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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第四十章 『特殊な部隊』の廃病院での戦い

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第82話 誠の決意

 完全に追い詰められたと感じた誠は立ち上がりまわりに干渉空間を展開した。別に何か狙いがあったわけではない、ただ、何かそうしなければならないような気分になっていた。それが一体何がそうさせているのかは誠自身にも説明がつかなかった。

挿絵(By みてみん)

「誠ちゃん!何するつもりよ!そんな目立つところで目立つような力を無駄に使って見せるなんて……もしかしてかなめちゃんを追って死ぬ気?さっきも言ったじゃないの、かなめちゃんは仮死状態なだけであって死んだわけじゃないのよ!」 


 アメリアの言葉は今の誠には届かなかった。誠は無言でそのまま部屋を飛び出した。階段付近からの北川の拳銃弾と奥のベッドの裏からの軽機関銃の銃弾が次々と銀色に輝く誠を覆う干渉空間に命中しては消えた。


「神前……何か狙いがあるのか?好きにしろ、私は貴様の勘に賭けてみることにする。今はそれ以外に道はない。このままではじり貧なら無茶苦茶な貴様のアイディアがもしかしたら事態を打開するきっかけになるかも知れない」 


 カウラは誠の思いもかけない行動に心を決めたように部屋のドアから誠が走り出したサイボーグの伏せている倒れたベッドの影に向けて拳銃を撃ち続けた。


 誠は干渉空間を両脇に展開しながら目の前に意識を集中するとその何もない空間に手を伸ばした。誠自身が意識したというよりも何かが誠にそうさせている。頭に声が響いている訳でも誰かに操られている訳でもない。ただそうしなければならないという意識だけが今の誠の限界に近い法術展開能力を駆使する中で導かれた結論のように誠には感じられていた。


「神前何する気だ?そんな何もない空間に手を差し出して何が起きる!それよりこれだけの干渉空間を展開するなんてことが……私も日野やクバルカ中佐と貴様との法術白兵戦闘訓練を見学したことがあるが貴様には干渉空間から何かを錬成すると言う日野の得意技は使えないと聞いているぞ!」


 拳銃の弾が切れてマガジンを変えたばかりのカウラは思いもかけない行動を目の前でしている誠に驚いたようにつぶやいた。かなめは唯一自由の利くタレ目を誠に向けた。


『なんだありゃ?ついにあの兄ちゃん、恐怖のあまり頭がおかしくなっちまったんですかね?』 


 階段近くで北川が叫ぶ声が誠達にも聞こえてきた。それでも誠は敢えて目立つような強力な干渉空間を展開し続けてその真ん中で仁王立ちして目の前に掲げた手に力を集中させた。


 誠には自分が何をしているのかという自覚は無かった。もうすでに今の誠にとっては限界に近い法術の発動により誠の意識は飛びかけている。以前聞いた法術暴走が起きるとしたらこの瞬間なのかもしれないという不安が誠の脳裏をかすめるが、今この危機から三人を守るためにそんな目に遭うのならその時はその時で仕方がないと思えるような気分だった。


 今自分はやるべきことをしている。ランがいつも言っているように仕事においてベストを尽くすということをしている。そして仲間であるかなめやカウラやアメリアを守るために最善と思うことをしている。誠にはそう説明するよりほかに無かった。


 誠はそれでも何かが足りないというように何か力を欲していた。そしてそれが手に入る保証もあると確信していた。それが何かは未だ分からなかったが、かつて『近藤事件』の際にランに命じられるまま『光の剣(つるぎ)』を使った時と同じ感覚が誠を捕えていた。


 確実に誠には自分が勝利に向けて力を使っているという自信があった。それが何かを具体的に言うことは誠には出来なかったが、自らの差し出した手に何かがふれたとき、何かが起きる事だけは誠も感じていた。


「西園寺さん、カウラさん、アメリアさん……僕は大丈夫です……僕がこの状況をなんとかします……いえ、この状況を今ここで何とかできるのは僕だけなんです!」


 誠は自分でも分からぬ確証を得てそうつぶやきながら手を目の前に掲げたまま、干渉空間をサイボーグが居るらしい方向に集中すると軽機関銃が断続的に射撃を続ける射線の中に迷うことなく突入していった。


「神前!死ぬ気か!干渉空間が途切れたら貴様は終わるぞ!」


 背後にそんなカウラの叫びが響いたが、誠の心には一つの迷いも無かった。急に干渉空間を展開して捨て身としか見えない突撃をしてくる誠を見つけると、それまで様子を伺うように射撃を止めていたサイボーグは今度は丸見えの誠を仕留めるつもりで射撃を再開した。


 その瞬間何かが目の前に翳(かざ)していた手にしっかりと握られたのを誠は感じた。それが何かを確認せずにそのまま一方的に射撃を続けるサイボーグとの距離を誠は一気に詰めていった。


「この手の感覚……なんだろう……あれ?あれが僕が呼び出したもの?手が握り慣れている……僕が何度も握ったことがある感覚のものだ。ただ、この安心できる感覚が走るのは……もう僕たちはこれを手に入れたことで僕たちは勝ったと言っていい気分だ……」 


 自然と笑みが浮かんでくるのを感じながら手にしたものに誠は一度目をやった。そこには一振りの剣があった。見慣れた鞘の払われた抜き身の刀剣がそこには確かに存在していた。

挿絵(By みてみん)

「『賊将の剣(つるぎ)』……僕に応えたのか?呼んだ僕の為に来てくれたのか……ならば余計負けられない!」 


 手に触れた瞬間に誠は確信した。嵯峨から託された遼南で鍛えられたと言う法術師の国遼帝国秘伝の名刀だった。その光る刀身を見ながら誠は干渉空間で敵サイボーグの軽機関銃の掃射を無効化しながら突進しながら両手でしっかりと『賊将の剣』をしっかりと構え直した。


「神前!何を手にしている!何が起きたんだ!教えてくれ!神前!」 


「カウラちゃん、興奮しなくてもいいわよ。たぶん私達はもう勝ったの。誠ちゃんの第二の覚醒のおかげでね」


 カウラの言葉が悲痛のように耳に突き刺さり、アメリアのつぶやきが誠に力を与える。正面からのサイボーグの軽機関銃の掃射を受けながら誠は一気にサイボーグの潜むフロアーの広場にひっくり返っているベッドに向けて突進した。


 右上の階段ロビーから北川のサタデーナイトスペシャルによるものと思われる何発か拳銃弾が撃ち込まれてきたがそれも、誠が意識を向けただけで自然と干渉空間が展開されて弾かれる。


 先ほどまでの誠にはその時点でうずくまって震えているところだが、今の誠は違った。


 むしろ今の誠にはそれすらぬるい攻撃に見えた。


『なんだか時が……ゆっくり流れるんだな。敵の攻撃がすべて見える……これならやれる……重武装のサイボーグでもその火器を無力化できる僕の敵じゃない……敵じゃないんだ……そう思わなきゃ今はそう思わなきゃいけないんだ!』 


 空中を流れるように進む弾丸が見て取れた。誠はすばやく身を翻しそれを避けた。そしてそのままゆっくりとベッドの後ろに隠れているサイボーグに走り寄った。

挿絵(By みてみん)

 恐怖の表情が米軍の防弾ジャケットに身を包んだサイボーグに浮かんでいるのが分かった。ゆっくりと軽機関銃の銃口を誠に向けようとする動きが極めて緩慢でまるでスローモーションを見ているようだった。


 誠は余裕を持って剣をサイボーグの顔面に突き立てた。まるでケーキか何かにフォークを立てるような柔らかい感覚で刀が突き刺さっていった。


 次の瞬間、サイボーグの顔面から血が勢いよく噴出した。


 隣では震えながら誠を見つめる水島の姿があった。すべての元凶にして今のこの混乱の原因を作った男だというのにその男の表情には一つの悪意も無く、ただ理解できない現象に対する恐怖だけが誠には見て取れた。


「な……なんで?あんた……何者だよ!今あんたが法術を展開しているというのに俺には何も見えなかった!米軍のあの餓鬼と言い!お前さん達は何者だ?何者なんだ?俺は所詮そこまでの存在だというのか?そんなに俺をみじめにするのがお前さん達は楽しいのか?答えろ!」 


 サイボーグの死体の隣で恐怖のあまり動けずにいる水島の問いに誠は答えることができなかった。確かに時間がゆっくりと流れる感覚があり、いつの間にかサイボーグを倒していた。息すら切らさず、先ほどまでの怯えも心の端から消え去っていた。


 誠にはそのあまりに情けない男にかける言葉は無かった。ただ、自分が変わった事実により任務が達成された。そんな思いだけで誠は憐れむような視線を自分に向けて来る水島をにらみつけた。


 そして誠は静かに職務の遂行に移った。


「貴様が、水島徹だな……違法法術展開および殺人未遂容疑で逮捕する!貴様のせいで人が死んでいる!いや、貴様のしたことはそれ以上のことをこの街に巻き起こした!その責任を貴様は取る必要がある!」 

挿絵(By みてみん)

 落ち着いての誠の一言が放たれた。普段はそんなことを言うはずのない自分が明らかに容疑者である水島の心を破壊するような言葉を口にしている事実に誠は自分でも驚いていた。


 全ての元凶だというのにその自覚がまるで無いように誠には見える水島はただ震えながら隣の動かなくなった米軍のサイボーグに寄り添うようにして座っているだけだった。彼にはもはや何一つ頼るものは無くなっていた。


「あんた……化け物だ!なんでそんなことができる!そしてなんで俺から力が見えないんだ!おかしい!これは何かの間違いだ!茶番だ!責任?そんなもの知るか!こんな力が存在するこの世界、この星が間違っているんだ?お前みたいな化け物を野放しにしている同盟と東和共和国と言うこの国の方がどうかしているんだ!」 


 すべての責任を投げ出して水島は取り乱して我を忘れて叫んだ。


 そんな水島を誠は見下ろしてにらみつけた。誠はサイボーグの顔面に突き立てられた剣を抜き水島に突き付けた。


 剣を向けられたというのに水島の表情は変わることは無い。その恐怖は誠が力を使い始めたときから限界に達していたのだと誠には思えた。


「……化け物……人でなし」


 全身の力が恐怖により抜けて立つことすらおぼつかない水島の誠への罵倒は延々と続いていた。


「言いたいことはそれだけか?貴様は貴様の起こした事件の責任を取る必要がある。だから僕は力を使った……貴様の力では僕の力はどうすることもできない……観念するんだな」


 誠は水島にそう言い放った。誠のその言葉を聞いてようやく水島は口をつぐんで静かに首を垂れた。そして水島は誠に向けて前進を震わせながら両手を差し出した。誠はすかさず腰のベストから手錠を取り出すと水島の手に手錠をかけた。


「もしここで僕の能力をハッキングしたらさらに公務執行妨害がつくぞ……それでも良いのか?」 


 言い切った誠の言葉に水島は諦めたようにうなだれた。


「神前!応援が到着した!北川の射撃も止んだところから見て貴様に恐れをなして逃げたんだろうな!」 


 背後でカウラがもはや安全地帯に到着したとでもいうように廊下の中央に立って叫んでいた。その隣ではアメリアも満面の笑みで誠を見つめていた。


「あちらも済んだのか……まあ『廃帝』もあなたの身柄が我々の手に落ちれば引くしか無いわけだけど。カウラさん……たぶんあの二人は僕に恐れをなしたんじゃなくってこのサイボーグが僕たちの戦力を削ぐにしてはあまりに使えなかったと判断しただけだと思いますよ。あの二人にとってはこの水島という男は確保できればこしたことが無い程度の存在でしかない。だからあの二人以外の法術師はこの場に現れなかった。西園寺さんならきっとそう言うと思います」 


 そうつぶやくと誠はただ呆然と立ち尽くした。


「水島、この馬鹿野郎!手間かけさせやがって!……といつもなら貴様を半殺しにする隊員の西園寺は今は休眠中だ。貴様はついているな。その点だけは貴様は幸いと言える」 


 カウラは見事にかなめの口真似をしながらそう言うと手錠を掛けようとしたがすでに誠がそれを済ませているのを見て驚いた表情で誠を見つめた。水島は手を差し出したアメリアに引き起こされながらただ誠を見つめていた。


「アンタさえいなければこんな事にはならなかったんだ……そもそも俺も法術なんて言う存在に気付きもしなかった。アンタさえいなければ」 


 誠の顔を見上げた水島の目は憤怒に満ちあふれていた。だが誠にその怒りにいい訳をする気力は無かった。それ以前に不意に訪れた眠気が誠を襲った。それまで手にしていた『賊将の剣』がゆっくりと誠の手から落ちた。


「神前!」 


 カウラの声が耳の奥で遠くに聞こえるように感じながら誠は意識を失っていった。


「大丈夫ですよカウラさん。これはいつもの事ですから……ちょっと無理をしたもんで……まだ未熟だってクバルカ中佐ならいいそうだな……」


 誠は力を使った反動のもたらす眠気に打ち勝とうとなんとか抵抗してみたがそれは難しかった。

挿絵(By みてみん)

「誠ちゃん。立派になったわね……静かに眠りなさいな」


 アメリアのそんな言葉を聞きながら誠は深い眠りの中へと堕ちていった。



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