↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第十七章 『特殊な部隊』と邪魔なちんちくりん

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/77

第42話 ノイズの中の干渉空間

「よし……ラーナの指摘の通り、豊川署管轄の全アストラルデータから神前のアストラルパターンを抜き取れば……出た!ってなんだこりゃ?」

挿絵(By みてみん)

 豊川署の狭い部屋。かなめの叫びにカウラとアメリアが一気にかなめの端末に顔を寄せた。


「狭い!それより何よかなめちゃん!今の絶叫!驚いたじゃない!」


 かなめが元用具入れであるこの部屋の天井を見上げて叫んだ。


「いや、原因はすぐわかった。この年がら年中法術ゲージが振り切れるほど法術を発動している人間なんかこの豊川には一人しか居ねえ。あのちんちくりんだ!こんな所まで来てアタシ等の足を引っ張ろうってのかランの姐御は!」


 明らかにうんざりした表情でかなめは首筋に刺したジャックに手をやると目の前の真っ赤に染まって、まったく意味をなさなくなっているアストラルデータゲージを見つめた。


 次の瞬間、画面に見慣れた幼女の顔が大写しにされた。


 クバルカ・ラン中佐の身分証にある写真である。


「ああ、ランちゃんは身体強化の法術を年がら年中出してるからね。でも、あの人のアストラルパターンなんてあの人の脳内と同じでワンパターンだし、あの人の行動半径も隊とお世話になってる組事務所と寿司屋と駅前の将棋センターだけなんだから簡単にこの要らないノイズは除去できるでしょ?電子戦が嫌いだからしないだけでそれこそ政府機関のネットワークのほとんどのセキュリティを解除できるはずのかなめちゃんなら出来るでしょ?」


 アメリアはちっちゃくて口うるさい上官とかなめの二人をこき下ろしながらそう言っていつもの糸目で挑発するようにかなめを見つめた。


「そんなの分かってる!姐御の行動範囲が狭いのはアタシも知ってる!だから、姐御の行動範囲のアストラルゲージのデータを無視して……それで近くの奴には姐御のパターンを抜くフィルターを掛けて……ああ!面倒くせえ!あのちんちくりん!歩いてるだけで人に迷惑かけてるんだ!なにが『人類最強』だ!アタシに面倒を掛けるのがそんなに楽しいのか!中身は昭和の人情オヤジなのに!」

挿絵(By みてみん)

 明らかにランがもたらした破滅的なアストラルパターンのノイズを消す作業に手間取りながらかなめはそう言ってキレかけていた。


「文句ばかり言うな!貴様は文句を言うのと銃を撃つことしか能が無いんだな。それに中佐が強いから我々は常に前線で中佐の指示に従えるんだ。それとも貴様は足手まといにしかならない無能な指揮官の下で命の危険のある任務に就くのが趣味なのか?」


 いつものようにカウラのツッコミが入った。


「そうよ、狭いのは部屋だけで十分!ランちゃんの強さの価値はそれ以上!そんなこと最初から分かったことじゃないの!文句は言わないでさっさと作業を進める!急いでね!」


 ランの特徴的だが強力すぎるアストラルノイズを除去するとようやくまるで心電図のような複数の波線で表示されたアストラルパターン解析の結果がそこに現れた。そこには明らかにランではない強力な法術師の存在があったことを示すアストラル波動の揺らぎが見て取れた。


「これって神前パターンに似てるな……神前の登場で揺らぎが増幅されて浮き上がったわけだ。まったくもって神前のおかげだな。ラーナ、神前をあそこに連れて行ったのは正解だわ。あそこでは神前が法術を使う時に起きる現象と同じ現象が起きたことはこれで証明できた。あそこで起きたのは干渉空間の展開だ。あの大学生をぶった切ったのは間違いなく干渉空間だ」 


 かなめが快活な笑顔で突っ立っている誠を見上げる。誠はそのタレ目を見ながら面映い気持ちで頭を掻いた。


「神前曹長のパターンは独特っすからね。まだ仮説なんすけど他者の能力をコントロールするということは強い法術反応があれば、かすかな残留波動でも増幅されるんじゃ無いかと思うんすけど……当たりました。そして、さっき廊下ですれ違った時今回の事件の私達には署長が内緒にしている専任捜査官の人の独り言を聞いたんですけど、あのおばさんはやっぱり干渉空間を使える法術師だったそうっす。しかもこれまでと同様に本人の意識が遠くなった次の瞬間に事件が起きたのも同じっす」 


 ラーナは端末の画面を指差してニヤリと笑う。その表情に誠も安堵の息をついた。


「この資料の意味するところは、あの場所に間違いなく法術師、しかも特殊な能力を持った人物が事件発生時刻前後に確実にいたと言うわけだ……そして現在容疑者として拘束されている人物が法術師と知ってその能力を把握できる状況でその能力を乗っ取った。つまり事件発生時には本当の犯人は現在拘束されている人物を視認できる範囲内に確かにいたということだ」 


 カウラはそう言って特殊な波動が映されている画面に見入った。


「近くの民間の防犯カメラの映像。これを証拠に開示を頼むことはできないの?」 


 かなめもアメリアもすっかり乗り気でラーナを見つめた。


「任意になるんでしょうが……事件が事件すからね。市の設置したものや駅前商店会とか自治会とかには私が手を回しておくっす。まあアタシ達でなく所轄の仕事になると思うんすけど」 


 ラーナは安堵の表情を浮かべながら力なくうなずいた。自信を持って誠達の質問に答えているように見えた彼女もこのようなケースの対応は初めてなのだろう。何処と無くそのやわらかそうな頬が紅潮している。


「所轄任せになるのはしかたねえな。それにアタシが知っているだけでもあそこは引ったくりの発生で有名な場所だ。何台有るか分からねえが、監視カメラはそれなりの数があると思うぞ。それとアタシ等が歩き回って見つけた要注意人物と照らし合わせればかなりの確率で容疑者を絞り込めるんじゃないかな」


 かなめもラーナにあわせて椅子の背もたれに体を任せてだらしなく伸びをしていた。


 だがカウラはすぐに冷静さを取り戻したように難しい表情を浮かべていた。 


「希望的観測だな。すべてが上手く行くとは限らないのは不動産や巡りで分かったことじゃないのか?何時も西園寺が言っているな、犯人に前科が無いと身元の特定が難しいと。今回の事件の真の容疑者に前科が無かった場合はどうするんだ?」


 そんなカウラの言葉に一番に反応してにらみ付けたのは意外にもラーナだった。だが彼女も捜査官である。カウラの言葉に一理あることは十分承知していた。


「う……るせえよ。何か?文句でもあるのか?そんなもん……って駅前のあの時間。雨が降っていたといてもあの現場を見ていた人間は100人じゃ済まねえな。それの行動を全部把握するとなると……確かに真の犯人に前科がねえと特定は無理だ」 


 かなめの声は怒りに震えていた。だがカウラの表情は変わらない。


「確かにカウラちゃんの言うとおりかもね。希望的観測。最初だって不動産屋をまわればすぐに犯人に行き着くって思って失敗したじゃないの」 


 アメリアもまた結果に満足が行っていないようだった。


「確かに」 


 アメリアに駄目を押されて落ち込んだようにかなめは頭を垂れた。でもそれは本気でしょげているというよりもふざけているように誠には見えた。事実そんなかなめを見るカウラの表情は真剣だが暗いものではない。そんな上司達を見ながら誠もこれまでの手探りで何もできないと思っていた自分達の手に入れたものがそれなりの手柄かも知れないとわくわくする気持ちを抑え切れなかった。


 その時不意にドアを開くものがいた。


「あの……」 

挿絵(By みてみん)

 それは杉田と言うこの署と誠達との窓口、つまりあてにならない男だった。


「なんすか?定時を過ぎたら帰ってくれとか言うんすかね」 


 珍しくラーナは階級が上の杉田に対し強気に構えた。だが杉田は首を振って否定した。


「いえ、証拠が揃ったのは知っていますから」 


 その言葉に誠は嫌な予感がした。


「証拠が揃った?まだ容疑者も……」 


 カウラの言葉に杉田は信じられない生き物に出会ったとでもいうような顔をした。


「容疑者が自首して来ましたから。事件は解決です。ですので事件はすべて解決です。お疲れさまでしたね」 


 杉田の突然の言葉に誠達はその言葉の意味するところを知って言葉を失った。

 

「なんだそりゃ!そんなの単なる自首マニアじゃねえのか?なんでそんな珍妙な趣味の人間にこの署の署員は騙されるんだ?こんなことどんなテレビに出て来る大事件だったら起きて当然の出来事だろうが!下らねえ!自罰志向の強い社会不適合者の面倒をなんでアタシ等が見なきゃいけねえんだ?オメエ等もオメエ等だ!要人襲撃やテロ事件が起きると自首マニアが自首して来るが、そいつ等にはそんな事件を起こす能力が無いって分かっててその度に東都警察は追い返してるぞ!今回は奇妙な事件でこれまで最大の被害が出た!そんな事件で『自分こそあらゆる法術を乗っ取れる最強の法術師でござい』と嘘をついて自首して来る馬鹿が居ることくらいなんで考えがつかねえんだ!今回の事件を深読みできるだけのお頭があれば今回の事件が大規模テロの自主以上の意味があることくらいその手の自首マニアが食いつきそうなことくらい考え付いて当然だろ?なんでそんなことも分かんねえんだ!」


 かなめは吐き捨てるようにそう言った。


「いえ、ちゃんと法術適正が出ていますし。本人の供述にも矛盾したところは無いですから。ですので、事件は解決ですよ。これ以上の捜査協力は必要ありませんので」 


 杉田の言葉にかなめはいらだったように足踏みをする。その高圧的な態度に杉田は白髪の混じった頭を掻いた。


「法術適正でもその能力の方向性はかなり違うはずっすよ。検査されたんすか?」 


 そんなラーナの言葉に杉田は何も知らないかのようにぽかんとした。


「でも法術適正がありますから。それに本人の供述には矛盾が有りませんし……」 


 杉田はそう繰り返すばかりだった。


「その辺りを詳しく判断できる専門家の意見は?」 


 カウラの言葉にまた杉田はぽかんとする。


「でも、法術適性があるんですよ。普通の人間じゃない。しかも本人もそのことをすべて認めている。なら、十分でしょう。これから先は私達でもできる仕事です」 


 杉田にとっては法術など理解不能な超能力でしかないのはその態度を見ればわかった。杉田には法術適性のある犯人を名乗る人物の逮捕が出来れば目障りな誠達を追い出す口実が出来るというくらいの認識しか無いようだった。


「杉田さん……出て行っていただけます?法術適性があれば犯人と言うことならここに立ってる神前巡査部長も、そこのカルビナ巡査にも法術適性はありますよ?もし二人が私が犯人ですと言ったらあなたは逮捕するんですか?アリバイならありますけど」 


 珍しい殺気がこもったアメリアの言葉。それを聞いて杉田はしかたがないというように部屋を出て行った。


「馬鹿かアイツは。法術師は全員犯罪者だと決めてかかってるんだ!気に食わねえ!」 


 かなめは見下すような視線をドアに向けるとそう吐き捨てた。


「西園寺大尉、馬鹿は無いんじゃないっすか。まあ……地方の警察官僚からしたらあの程度で済んでるだけましっすよ。東都警察はもっと洗練されて陰湿な手を使って私達を追い出そうとするところっすから。東都警察で茜警部が受けてる扱いに比べたらあの程度は物の数には入らないっすよ」 


 そう言うとラーナは気がついたように立ち上がり、そのまま急に自分の机の端末に飛びついた。だがすぐに呆然と天井を見詰めて黙りこんだ。かなめも目の前の端末を見た。そこにはデータの切断を意味する表示が映るだけ。先ほどの操作データはすでに消えていた。

挿絵(By みてみん)

「止められたか、メインコンピュータとの接続が。要するに自白マニアの証言に矛盾点が見つかるまでは我々の独自の捜査を不可能にできる。ここの署長はそのいい口実が出来たとでもいうことなんだろうな」 


 カウラの言葉で先ほどの杉田の言いたいことが誠にもようやく理解できた。そして杉田のその報告をさせた署長の考えもこの場にいる全員には分かっていた。


 千要県警の制服を貸与されて勤務している誠達も所詮は同盟司法局という外様の組織の人間である。メインコンピュータのデータとの接続と言う特権はできるだけ与えたくない。そんなかなめ達が警察署の重要機密とも言えるアストラルデータ監視システムにアクセスしている。正直気分が良い訳は無いだろう。


 そこに今、とりあえず容疑者が自首してきた。これを口実に捜査の権限を誠たちから一時的とはいえ取り上げて、すべて県警が行なうことの大義名分ができたことになる。当然そうなれば外様の誠達に情報を流す必要もなくなる。そんな風に初日に顔を見せた喰えない署長が判断したのだろう。


「完全な我々に対する敵対行為とみなすべきなんだろうな。でも……県警本部の連中が動けばその自首した人間が犯人かどうかなんてすぐに分かるわよね。県警本部の法術関連の科学的技術は茜ちゃんが作った法術犯罪の捜査マニュアルに準拠したものだから、法術適性という大雑把なくくりでは法術犯罪全体を把握できないことは向こうも百も承知なはずよ。ただ、私たちを一時的に動けなくする口実としては最高の展開だわね。あのちっちゃい署長も今頃は所長室でいつももっとちっちゃいランちゃんに『関の孫六』を首元に突きつけられたうっぷんが晴らせたと大笑いしてるんじゃないの?」 


 アメリアの言葉にラーナはうなずいた。そしてなぜかその言葉を聞いてカウラが端末に飛びつき操作を始めた。


「どうする気だ?署のデータバンクのアクセスはできないんだろ?つまり、県警本部が自首マニアが犯人で無いと誰が見ても分かる状態になるまでアタシ等には何にもできねえってことだぞ?」


 机に突っ伏せて顔だけ上げてかなめがつぶやく。ただカウラの表情は決して暗いものではない。むしろ何か名案が思いついたとでも言うように誠には輝いて見えた。 

挿絵(By みてみん)

「西園寺、県警のデータにここから直接アクセスできなければ別の警察組織の法術関連のシステムから迂回して県警のシステムに侵入すればいいだけの話だ。なあに、私の人脈を使うだけだ。これも隊長から学んだ『特殊な部隊』のお家芸というところかな」 


 エメラルドグリーンのポニーテールを何度か撫でながらカウラは東都警察本庁の機動隊への通信の為の準備を始めていた。


「東都警察の機動隊経由で侵入を試みる……確かお前と同じロットで生産されたのがいたんだっけ?確かエルマ・ドラーゼとか言う警部補」 


 かなめの言葉を無視してカウラはキーボードを叩き続ける。


「諦めなければどうにかなるものさ。早速エルマに連絡してみよう。エルマも東都警察の一員だ。仲の悪い千要県警の鼻を明かせるとなれば悪い顔をはしないだろう」 


 カウラの頬にはいつもならかなめに浮かんでいるような悪い笑みが浮かんでいたのを誠は見逃さなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。