↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第四十章 『特殊な部隊』の廃病院での戦い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/88

第80話 三つ巴の廃病院

「西園寺さん!北川と桐野ですが……この階にいますね……ただ正確な位置までは……法術師相手のテリトリーサーチが完璧なアンなら正確な位置まで掴めると思いますが……アイツは車で来るだろうからかえでさんより遅れるんでしょ?まあ、居ない人間をあてにするだけむなしいですよね」 


 誠の言葉に階段を登り切ったかなめが振り返った。


「遅いんだよ!それより、ここから見る限りこのフロアーの廊下に北川・桐野コンビの姿が見えねえんだ。何か動きがあったな?恐らく神前が言ってた水島をこの場に飛ばした連中の手先が来たのをあの二人も察知してそっちに備えて様子見でもしているんだろ?連中としても水島をこの場から連れ去られたらアタシ等を全滅させても何の意味もねえんだから。アタシ等よりもそっちに関心が向くのは当然の話だ。しかも新手の連中ももしかしたら自分達より力が上のそれこそかえでクラスの化け物かもしれねえとか考えると動くに動けねえってところか。まあ、北川達も手詰まり、アタシ等も手詰まりだが……北川達は水島を諦めればすべてが済むのに対してアタシ等にはそれは許されていねえんだ。そう思えばのんびりと廊下を歩くなんて馬鹿なことはしねえわな」


 切り落とされた右腕の跡をなでながらかなめは相変わらずの戦闘時に見せる狂気に満ちた目で誠を見つめてきた。


「その新手なんですけどさっき法術反応がありましたよ。しかもこれまでのものとは違う変わった感じで……。これまでの誰とも違う感じです。もしかして……」 


 第三勢力の登場。これは予期されていたとはいえあまりに突然だった。


「やはり最初に水島をここに跳ばした勢力が水島救援に駆け付けたか。ただ、北川と桐野の関心がそちらに向いてくれたのは我々には幸運だったな。あのまま二人に力押しされていたら本当に神前がさっき言ったように各個撃破されて我々は壊滅していた」 


 カウラはそう言うととりあえず三階に向かう階段の踊り場で銃を手に上の階を警戒しているかなめの隣でしゃがみこんだ。


「第三勢力か?でももしあのダンビラで切りつけてくるような連中が増えたらどうするよ?連中は水島をここから連れ出すために北川と桐野の包囲網を突破した上でアタシ等も駆逐して外に出るつもりだぞ。当然それなりの戦力が投入されていると考えるのが自然だ。しかも、アタシ等が来たということはそう遠くない時間にはこの建物の周囲が県警とうち等……特にかえで辺りがやってくることは承知しているはずだ。連中も時間がねえことは察している。どんな手を打ってくるかは予想もつかねえぞ」 


 タレ目でかなめは上官を見つめた。カウラはしばらく沈黙した後口を開いた。


「その場合は一時撤収だな。日野と県警の法術対応部隊の到着を待って立ち直す。私達の戦力ではどうにもできない。それまで北川と桐野の二人がその水島を保護している戦力をその準備が整うまで釘付けしてくれることを祈るばかりだ」 


 カウラの言葉に遅れてきたアメリアもうなずいた。


「でも……」 


 誠にはたとえ犯罪者とは言え一般市民の水島を放置しておくことには抵抗があった。

挿絵(By みてみん)

「神前。今のアタシ等の戦力の程度はさっきの戦闘でオメエも身体で分かっただろうが。北川と桐野だけでもアタシ等には手に負えねえんだ。仕方ねえだろうが。オメエは数に入れてねえからな。オメエがかえで並みの使い手ならなんとかなったが……今はどうすることもできねえや。その北川や桐野も戦力をある程度把握しているアタシ等に対してとは違って戦力不明の敵戦力を相手にしていることは理解しているはずだ。あの程度じゃ済まねえ戦いになるぞ」 


 失った右腕の跡をさすりながらかなめが天井を向いてつぶやいた。


「西園寺さん……」 


 半分泣きながらの誠の言葉が残った。しかしかなめの言うことは誠にも否定できない事実だった。法術が使える以外はかなめ達に比べれば素人に毛が生えたような存在なのは自分が一番自覚していた。女性士官三人ははじめからそれが当たり前だと言うように、少しばかりセンチメンタルな表情を浮かべている誠の存在を忘れようしつつ上の階を警戒していた。


「第三勢力だとしたら……戦力が気になるわね……その戦力を過大評価するつもりはないけど北川と桐野の障壁を打ち破れないような使えない普通の兵隊を送ってくるだけなんてことは考えられないしね。場合によっては撤収はやむを得ないとして、それは最後の選択よ。かえでちゃんに点数を稼がせてたまるもんですか!あの変態が隊の英雄になるだなんて私は認めたくないの」 


 アメリアは誠に同調してまだ戦う気でいた。


「ただ、その第三勢力とやらが今のアタシ等でどうにかなる相手なら……ちょうど良い転換点だ。北川達はこのままじゃ水島を保護したその新戦力とアタシ等に挟み撃ちになるわけだからな。油断ができれば後は双方が損耗するのを待って騒動から逃げたがってる水島を引き離してそのまま捕縛といけるな」 


 かなめはそれだけ言うとそのままゆっくりと廊下を進み始めた。


「かなめちゃん……物は言いようって言うのはこういう時に言うのね。本当に強気と言うか……楽天的と言うか……。そう上手く行けばいいけどね。いっそのこと神様にでも祈ろうかしら?水島の救援とやらが北川と桐野のコンビにすぐに殺されない程度の強さでありながら私達の装備で何とかなる相手でありますようにってね」 


 アメリアが誠の背中を叩く。それに気がついて誠もカウラとともにかなめのあとに続いた。


 フロアーが広がるとかなめは動きを止めた。静かに周りを見渡す。すでに夜と言っていい時間帯である。明かりの無い廃墟では赤外線センサーを瞳に仕込んでいるサイボーグのかなめだけが、動かない敵を見つけ出せるセンサーだった。

挿絵(By みてみん)

「気配がしねえ。赤外線反応なし。北川の奴はこのフロアーは外れと踏んで上に向かったか?」 


 そう言いながらかなめは壁伝いに廊下を駆け抜けてそのまま奥の上に上がる階段の壁にたどり着いた。それを確認するとカウラと誠もその後に続いた。


「このフロアーには北川と桐野も水島も居ない……と言うことはさらに上?誠ちゃんは新戦力がどこにたどり着いたかまでは分からないんでしょ?折角の人間センサーの誠ちゃんがこの調子じゃあ……正直キツイわね。対法術師センサーとしてはそっちの専門家のアン君の方が上なんだ……覚えておくわね」 


 アメリアの言葉にかなめはうなずいた後そのまま四階に上がる階段に取り付いた。


「キツくても仕方がない。これ以上事態が良くなることは考えにくいからな。日野少佐の第二小隊が駐屯地から出たとしてもここまではどう急いでもあと10分はかかる。かえでも空間跳躍は使えるが、戦力不明のこの地に跳んでくれば敵の戦力によっては逆に苦戦に陥る可能性があることを理解できないほど日野少佐もものを知らないわけではない。それまでに結果は出るだろう」


 カウラはそう言うとショットガンを握りしめた。 


「おう、なあに、神前がここで『漢』を見せるんだろ?じゃあそれをあてにしてとっとと上に向かうとするか」 


 神妙な表情のカウラをニヤリと笑って見つめた後、かなめは飛ぶようにして階段を駆け上がって行った。


 


「旦那……」 


 北川は膝を突いてじっと業物『備前忠正』を満足そうに眺めている桐野孫四郎に声をかけた。まさにその表情は満足していた。北川にはそう見えた。趣味的な斬殺事件を起こした後の不服そうな無表情ではなく、斬るに足る獲物を見つけて喜びに充ち満ちていた。桐野の顔に浮かんだ笑みがそんな狂気に満ちたものなのでは無いかと思うと北川は自然と額に脂汗が浮かんでくるのを感じた。

挿絵(By みてみん)

「ああ、この階の標的が増えたことか?結構な話じゃないか。逃げ回る不完全な法術師を追い回す良心の呵責に責められずに済む理由が一つできた。これで思い切り刀を振える。正直、茶坊主の今の部下は斬るに値しない存在だということは先ほどの手合わせで分かった。ならば斬るに値する敵を斬るだけだ」 


 桐野にとっては十分斬るに値する相手が一人増えたということ位なのだろうと北川は考えていた。


「あんたって人は……本当に人を斬ることしか考えていないんですね。理解不能ですよ俺には」 


 諦めたような言葉が自然に北川の口から出てきた。それを無視して桐野は立ち上がった。闇の中に爛々と輝く瞳があった。口元の笑みは桐野のサポート役と言う名目があるおかげで斬られずに済んでいる北川でさえ見ていて恐ろしく感じられるほど不気味なものだった。


「さあ、行こうじゃないか。相手の手並みで今回の法術師を囲おうとしている面倒な連中が俺達をどの程度に評価しているか分かるんだ。楽しくなるだろ?」


 桐野の言葉があまりにも予想通りだったので北川はため息をついた。


「そう簡単な話ですか?今回の件でこれまでの旦那の趣味が警察連中にはバレたと思いますし……その辺まで考えて喋ってます?俺にはどうにもそうは見えないんですけど」 


 北川には今回の仕事でコンビ解消とは言え、これからの桐野の任務に彼の趣味がいつか災いすることを前々から進言していた。


「それで貴様が困るのか?どうせフランスで子作りに励む予定なんだろ?それなら関係のない話じゃないか」 


 相変わらずうれしくてたまらないという表情で桐野が振り返った。実際、桐野の手にしている日本刀が無く、そして桐野の法術の限界を北川が知っていたならばその場で拳銃で撃ち殺しているところだった。


「困りますよ!これからは俺じゃなくて『廃帝』の御嬢さんが旦那とコンビを組むんですよ!『廃帝』のご機嫌を損ねるような事が有れば俺だってフランスで子作りに集中できなくなる!ただでさえうちは人手不足なんですから……これ以上の面倒はごめんです!俺の面子(めんつ)も考えてください!」 


 言葉を重ねるだけ北川はむなしくなってきていた。自分があの司法局実働部隊の神前とか言う甘ちゃんの法術師を舐めていたおかげで自分の顔が割れていることが痛い。そしてそんな自分の失態ばかりではなく、こんどは相棒の桐野の顔が連続斬殺犯としてあちこちの警察署の掲示板などに貼りだされることになれば、後々動くのが面倒になるのは間違いない。同盟や遼州に司法機関や軍の機関は様々あるが、一番の武闘派と言える司法局実働部隊を相手にできる実力者となると桐野の他には『廃帝』本人を除けば片手で足りる数の幹部の顔しか同志の中では北川には思いあたる使い手はいなかった。


「まあ楽しもうじゃないか、今日は。物事はシンプルに考えるのが一番だぞ。最悪の事態なんぞ相手を斬り殺してから考えれば良いことだ。『廃帝』の御嬢さんも法術師なんだろ?だったら戦力としてあてにすればいい。少なくとも貴様よりは役に立ちそうだ」 


 そう言いながら再び刀を見つめて悦に入る桐野に北川はただため息をつくしかなかった。


「じゃあ水島とか言う哀れな中年法術師を捕えるとして……その護衛役に飛ばされてきた奴。そいつをどうやって片づけますか?こちらも干渉空間を使える俺と人斬りの旦那がいること位は第三勢力の連中も理解してそれなりの手練れを送り込んできたと思いますが……」


 銃に五発の弾薬が入っていることを確認しながら北川は長身の桐野を見上げた。相変わらず満面の笑みを浮かべて北川の言葉に満足そうにうなずいていた。

挿絵(By みてみん)

「いいじゃないか!逆にそうでなくては困るな。弱いものいじめは性に合わない。どこの誰かは知らんが強ければ強いほど面白くなる!」 


 北川の言など闘争心をかき立てる調味料でしかない。そんな様子の桐野の笑顔がそこにあった。北川は再び大きくため息をつくと拳銃のシリンダーを銃に収めた。


「まあ旦那は好きに暴れてください。俺は俺でやりますから……下の司法局の連中を牽制します」 


 そう言うとそのまま階段を下ろうと北川だったが桐野の殺気に振り返った。


「そちらは避けるべきだな……」 


 桐野は珍しく弱気な言葉を吐いた。それが北川には意外だった。


「どうしてですか?旦那らしくもない」 


 突然らしくもない助言をする桐野に驚いた北川は顔を向けた。

挿絵(By みてみん)

「司法局実働部隊は……あの茶坊主の部隊だ。アイツ等は未熟だが……その未熟な子供に手を出して虎を怒らせる必要もあるまい」


 桐野は嵯峨を恐れている。北川はそれまで茶坊主と嵯峨を馬鹿にしていたのは桐野なりの見えだったことをそこで見抜いた。 


「旦那が弱気なことを言うとは……これは驚きだわ」 


 北川は桐野の言葉にうなずくとそのまま桐野に続いて階段を昇ることにした。


「先ほどまでの強気……司法局実働部隊相手だとどうしてそう慎重になるんですかね?」 


 嫌みのつもりで愚痴る北川を桐野が睨み付けた。恫喝。脅迫。ともかく北川はその敵意に満ちた桐野の顔を見て桐野と司法局実働部隊とその部隊長である嵯峨惟基にそれなりの因縁があることは察しがついたが、今はそれを詮索する場面では無いことだけは分かっていた。


 北川達には彼等の飼い主が欲する力を手に入れると言う目的があった。北川は余計な事を考えようとする頭を切り換えようと銃を握りなおして大股で階段を駆け上がる桐野の後を追った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。