第9話 火器管理室にて
かなめは慣れた調子でハンガー二階にある小火器管理室への階段を駆け上った。
「いつ見てもアイツは銃が撃てるとなると生き生きするんだな……本当に救いようのねー銃依存症だ」
あきれ果てたように階段をのぼりながらランは後ろに続く誠達にそうボヤいた。
かなめはそのまま火器管制室の扉の前で振り向いてランが到着するのを待っていた。
その嬉しそうな顔を見てランは再びため息をつくが、誠とかえではいかにも子供帰りしたかなめにただ苦笑いを浮かべながら小火器管理室前に到着した。
「開いてますよ!例のアレの件でしょ?アレは滅多に使わないからいつも奥においてあるんで取るのが面倒なんですから!必要なだけ持ったら出て行ってくださいよ!」
かなめがノックしようとした瞬間に無遠慮な小火器管理担当下士官の声が響いた。ランはそれを聞くとかなめを押しのけて先頭になり部屋に入った。
「楽しい射撃訓練と行きたいところなんだけどなあ……聞いていたけどやっぱこれかよ……コイツはアタシは好きになれねえんだよな……そもそも『低威力』にする為に銃弾を加工するなんて意味が分からねえ。ただ、暴徒も一応は市民だからな地球圏みたいに政府に逆らう奴は全員刑務所に放り込んで餓死させるってわけにはいかねえんだろうからそうなるんだろうけど……アタシの生まれた甲武はそもそもデモなんて禁止されてて二人で話し合う不穏な人間を見つけたらそのまま警官や憲兵に見つかって処分されるからこんなもん必要ねえんだけどな」
先に入ったいかにも不服そうなかなめの声に少し興味を持ちながら続いた誠だが、そこに待っていたのは慣れた調子でかなめが明るい青色の樹脂でできたショットガンが並んでいるのを見ている姿だった。文句を言うかなめに向けて明らかに不服そうな顔をしている小火器管理担当下士官が明らかに面倒な仕事をさせるなと言うような目で見つめている。
そのうちの一丁を長身の作業着に汚れた前掛けをつけたこの部屋の管理を技術部長代理の島田から任されている士官が、誠達を置いてそのまま作業場にまで入り込んだランが実際に手に持ちながらその銃の状態について小声で説明を受けていた。ランは何度かうなずきながらその隣に置かれた弾薬の入ったケースを叩きながら振り向いた。
「こんなの事実上の模擬弾じゃねえか。こんなもんを使って射的ごっこか?つまらねえな。そもそもショットガンの弾丸の威力を無理やり低下させて打撃力で相手を無力化しようという発想自体がアタシには気に食わねえ。銃は撃ったら相手は死ぬ。銃ってもんはその為に発明されたもんだろ?打撃力で無力化だったらそのままこのショットガンで相手の所まで走って行ってぶん殴れば良いじゃねえか。それこそ剣道場の息子の神前向きの兵器じゃねえか。アタシみたいに銃は撃つもので殺すものと考えている人間には理解不能な兵器だ」
かなめは心底がっかりしたようにそう言うと銃を下士官から奪い取った。
「模擬弾とは失敬な!それに射殺前提で銃に接するなどとはいかにも人権意識の低い甲武国の発想ですよ!一応鎮圧用の低殺傷弾入りのショットガンです!それにその発想!銃を人殺しの道具としてしか見ていないなんていやしくもこの戦争嫌いの東和国に本部のある武装警察官たるものその考え方そのものを変えていただかないと困りますよ!西園寺さんもいつまでも暗殺任務がメインの非正規部隊員気分が抜けてきてもいい頃なんじゃないですか?」
それまでランと小声で話していた作業着の士官がきつい調子でかなめに反論した。
「はいはい、アタシ等は警察官でしたよね。でも、低威力が売りで打撃力を無力化と言っても当たり所によっては十分相手は死ぬんだぞ。そんな威力が半端なだけになお悪りいや。そんな時に相手が死んだら普通に銃撃戦で相手を射殺する時以上にランの姐御に怒られるんだ。そんなアタシ等の身にもなってみろってんだ」
かなめは頭を掻いて銃に手を伸ばした。誠はランの手元のオレンジ色の派手な弾薬の箱に目を向けていた。
「それほどこの銃にご不満とは……相手を殺さずに無力化する自信が無いのでしょうか?僕の甲武国の生まれだが、東和共和国の人権意識の高さには敬服しているんだ。それと見たところどうやらお姉さまはショットガンは苦手なようで……そうなると僕の出番だね。やっぱりお姉さまと神前曹長には僕の力が必要なようだね……っうっ!」
遅れてやって来たかえではいつものように決め顔をして前歯を光らせると、いかにも手慣れた調子で青いショットガンを受け取った。そして同時にかえでは誠を興奮させるような色っぽいうめき声をあげた。
「日野少佐はその銃に慣れてるんですか?そんな変な色に塗った銃を何に使うんです?そんな色に塗ったら目立って仕方がないような気がして仕方が無いんですけど、それには何か特別な意味でもあるんですか?それにさっきから日野少佐の様子がおかしいんですが……またなんか変なことしてるんじゃないでしょうね?日野少佐は変態だと言うことは僕の理解しているんで細かいことは聞きたくありませんけど」
誠はかえでの事だからきっとこの青色のショットガンが殺さずに打撃力を与えるというかなめの言葉を聞いて、きっとその打撃力を性的なことに使うに決まっているというような汚いものを見るような目でかえでを見た。かえではそれを気にする様子も無く青く塗られたショットガンの作動部分を丹念に動かしていた。
「なあに、ショットガンについては僕にはそれなりの経験値というものがあるのでね。以前から僕の趣味は狩猟だと言っているだろ?狩猟の際には熊や猪などの大物を狙うならライフルを使うが、鴨や雉などの鳥類を狙う時は散弾を使う。散弾を使う銃と言えばショットガンだ。いくら僕でもそれなりに神経をすり減らすことになる熊や猪を相手にするのは時に刺激が欲しい時程度で、楽しいレジャー感覚で行うのはそう言った鴨や雉を狙ったショットガンによる狩の方だからね。だからショットガンについては僕にはお姉さま達より一日の長があると言うことかな。それと僕の君への愛は絶対でね……君をいつもこうして体の中で感じていないと気が済まないんだ……はあっん!」
またいつものさわやかな笑顔で前歯を輝かせつつ喘ぎ声を上げつつかえでは誠を見つめてきた。そして言葉を口にするたびにうめき声をあげるかえでに誠をはじめとする一同は明らかに嫌な予感を感じてそれ以上その声に関しては追求しないことを心に決めた。
「そうですか……僕は軍に入るまでは銃にはほとんど触れたことが無いので……猟に使う銃と言うとライフルだけだと思ってましたけどショットガンもそう言う風に使うんですね……それと顔が赤いですよ?本当になんかまた変なことでもしてるんですか?一応、今は勤務中なんで。さっきリンさんが何かした時から妙な声を出すのをやめてください。お二人が変態なのは僕も十分わかっているんで」
誠はそう答えつつ下士官が手渡してきた自分の分の青色のショットガンを受け取った。
それは青く塗られているだけで普通のライフルと同じ素材でできているように誠には思えた。ただ、形は典型的な島田が時々班長らしい銃と言うことで愛用しているショットガンであるスパス12によく似た形をしていた。
「神前曹長。君の考えていることを当ててあげようか?君はこの銃がなんで青く塗られているか気になっているようだね?それにはいかにも軍事警察である僕たちの任務に適した大事な理由があるんだ……うっ……」
かえでは見事に誠の心の中を読んで見せた。そして自分の銃の動作状況に満足したような笑みを浮かべた後、なぜか内股で腰の当たりを震わせながら話を続けた。
その明らかに脂汗を流して腰を震わせているかえでのしていることを想像することを誠の脳は拒否していた。
「それは使っている弾に関係しているんだよ。……はあ……この銃で使用する弾は限定されていると仲間に認識させるためにこういう風に島田准尉が使っている銃のような黒ではなくまるでおもちゃの銃のような色に塗られているんだ……はぅっ……つまりこの銃は普通の弾薬は使用しない銃だと言うことを示すために青く塗られているんだ。僕の使っている銃は全て隊のHK33と同じ黒い色の銃だよ。鴨や雉を狙う狩猟用の散弾にも十分殺傷能力があるからね。……あぁっ!……ああ、君のアレはまだピンク色だったね。僕で童貞を喪失してそれが黒くなるまで僕達の事を……ああっ!」
そう言うとかえではその場にしゃがみこんだ。
「少佐!大丈夫ですか!またなんか変なことをしているんですか?今は勤務中ですよ?変態行為は休憩時間にしてください!あと言ってることがだんだんおかしくなってきたのもそのせいなんですね!おふざけもいい加減にしないと今はショットガンの説明を受けているクバルカ中佐に怒られても知りませんよ!」
心配した誠はかえでに手を貸した。かえでは頬を赤く染めながらよたよたと立ち上がると内また気味に立ち上がった。
「何でもない。リンは知っているが今の君は知る必要が無いことだ。なぜ僕がこんなに何度も君に幸せを与えられて……!うひ!」
今度はかえではのけぞった。さすがの誠も異常を感じて隣に立つリンが手にしているリモコンに気付いた。
「渡辺大尉。何をしているんですか?というか、リンさんも共謀して変なことをするのは止めてくれます?お二人が変なことをすることで常に頭を抱えているクバルカ中佐がそこにいるんですよ!そんなことも考えてないんですか?」
誠は嫌な予感がしてリンに向ってそう尋ねた。
「これですか?女性用大人のおもちゃの遠隔リモコンです。今、誠様のアレをかたどったものがかえで様の前後に入っています。それをこれで調整して……」
リンは表情も変えずにとんでもないことを口走った。リンはおもちゃを最大出力にしたらしくかえでは白目をむいて倒れ込んで喘いでいた。
「アンタ等!クバルカ中佐じゃないですけど神聖な職場でどんな変態行為をしてるんですか!そもそもアンタ等ここをなんだと思ってるんですか!ここは職場です!人の目もあるんです!もしかして何度かは街中で日野少佐が警察に捕まってクバルカ中佐が迎えに行ったことがあるってそんな遊びをしてたんですか!さすがにこの隊までは警察は来ないと思いますけど、そのクバルカ中佐はそこにいるんですよ!それに男である僕もここにいる!その目の前でこれ以上の変態行為は止めてください!」
誠は思わずそう叫んでいた。
倒れて快感に飲まれて痙攣していたかえでがなんとか意識を取り戻すと虫の息でリンに向って手を差し伸べてきた。その口元からはよだれが垂れて快感に浸った目は完全に飛んでいた。
「済まない……リン……強度を下げてくれないか。さすがに射撃訓練中にそのスイッチを入れられると僕も正気を保っていられなくなる」
喘ぎつつかえではリンに向けてそう言った。リンはその言葉を聞くとスイッチをポケットにしまった。
「おい、変態!アタシがいつそんなことを許可した?隊内での変態行為はするなとあれほど言ってたよな?かえで……二本もアレを入れたままで射撃訓練か?真面目に訓練する気あんのか?テメエは?それこそ事故の元だ。とっととトイレに行って抜いて来い!」
かなめもさすがに妹の異常行動に呆れてそう言った。
「お姉さま。心配してくださるんですね。通常勤務の際は僕はいつもこれを入れたまま仕事をしているが……何か問題でも?ただ、いつもはスイッチを入れていないだけで、今日はそれに耐えられるか試してみようと……リン……やはり無理……のようだ……また波が……」
快感の波にのまれようとしているかえでとそれをじっといつもの無表情で手元のリモコンを操作しているリンの姿に誠とかなめはあきれ果てていた。
「神前!馬鹿と付き合うのはいい加減にしろ!射場だ!急ぐぞ!リン!そのリモコンはアタシが預かる!また変なことをされたら本当にアタシまでランの姐御に大目玉だ!」
ショットガンからやはり性的な話題に移ろうとしたかえでを見たかなめはリンの手からリモコンを取り上げて、かえでの話に聞き入りそうになる誠の襟首を掴んで廊下へと引きずっていった。かえでもその様子を見て微笑みを浮かべるといつもの無表情を浮かべているリンと初めて見るショットガンを珍しそうに弄っているアンを連れてかなめの後に続いた。




