は想像に難くない。それを証明するように、彼女の身に付けている装備は軽装そのものだ。
「わ……わたしも、デンテさんの意見に賛成かなぁって。わたしもそのぉ……すこぉし疲れたかなぁってね。あは……あはは……」
「ふうぅん……。カメリアも休みたいって考えてるんだな?」
「あは……あはは……。そのぉ……できれば……」
キッソスの意見に同意したデンテ=レアオンに賛同したのは、控えめで気弱そうな見た目の女の子、カメリア=トゥルベだった。
特徴的なのはその白い肌で、思わず病気ではないかと疑ってしまうほどだ。それは、屋外での活動が多い冒険者とはとても思えないほどだった。
彼女の青み掛かった癖のないまっすぐな髪は肩口で丁寧に切り揃えられており、その色が彼女の肌色で綺麗に映えていた。そしてその瞳も、白雪に一滴落とされた墨のように美しかった。
そんな彼女の装備は軽装……と言うよりもローブを纏った姿をしており、魔法が得意な事は立て掛けられている魔術杖が表していた。
ニックスが改めてカメリアへと問いかけると、どうにも申し訳なさそうに彼女は肯定した。それでも、ニックスはどこか完全に納得出来ていない様だった。それも当然だろうか。
何せ彼は、もうすぐレベル5になれそうだからだ。しかし、それは明確に決定している訳では無く、本人だけが分かる感覚による。
実際にレベルアップ出来るかどうかは、ゴッデウス教団にある女神フェスティスの神像に祈りを捧げる事でハッキリとする。……レベルアップと言う形で。
「ううぅん……3対2かぁ……。それじゃあマリーシェ、サリシュ。お前たちはどう思う?」
そんなニックスは、答えが分かっているにも関わらず、マリーシェとサリシュに意見を求めた。話を振られて、これまで会話に関わってこなかった2人は、それぞれ大きく離れた位置に腰を下ろしているにも拘らず、似たような冷めた視線をニックスへと向けた。
「私ぃ? 私はどっちでも良いかなぁ……?」
「……とか何とかゆぅて……ほんまは行きたいんとちゃうん?」
「何ですってぇ!」
同じパーティとなり、行動を共にする事になってもうすぐ二か月は経とうかと言うのに、この2人は未だに仲が良い関係とは言えなかった。作業中や戦闘時には鳴りを潜めているものの、普段は事あるごとに言い合っていた。
もっとも、ここはサリシュの方が正しく、彼女の言っている事は的を射ていたのだが。
実はマリーシェも、もうすぐレベルアップする予感を抱いていた。それ故に、出来れば精力的にクエストをこなしたいと考えていたのだ。
ちなみに、それはサリシュも同様だったりするので質が悪いと言えるだろう。
「じゃあ、2人はクエスト賛成で良いんだな? それじゃあ、4対3って事で、すぐに次のクエストを受注しようか」
嬉しそうな顔を隠す事も無く、ニックスはニッと笑みを浮かべると、クエストを張り出している掲示板へと向かった。それを見てデンテが即座に続き、キッソスやカナヴィ、カメリアも後を追う。
「……あんたは見に行かないの?」
2人が残された形となり、まずはマリーシェがサリシュへと問い掛けた。その口調は会話と言うよりも、剣呑さを含んで喧嘩腰のようだ。
「……ウチは依頼内容なんて、何でもええからなぁ。……それよりも……あんたの方こそ見に行った方がええんとちゃうん?」
そんなマリーシェの態度などどこ吹く風で、すかさずサリシュが返答する。ちなみにこの問答、マリーシェもサリシュも、別段相手を貶す様な事は言っていない。それどころか、至極普通の会話だろう。
それでもそうは聞こえずにギスギスした空気となっているのは、二人の交わす視線と、声に含まれた嫌厭感からだろうか。
しばしの沈黙の後、先に動いたのはサリシュだった。テーブルを挟んで対面にいるマリーシェには何も告げず、無言で立ち上がったのだ。
「……どこ行くのよ?」
そんなサリシュに向けて、仏頂面で不機嫌声のマリーシェが問い掛ける。如何にも「話しかけるのも嫌」を雰囲気で表しているのだが、それでも相手の行動が気になってしまうのだろう。
「……どこでもええやん」
そしてサリシュの返答は、当然と言おうか突き放した素っ気無いものだった。これには、自分から話し掛けたにも関わらず、沸点の低いマリーシェの頭に血が上る。
「あん……っ!」
「……なぁんてな。……やっぱり気になるから見に行くねん」
マリーシェが怒鳴ろうとするその直前の絶妙なタイミングで、サリシュはあっさりとネタばらしをする。これをされると矛先を逸らされた感があり、振り上げた拳を叩きつける事が出来なくなるのだ。
顔を真っ赤にしながらも、マリーシェもまた勢いよく席から立ち上がる。
「……あんたは何処行くん?」
サリシュの厭らしいところは、相手の行動目的が分かっていて、敢えてその相手に言わそうとするところだろう。しかもマリーシェは、先ほどサリシュに問い掛けてしまっており、この問いを無視すると言う行動が取りづらい。
「……わ……私も、見に行くのよ」
そんな理由から、マリーシェの返答もどこか弱く、かなり照れたものとなっていた。そして、それを見逃すサリシュではなかった。
「……ふうぅん」
「な……何よっ!」
しかも、それについて何かと言葉を尽くす事はしない。追い打ちをかける事はしない。
ただニマニマとあからさまな笑顔を浮かべて、妙に間延びした返答をするだけなのだ。これだけで、マリーシェが激昂するには十分だった。
「……べっつにぃ」
そんなマリーシェをわざとらしく横目で伺い、サリシュはスタスタとその場を後にする。
「ま……待ちなさいよっ!」
そしてそんなサリシュを、マリーシェが何故か追う形となり、2人は掲示板前でワイワイとしているパーティメンバーの元へと向かうのだった。
毎回諍い……と言う名のじゃれ合いをしながらも、2人はそれぞれの存在を認めてゆく。
気を抜けば生死にかかわる冒険者家業で、マリーシェとサリシュはそれぞれに互いを認めつつあったのだった。
このまま順風に歩んでいける……と、この時点では誰もが考える、ある意味で平穏な一幕だった。




