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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第三十章 『特殊な部隊』と『アレ』のおごり

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第62話 外事課の犬

「でも……本当にいいんですか?」 


 思わず心配になり誠はランに尋ねた。ランが予想している捜査の進展度合いよりはランの『身体強化』の法術が常に発動状態にあることにより発生するノイズによって誠から見てもかなり遅れているのは明らかだった。


「何がだよ。さっきからオメエ等アタシに何か隠し事をしてるな?言ってみろ!怒らねーから」 

挿絵(By みてみん)

 相変わらずランは手にした日本酒を飲んでいる。すれ違う豊川署の未成年の飲酒を取り締まるべき警察官の誰もがどう見ても小学校低学年にしか見えない彼女を注意しないのが不思議に見える光景に誠は少し違和感を感じていた。それと同時に、ランが怒らないと言いつつ、誠がここでラン自身が一番のこの捜査活動の障害なので隊から一歩も出ないでくれと言えばランが確実に激怒して何をするか分からないと分かって黙り込むことに決めた。


「いえ、別に隠し事なんて……それよりも今、この瞬間にだって警邏隊の巡回は深夜もあるんじゃないですか?その深夜に反応が出たら……ちゃんとそれを見ていないといけないんじゃないですか?それを僕たちがサボってみていないなんて普通は許されない事ですよね?」 


 誠の言葉に小さなランはそのまま誠の腹の手前まで歩いてくると大きくため息をついた後まるで子供のように見上げた。


「普通に犯人の反応が出てもアタシ等はなんにもできねーのは説明したろ?それとだ。警邏隊はアストラルゲージについちゃー説明なんて受けてねーんだ。異常があれば確認の連絡ぐらい入るだろ?」 


 いかにも投げやりなランの言葉に誠はムッとして見下ろした。振り返るランはそんな誠を見て大きなため息をついた。その異常な反応のほぼ100%が今までは全てランのモノであることが分かっているだけにランの言葉には何の説得力もないように感じられて誠は限りなく続く徒労としか今の捜査が見えなくなってきていた。

挿絵(By みてみん)

「だから焦るなって。それにだ。技術部の情報士官共に確認させたがあの杉田とか言うここの署長の腰巾着だが……かなりの食わせもんだぜ」


 ランの顔には嵯峨によく見る悪い笑みが浮かんでいた。杉田が信用できない男であることについては捜査担当の一同の共通した認識だったのでそれに関する新たな情報があると聞けば自然と関心はそちらの方に向いた。


「食わせもの?」 


 カウラは得意げに署の玄関を出て行くランの後ろ姿を見ながら首をかしげていた。


「お前等に頼まれて情報を探している時しきりに司法局実働部隊のサーバーにアクセスしている馬鹿がいてな……こっちがあちらのうちに隠しているデータにアクセスしている以上、県警にも同じことを考える人間が居ても不思議はねーのは分かるよな?しかもそいつは常にオメー等の世話をするということでオメー等の行動を監視している。そりゃーうちに大変な関心を持っていたところで不思議なことは何もねーわな」 

挿絵(By みてみん)

 まるでそうなるのが当然という口調でランはそう言った。


「それがあのおっさんか?……まさか。外事課崩れってことはアメリアが調べたから知ってるけど、あの爺さん情報収集部門にでもいたのか?東都警察の外事課でもそう言う部門は有るからな。もしあの爺さんがそこにいた人間だったと考えればそんな行動に出ても不思議なことはねえな」 


 かなめは話にならないと切って捨てるように吐き捨てた。豊川署の中庭を通り抜けそのまま裏手の駐車場に向かう。すでに六時を回れば冬の太陽は跡形もなく空から消え去って、闇だけがあたりを覆う。


「なに、本人がアクセスした訳じゃねーよ。隊長に確認したが杉田とか言う警部。外事課崩れって話なのはアメリアが調べたって言ってたな。杉田には当然、県警ばかりではなくって東都警察にもコネがある。東都警察外事課あたりが動いていたとしても不思議じゃねーな。遼州同盟加盟国の軍人や警察官が集まってる司法局には外事課も興味が有るんだ。そこら辺の理由から探りを入れてるんだろーな。うちじゃあゲルパルト国籍のアメリアと……甲武国籍の西園寺に日野に渡辺に西、オメーはおそらく東都警察の外事課の監視対象になってるはずだ。あの署長が杉田をオメー等のお守りに任命したのは東都警察外事課の意向が反映している……ゲルパルトも甲武も、国民の大半が元地球人系の国だから法術師はほとんどいないってわけで、法術犯罪へのノウハウはゼロだ。東都警察は自分達の法術捜査の技術がゲルパルトや甲武に横取りされることを恐れてるってわけだ。馬鹿だよな。そんなのゲルパルト警察や甲武警察の担当者がうちに来てアタシにアメリアや西園寺に何でも好きなこと喋っていいぞと言えば手に入るんだ。それ以下の法術犯罪手法しか見つけられねー東都警察なんかゲルパルトや甲武の警察があてにしている訳がねーだろーが」


 東都警察外事課。東都警察でも外交官特権をかさに着て悪事を働く外交官の裏を暴く花形のように見えて、実はその外交官に便宜を図っている『汚れた英雄達』の巣窟として知られていた。そして、外国から派遣された捜査官を監視し、自分達が誇る『銀河一の治安』を支える技術の流出には神経をとがらせている同盟加盟国のほとんどの国からの出向者により構成されている司法局にとっては目の上のたん瘤と言っていい存在だった。


「これは……また面倒な連中が出てきたな……東都警察は犯人逮捕より同盟司法局の内偵がお好きなようで」

 

 かなめの皮肉にランは苦笑いを浮かべる。駐車場の手前の道には島田のワゴン車がライトを付けて止まっていた。


「いつまでも仕事の話は野暮だな。行くぞ!」 


 誠達に手を振るとランはそのまま小走りにワゴン車の方へと走り去った。ワゴン車の後ろには白いセダン。おそらく茜の愛車だろう。


「でも本当に良いのかねえ……外野の連中が動き出しているんだろ?東都警察の外事課が動いてるってことは……アタシやアメリアの監視もあるが、それ以上に東都警察はこの犯人に関心を示している外国勢力の存在をある程度掴んでいるということだ。面倒な話だぜ……さっきの話は聞かなきゃよかった」 


 家路を急ぐ署員の車をやり過ごしながらかなめが面倒くさそうにつぶやいた。


「西園寺さん。外野って……東都警察の外事課ですか?」 


 ぼんやりとつぶやく誠をかなめのタレ目が見上げてきた。


「誠ちゃん。法術絡み。しかも新しい能力となれば地球諸国の研究機関も目の色変えるもの。外事課が動くも当然すぎるわね。それに同盟厚生局の時を忘れたの?地球やテロ組織。同盟非加盟国……いいえ同盟機構の内部組織の連中も今回の犯人を狙っているのよ。司法局の内偵のついでにそこら辺で司法局が警察に隠してる情報を手に入れたいんでしょ。その中には私達並みに今回の犯人に近い位置に立ってる東和以外の国の政府機関が存在している。でも外事課に電話を掛けても教えてくれそうにないわよね。所詮お役所なんてそんなものよ」 


 いつの間にか誠に追いついてきていたアメリアは相変わらずいつものアルカイックスマイルを浮かべていたが、その口調には緊張感が感じられた。


「それは分かるんですが……」 


 銀色のカウラの『スカイラインGT-R』が駐車場を照らす明かりに浮かんで見ても誠もかなめもしっくり行かない感覚が続いていた。


 三人は既に運転席に座っているカウラを確認すると車に乗り込んだ。

挿絵(By みてみん)

「西園寺が気を利かせてクバルカ中佐との会話をこの車のスピーカーで聞いていたから大体のことは知っている。ただ、逆に考えるとこれだけ注目を集めればそれぞれの組織は動きづらいだろうな。法術関連の特殊部隊の派遣は一般部隊に比べれば相当なコストとリスクがある。法術に絡む情報収集も然りだ。手駒である少ない法術師をやりくりしての調査。しかも獲物を横取りされる確率が高いとなれば手を出せる勢力は相当限られてくる。特に使える法術師の数がそもそも少ない地球圏のアメリカ以外の国にとってはもしそんなことで貴重な法術師を失ったり我々にその身柄を拘束でもされでもすれば目も当てられない。それに今回の法術師は直接的な破壊力がある訳じゃない。だからそのコストに見合う成果が実際得られるとその許諾権限を持つ責任者を説得できる勢力はそれこそ限られてくる」 


 カウラはそう言うとそのまま自分の車のドアを開いた。いつものように助手席の扉を開いてシートを倒すといつものようにかなめは真っ先に後部座席に乗り込んだ。


「低威力で高精度の兵器みたいなもんだからな、今回の法術師は。法術師のいない地域ではまるで役に立たないんだから地球での勢力争いに夢中な連中にはリスクに見合う見返りは無いだろうし。つまり今回の法術師の能力は、地球圏での戦争には何の役にも立たねえようにしか連中には見えねえんだ。ただ、今回の犯人の身柄を手に入れれば遼州圏では一挙に地球圏一の法術大国を自認する米帝を一気に引き離して地球圏における遼州圏の利権争いでの最有力者にのし上がることができるんだ。危険は大きいが見返りも大きい賭けだな。この勝負は米帝以外の地球圏の国にとってはのるかそるかの大勝負……まあ、そんな大勝負を挑む国家指導者がいるかどうかはアタシも知らねえというか……たぶん居ねえだろう。たぶん今頃は大半の国は店じまいして別の法術師の勧誘計画でっも練ってるんじゃねえの?そうなると食いつくのは遼州での活動を優位に進めたい『廃帝』と東モスレムのイスラム過激派連中……それに遼州圏の覇権を握りたいゲルパルトのネオナチくらいのものか?いや、いまだに遼州圏に領土的野心を隠さない米帝あたりが絡んでいても不思議は無いか」 


 そう言いながらかなめは後部座席の自分の隣に誠を無理矢理引きずり込んだ。


「それ以外にも遼州での新たな利権獲得を目指す国なら手を出すんじゃないのか?地球圏でも絶対的核の優位ですべてが思う通りに進んでいるつもりのアメリカをどうにかその地位から引きずり下ろしたい国はうんざりするほどある。特に核なら捨てるほど持っているロシアや遼州圏にかなりの数の艦隊を派遣しているフランス当たりなら西園寺の言う割に合わない賭けも意味のあるものに見えても少しも不思議なことではないと思うぞ」 


 カウラの言葉にかなめはしばらく考え込む。


「いっそのこと杉田のじいさんにどこの国が動いているか教えてもらうか?土下座でもすれば教えてくれるかもしれねえぞ?この事件を東和警察が調べ始めてから東都の連絡事務所を出入りする車の数がやたら増えたのは米帝とフランスとロシアのうちのどれでしょうかって。東都警察の外事課なら地球圏の各国の連絡事務所に出入りする車の数やナンバーなんかは全て記録してるだろうし」


 冗談めかしてかなめはそう言った。


「くだらないな。そんな事を東都警察が教えてくれると思うか?それこそ捜査上の秘密と一蹴されて終わりだ。馬鹿なことを言うな。車を出すぞ」 


 全員がシートベルトを確認するとカウラはそう言った。ヘッドライトに照らされた駐車場。車は静かに走り始めた。


「そう言えば、こんなことを言ったらパチンコ依存症の妄想だと嗤われるかもしれないんだが……」


 車を豊川駅前の商店街に向う繁華街の道を走らせながらカウラはそうつぶやいた。

 

「何が?」 


 かなめは相変わらずとぼけていた。カウラは苦笑いを浮かべながら大通りへと車を進める。次第に冬の空は黒味を帯びて町を闇へと導いた。


「なんだか不気味な感じがしないか?この街全体が今日はおかしな感じだ。こういう時はどんなに出て当然の台でもいくらつぎ込んでも出ないんだ。その事は経験上分っていることだ……なにか悪いことが起きる前触れ……そんな気がする」

挿絵(By みてみん)

 いつもは科学信奉者のカウラがそんなことを口にした。 


「なんだよカウラ。ずいぶん感傷的な物言いじゃねえか。オメエも少しは進歩したんだな」 


 かなめは冷やかすようにカウラに口を出す。


「それは無いんじゃないの、かなめちゃん。『ラスト・バタリオン』にも心があるのよ。私を見てみなさい!こんな笑いにうるさくて喜怒哀楽に満ちているAIなんてまだ開発されてないわよ!まあ自分でもこんなにサボったりふざけたりするAIなんて開発されてもすぐに消去されるだろうけどね」 


 人造人間の話題が出るたびに嫌な顔をするアメリアが振り返る。かなめは隣で小さくなっている誠を突付きながら苦笑いを浮かべていた。


「でもこの街に例の犯人がいるんだ。しかも誰にも知られず次の悪戯を準備している……今日が、もっと大きな悪戯を始める決意の日であっても何も不思議なことでは無いんだ」 


 誠はカウラが言うように今日の街はおかしな雰囲気があるような気がしてきた。


「悪戯?そんな簡単なものかよ……人が一人死んでるんだぜ。悪戯なんて言う生易しいもんじゃねえ」


 かなめは街の雰囲気より事件の本質に関心が有る様だった。 


「簡単に感じる人種もいるんでしょうね。それに人が死んだのは事故程度に感じているんじゃないのかしら?今回の犯人は。今回の犯人には確たる思想は無い。私はそう踏んでいるわ。ただやることが過ぎた愉快犯でしかない。たぶん犯人はそんな人物なんでしょ?ただ力があるから使って見たら使えた。そしたら結構楽しかった。しかも警察は自分の事を一切見ていない。そうなったらいけるところまで行ってやろうとでも思ってるんでしょ?私から言わせると最悪の人種ね」 


 加速する『スカイラインGT-R』の中でアメリアは真剣な表情を浮かべてそうつぶやいていた。



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