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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第三章 『特殊な部隊』とドキドキ射撃訓練
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第10話 司法執行機関の銃器

 かえではリンがかなめにリモコンを取り上げられるといつもの凛々しい『男装の麗人』の姿を取り戻していた。そもそもそんなことが可能なのかとかなめやアメリアに確認したいと誠は思ったが、かなめに話せばキレて何を始めるか分からなかったし、アメリアに話せばその事実をまだ知らずに済んでいるランがこの事実を知るほどの大騒ぎをすることは目に見えていたので誠は全ては無かったことにすることに決めた。


 考えてみれば一応司法執行機関と言う実働部隊の名目上、当然暴動や治安維持任務には低殺傷能力の武器の使用も考慮されており、それに適した銃も抱えていたところで不思議は無い話だと誠は思っていた。事実、以前ベルルカン大陸での選挙監視活動でランの教え子達の東和陸軍の特殊部隊が現地で活動した際の映像にも目の前の青いショットガンを抱えて警備に当たる島田達整備班の姿を目にしていた。


「西園寺さん。打撃力で相手を無力化する弾を使う専用のショットガンだということは理解したんですけど……これってどれくらいの威力があるんですか?」 

挿絵(By みてみん)

 射場に着くと誠はかなめにそう尋ねた。


 ショットガンについてはかえでに聞く方が間違いないのは分かっているのだが、先ほどの興奮の余韻から理性が飛んだかえでが本当に変態行為に移るといういつもの性的な暴走に走ることだけは誠も避けたかった。誠は弾の入っていないショットガンを手に弄り回しているかなめにどちらかと言えば無難な相手として選んで尋ねた。振り返ったかなめの顔は明らかにがっかりしたような表情に変わっていた。


「あのなあ、銃の威力が強いか弱いかなんてそんな子供がエアガン買うときみたいなこと言うなよ。コイツは『低殺傷兵器』とカテゴライズされる銃だ。英語で言えばローリーサルウェポンだな。威力って言われれば名前の通りの威力だ。殺さない程度に相手を無力化する。それだけの銃だ。だからさっきもアタシは言ったろ?こんな銃はつまらねえって」 


 そう言うとかなめは静かにショットガンを射場に並ぶテーブルに置いた。その隣ではこの小火器管理を担当下士官がいつの間にかやってきていたランの手元の箱を開けてバスケットに中のオレンジ色の弾薬を入れているところだった。


「日野がまた変なことをしてたみてーだな……。も―アタシも諦めた。うちで変態行為をするならアタシの目に触れなければ勝手にやってろ。確かにうちに来客なんてほとんどねーし、県警がうちに下請け仕事を依頼してくる時も電話かメールだからな。ただ、その最中に日野は電話に出るんじゃねーぞ。さらにうちが『特殊な部隊』そのものでついにそっち方面でまで特殊になったと勘違いされる。それより神前。コイツの威力については銃に関しては日野のエロ系並の情熱を注いでいてアタシから見たら同レベルの西園寺から説明は受けてるみてーだな。コイツの弾はまあ当たり所が悪くない限りは打撲ぐらいで済むんじゃねーかなあ……何ならお前が的になるか?アタシも教導隊で何度か悪たれどもをせっかんする時にコイツを使った。一番コイツの的になったのは島田だがな」


 そのままランはショットガンを手に取ろうとする。誠は身の危険を感じてそのまま壁にまで飛び退いた。 

挿絵(By みてみん)

「島田を的?姐御も楽しそうなことしてたみてえじゃねえか。アタシもその光景は一度見てみたいもんだな。今度アイツが警察に捕まったら全員でこの銃でアイツに集中砲火を浴びせるってのはどうだ?姐御、良いアイディアだろ?それと銃の威力を知りたいという神前にその威力を身をもってわからせようだなんて姐御も良いことを言うじゃねえか。じゃあ神前、防弾プレート入りベストを貸してもらってお前は標的役を……」 


 同じようにかなめはオレンジ色の銃を手に取ろうとした。


「西園寺さん!ふざけないでくださいよ!クバルカ中佐は東和陸軍教導隊でパイロット候補生が言うことを聞かないとこの銃で撃ってたんですか!島田先輩は不死人だからそれこそRPGで吹き飛ばしても死なないから別にどうでもいいですけど、普通の人にそんなことをしたら完全にパワハラなんじゃないですか!それにこの提案、西園寺さんは乗り気みたいですけど僕に対して今やってもそれはパワハラです!暴力です!」 


 本当にやりかねないかなめを見ながら誠は泣くような調子で叫んでいた。かえでのセクハラを恐れるあまり誠は選択を誤った自分を悔いた。


「パワハラ?アタシの脳は日本の昭和のレベルで倫理観が止まってるんだ。だからアタシの辞書には『パワハラ』の文字の代わりに『熱血指導』と言う言葉が置き換えられているんだ。それじゃあ……っとふざけてないで行くぞー。ただ、西園寺の島田への脅しは良いアイディアだ。それに神前の言う通りアイツはRPGで撃っても死なねーからこれはパワハラには当たらねー。次アイツが警察署の取調室に行った後はこいつで全員で島田をフルボッコにすることにしよー」 

挿絵(By みてみん)

 ランは不敵な笑みを浮かべてそう言うと一挺のオレンジ色のショットガンを手に取る。かなめ、かえでそしてランと果てしなく暴走を続ける異常な思考の持主にはついてはいけないと気配を消していたカウラもアメリアも静かにそれを手にした。


「おめえはどっちにする?色は違うが使う弾は同じだ。要するに普通の弾は入っていませんよと分かればどんな色でもかまわねえんだから。色によって性能が違うわけじゃねえ」 


 かなめは手にした派手なオレンジ色の樹脂製のセミオートマチックショットガンと同じように鮮やかな青で塗られたポンプアクションショットガンを誠に手渡した。


「島田先輩が言うにはオートのショットガンは慣れない僕みたいな人間が撃つと動作不良を起こすらしいんで、こっちにします」 


 そう言うと誠は迷わずポンプアクションショットガンを選んだ。


 冬の日差しの降り注ぐ中、まじまじと銃を見る。誠たち機動部隊の隊員一同が射場に並んで派手なオレンジ色と青色の銃を手にしている姿は異様だった。考えれば使用弾薬が殺傷用のバックショットやスラグが入っているのと低殺傷能力の布の袋に砂や小石などの貫通能力を殺す程度の質量のモノを布でくるんでさらに殺傷能力を落とした弾が入っている銃に見分けをつけるのは合理的だが、それにしても明らかに毒々しく塗られた銃は異様だった。


「じゃあ僕が手本を見せようかな。まだ神前曹長が入っている感覚はあるが、それが僕をより奮い立たせるんだ」 


 『許婚』である誠に避けられていることに不満そうなかえではそう言うと銃を手にして上官であるランの指示を待った。


 全員が銃を手にしたのを見てランは思わず手にしていた銃を肩に背負った。


「おー、日野は相当自信があるみてーだからとりあえず腕前の方を見せてくれや。アタシはアタシで勝手にやるからさ。オメーに関わるとアタシも不死人だから寿命は縮まねーが、気分が悪くなる。ただ腕が口だけでねーのはここでは一番アタシが分かってるんだからそれを見せてみろ」


 ランは銃とあまり身長の変わらない自分をごまかすために投げやりにかえでに向ってそう言った。 


「クバルカ中佐も法術師としてとショットガンナーとしては僕を買ってくれているようだね。ここは良いところを見せてクバルカ中佐にも神前曹長との仲を認めてもらういい機会になりそうだ」 


 そう言うとかえではさわやかな笑みを再び誠に向けてきた。思わずドキッとする誠だが、情に流されてはならないととりあえず冷静を装うことにした。かえでの前後にはとんでもないものは今でも入ったままなのである。その事実が誠の気分を憂鬱にした。


「日野、そんな事ばっかり考えてるからオメーと神前の仲をアタシは認めてねーんだ。そんくらい分かるようになったら認めてやる」 


 ランの認めてやるの言葉を聞いてかえでは我を忘れたような喜びの笑みを浮かべて頬を赤らめた。


 アメリアはその様子を見て思わず吹き出した。かなめは妹の行動に明らかに不機嫌そうに銃でレンジのテーブルの脚を叩く動作を続けていた。その様子にもアメリアは爆笑した。


「なんだよ!」 


 かなめはアメリアに馬鹿にされたと感じてムキになってそう言った。


「いやあ、かなめちゃんの反応がいつもどおりで平和だなあって思っちゃったから。かえでちゃんがあんなことをしてたのは私は知ってた。ただ、どのタイミングで次の行為に移るか楽しみにしてたんだけど……それが今日だったというわけね」 


 そう言うとアメリアは手にしたショットガンのフォアードレバーをガチャガチャと動かして見せた。


「かえで、撃つなら撃てよ……ったくこれだからお座敷剣法の達人は世話が焼けるんだよ」


 かなめの言葉を聞いたかえではようやく我に返ったようにショットガンの連射を始めた。


 かえでが選んだのは誠と同じポンプアクションのショットガンで、かえではその銃口を標的に向けると素早く五連射を決めた。

挿絵(By みてみん)

 まさに電光一閃と言えるほどの連射はアニメでショットガンと言うと一発づつ撃つものだと思っていた誠を度肝を抜くほどの素早い連射だった。


 次々と飛び立つ鴨の群れに散弾を浴びせて一羽でも多く獲物を狩るかえでにとっては当然の動作もショットガンに慣れない誠には神業に見えた。一方、かなめは目の前の得意げな妹の態度が気に入らないというように舌打ちをしていた。日頃はかえでと何かと反りが合わないカウラもかえでの腕前には感心したようにうなずいており、一方のアメリアはその腕前は当たり前すぎるようでむしろかえでの股間ばかりを凝視していた。


 誠から見てもその様子は見とれるほどでその誠の熱い視線にかえでは手を止めて甘い視線を誠に投げてきた。


「これがショットガンの正しい撃ち方だよ。ああ、早すぎてちょっとわかりにくかったかもしれないね。僕にとっては当然の話なんだが、僕の狩猟仲間も僕の腕前を見ると驚いて目を見開いて困ってしまうよ。まあ、あえて神前曹長に分かりやすく助言するとすればショットガンは衝撃がライフルよりも大きいから肩にしっかりとストックをホールドするのがポイントなんだ。君のいつも訓練に使っているHK53は確かに威力はこの上を行くが、炸薬の量はこのショットガンの使用弾の方が遥かに多い。だからそれなりに反動に備える必要がある。それが僕から言える最初の助言と言うところかな?」


 かえではそう言うと誠に笑顔を向けた。


「そうですか……僕も頑張ります」


「うん、僕が手を取り腰を取って教えてあげよう」

挿絵(By みてみん)

 妖艶な笑みを浮かべるかえでに誠は背筋に寒いものが走るのを感じて目を逸らした。


「お願いします……ただ、下半身に触れるのは出来るだけ避ける方向で。僕も男なんで」 


 かえでの虜になればどうなるか分からないと悟った誠は話を変えてかなめに問いかけた。かなめは首をひねりながら私に聞くなと言うような顔をして再び射撃を始めたかえでを見つめていた。


 射撃レンジの背後ではかえでのショットガンの銃声に負けないほどの音量の島田の怒鳴り声が遠くに響いていた。


「また整備班で何かあったな?島田は絞るねえ。何度も言ってるだろ?うちは何かあった時に絶対に勝たなきゃならねえ部隊なんだって。でも『方天画戟』の方は……さっき菰田の馬鹿に聞いたがなんだか隣の工場に行くみたいだぞ」 


 かなめが言った言葉に誠は意表を突かれた。せっかく手に入れた最終兵器を簡単に手放すという話は誠には納得がいかないものだった。


 誠はあの『全自動温泉卵製造器』としてしか役に立たないと誰もが認める『武悪(ぶあく)』が改修のために工場に引き取られるというのなら話が分かるが、見る限り完全にレストアが済んでいるようにしか見えない『方天画戟』が隣の工場に運ばれる理由がよく理解できないでいた。


「なんでです?確かにクバルカ中佐の『紅兎(こうと)』の法術増幅装置の素材を『方天画戟』と同じものに交換したって話は聞きましたけど、それと関係あるんですか?それに『絶対に勝たなきゃならない部隊』だったら強い機体を装備した方が良いでしょ?」 


 話を聞いていたランは誠の言葉ににやりと笑った。


 誠はより弱い『紅兎弱×54』をこれからも愛機として運用し続けなければならないというのにそれほどの余裕の表情を浮かべているランの意図が分からずただ当惑したように青いショットガンを片手に立ち尽くしていた。



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