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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第三十一章 『特殊な部隊』と本ボシ

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第65話 酔い明けのインターバル

 気が付いた誠を襲ったのはまず頭痛だった。次に全身に肌寒い感覚があるのが感じられた。しばらくの間誠はそのままの格好で目を開けずに寝ころんでいた。


 飛び起きるとそこは寮の誠の部屋だった。布団は掛けられているが、全裸だった。隣を見るとごちゃごちゃと丸められた昨日着ていた服が転がっていた。


「またか……クバルカ中佐……あの人は自分が出来ることは人もできて当然だと思ってまではいないみたいですけど……西園寺さんが飲んで大丈夫な量の酒なら僕が飲んでも大丈夫だなんて……西園寺さんはサイボーグですよ?あの人の肝臓は常人の致死量の青酸カリすら解毒しちゃう小さな化学工場なんですよ?それと僕の肝臓が同じ機能があるって考えてるってあの人なんなんですか?僕が入隊した当初の8時間走りっぱなしの日常も、東和陸軍の教導隊で島田先輩に同じことをさせても平気だったからやってみたとか言ってましたよね?でもあの人不死人じゃないですか?僕はなんとか耐えられましたけど同じことをしたらほとんどの人が死ぬと思いますよ?それをまったく理解せずに『善意』でやってくるのがあの人の底知れなくて『人類最強』なところなんだけど……」 


 かすかに残る記憶の断片で自分が酔っ払って全裸になったことが思い出されてきてそのまますばやく箪笥からパンツを取り出して履いた。


 そのまま寒い部屋の中で周りを見る。いくつかのお気に入りのフィギュアの並びが変わっているのが分かった。


「部屋まで運んでくれたのはアメリアさんだな……気が付いたら止めてくれれば良いのに……。一応今回の捜査の責任者でしょ?責任者ならそれらしい考えで動いてくださいよ」 


 誠の酒癖の悪さとの飲み方の下手さは同じく酒に酔うと脱ぎだすアメリアなら止めてくれたのにと後悔した。


「私のことで何か言った?」 

挿絵(By みてみん)

 突然の背後からの声に誠はのけぞった。


「うわ!」 


 突然背中からアメリアに抱きつかれて誠は飛び跳ねた。その衝撃でお気に入りの魔法少女のフィギュアが傾いた。


「まだこの前西園寺さんが壊した鍵が直ってないのをいいことにいきなり部屋に入ってきて声を掛けないで下さいよ!危ないじゃないですか!」 


 誠は思わず半裸でそう叫んだ。


「今飛び跳ねたのは誠ちゃんじゃない。私は悪く無いもん!そんなに部屋に入られるのが嫌だったら島田君なんかに頼まずに直接鍵屋さんに連絡すればいいだけじゃないの!」 


 じりじり迫ってくるアメリアの背中の後ろにはニヤニヤ笑うかなめと呆れたような表情のカウラがドアのところに立っていた。


「早く服を着ろよ。まったくオメエは飲むとすぐ脱ぐんだな。まあアタシはオメエのでかいのが見られるから面白いからそれで良いんだけどよ」 


「顔が青いぞ。シャワーでも浴びて気合を入れなおせ。それと飲む時はちゃんとペースを守れ。それが出来ないなら酒は飲むな」 


 カウラとかなめの薄情な言葉にそのまま転がっていた昨日着ていたズボンに手を伸ばした。


「昨日はすいませんでした」 


 誠は飲むと記憶が跳ぶことが多いのでついいつもの癖で頭を下げた。


「いつものことだよ、アタシは慣れた。というかそれが楽しみだ。それとランの姐御はあんな状態でも酒を断っても怒らねえぞ。実際、西の野郎は上手いこと話をそらして同じ状況を切り抜けてる。まあ、そもそもアイツは19歳だからそれに酒を勧めてる時点でランの姐御もなんとかしてもらいたいところなんだがな。アイツが飲むぐらいなら他に飲みたい奴はいくらでも居る」 


 かなめは別にどうとも思わないというようにそう言った。


「慣れた?本当に慣れた?まあ、誠ちゃんの立派なアレも見られたことだし。私としては楽しかったかな」 


 これまで誠の目の前で肩を突ついたりしていたアメリアが今度は顔を赤らめているかなめの頬をつついた。当然切れたかなめはそのままアメリアの頭を抱え込むと強化された人工筋肉のおかげでレスラー並みのパワーを誇る腕でぎりぎりと頭を締め付けた。

挿絵(By みてみん)

「痛い!痛いわよ!」 


 アメリアはもがきながら必死にかなめに抵抗する。


「痛くしてるんだ。当然だろ?何ならもっと痛くしてやろうか?かえでみたいに痛いと喜ぶような身体にしてやっても良いんだぞ」 


 そんな二人のじゃれあいに呆れたようにカウラは頭に指を当てた。


「昨日の飲み会はリフレッシュの為のものだ。それを……我々の捜査の一番の障害になっているクバルカ中佐だけが喜ぶ展開に持っていくなどとは……神前……貴様はもしかしてロリコンか?」 


 カウラはそう言いながら誠の足元の布団に手を伸ばした。そのしぐさに思わず引き込まれそうになる誠だが、かなめとアメリアの視線を感じてカウラの前に立ちふさがった。


「布団ぐらい片付けますよ」 


 誠はそう言って乱れたベッドを片付けた。


「その前に服を着ろ。今日からいつ何が起きてもかまわない覚悟をしてもらわないとな」 


 上官にこう言われたらどうしようもない誠だった。衣装ケースを掻きまわして新しいパンツを探して急いで履いた。そしてそのままじっと誠を見ているかなめとアメリアに目をやった。


「そんなに見ないでくださいよ」 


 パンツ一丁で立ち尽くす誠をアメリアは舐めるような目で見た。


「昨日はあんなに『俺を見ろ!』って叫んでたのに?確かに誠ちゃんのアレはビデオの黒人男優にも勝てるくらいだけどあまり他の店ではしない方が良いわよ」 


 アメリアは飲むと人格が変わる誠が面白くてしょうがないというようにそう言った。


「そんなこと言ってたんですか?やっぱり島田先輩の言うように僕は酒に飲まれると人格が変わるのかな……」 


 顔を赤くする誠にアメリアとかなめが顔を見合わせて爆笑し始めた。


「馬鹿は相手にするな。もうすぐ時間だぞ」 


 布団をたたみ終えてカウラが立ち上がった。仕方がなく誠も着るものを着るとそのままカウラについて廊下へと出た。


 早朝の寮はいつものように戦場だった。技術部の士官の面々が二日酔いか何かのように頭を抱えながら短髪の髪を掻き揚げながら誠達を避けて追い抜いていった。


「技術部の旦那連。昨日は飲まされてたからなあ。もう潰れてると言うのに誰かさんが全裸で乱入していって……アイツも相当溜まってるんだな」

挿絵(By みてみん)

 かなめはそう無責任にそう言うと食堂を目指した。 


「そんなことがあったんですか?一体誰がそんなことを」


 誠も上で技術部の情報士官が酒盛りをしていたのを知っていたのでそう言った。 


「飲ませたのはオメエだろ?神前!飲むとすぐに記憶が跳ぶ癖なんとかしろよ!」 


 かなめにそう言われても誠の記憶はまるで消えていた。仕方なく階段を下りながら昨日の全裸になった自分の事を思い出してみるがまるで浮かんでこない。


「じゃあちょっとアタシはタバコを吸ってくるから」


 食堂には行かず、かなめはそのまま廊下の奥に消えようとした。


「そのまま永遠に吸ってて良いわよ。かなめちゃんが居ると面倒なだけだから」 


 それを見送るアメリアの言葉にはいつも通り棘があった。


「うるせえ!」 


 にやけながら紺色の長い髪を掻きあげるアメリアに悪態をつくとそのままかなめは中二階のラウンジにある喫煙所に消えた。


「今日は……大野君が食事当番ね……糖質制限の為に寮に居るのに食事当番なんか任せてつまみ食いしてたら意味が無いじゃないの」 


 技術部一の巨漢で野球部の急造キャッチャーとして、誠の変化球をぽろぽろこぼす下手な男、大野が今日の食事当番だった。


「アイツがここにいる意味があるのか?味見とか言って大量に食べているらしいじゃないか。アイツがここにいる理由はダイエットの為だろ?確かにアイツは下士官でここにいる資格は私達より正しいと言えるが、アイツはそもそもこの寮の部屋の規格に体形が合っていない。それにアイツは隊で必要になる資格を多く取得しているから資格手当も相当出ているはずだから中尉のサラ当たりよりもよっぽど高給を貰っているはずだ。この近辺でワンルームのアパートを借りても何の不都合も無い」 


 カウラはそうつぶやきながら朝らしく忙しそうに動き回る隊員が集まる食堂へと入っていった。


「いらっしゃい!」 


 そこでは食事を済ませた島田が寮長の特権であるプリンを食べていた。


 あまりにいつもの見慣れた光景に立ち尽くす誠達に合わせるようにタバコを吸い終えたかなめが合流してきた。


「島田、元気だな。オメエもランの姐御にアタシの酒を散々飲まされたわりに平気……ああ、オメエは死なねえんだったな。それなら今こうして普通にプリンを食べていても不思議はねえ」 


 かなめが呆れるのは無理も無いような気がした。誠がノックアウトされればあのメンバーの矛先は当然のように島田に向く。だが生体機能の異常な活性化と言う技のある島田なら致死量のアルコールを口から流し込まれても平気なように誠には思えた。


「さっさと食べて出勤だ」 


「そうしましょ」


 カウラとアメリアはまだ誠達の捜査に未練があるような視線で見つめて来る島田を無視して厨房前のカウンターに並べられた料理のトレーを手にしていた。仕方がなく誠もその後に続く。かなめも面倒くさそうに誠の後ろに立っていた。彼女もまた慣れた手つきでトレーを手に取り暇そうに食堂を眺めた。


 その様子を興味津々という感じで眺めていた島田と目が合うとかなめのタレ目のまなじりがさらに下がった。


「島田……相変わらず態度がでかいな。どうすればオマエを殺せるんだ?オメエの偉そうなところを見ると腹が立ってくる。アタシより階級も年も下のくせに偉そうにするんじゃねえ」 


 得意げにプリンを食べる島田を見てかなめは毒づいた。


「あれじゃないですか?銀の弾丸で額を撃ち抜くとか心臓に十字架を突き立てるとか……それは吸血鬼でしたね……ああ、俺も知らねえっすよ。俺がどうすれば死ぬかなんて」 


 島田は下手にかなめを怒らすと面倒なのでとりあえず少ないオカルト知識を総動員してそう答えた。


「西園寺遊んでないで早く食事をしろ!」 


 スープを注ぎ終えたカウラの言葉に舌を出しながら厨房に向かうかなめのおかっぱ頭。


「それにしても豊川署の警邏の面々。ちゃんと仕事はしているのかしら?まるで連絡が無いじゃないの。なにも無かったら連絡してこないで良いだなんてまるでお役所仕事ね。ああ、警察も一応お役所だから当然か」

 

 すでにすべての料理をトレーに載せて堂々といつもの指定席に座ったアメリアはすばやくウィンナーをかじりながらそうつぶやいた。


「彼等も仕事と割り切ってくれているだろうな。確かに杉田と言うあの刑事しか我々には窓口が無い。当てにはならないが他に手段は無いからな」


 カウラにはそう言うことしかできなかった。 


「そんな弱気で……良いんですか?他に当てになる人を探すとか……どうせ一日中警邏隊から送られてくるアストラルゲージの反応の分析以外することが無いんですから」 


 誠は椅子に座りながらぱくぱく卵焼きとソーセージを主菜に大根の白みその味噌汁とキャベツの千切り取り放題と言う朝食を食べているアメリアを眺めた。見られていることが分かるとにっこり笑ってすぐに今度は付け合せの千切りキャベツを食べ始めた。


「ああ見えても東和は腐っている官僚が過半数以下と言う遼州では貴重な組織だからな。それなりの結果は期待して良いんじゃねえの?これだけ統率の取れた嫌がらせが出来るなんて言うのはその組織が裏金で動く組織じゃねえ証拠だ。甲武の腐った警察だったら途中の段階で誰かがアタシ等に金でどうにでもしてやるって話をつけに来るもんだ。それがねえってことは東和は腐った国じゃねえっとなんだ」

挿絵(By みてみん)

 遅れて席に着いたかなめが同じように手にした緑色のものをかじり始めた。よく見ればそれは四分の一に切ったキャベツだった。呆れてみていた誠達だが、かなめは気にせずそれを見る間に食べ尽くした。


「なに?かなめちゃんだけ特別料理?それとさっきから見てるとそのキャベツほとんど芯だけじゃない。かなめちゃんは芯が好きなの?」


 アメリアは冷やかす調子でそう言った。 


「食物繊維だよ」 


 かなめは食べるものにはこだわりが無いのでそう言ってキャベツの芯を食べ続けた。


「サイボーグが健康志向か?臓器が駄目になったら交換すればいいだけの話だというのに」 


 冷笑と言う言葉がぴったりくる笑顔を浮かべてカウラがそう言った。


「絡むじゃねえか。小隊長殿。そんなに自分の愛しい部下の大事なアレが他の女に注目されてるのが腹に据えかねるのか?」 


 いつものようにかなめ達の話が展開しているのを見て誠は安心して味噌汁をすすった。もはや誠の下半身で目の前の三人が盛り上がるのはいつものことなので誠には見慣れたほほえましい日常に感じられるようになっていた。


「こういう日……意外とこういうときに見つかるんだよな。アタシの勘だ、当てにしていいぜ」 

挿絵(By みてみん)

 かなめはキャベツを食べ終えるとそのまま味噌汁を啜り始めた。


「そうか?まだ全地域をパトロールできたわけでは無いんだろ?それに反応が丁度よく現れるとなると確率論的にはかなり低い話になるぞ」 


 あてにならない勘を振り回すかなめを笑うようにカウラはこれまでのくだけた調子を仕事モードに切り替えていた。


「そうよね。まあ来週までには決着が付くといいわね。警邏の巡回表から見るとそのぐらいで見つかるのが理想なんじゃないの」 


 カウラとアメリアはそれぞれにソーセージをかじりながらそれとなく誠の方に目をやりながら食事を続けていた。


「捜査なんて……よく分からないですけど……西園寺さん。そんなものなんですか?」 


 スープの味付けが少し濃すぎたのを気にするように舌を出しながらつぶやく誠にかなめは手を広げて見せた。


「すぐにターゲットが見つかるなら本当にすぐに見つかるもんだ。見つからない時は……」 


 かなめは非正規部隊時代の勘でそう言って見せた。


「それはあるかもしれないわね。アニメキッズの景品も欲しいと思っているときはスクラッチの点数が低くてもらえなくて、これは興味が無いから当たったらサラにあげようとか思っているときは結構いい点数が出て交換するかどうか迷うことが多いもの」


 アメリアの例えはいつもそう言う感じだった。 


「その例え……適切なのか?私にはまったく理解不能なのだが」 


 アメリアの独特の話題についていけないカウラが突っ込みを入れた。周りでは時間に厳しい技術部部長代理の島田の部下達がすばやく食事を済ませてトレーを返しに行っていた。


「じゃあ、がんばってくださいね」 


 本当は自分も捜査に参加したい島田がプリンを食べ終えて立ち上がると励ますようにそう言った。


「オマエこそ潰されるなよ!『武悪(ぶあく)』はただのシュツルム・パンツァーじゃねえんだから。それに使うのはあの叔父貴だぞ。エースに恥じない機体に仕上げろ!」 


 島田が苦笑いを浮かべながら立ち去る背中にかなめが声をかけた。


「それにしても……他人任せってのは……警邏隊のパトカーは本当に予定通りのコースを走ってるのか?これだけ見つからねえってことは連中がサボってる可能性もあり得る」 


 かなめは伸びをしながら立ち上がった。


「そんなに豊川署の警邏隊が信用できないならかなめちゃんが計測器を持って走り回れば良いじゃないの。自分のことは自分でやるのが一番なんでしょ?私は止めないわよ」 


 アメリアはいつものようにかなめを冷やかす。


「アメリア……テメエ一回殺してやろうか?なんでアタシがそんな面倒なことをしなきゃならねえんだ?分かったよ!大人しくしてりゃあオメエは満足なんだろ!静かにしてるよ!」 


 かなめは苛立ってそう答えた。誠も二人の気持ちを察しながら静かにパンをかじった。もうすっかり二人の喧嘩に慣れたカウラはため息をつきながらデザートの温州みかんの皮を丁寧に剥いていた。



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