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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第四十三章 『特殊な部隊』の屈辱

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第87話 封印された事件

「開いてるよ!入っていいよ!」 


 めんどくさそうに叫ぶ嵯峨の言葉を聞くと扉が開いた。そこには例のアメリアの他にかなめとカウラが立っていた。誠は遠慮がちに『ゴミ屋敷』と呼ばれる要らないものが床じゅう転がっているとしか見えない嵯峨の司法局実働部隊隊長室に入った。


「何度も言ってるけど、お前さんたち、そんなに遠くにいても始まらないでしょ。こっち来て良いよ。そんなに遠くにいたら話が出来ないじゃん。もっとこっち」

 

 アメリアを筆頭に誠達が一歩前に出ると、嵯峨は頭を掻きながら笑顔を浮かべた。


「お疲れ様だね。例の犯人の身柄の確保。結果オーライと言うところか?」 


 嵯峨はそう言ってにんまりと笑った。


「はあ、済まねえな叔父貴。アタシ等ではここまでが限界だ。こんなに世の中が動く前にアタシ等が事件を解決してればよかった。今アタシが言えるのはそれだけだ」 


 片腕を落とされ腹に七発の銃弾を受けて義体を駄目にしたかなめが渋々頭を下げた。


「それにしてもアメリアまだまだだな。俺もお前さん達の動きを見てたけど、あんなの俺なら三日であの捜査方法を見つけて一週間で水島までたどり着けるよ。つまりしばらくはここの隊長の椅子には俺が座ることになるわけだ……ああ、面倒くさいねえ」


 椅子に座った嵯峨の見上げる挑戦的な視線にアメリアは余裕の笑みを浮かべた。 


「どうもすみません」 


「まあね、俺は一人だし、俺には他にすることがあるから。俺並みの手並みを今すぐやれって方が無理なのは俺も十分わかってるんだ。ただ、自分が上には上がいて、その人間と互角にやりあえるようにならないと世の中がこうなるってことを分かってるならいい。そんな事よりもそうなろうと努力するようなお前さんのやる気が重要だ。行けるか?」 


 嵯峨の言葉に部屋の中の人々の視線がアメリアに集中する。アメリアは照れたように自分の頬を右手でつつきながら嵯峨を見つめていた。


「できる限りがんばります」 


 カウラは自分の判断の甘さを認識して唇を噛みしめながらそう口にした。


「まあいい返事だ。できないことはやっぱりできないからな。俺は出来ないことをやって見せろなんて甲武軍人なら当然吐くセリフを吐かない珍しい甲武陸軍出身者なんだ。だからできないことをできないというお前さん達を叱るつもりは一つも無いよ。そもそも、人をしかって成長するなんて言うのは体育会系の脳みそ筋肉の馬鹿の発想。そもそも伸びる奴は何にも言わなくても伸びるし、馬鹿はどんなにしかっても道を踏み外す。その当たり前の事実を認められないから馬鹿は子供や部下を叱る。俺は馬鹿じゃないからそんな面倒なことはしないんだ」 


 アメリアの答えに満足したように嵯峨が笑った。

挿絵(By みてみん)

「それでさ……今回の件は無かったことになったから。そこんところは覚悟しておいてね?」


 嵯峨はまるで何事も無かったかのようにとんでもないことを口にした。


「無かったこと?それは一体どういう意味でしょうか?私にはその言葉の意味が理解しかねるんですけど」


 嵯峨の思いもかけない言葉にカウラが凍り付いた。


「そう……今回の事件……色々水島がやったこととそれをきっかけにして法術適性検査がどうたらとかはマスコミも騒いでるけど、肝心の水島が逮捕されたことに関しては何一つ報道されてないじゃん……要するにそれを知ってる偉い人達が法術適性をどうするかでマスコミが騒ぎ出しただけ。事件の本質に関するものについての報道が一つも無いってことをテレビを見てたらお前さん達も知ってると思ったけど……知らないんだ?そりゃあ、問題だな。偉い人達は他者の能力を自在に扱える法術師の存在は隠しときたいらしいんだ。だから今回の事件はそもそも存在しなかった。今回の事件で起きた物損事故や火事や死傷事件は全て法術暴走による本人の意図しないただの事故として扱うということで東都警察と千要県警は一致した見解を見せて俺にこの線でどうだって言ってきた。まあ、政治的判断なんだろうね……そんな警察の判断を俺はどうこう言えないかな?」


 明らかに上の決定には面白くは思っていない。嵯峨の表情はそのことを示していた。


「隠すだ?何のために!そんなに米帝が怖いのか?弱気もここまで行くとほとんど犯罪だぞ!」

挿絵(By みてみん)

 そう言うとかなめは机をたたいた。机に積もっていた埃が舞い、誠は思わずむせかえった。


「そう言うなよ……他者の能力を自在に操れる法術師の存在は俺も知らなかったんだ……不死人以上にレアなスキルだ……それに外交が絡んでくるとなると……特に地球圏の盟主を名乗る米帝が相手となると話は複雑になるのが当然だよね」


 頭を掻きながら嵯峨はそう答えた。


「圧力がかかったんですか?地球圏から……特にアメリカから……」


 とぼけた調子の嵯峨にアメリアがいつもには無いまじめな表情でそう尋ねた。


「そう、外交圧力。地球圏最強の国家アメリカ相手に同盟機構もビビっちゃってるの。あそこと手を組むのも敵に回すのも地獄を見るのは目に見えてるんだから当然の事でしょ?あそこが自由と民主主義の盟主を気どって地球圏の主導権を握ってるのは事実なんだもん。それにその理想である自由と民主主義の建国の理念をこの遼州圏にも適応しようと多数の軍や基地をこの遼州圏にも保有している。あの物理的な存在を無かったことに出来るほど遼州人の法術は便利じゃないの」


 嵯峨は相変わらずのとぼけた調子でそう吐き捨てるように言い切った。その顔を見てかなめの顔に微妙に怒りの色が帯びているのをちらりと彼女の顔を見た誠は見逃さなかった。


「隊長のおふざけは良いとして、警察は何も言ってないんですか?あそこは自分の手柄にしたくてうずうずしているはずなんですが……いくらアメリカが相手でもここは引くべきところではないと私には思えるのですが」


 カウラも納得がいかないというようにそう抗議した。


「お前等の御守の杉田とか言う刑事がいたろ?奴は外事課の出でね。そう言う所にも明るかったみたいだね。それに豊川署の署長も将来を嘱望されているキャリアさんだ。その点は政府が何を考えているかくらいの空気を読んだんだろ?アメリカ相手に喧嘩しても誰も何も得をしない。あの国とはね、関わり合いにならずにただの貿易相手や金を貸してうんざりするほど利益をむしり取ってやるのが賢い国の運営方針なんだ。まあ、あの自由と民主主義の帝国で人体実験の材料にされたという俺が言うのもなんだけど、まあ、俺もあの国を脱出する時にあの星が看板だけのどんな手でも使う偽善の帝国だってことはうんざりするほどわかったから」


 苦々しげな笑みを浮かべて嵯峨は扇で埃を避けた。


「これが結末か……これで納得しろって訳だな。でもそんなふざけた惑星にこの遼州圏は影響を受けている。支配されていないだけマシとでも言いたいみたいだな。でも仕方ねえんだろ?それが軍人……仕方がねえか……と言ってそのふざけた地球人が大嫌いな『最終兵器幼女』はなんて言ってた?あの地球人嫌いで、見た目は八歳女児のあいつががこんな話を聞いて黙っているとは到底思えねえけどな」


 かなめはそう言うと嵯峨に背を向けた。


「ああ、ランね。アイツはそりゃあもう腹を立ててる時のアイツだった。この話を俺から聞くと何にも言わずにそのまま女子更衣室に向った」


 曲がったことが何より嫌いでそういうことを平気でする地球人を何より嫌悪しているランのあまりにあっさりとした態度と行き先が女子更衣室と言うことが誠には理解できなかった。


「あのー、隊長。クバルカ中佐はなんで女子更衣室に行ったんですか?あの人はそういう時は怒鳴り散らしたり暴れたりすると思うんですけど……」


 誠のその言葉に嵯峨は頭を掻いて目をそらし、アメリアはため息をつき、カウラは俯き、かなめはうんざりした顔をしていた。


「姐御の『最終戦闘フォーム』への変身が行われたんだ」

挿絵(By みてみん)

 静かにかなめはそう言って苦笑いを浮かべた。


「『最終戦闘フォーム』?ついにクバルカ中佐は念願の『魔法少女』になれたんですか?でも変身が出来るようになったら多分全員にあの美味しいお寿司屋さんで何でも食べて良いとか言って大喜びしそうなんですけど……表裏の無いクバルカ中佐ですから」


 そんな誠の間抜けな質問に今度はアメリアが顔を誠に向けてきた。


「ランちゃんは変身する時は魔法少女みたいに法術で変身するんじゃなくってクリプトン星で生まれたそのアメリカを守る正義のヒーローとおんなじように着替えるしかないの。まあ、能力的にはランちゃんの方がはるかに上だけど。この前の映画の時もランちゃんがなりたい『魔法少女』の姿がどこからどう見ても昭和任侠映画のヤクザにしか見えない姿だっていうことは誠ちゃんも知ってるでしょ?ランちゃんはいつでもそんな格好で暮らしてるじゃないの。たんに私服に着替えただけよ。まあ、クリプトン星で生まれたアメリカを守るアメコミヒーローよりもランちゃんの『最終戦闘フォーム』のセンスは悪くないとは思うけど」


 呆れ果てたようなアメリアの言葉だが、さらに誠の脳内で疑問が膨らんだ。


「ただ私服に着替えたって……家に帰ったんですか?確かに今日は一度もクバルカ中佐の顔を見ていないのは事実なんですが」


 確かに朝いつも通り制服に着替えて機動部隊の詰め所に行っても機動部隊長の席にはランの姿は無かった。そして、嵯峨に内線で呼び出されるまで誠はランと一度も顔を合わせていないのも事実だった。


「ああ、クバルカ中佐の『最終戦闘フォーム』というものはだな。いつも見慣れた着流し姿を少し気崩して、手に愛刀『関の孫六』を持っていつもの仏頂面ではなく鬼の形相で静々と歩いている状態を指すんだ」


 丁寧にカウラが説明するランのあまりにシュールな姿に誠の思考はしばらく停止した。


「それのどこが『最終戦闘フォーム』なんです?確かにどう見てもこれからどこかの悪いやくざの組事務所に殴り込みをかける幼女にしか見えないのは確かですけど……その恰好で地球圏までの定期便に乗るんですか?まず、刀を空港で没収されると思うんですけど……」


 誠はどう見ても理解不能な格好をしているランの姿を想像するが、そんなランがいきなり空港に現れて地球までのチケットを買おうとした段階で空港警察に逮捕されるだろうと思っていた。


「おい、神前。アイツが地球にこの半年で何回出張したと思ってるんだ?地球まではここからだと成畑空港か太田空港からラップ共和国へ行かないと地球への直行便なんて無いぞ。遼州同盟加盟国でアメリカと国交があるのはあそこだけだからな。そこから地球のニューヨーク当たりの空港までの直行便は……亜空間跳躍で3週間かかる。そんな片道移動だけで1か月かかる出張をアイツはこの半年で6回してるんだぞ?そもそもそんな本来宇宙シャトルの間にずっといても不可能なその出張をランはしたうえで年がら年中お前さん達の部屋に座ってる。この事実を神前はどう説明する?」


 確かに、嵯峨の指摘する通り、ランは『地球行ってくるわ』と朝に出かけて行って夕方には機動部隊の小さなランには大きすぎる隊長席で詰将棋をしているということも普通にあった。低重力に弱く宇宙旅行など夢の夢の誠には具体的にその移動時間を嵯峨に指摘されてランの出張がどれほど異常なことかをこの時初めて理解した。


「アイツはね、跳べるんだ。しかもものすごく高い精度で。距離はまったく問わない。アイツが『最終戦闘フォーム』で女子更衣室を出て、そのままこれから世間様に顔向けできないことをすると覚悟を決めた顔でそのままこの建物の建物の反対側にある、アイツが地球出張の出発地点にしている女子トイレに入った一分後にはアメリカ大統領の首と胴は永遠の別れを告げていたっていうこと……嫌でしょ?そんなことをする人間がお前さん達の上司だなんて。まあ、そういうことをいつでもできる人間が上司だっていうことは自慢になるけど……実際にやっちゃったら正直洒落にならないよね?」


 嵯峨の冗談めかした言葉に誠は顔を青ざめて行った。


 確かに、ランなら確実にそれくらいのことはやる。それだけは間違いないと誠には分かった。


「でも、国際ニュースでアメリカ大統領が何者かに暗殺されたなんてニュースは……」


「だから、俺もそうなるんじゃないかなあ……と思ってアイツに土下座して、俺に免じて今回だけは見逃してくれって頼んだの。アイツは優しいから。今度だけは許してやるが、自分の短慮は許せないとか言って今は自主的に地下の営倉で正座して頭を冷やしてる……おい、アメリア!これで何度目だ!俺が地球の大統領の命をランから救ってやったのは!」

挿絵(By みてみん)

 明らかにふざけた調子で嵯峨はアメリアに声をかけた。


「そうですねえ……12人ほど救ってますね。まあ、誠ちゃんが配属になってからはランちゃんの『最終戦闘フォーム』は私も見ていないから……久しぶりよねえ……ランちゃんの『最終戦闘フォーム』というかそそのかしたのはあの人で、それに情報をくれてやったのもあの御仁なんですか?あの二人もよく飽きないで同じことしますね。二人とも隊長がそこでランちゃんを止めると知っててやってるんでしょうね。隊長がそれに気付かなくってアメリカという国が宇宙から消えても二人とも何一つ良心の呵責なんて感じそうにない人達ですから」


 こちらも明らかにふざけた調子でアメリアは返した。誠はなぜ地球圏が法術師を欲しがるわりにランには一切手を触れない理由が少しわかったような気がしていた。


「まあね、毎度の事義姉さんとあの御仁の勝手にも困ったもんだ。そしてアメリカの今回の水島を連れ去った作戦を指揮した連中もこうなることを全部読んでてそう仕組んでるんだ。なんともまあ……命知らずだこと。俺がランに土下座してもアイツがへそを曲げたらアメリカはこの宇宙から消えてたんだよ?国の運営を握っている人間が3時間で1000人殺されたらどんな国だって持たないでしょうよ。それを……そんなにまでして水島を……欲しがったんだろうね」


 尋ねるカウラにかなめは軽く手を振った。


「やっぱりお袋が噛んでたか!あのアマ、自分はやりたくねえから姐御を焚きつけてやらせるつもりなんで!血も涙もねえな!アイツは自分でもそれが出来るけど面倒くさいからやらないんだ!だからオヤジもお袋の言うことを何も言わずに見てた……あの二人こんなことになってもアタシにだんまりか?ああ、かえでには連絡を入れてたかもしれねえな。かえではお袋のお気に入りだから」


 かなめの叫びにカウラも静かにうなずく。


「まあ、その1000人の現在時点の位置情報をリアルタイムで送信するシステム……出どころはどうせ『ビッグブラザー』なんですよね?あの人としては康子さんが気が向いてそれをやっちゃってもよし、康子さんが自分ではやりたくないけどランちゃんがやるのは自由だとランちゃんに送ったデータをあてにランちゃんがやってもそれはそれ。結局、そのデータのすべての送信元の『ビッグブラザー』の手はまったく汚れないし目的は果たされる……相変わらずおっかない人ね……地球人は核戦争が大好きだし戦争で死ぬのを恐れるはずがないから大統領も閣僚も死ぬのを恐れていないだろうと言うのが『ビッグブラザー』の理屈なんでしょ?私も地球人の遺伝子で作られてるけど地球圏のあの死人の山に自分が加わるのは勘弁してもらいたいわね」


 アメリアの言葉に誠は黙り込んだ。


『ビッグブラザー』。東和共和国を裏から操り地球圏の核戦争を煽ることで無限に資産を増やし続ける『監視する目』。その存在に誠は沈黙以外の態度をとることはできなかった。


「そうだね。『ビッグブラザー』は今回はどう転んでも損は……ああ、水島の情報がアメリカに渡ったか。たぶん、その事が少し気に障ったんでちょっと悪戯してやろうってことで義姉さんを試したんじゃないのかな?ただ、義姉さんも馬鹿じゃない。甲武の地球圏の敵国条項による凍結資産の額ではアメリカが一番大きいんだもん。だから、アメリカ合衆国という国が存在し無くなったら損をするのは甲武だから義姉さんは絶対に動かない。そして義姉さんもちょっとした俺への嫌がらせの為にランにその情報を渡して俺が頭を下げると言ういつものパターン。さっき星間通信でいつものことながら義姉さんに悪趣味なことは止めてくれって言ったけどあの調子じゃ反省したとは思えないよね……」


 皮肉を交えて嵯峨はそうつぶやいて一同を見回した。


「アメリカは自分がその敵国条項を解除すれば甲武に金の卵をもたらす鶏だってわかってるから絶対康子さんが動かないと読んでたんでしょ?ただ、康子さんがいつものように悪戯半分でランちゃんにそれを渡すことまでは読んでたとしたら……相当命知らずよね。笑っちゃうわ」


 半分呆れ果てたようにアメリアはそうつぶやいた。


「まあね、たぶん今頃『ビッグブラザー』は俺がランを土下座してなだめてるところと今、ランが営倉で正座して目をつぶって黙り込んでいるところを映した映像を今回の水島の身柄の確保に関する作戦の立案者に送ってるんじゃないかな?俺と同じく『ビッグブラザー』も口では今回の件は見なかったことにすると言ったけど……次は無いぞって言うつもりでね」


 そういうと嵯峨は一度椅子から軽く立ち上がって座り直した。


「そういうわけで、お前さん達もこれで少しは溜飲が下がったでしょ?連中も今回の件を無かったことに関しては相当危ない橋を渡ったんだ。その勇気に免じて今回は穏便に……ね?」


 そう言って軽く右手を挙げて頭を下げる嵯峨を見てかなめは軽く苦笑いを浮かべた。

 

「こんなこと軍の工作員時代はよくあった話だ……今回は何も起きなかった……世の中は平和だった……そう思えって話だろ?なあに、そういう意味じゃあ、こんなことで一々大統領の首を落とそうとするランの姐御がお子様なんだよ。お袋や『ビッグブラザー』みたいにずる賢く冷静に動かねえとランの姐御……損ばかりすることになるぞ」


 やけに物わかりの良いかなめに誠は唖然とすると同時にかなめの生きてきた工作員の世界では良くある話なのだろうと推測した。


「そう言うこと。ランを倒せるのは俺が知る限り一人しか知らないけど、まあアメリカさんも今頃は肝を冷やしてぶるぶる震えているところなんだからさ。ランは地球人と……神前がランから聞いたところによると『イクチオステガ』だっけ?原始両生類の区別がつかないお頭しかないから怒ってそんなことをして面倒なことを起こすんだ。だから俺は地球圏にはアイツが怒るたびに土下座をする手数料を請求したいぐらいだ」


 ふざけた口調でそういう嵯峨に誠はやはりこの『特殊な部隊』が地球圏から目の敵にされるのは当然だと思っていた。


「まあ、いいや。ランの姐御のすることは予想通りだ。だったら話は終いだろ?アタシはタバコを吸って来る」


 出ていくかなめを見送りながら嵯峨は視線を誠に向けた。

挿絵(By みてみん)

「神前。これが世の中なんだ……悲しいけど仕方ないよね?あんな自分がどんな存在に喧嘩を売ったのかもよく理解していないサイボーグを倒したところで自慢になんないんだ。そんな相手に外交交渉?するだけ無駄だよね。たぶんお前さんが目にした遼州圏で動いている人間はこんなことがあったなんて知らないだろうけど、この事実を報告されたホワイトハウスの主はなんでそんな勝手なことをしたんだと血涙流して取り巻き達に怒鳴り散らすことだろうね。だから東和政府も全く動く気配もない。こっちの機嫌を少しでも損ねたらいつでも地球圏の国は一つ消えるってことはランが『最終戦闘フォーム』になるたびにそんなお痛をした国の大統領は思い知ることになるんだ……いい勉強になったでしょ?」


 嵯峨の言葉に誠は息をのんだ。そこには怒りと冷徹な割り切りと言う嵯峨が時に自分より格下の相手に向ける見下すような視線が見えたからだった。


「まあ仕方ないじゃないの。誠ちゃん、今日は月島屋で飲みましょ。私がおごるわよ。今回の出向話を持ち出したのは私だもの。怒りに震えて営倉で正座しているランちゃんのおごりで飲む気になんてならないでしょ?」


 そう言ってアメリアは誠の肩を叩いた。


「そんなもんですか……『ビッグブラザー』が脅しの為に情報を流して西園寺さんとかえでさんのお母さんがスルーしたから、クバルカ中佐が営倉にいると言う状態で一件落着なんて……そんなことで良いんですか?」


 誠もカウラもただ納得できないというようにその場に立ち尽くした。



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