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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第四十章 『特殊な部隊』の廃病院での戦い

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第79話 援軍と呼ばれた確保者

 階下で銃声が響いた。水島は反射的に頭を下げて廊下の腐ったタイルに這いつくばった。しばらく銃撃戦の音が聞こえた。そしてまだ遠くの出来事だというのに自分がさらしている滑稽な姿を思い出してこんな状況だというのに笑いが起きてくるのを感じていた。

挿絵(By みてみん)

「な……なんなんだよ……まったく何がどうなっているんだ?お前等の狙いは俺だよな?俺はここにいるぞ?銃を撃つなら俺に対してじゃないのか?それを誰だか知らないけど関係ないところで撃ち合いをしている……一体何が起きているんだ?」 


 水島は突然響いた銃声に動揺した。どうやら水島を襲った刀の男達と警察は銃撃戦を行っているらしいことは分かった。


『おじさんも鈍いね。さっき説明しなかったかな?司法局実働部隊だよ。おじさんの部屋に現れた日本刀の男とやりあってるんだね。ただ、これはおじさんにとっては神の御加護に近いものがあるよ。『廃帝』の配下と司法局はお互いの潰しあいに必死だ。おじさんに関心を持つ余裕はないように僕には見えるよ。だったらこちらも余裕を持っておじさんを救出することができるね。本当におじさんはツイているよ。僕もこの状況をボスに報告したら手を叩いて大笑いをしていたよ。僕たちにはこれ以上ない状況になりつつあるね』 


 相変わらずのんびりとしたクリタ少年の言葉が頭の中に響いた。


「どこがツイているって言うんだよ……すぐそこで銃撃戦をしているんだぞ?俺はそんな近くでこうして隠れているんだ。そんな気持ちはこの400年続く平和な東和に慣れてきた俺にしかわからないだろうな。君は軍人だから銃撃戦なんて当たり前の出来事なんだろうな。でも俺にはそんなものを身近に見るなんてことは御免なんだ。それこそ銃撃戦をしているのか流れ弾でばったりなんて……勘弁してくれよ……」 


 恐怖に震えながら一言。這いつくばっている水島の姿を想像しながら腹を抱えて笑っているだろう少年を思い出すとはらわたが煮えくりかえる思いがした。だが事実、水島は今は無力そのものだった。法術師の気配はびんびん感じる。それどころか、げっぷが出るほどだ。だがどれも水島の手に負えるような甘い輩は一人もいない。その中でも一番の力の引っかかりを感じる存在の感情が水島と同じく恐怖のどん底にあるのが唯一の救いだった。

挿絵(By みてみん)

「馬鹿が一人いるよ……司法局実働部隊かな?力があるのに怯えてしまって……それでも軍人か?それが貴様の仕事だろ?貴様の力を使って……使えない?なんだ?この強固な俺の介入を拒否するようなものは……こんなものを感じたことは……あるな。あの米軍絡みの少年と少女には明らかにこれと同じ感覚を俺は感じていた。つまりあの使えない怯えているだけの司法局員はあの二人と同じレベルの力の持主ってことか?あの少年が言う『廃帝』の二人には隙を突けば俺の力で何とかできるような隙はあるが、あの怯えている青年にはそれが無い……でもあんなにおびえて後方に下がっているだけじゃ何の役にも立たないだろうな。まあ、こうして力を持て余してその力ゆえにこんな目に遭ってる俺とはお似合いなのかもしれないがな」 


 憎まれ口を叩いたところで誰も聞くものなどいないというのに水島はそんな軽口を叩かなければ正気が保てない自分を腹立たしく思いながら再び立ち上がろうと手に力を入れた。


 こんなに自分の体が重かったのか。そう感じるほど両の腕は緊張でこわばって言うことを聞こうとしない。なんとかよろよろと立ち上がった瞬間。水島の目の前に干渉空間が広がった。


 どうにでもなれ。そう思って黙って壁に寄りかかって見つめていた空間から人影が現われる様が見えた。そこに敵意が無いのが分かるとようやく水島は足の震えを止めることができた。

挿絵(By みてみん)

 だが現れたのはクリタ少年ではなかった。明らかに巨漢と言っていい重武装で重そうな機関銃を構えた兵士の姿がそこに現れた。


「どうも……お待たせしました。あなたの安全についてはこれから私が担当することになります。よろしくお願いいたします」 


 重そうな防弾ベストに身を包んだサングラスの大男がクリタの言う救援らしかった。手にした機関銃はごてごてした遼州圏の正規軍の銃などではなくやたらとスマートな見慣れない形をしているように感じられた。ただ、あの少年が連れてくる助っ人が真っ当な軍人のはずがない。先ほどの安心が次第に氷解していく中、男はそのまま動けない水島に近づいてきた。


 屈強な白人と思わせる顔立ちの軍人に見つめられて水島は安堵感よりも先にその男の放つ殺気のようなものに先天的な怯えをまず感じていた。


「ちゃんと立ってください。このまま、『廃帝』と司法局がぶつかり合っている機会を利用してこの建物から脱出します。恐らく司法局は増援を呼んでいることが想定されますから、その到着までにこの建物の付近から離脱することが我々には求められています。ですので急いでください。もし足元が不安なようならば手を貸しましょうか?」 


 男の体格にも似合わないか細い声に驚きながら水島は壁に張り付いていた背中を持ち上げてよろよろと直立した。戦闘服の男は手にした軽そうな軽機関銃を何度か叩いた後、そのまま扉から頭を出した。そして水島を振り返り、付いてこいと言うように指を指し示した。


 他に水島に頼るものなど無い。ただ重そうな防弾チョッキと予備弾薬を胴に巻き付けた大男が暗がりの中に消えないように必死に後を付けた。先ほどの無感情な言葉の羅列に水島は少し気が引けていた。元々地球圏の人間と接する機会のほとんどない東和共和国の住人である水島には男のいかにも事務的な口調が気にかかった。


 あの水島に無理難題を押し付けて来るだけの少年の方がより人間らしいところがあった。あのどう見ても冷たい女と言う印象しか持てないキャシーと言う名の少女の方にもこの目の前の自分が頼るしかない男よりも人間らしさを感じた。


 この男にはそんな人間らしさがことごとく欠如しているように水島には見えた。確かに言っていることは理解できたし、その口調も丁寧だった。態度も水島をおもちゃにするような少年のそれと比べればはるかにマシと言えるものである。ただ、この男には人間性というものが欠如しているようにしか水島には思えなかった。それは地球人と恐らく遼州人の血を引くのであろう二人の少年少女との違いなのだと水島は思いを決めて男の背中を追った。

挿絵(By みてみん)

「離れないでくださいね。あの二つの勢力が戦力を削りあっている状況を利用しない手はありません。おそらく、どちらも狙いはあなたなんです。潰しあうことが何の得にもならないと分かった場面で恐らくあの二つの勢力は衝突を止めてそれぞれにあなたの探索を開始するでしょう。確かにどちらも貴方の探索が優先事項ですのでそれをお互いに奪われることは失点につながりますからぶつかり合い続けるでしょうが、それを期待するのは希望的な観測と言えます。ここは今、ぶつかり合っている状況を利用して少しでも早くこの建物からの脱出を図るのが得策であると私は考えます」 


 まるで賓客を案内するかのような言葉に、彼があまり日本語が得意ではないことに水島は気づいた。任務とは言え異国で自分のようなつまらない人間のごたごたに巻き込まれたかわいそうな男。先ほどまでの無様な自分を忘れたかのように水島の心に同情の念がわいてきた。


「ご苦労様ですね。それに冷静な状況分析……俺にはとても真似が出来ませんよ。こんな銃撃戦にお目にかかるなんて戦争とは無縁なままで400年間生きてきた東和の遼州人には予想がつかない事ですから。でも、本当にあの連中から逃げ出すことができるんですか?戦力になるのはあなた一人で?その保証はどこにあるんですか?」 


 水島はその流ちょうな日本語を話す白人の軍人がおそらくサイボーグであることは察しがついた。


「確かに銃の所持が認められていないこの国で銃声を聞くあなたが恐怖感に支配されて身動き取れなくなるという感覚は理解できます。ただ、私は軍人です。これも仕事ですから。それにこの東和の外の世界では常に銃弾が飛び交う世界なんですよ?あなたは、その世界の住人になることを選んだ。合衆国も銃の所持は自由ですから、時に街に出かけたときに銃撃戦を目にすることもあるかも知れない。ああ、これは極端な例ですね。今の合衆国の『市民』には銃を購入するだけの資産が無い。だから銃撃戦が起きるとすれば軍人や公務員の居住する地域でその子弟の一部が時に暴動を起こす程度のものです。だから、合衆国に来ても貴方は銃声を聞くことはおそらく一生無いでしょう」 


 男はかけていたサングラスに手やりながら階段の手前で止まった。先ほどの銃撃戦の後、しばらく廃病院は元の沈黙を取り戻していた。


「あなたのその装備……銃撃戦になりますか?というか、銃撃戦になるからあなたをあの少年は派遣してきたんでしょうね。私の力ではあなたには法術の気配を感じない。恐らくはアナタはサイボーグ。国際戦争法ではサイボーグの戦争への投入は禁止されていると私は聞いているんですが?」 


 水島はとりあえず流れ弾で死ぬのだけは御免だった。


「さあどうでしょうか?それと私の身体に関してはこれは私のプライバシーに関することになりますのでお答えできかねます」


 水島の余計な感情を察したような投げやりな言葉が残された。男はそのまま銃を構えて階段を下りていった。


「ミスター水島。法術の気配はありますか?あなたは法術の気配を察する能力に長けている聞いています。ならば分かるのではないですか?あなたの生存確率を上げるためにご協力いただきたい」


 サイボーグの軍人はそう言って水島の心を和らげようとしているようだった。水島もそれに答えて能力のすべてをテリトリーに展開した。 


「いえ……とくには感じませんけど……これまで感じているあのあなたが『廃帝』と呼んだ二人は今は身を潜めています。司法局の一人の法術師も同様です……いや、どちらも動き出しました。こちらに向かっています」 


 水島の言葉に少し不満そうにそのまま男は階段を静かに下りた。水島の足取りも釣られて忍び足に変わっていた。


「恐らく日本刀の男と連れの法術師は『廃帝』ですね。それに司法局実働部隊……難しい任務です」 


 男が口にする『廃帝』と言う水島の知らない言葉になんと返すべきか水島は悩んでいた。


「はあ」 


 淡々と話す大男の言葉を聞きながら水島は静かに四階の階段を下りきったところで身を伏せる大男に合わせてしゃがみこんだ。


「あなたはこういう任務には慣れているのですか?」


 不安を紛らわすには話をしているのが一番だ。水島が今考えているのはそれだけだった。

挿絵(By みてみん)

「法術師を相手にするのは、これが初めてです。それ以前の任務に就いては回答を控えさせていただきます」


 大男の言葉には抑揚が無くあまりに機械的だった。


『こいつは普通の軍人じゃない……おそらく米軍自慢のサイボーグ兵士か……まあ、何を聞いても無駄なことなんだろうけどな』


 水島はそんな事を考えながらゆっくりと前進する大男の背後について静かに廊下を進んだ。


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