第5話 検査に映らない敵
「ふう……なんとかなったのか……あとは全部茜警部に任せれば……ってこういう時に限って僕たちにこの事件が回ってくるような気がするんですよね……」
警察署から誠の実家に帰る間も、かなめはひたすら東都警察の所轄がいかに不手際が多く役に立たないかと言う悪口を言い続けた。それに相槌を打ちながらアメリアはどさくさ紛れに千要県警からいつも銃の不法所持の疑いでよくかなめが職務質問されていることなどを例に挙げてかなめの怒りにさらに火に油を注いだ。それに乗っかるようにかなめの怒りの矛先は東和警察全体から東和共和国政府にまで向かう。その愚痴に愛想笑いを浮かべる誠といつものことだとハンドルを握って諦め顔のカウラの運転で車は誠の実家に着いた。
そして、誠の実家での最後の日もかなめは東和共和国の制度の矛盾点をサイボーグとしてネットに接続して得た知識で誠達に披露してみせ、その怒りを面白がっているアメリアがさらにそれを極論に導くのを見せつけられるという一日だった。
その日の午後はアメリアを尋ねてやって来た元落語家時代の妹弟子で今は真打になっているアメリアの名を継いだ一笑亭大姫と言うアメリアとの共通点は身長だけと言うほとんど相撲取りのような眼鏡の女流落語家が訪ねてきた。姉弟子だからと手ぬぐいの代わりに小遣いをせびる妹弟子をアメリアはわざと怒り狂うかなめをぶつけ、土下座に追い込んだ。そして渋々落語界のしきたりだと言って三万円を渡してアメリアが妹弟子を帰らせる程度にかなめの怒りは一日中続いていた。
誠はこんな形でカウラの誕生日と言う素敵なきっかけで始まった休日が終わるのを少し残念に思いながら母の薫に別れの挨拶をして実家を後にした。
実家から司法局実働部隊の寮がある豊川に向かう休日最終日も、薫への挨拶よりもかなめとアメリアは東都警察の悪口に夢中で、お世話になった誠の母の薫に頭を下げるカウラや照れる誠を無視するように荷物を持つとかなめとアメリアは強引にカウラの『スカイラインGTR』に乗り込んだ。
帰りの下町の光景を来た時のように見るわけでもなく、その後の首都高や千要道の渋滞の間もかなめとアメリアの東都警察に対する誹謗中傷は続いた。そしてかなめが激高して車を壊されるのを恐れながらカウラは下手に刺激しないように慎重にハンドルを握った。
そうして、12月19日から1月4日まで続いた長期休暇の末に、三人の繰り広げるどたばたから解放されて自分の部屋に帰ってくると誠は荷物を放り出して横になってそのまま眠っていた。
夢は最後はどたばたになってしまったけれどクリスマスから正月にかけての実家でのかなめ達との馬鹿騒ぎが次々と走馬灯のように現れた。こうして早朝の光の中でいろいろと馬鹿なことをしたことばかり思い出しながらうだうだしていると、自然と笑みが浮かんできた。そしてそのまま誠は寝返りを打った。そんな彼もドアの外で何かの気配を感じることくらいはできた。
「おい、いいか?」
声の主はカウラだった。
「どうぞ、開いてますよ」
誠が起き上がるのを見ながらカウラが入ってきた。その細い体と特徴的なエメラルドグリーンのポニーテールが誠のアニメ関係のグッズが並んだ部屋に違和感を与えた。誠はその違和感に耐えながら作り笑いで神妙な顔つきの上官を迎えた。
「ああ、とりあえずお茶でも飲もうと思ってな……」
カウラは手にしたお盆から急須と湯飲みを並べた。元々そういう気の回りに縁がないカウラの行動が誠には不自然に思えた。何か言い出したいことがあるならこちらから気を利かせないと言い出せないところがある。そんな彼女の癖が分かってきた誠はそれとなく口を開いた。
「結局茜さんもラーナさんも演操術師を見つけられなかった件ですか?」
誠がそう言うとカウラは視線を手元の茶筒に落としてしまう。
演操術。他人の意識を乗っ取り操るこの地球の植民惑星『遼州』の先住民である遼州人に見られる特殊能力である。誠も先日地元のデパートでの通り魔事件でその力の恐怖を味わったばかりだった。そして誠自身も遼州人のほぼ純血種だということも分かっていた。それを察してかカウラの頬がこわばった。
気分を変えるように誠のフィギュアのコレクションを見ながらカウラが話し始めた。
「とりあえずあの時間に参道にいた人物のうち、足取りがつかめたのが約三百人だ。据え付けられた防犯カメラとか、目撃者情報を求めてはいるが……これ以上は分からないだろうな。茜警部が確認できた中にいた法術適正者には演操術の使い手はいないらしい……しかも万が一に備えて境内に配置されていた法術発動を探知する簡易アストラルゲージの方だが……」
結局何も分からなかったことだけが分かったことを報告するカウラの表情は硬かった。
「反応が微弱で測定不能。増幅しても不明と言うところですか。法術の専門家のひよこさんもお手上げですよね?それじゃあ僕たちは何もできないですよ。それこそ東都近郊の3000万人の中から法術適性があって演操術を持った人間を見つけ出すなんてそもそも無理な話ですから」
カウラに湯飲みを渡された誠は静かに茶をすすった。司法局実働部隊は誠の配属以来法術系犯罪を追うことが主任務になりつつあった。遼州人の血を濃く引く誠と部隊長の嵯峨惟基がいる以上、どうしても司法機関の手に負えない法術関連事件は司法局に押し付けるのが当たり前のように思われていた。
「でもそうするとあの容疑者扱いで捕まった娘はどうなるんです?その犯人が見つかるまで拘留されるんですか?それはちょっと酷すぎません?」
誠が気にしていたのは明らかに放火の犯人ではない少女の事だった。
「一応彼女の能力を誰かが利用していることがはっきりしない限り東都警察もおいそれとは釈放はできないだろうな。しばらくは拘留だろう。ただ、東都警察も不当拘束で東都弁護士会などの人権意識の高い弁護士会から責められるのは本意ではないはずだ。恐らく処分保留で数日で釈放と言うのが東都警察の取るパターンだ。要するに誰も責任を取りたくないんだ。何が起きているのか理解していない東都警察に出来ることはそれだけのことだろうな」
カウラの力のない自分達の限界を知り尽くした言葉に誠は力なく肩を落とした。
「でも……」
同じ法術師としていつあの少女と同じような目に遭うかもしれないという思いが誠の心に去来した。
「演操術師と言えば先日の通り魔の時にも出てきた。今回も同じ人物が訓練気分で実行したのかもしれない……」
力の無いカウラの言葉を聴きながら瞬時に燃え広がる絵馬堂の光景が目に浮かんでくる。
「訓練気分でやることですか?あんなことを……今回は一歩間違えれば東都の下町全体がどうなっていたか分からないんですよ?それを訓練だなんて……」
誠は法術を突然使えるようになり、そこからすぐにランに徹底的に制御の訓練を受けていた。それに法術特捜の主席捜査官である茜が加わり、第二小隊が設立されるとかなめの妹で第二小隊小隊長の日野かえで少佐が加わった。
つまり誠は正規の訓練しか法術に関しては受けた経験が無かった。
「やる奴はやるだろ?法術なんて言う物は本来は感覚で発動し、感覚でその使用法を覚えるものだ。貴様は例外なんだ。別に好んで民族浄化で数千万の人間を殺しても涙一つ流さない地球圏の人間とは違うとはいえ、その地球圏の影響を受けてその色に染まった東和の遼州人にはそう言う人間もいるというだけの話だ」
突然のハスキーな女性の声に誠は握っていた湯飲みから視線を上げた。当然のように冬だと言うのにタンクトップとダメージジーンズと言う姿のかなめがそこに立っていた。
「寒くないのか?西園寺は。貴様を見ているとこちらが寒気を感じる」
呆れたようにカウラがつぶやいた。軍用の義体の持ち主で零下20度の中でも短時間なら耐寒装備無しで活動できる体の持ち主に向けてつぶやくには不用意な発言だった。カウラも少しばかり緊張気味にかなめの反応を見るが、かなめは気にしていないというようにそのまま誠の隣に腰を下ろした。
「鍛え方が違うんだよ!まあ、アタシのは金で手に入れた機械の身体だからだけどな」
そう言いながらかなめは無遠慮に周りを見渡した。そんな彼女の視線が開けっ放しの扉のところで止まった。
「鍛えたも何もテメーの体は特注品の軍用義体じゃねーか」
さらにかなめの後ろから小さな女の子が扉の入り口に手をかけて突っ立っていた。その後ろにはにんまりと笑うアメリアの姿もあった。
「クバルカ中佐……なんでここにいるんです?というか、クバルカ中佐は暇なんですか?よく寮に来ますよね?この寮に。本気でこの寮の男子寮生全員を『漢』になるまで出さないことを確認するために通っているんですか?そもそも中佐の『漢』の基準がよく分からないんで僕はここからいつ出られるのか分からないんですけど……そもそもあの僕から見ると十分『漢』な島田先輩でもダメなんですよね?中佐は僕たちに何を求めているんですか?」
司法局実働部隊副長のクバルカ・ラン中佐の登場にカウラは座りなおして敬礼をした。小柄と言うよりどう見ても小学生低学年くらいに見えるランだが、その自信に満ちた態度は誠達を束ねている実働部隊副長の貫禄を感じさせていた。
「別に暇だからここにいるわけじゃねー!『漢』……それは背中で語れるような人間のことだ。アタシは女だがすでに背中で語れる!だからアタシに勝てるようになった時がオメー等が『漢』になった時だ!それより別に気にすんなよ。ここじゃーアタシもただの隊員だ。ただ背中で語れるかどうかの違いしかねーんだ。気なんか使われるとアタシが迷惑だ。それが島田にアタシが課したこの寮の運営方針だ。アタシが決めたことなんだからそれをアタシが破ってどうするんだよ」
そう言いながらランが扉から手を離して誠の隣へと進んだ。そんなランにぴったりとアメリアが付き従った。
「そう、じゃあよい子ね」
急にそれまでのかしこまった態度を変えて長身のアメリアはランを見下ろした。
「頭なでるな!クラウゼ!アタシは背中で語れる女なんだ!いずれアタシを表すために『男』という漢字に対して『漢』という漢字があるように、『女』という漢字にもアタシを表すにふさわしい漢字が発明されることになるんだ!」
アメリアはいきがるランの頭をなでた。まるでここが準軍事組織の寮だとは思えない光景が展開した。いつもの見慣れた光景だが、実家から帰って久しぶりに見るとおかしさが再びこみ上げてきて誠は必死になって笑いを堪えた。
「で、ちび中佐の言いたいことはなんすか?いい加減うざいんですけど。無駄にちっちゃいし」
どっかりと胡坐をかいて居座る気が満々のかなめがこれまでのランの言葉をまるで聞いていなかったような偉そうな態度でにらんでいる。その様子があまりにも敵意むき出しなので誠ははらはらしながら二人を見つめていた。
「ああ、仕事の話を聞きて―か。それなら話すとするか。実は……内密な話なんだけどな」
ランはそう言うと後ろで立っているアメリアに目をやった。アメリアもその様子を悟って開いたままのドアを閉めた。
「先月の末だ。厚生局からの通知があったんだが……法術適正の検査基準に間違いがあったそうだ。まったくそんなもんでよく全遼州圏で法術適性検査をするなんて言い出したな、この国の偉い人と法術専門家連中は。アタシもあきれてものが言えねーよ」
ポツリとつぶやくように小さな上官であるランから出された言葉に誠達は唖然とした。
「間違い?そりゃあ大問題だぞ!下手したら……」
違法実験で解体された厚生局を引き継いだ新厚生局は発足したばかりで混乱していた。手違いの一つや二つあったところで不思議では無かった。
「西園寺。落ち着け、それで?」
大声を上げたかなめを制してカウラがランの幼いつくりの顔を見つめた。
「確かによー空間干渉や炎熱系なんかの派手な法術の適正は脳波のアストラルパターン分析でその能力を特定できるんだが……」
ランはそこまで言って言葉を止めた。
「演操系の波動は特定できないと言うことかしら?それって私達には最悪じゃない。もう一度同盟厚生局に襲撃を仕掛けてやろうかしら?」
アメリアの問いに静かにランは首を縦に振った。
「マジかよ……じゃあ手がかりなんて何も無いじゃないか!そもそもその検査だって東和じゃ任意だ。それを通っても黒か白か分からないなんて言ったら」
あきれ果てた厚生局の失態にかなめは暗い表情を浮かべた。
「このまま発表すれば東和の厚生局の法術関連の管理職と同盟議会の議長の首が飛ぶだろうな。現在において法術師が完全に同盟の管理下にあるということで地球圏の国々とは話がついているはずだ。その前提が間違っていたとなれば地球圏の国々も黙ってはいないだろう」
叫ぶかなめをなだめながらカウラはそうつぶやいていた。
「ザル検査じゃない!やっぱり人員刷新で西モスレムが仕切り始めた同盟厚生局はあてにならないのよ!もしかしてわざと演操系だけ引っかからないような装置を作るように西モスレムが頼んだんじゃないの?遼北の軛から解き放たれたと思ったら今度は西モスレムが騒動を起こすの?勘弁してよ本当に!」
アメリアまでもムキになって新生厚生局の非難を始めた。
「クラウゼよー。そこまで同盟厚生局を悪者にすることねーんじゃないのか?誰にだって間違いはあるもんだ。役所だって人間が運営してるんだ。間違いの一つや二つあっても仕方ねーだろ?それがあるのを前提としてアタシ等みたいな武装組織が存在する。違うか?」
落ち着いた様子でどっかりとランが腰を下ろした。つられるようにアメリアも誠を囲んで座り込んだ。
「私が茜警部から聞いた説明によると、いわゆる演操系の能力には二種類のパターンが存在するんだ。そしてその研究が始まったのはつい最近なんだ。そもそも法術は研究自体が地球圏の目をつけられると言うことで秘密裏に行われていた。ここまでその研究が進んでいる事にはその研究者の不断の努力に感謝すべきだな。それを非難するのは筋違いだ。文句があるのならそのことでいつでも遼州圏に手出しをする気満々だった地球圏に言え」
仕事熱心なカウラは法術に関する知識はこの中ではランに次いで多かったので自然とそんな言葉が口から出ていた。
「へえ、アメリカさんとかは遼州入植以来の研究でずいぶんたくさんサンプルを収集してたはずなんだけどな。連中は400年間何をしてたのかね?自分の研究は勝手にやってて法術の本家本元の遼州圏がそれをやると文句をつけて来る……自分勝手もいい加減にしろよって言いたいね」
かなめは非正規部隊時代に米軍とは何度も銃火を交わした事が有るのでアメリカの印象は良いものでは無かった。
「かなめよー、それはあくまで推測だろ?それにあそこは世論が基本的に『ネオアパルトヘイト』を公然とやってる白人至上主義でキリスト教原理主義国家で遼州人を都合のいい実験材料としか思ってない国だからな。それにあそこの情報統制技術は完璧だ。そんな事をかつては人種のサラダボウルと呼ばれた国からわずか数十年で変質させたアメリカの情報操作技術は舐められねえ。表向きはヒトゲノムの解析結果を生かした人種選別行為は一切やっていないことになってたはずがその舌の根も乾かぬうちに一斉に国民に遺伝子検査を義務付けて……とかいろいろ事例はあるからな。どこまであの国が法術について知っているかは大統領になって引継ぎでも受けなきゃわからねーだろうな」
話の腰を折られて口を尖らせながらランは話を続けた。
「それに一口に演操系って言うとよー。どうしても操る相手の意識そのものに介入して動きを制御すると思うだろ?確かにそう言う能力の持ち主の割合は高けーんだけど……」
ランの言葉にアメリカと言う国を信用していないかなめは今一つ納得がいかない表情を浮かべていた。
「なんだよそれは?操るんだから意識も乗っ取るんだろ?それともあれか?意識はそのままで体だけ動かすとか」
ふざけた調子でそう言うかなめの目には悪意が籠っていた。
「かなめちゃん!その能力欲しい!そして……誠ちゃんを……私のモノにする!あの変態のかえでちゃんから誠ちゃんを救う私なりの『アメリア十字軍だわ』!」
突然叫んだアメリアに誠達は冷たい視線を投げた。仕方が無いと言うように口を押さえてアメリアがそのままうつむいた。
「それじゃーねーよ。オメーの汚れた脳の十字軍なんて誰も有難がらねーし迷惑なだけだ。意識云々の話は能力の強弱であってここで言う能力の種類とは違う。それとなんでこの第二の演操術が分からなかったかと言う理由もそこに有るんだ」
ランはそう言うと静かにカウラの淹れたお茶を飲んだ。
「もったいつけるじゃねえか。姐御、いつもみたいにずばり言えよ」
短気なかなめはタンクトップの下から手を入れて豊かな胸の下の辺りをぼりぼり掻いている。思わず目をそらす誠にむっとしたような表情のカウラが映って誠も視線を落とした。
「ふー。まー分かりやすく言うと他人の能力を乗っ取るんだ。しかもその反応はあまりに微弱で反応を見つけるのには二重検査、三重検査が必要になる。例え、そいつに法術適性が見つかっても、結果は『法術適性はあるが能力は何もない無害な存在』と言う結論しか出ねー。ただ、それが完全に盲点になってるんだ」
しばらくランの言葉が理解できずに誠達は黙り込んでいた。
「どういう意味ですか?」
首をひねるカウラに少し笑みを浮かべてランは口を開いた。
「つまりだ、標的とする法術師の能力を借りて自在に操る。まー他人の褌で相撲をとるって奴さ。しかもそいつは何の法術も使えないただ『法術適性がある人間』として東和で言えば厚生省に登録される。その時点で東都警察は法術犯罪の容疑者リストからそいつは除外される。何をやっても東都警察にはそいつの資料はない。アタシ等もそいつ等に接触しようと思えば厚生省の書庫まで出向いて分厚い法術検査データのファイルを全部調べてそいつの名前を見つけるより方法がねーんだ」
ランはそう言うと自分の胸に手を伸ばしてきたかなめの頭を思い切り叩いた。
「何すんだ!テメー!」
ランはパンツを履かない『褌党』を自称していたのでその晒を巻いている胸を触られることを極端に嫌う傾向があった。
「いやあ中佐殿は褌党と聞いていてじゃあ、褌党なら胸にはブラジャーじゃなくってサラシを巻くのかなあとか言うと面白くってさ。褌と言えば姐御じゃん。姐御は褌にサラシに着流しが正装だからな。いわゆる『最終戦闘フォーム』。その恰好に雪駄に手に『関の孫六』を持って、『ちょっとアメリカ大統領を斬ってくるわ』とか言って隊の廊下を歩いてる姐御を何度見たことか……その度に叔父貴が土下座して、『今は止めてね?俺の責任問題になるから』って止めてる場面は見ていて面白かったけど」
かなめは心底面白そうにランに向ってそう言った。
「だと何でアタシの胸を触るんだ?それにあの国の大統領を今でも生かしてやっているのはアタシが慈悲深いからだ!その気になれば今からでも斬りに行っていーくらいだ!別に今からあの国の大統領と官僚と軍幹部の首を取ってきても良ーんだぞ?3時間くれれば簡単にできる!」
突然のかなめの行動にランは顔を赤らめながらいつもの理解不能なレベルの殺戮発言をした。そして同じように手を伸ばしてきたアメリアをその凶悪そうな瞳でにらみつけた。カウラはなんとも複雑そうな笑みを浮かべながらランが落ち着くのを待って口を開いた。
「馬鹿は置いておいて。つまり、法術の存在が広く認知されるまではその能力そのものが見つからなかったわけですね……例の意識乗っ取りタイプの通り魔のように法術師を飼っている勢力が絡んでいる可能性は少ないと」
カウラは冷静に話を聞いていて正確にそう言って見せた。
「そー言うこった。『近藤事件』までの法術の存在が秘密だった時代は法術が存在すると言うことだけを研究しているだけだったからな。それぞれの能力の関係なんて気にもかけるような研究すれば遼州圏には法術師と言う異能力者が存在するということを自白するようなことになる。能力が存在すること自体が不思議だった時代にはそれを利用してしまう力があるなんて考えもつかないだろーしな。となるとこの力はまったく未知の能力だ。見つかった事例も東和で二件ほどだと……ああ、その二人についてはアリバイがあるから今回の事件とは無関係だからな。ただ、今の検査体制でその二人が見つかったこと自体が奇跡と言えるな。他にも同様の法術師が存在すると考えるほーが自然だ」
落ち着いてつぶやくとランは立ち上がった。
「ここでグダグダ話していても始まらねーよ。飯食って隊で話そうや」
そんなランの言葉に誠達は時計を見た。ちょうど今日の朝食当番の西が得意の味噌汁に仕上げの隠し味を入れている時間だった。
「じゃあ食堂に行くか?」
かなめは切り替えが早いのでそう言って起き上がった。
「西園寺さん、何で疑問系なんですか?僕もお腹が空いてるんですよ!食べますよ僕も!」
仕方なく立ち上がるかなめについて誠も立ち上がった。アメリアはすでにドアに寄りかかって誠達を待っていた。
「それにしても他人の力を勝手に使えるってんだろ?最強じゃないか、考えてみたら。相手が強ければ強いほどそいつの力を無制限に使える。意外とランの姐御やお袋よりも強いかもしんねえな」
かなめのつぶやいた言葉に誠もうなずいた。そしてそうなれば自分の空間操作能力も利用されるだろうことを考えてそれをどう使うつもりなのかを考えてみた。
「そいつが最強だろーが最弱だろーが今のアタシ等がすべきことは飯を食うことだ。とっとと行くぞ!」
そう言うと気軽に手を振ってランが廊下に出て行くのに誠達は付き従った。




