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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第四十章 『特殊な部隊』の廃病院での戦い

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第81話 かなめ、沈黙す

「おい、神前……ラッキーかもしれねえぞ。状況がかなりヤバいのは事実だが、少なくとも最悪じゃねえ。そんな知らせだ。聞きたくなること請け合いの話だぜ」 

挿絵(By みてみん)

 四階に上がる階段の踊り場で突然拳銃を手にかなめが振り返った。ニヤリとその口元が笑っていた。感情の起伏の激しいかなめだが、絶体絶命のこの場面で突然何の前フリも無く振り返って笑ってくるので誠は面食らって黙り込んでしまった。


 状況がこれ以上良くなる話なら聞きたいが、そもそも何が起きればそんなことが起きるのか分からない。


 たまたまランの目を盗んで隊を抜け出していたかえでが近くでリンと野外で変態行為に及んでいたという話でもあれば別だがあの派手好きなかえでが来たにしては、彼女が自分の初陣の相手にふさわしいとでもいうように北川と桐野を血祭りにあげるべく手加減無用の法術を発動したと言うようなとてつもなく強い法術の反応は感じない。確かにこのような廃病院付近はそんな二人には好きそうな場所だとは前々から思っていたが、それはそれで事件解決後にかなり恥ずかしいことになるのではと誠はそちらの方が気になっていた。


「西園寺。ラッキーとはどういうことだ?根拠の無い事を言える状況じゃない!なんだ?日野がクバルカ中佐の監視を逃れてこの付近で野外変態行為に及んでいたのか?確かにそれなら一気に形勢逆転と言いたいところだが、その理由を後々県警の連中の目の前で説明するのか?私は御免だ。それにそもそも確かにこのような廃病院付近は、そんな二人が好きそうな場所であること貴様も十分知っているはずだ」 


 カウラは不機嫌そうな表情を浮かべて首をひねった。誠もかなめが言いそうな状況が一気に逆転する事態がカウラと同じ考えだと言うことに苦笑いを浮かべた。かなめはそれを見ても勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。


「バーカ。そんなんだったらあのいつでも神前にいいところを見せたくてたまらないかえでが手加減無しに暴れまわるからもうとうにケリはついてる。今さっき一瞬だがこの建物の四階で衛星通信をしている奴の反応が出た。恐らく水島が呼び寄せた使い魔は法術師じゃなくてサイボーグだ。つまり戦力の読めない相手じゃねえ。少なくとも北川・桐野コンビの敵はそれなりの重装備で経験豊富な軍用義体の持ち主ってわけだ。神前の言ってたとんでもない力を秘めた法術師ってわけじゃねえらしいや」 


 かなめの顔には余裕の笑みが浮かんでいた。ただ、誠にはかなめが何を基準にラッキーなどと言い出すのか理解できずにいた。つまり強力な法術師を送るほどでもないので強力なサイボーグを戦力として投入してきただけの話しであって、こちらが有利になったわけではない。むしろ、法術師で無い分今度は北川と桐野が一瞬でその新戦力を駆逐して水島の身柄を抑えた上で逃げ去る可能性が上がったとしか思えなかった。


「強力な法術師が従えてるのがサイボーグだと何がラッキーなわけ?法術師に使い魔を従えるような力があるなんて話は知らないわよ。その使い魔がサイボーグであって、文明を滅ぼすようなドラゴンとかじゃないから良かったとでも言いたいの?サイボーグだって十分この貧弱な装備の私達にとっては脅威じゃないの。あんたの片腕。その状況だとそいつのをもぎ取って使えるから人斬り相手に有利に戦えるようになるとでも言いたいわけ?そんなにサイボーグって便利なの?まるでブロックおもちゃみたいね」 


 アメリアはあきれ果てたようにそう言うとそのままかなめを追い抜いて四階のフロアーに顔を上げた。


 銃声もない。誠も気配を感じることができない。ただ暗がりだけが広がっていくのがわかるだけだった。


「それにしてもさっきから妙に静か……水島の迎えが重武装のサイボーグなのに銃声が聞こえないってことは北川達はまだ水島には出会ってはいないみたいね。で?軍用義体のサイボーグが水島さんを助けに来た。それのどこがラッキーなのよ?十分今の戦力の私達じゃ手に余る状況なのは変わりがないじゃないの。そのあたりを私にも理解できるように説明してもらえるんでしょうね?かなめちゃん?」 


 何もないのを確認したアメリアがかなめを振り返り小声で詰問する。そんなアメリアを見てさげすむように笑った。

挿絵(By みてみん)

「馬鹿言うんじゃねえ。あくまで神前にはとても手に負えねえクラスの水島のアパートにいた法術師本人がやってくると言う最悪に比べたらラッキーだという程度の話だ。もし今あの水島のアパート付近で神前が感じたという強力な法術師のご本人がここに戻って来たとなればアタシ等はもうとうに詰んでる。それに比べたらラッキーで付け入る余地があるってだけの話だ。アタシもそうだがサイボーグは何処まで行っても地球科学の延長線にある工業製品だ。どんなに高性能な義体でも性能の上限は設計図を見れば分かる。研究途中でどんな力があるのか分からない法術師より十分計算できる相手だろ?つまり強さの上限は見えてるんだ。ランの姐御でも成長した先が読み切れねえという神前がこっちに入るんだからこっちの方に勝ち目が出てきたと言えるだろ?違うか?」 


 かなめは自分がサイボーグであることを棚に上げてそう言った。


「事実だが楽観論だな。今の状況ではその新規戦力が法術師ではなくサイボーグだと言うことは分かるがその性能とやらは分からないんだろ?それにクバルカ中佐の言葉は数年単位の伸びしろの話をしているわけであって今すぐここで神前に成長して見せろなんてそれこそ無理な話だ」 


 あっさりとかなめの意見をカウラが切って捨てた。かなめはそのまま不機嫌そうに闇に目を向けた。そしてそのまま一気に四階のフロアーに飛び上がった。


「西園寺さん!僕にそんな期待されても困りますよ!僕はそんなヒーローに突然覚醒したりなんかできません!」 


 自分に期待している口調のかなめの行動が大胆になるのを見て誠が驚いて声をかけた。かなめはムキになったようにそのまま前進した。


「馬鹿が!自分の思い込みで少しでも自分が有利な要素が見つかったとなると暴走か?やってられるか」


 カウラがその後に続いた。遅れまいと誠は左右を、アメリアは後方を警戒しながら前進していった。


 かなめは最初のドアを見つけるとカウラに少し離れて止まるように指示を出した。静かに彼女は左手の拳銃を手にドアを押し破ろうと手を伸ばした。


 その瞬間、誠は強い感情の流れをかなめの死角に当たる廊下の中央に感じた。


「正面!干渉空間!」

挿絵(By みてみん)

 その瞬間銃声がドアではなく廊下から響いた。手を伸ばしていたかなめがそのままその場に倒れ込んだ。かなめの隣に突然現われた発砲の作り出した火の玉がかき消すように消えた。 


「正面!こちらの場所を特定された!警戒!」


 カウラはそう言いながら銃を構えて周りを見回した。誠もまたカウラの隣でショットガンを構えた。まるでこちらを分断しようとするように一発一発、別の場所からの発砲が続いた。


「痛てえ!」 


 ドアの下。腹部を押さえてかなめが叫んだ。腹部に銃弾を食らったかなめが廊下を転げるようにして敵からの射線から逃れようと壁際に向って這っているのが目に入った。


「当たり前でしょ!こっちに這ってきなさいよ!そこじゃあ敵から狙い撃ちにされるわよ!」 


 アメリアが叫びつつ銃口の光を目印に銃を三発打ち込んだ。北川の銃はサタデーナイトスペシャル呼ばわりされている最低最悪のリボルバーである。弾を撃ち尽くしてとりあえず引いたようで着弾した感触は無かった。


 しかし、その時廊下の奥の黒い塊の方で金属パイプが落ちるような音が響いた。


『銃だ!銃だ!』 


 誠が凝視するとその黒い塊はベッドのクッション部分を積み重ねたもののように見えた。そしてその影で人影のようなものが動いているのが誠にも見えた。そしてその後ろに黒い頭のようなものが二つと長い筒のようなものが伸びているのも同時に分かった。


「見つけたぞ。西園寺の言ってたサイボーグだ!あそこに水島もいるはずだ!こちらは私とアメリアで対応する!神前、西園寺を何とかしろ!」 


 カウラの言葉に誠は干渉空間を展開した。そしてそのまま床に転がっているかなめに向かった。


 その声を確認するとクッションの向こう側からこちらの位置は特定していない軽機関銃の牽制射撃の弾丸が誠達の周辺に降り注いだ。


 それを見て誠は銀色の光の板を展開してそれに備えた。


 そのわずかな誠が作り出した干渉空間の光源を見つけると先ほどのベッドの後ろからの銃弾の雨が降り注いだ。北川のリボルバーなどではない。銃弾を無駄にしないためのプロの軍人の的確な誠達の移動を阻止するための掃射が断続的に続いていた。


「カウラさん!拳銃じゃ無理ですよ!この連射!相手は軽機関銃を持ってますよ!しかも相手は低威力のショットガンなんてものともしないサイボーグなんですよ!勝てるわけないじゃないですか!」 


 こちらの位置はバレていないはずなのにその移動だけは阻止するような意図を感じる正確な射撃。その発射されているらしいベッドの裏までの距離と走る誠に向けられた銃弾の連射速度からすれば銃が苦手な誠でもそれが一々マガジンの弾が切れるたびにマガジンを変える必要のあるアサルトライフル以上の火力の火器のものだと言うことはわかった。カウラは誠が言葉をかけるまでもなく、消火栓の影に身を沈めてベッドの向こうのサイボーグだという水島の護衛の射撃に備えていた。


「済まねえ……しくじった!アタシも焼きが回ったかな……」 


 誠が干渉空間を展開しながら駆け寄った先でかなめは腹部から血を流して倒れ込んでいた。相手サイボーグも誠の干渉空間には自分の弾丸は通用しないと理解したようで射撃を止めて、干渉空間が展開できないカウラとアメリアの二人を探しているようだった。誠はただかなめを守りたい一心で干渉空間を展開し続けた。


 サイボーグは反撃するカウラとアメリアが発砲するたびに二人の正確な位置をあぶりだそうと細切れの連続射撃を探りを入れるように続けていた。


「神前……アタシの事なんてほっとけ。それより力はとっておくもんだぞ……あの桐野とか言う人斬りが出て来たときに……オメエの力がでないとそれこそカウラとアメリアの馬鹿が洒落にならないことに……」 


 かなめはそれだけ言うと動きを止めた。ぐったりとまるでこと切れたかのようにかなめの首が折れて倒れた。

挿絵(By みてみん)

「嘘……嘘ですよね!西園寺さんが死ぬなんて……西園寺さんは死ぬんじゃなくって一方的に殺す方でしょ!」 


 誠は展開していた干渉空間を収束させるとそのまま目を閉じたままのかなめの頬を叩いた。反応は無い。胸を触ってみた。心臓は動いていない。涙が自然にあふれてきた。どうして良いか分からなくなる。明らかにかなめは機能を止めていた。


 そのまま片膝を付いていた姿勢からよろよろと誠は立ち上がった。


「カウラさん……西園寺さんが……死んじゃいました……」


 無防備に立ち尽くす誠を見てカウラの表情が怒りに震えたものへと瞬時に変わった。 


「馬鹿!西園寺が全身の機能を止めたのは脳内の血液損失を防ぐ為に仮死状態になっただけだ!さっさと引きずって来い!そんなところで棒立ちしてたらそれこそ神前が死ぬことになるぞ!」 


 ベッドの裏からまた正確な牽制射撃が数発カウラの手前のコンクリートブロックにはじけた。


 誠はカウラの言葉でようやく我に返り、身をかがめると干渉空間を展開しながらかなめを引きずり廊下に放置されていたカートの裏に運ぼうとした。


 二発銃弾が誠の展開する干渉空間に吸収された時にベッドの裏の敵の動きが止まった。


『相手はベテランだ。テメエの能力が予想以上だってことで弾を節約し始めてやがる。やっぱサイボーグだと言っても無限の弾を持ち歩けるほど銃弾を持ち歩いたら機動性が落ちて水島なんて言う足手まといをここから脱出させるという任務が果たせなくなるからな。このままにらみ合いにで相手に無駄弾を使わせろ。相手が弾ギレになってからかえでと県警がここに着けばアタシ等の勝ちだ』 


 誠がいつもこういう時に付けている感応式通信機にかなめの声が響いた。


「西園寺さん!」 


 耳の通信端末から響くかなめの声に誠は思わず手を止めた。

挿絵(By みてみん)

『さっきは勝手に人を死体扱いしやがって!とっとと運べよ。このままじゃ、アタシの頭にあの弾が当たる。そうなったらさすがのアタシでも本当に死ぬぞ』


 かなめの顔自体は生体機能をオフにしているのでまったくの無表情だが、心の中では笑っているに違いないと誠は思った。 


「早くしろ!これだけ派手に銃声がしたんだ!北川達も目標を見つけたんだ。動き出すぞ!」 


 カウラが壁際で叫んだ。誠は必死になって動くことの無いかなめの体を引きずって行った。


「いい様ね、かなめちゃん?少しはいつもの大きな態度の反省もできたかしら?カウラちゃん、ここでかなめちゃんを置いて撤退なんてどうかしら?その先かなめちゃんがどうなるかは私にも分からないけど……どうせこちらにはかえでちゃんが向かってきてるんでしょ?その時にみんなでかなめちゃんがどうなったか見に来るなんて面白くない?特に桐野という変態斬殺魔が死体にしか見えないかなめちゃんを見つけたら何をするかについて私は興味があるのよ」


 背後の警戒から帰ってきたアメリアがサイボーグの機関銃が時々見え隠れする場所を警戒しながらかなめの足を持って誠を手伝った。 


『おい、アメリア。冗談のつもりならオメエは根本的に何かを間違ってるな。それにその後でオメエがどうなるか考えたことあんのかよ……決まってるだろ?アタシがオメエをどうするかなんて……ぶっ殺す……!』 


 身体は動けない割にかなめは雄弁だった。


「威勢は良いのねえ……動けないくせに。それにあの変態の桐野がお楽しみの最中にかえでちゃんが背後から桐野の首を刎ねれば辻斬り事件は一挙解決。一石二鳥よ。これまでも分かっているだけで18人を殺してきた男の止めを刺すための囮なんてかなめちゃんにお似合いのお仕事じゃない」


 当然そこでいつも通りのツッコミをアメリアが入れる。


『やっぱりぶっ殺す。そんなにアタシが変態の餌食になるのが楽しいのか?死体を襲うのが好きな変態にそれを助けに来る変態。世の中変態だらけじゃねえか!助かってもアタシは変態に囲まれた人生ってことになる!この世がそんな変態だらけだとはアタシは思わなかった!』 


 動けないかなめの通信に背後を警戒していたアメリアが絡んだ。だがそこに背後からの銃弾が届いてきた。


 明らかに単発のリボルバーでの一撃。サイボーグの軽機関銃のそれと比べればぬるいとはいえるが、その背後にはサイボーグのチタンの骨格を一刀のもとに切り落とす人斬り桐野が控えている。


「来ちゃったわよ!北川と例の人斬り」 


 アメリアは背後を振り向くと牽制射撃で何とか時間を稼ごうとした。カウラのところまでたどり着けないと悟った誠とアメリアはそのまま手前の病室に入ろうと扉を蹴破った。


 パイプ椅子が乱雑に置かれた部屋がそこにあった。カウラもまた水島をかばうサイボーグの的確な射撃に押されて誠達と合流すべく部屋に駆け込んできた。


「ここでなんとかあの連中がつぶし合うのを……」 


 アメリアがそう言った時、かなめを置いた壁の隣にあったパイプ椅子が半分になった。部屋のあちこちに干渉空間が展開される。


「北川の狙いはこちらを先に潰すか……終わりかもな……なんとかならないのか……日野はまだしばらくかかる……絶体絶命と言う奴か」 


 カウラのつぶやきがむなしく響いた。それを聞いた時誠の中で何かがはじけた。



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