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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第十四章 『特殊な部隊』と焼畑農業の国から来た警官

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第37話 お巡りさんのやり方

 朝、豊川署の旧用具室である誠達が押し込められた部屋は昨日までの憂鬱な雰囲気を吹き飛ばす活気に満ちていた。


 特に新戦力であるラーナへの期待に胸を熱くしていつでも犯人を現行犯で射殺する気満々のかなめのテンションは、誠にはほとんど病気に見えるほど高かった。

挿絵(By みてみん)

「それじゃあ……方針はそれで決まったわけだから行こうじゃねえか!茜流……いや、ラーナに敬意を表してラーナ流と言うことにしておくか!いわゆる『お巡りさん』の捜査方法を今回の事件でしっかり学習してやる!カウラ!神前!オメエ等もしっかり学習しろよ!茜に何度も借りを作るのは御免なんだからな!今回でアイツの手口をすべて学習してこれからはアイツの補佐任務じゃなくってアタシ等があくまで主役で法術犯罪に当たれるようになる!それがアタシ等の目的だ!あの真面目以外にとりえのねえ青い瞳で上から目線で説教される日々も今日で終わりだ!アタシ等は今日から生まれ変わるんだ!ああ、アメリア、オメエには何にも期待してねえから帰っていいぞ!帰る時はちゃんとその警部の階級章を置いて帰れよ!アタシ達の先生であるラーナが巡査のままってのはどうも座りが悪いんだ。そこでここにいる間はあのラーナをこき使ってる茜と同じ警部の階級章を付けて勤務してもらう。何にも役に立たなかった警部よりも役に立つ巡査を一時的とはいえ警部扱いにする。それぐらいのサービス精神を見せるのは当然だろ?オメエもいつもサービス精神は大事だって言ってるじゃねえか!だったら反論の余地はなにもねえよな!」 


 かなめはそう言うと千要県警の紺色のジャンバーを肩に突っかけるようにして立ち上がった。とりあえず年下でありながら明らかにあらゆる事件でその明晰な頭脳でかなめに指示を出すばかりの茜に対するかなめの日頃のうっぷんがどれほど溜まっていたかと言うかなめの言葉に誠は唖然としていた。


 とりあえずラーナが到着するまでにとラーナが誠達に与えた捜査の最初のテーマというものは新規の住民登録を行なった人物の資料をできるだけ多く公開されている情報から探れという地道な行動だった。


「しかし……ラーナちゃんも言葉で新規住人の資料をすべて確認しろだなんて簡単に言ってくれるわね。それでラーナちゃんが来たらラーナちゃんの指示通りに豊川の全世帯を訪問して挨拶をして回れだって……なんでそんな面倒な話になるのよ。それで事件が解決するのなら誰も苦労はしないわよ。これが本当にお巡りさんのお仕事ならばお巡りさんのお仕事って本当に大変よね。それに法術犯罪者に出会った時に頼りになる武器は武装は拳銃とショットガンだけ?こんなので法術師とやりあうの?自殺行為じゃないの……もし犯人がかえでちゃんクラスの法術師だったら死にに行くようなものよ。ラーナちゃんも大人しそうな顔をしてそんな無茶なことを私達にしろっていうわけ?」 


 アメリアはいつもの愛銃P7M13を見つめつつそう愚痴った。


「ショットガンはゴム弾入りの非殺傷弾入りだ。しかも一発撃ったら始末書一枚だそうだ。西園寺なら何枚始末書を書かされることになるやら。法術師が出てきたら法術対策部隊が来るまでその場で待機なんだそうだ。悠長と言うかなんと言うか……。ラーナは東和の警察ではそれは当たり前で遼帝国でラーナが駐在勤務をしていた時の銃器の使用許可はもっと厳しかったという。あの焼き畑農業の国の遼帝国なら犯人の武器は鍬や鎌程度だから銃で十分対応可能だが、この東和の犯罪者は、金さえあれば密造拳銃や密輸銃で武装している可能性もある。ラーナの常識がこの東和で通用するとはとても思えないのだが、それに茜警部が何も言わなかった以上、東和の警察でもそれが常識なのだろう」 


 アメリアもカウラも顔色は冴えなかった。司法局の丙種装備よりも落ちる装備に不満を言いたい気持ちは誠にもよく分かった。相手は法術師の能力を乗っ取る化け物である。空間制御系の法術を使われればショットガンなどお守り以下なのは嫌というほど分かっている。


「でも準軍事行動じゃないんですから実弾は使うのはあまり褒められたものでは無いですよ。そもそも僕たちがこれまで銃を撃ち過ぎたんですよ。相手は軍人でもテロリストでも無いんですよ。今回の犯人は民間人のちょっと変わった法術を使う一般人です。それに自動小銃を構えた僕たちが犯人を見つけ次第問答無用で襲撃を仕掛けるんですか?それこそ僕がこの『特殊な部隊』に来るまではアニメかゲームの中でしかありえない出来事としか思えませんでしたよ。これまでが異常だったんで、東和に生まれ育った僕に言わせればこちらの方が普通の捜査活動です」


 不満そうな女性陣を落ち着かせようと誠は口を開いた。そんな彼を明らかにあざけるような視線でかなめが見つめてきた。 


「奇麗事は良いけどよう。オメエは租界で撃ちまくらなかったか?相手が軍やテロリストならいくら撃っても良心は痛まねえってか?軍人もテロリストも民間人も同じ人間だ。人を殺してるのは同じってことだ。だったら同じ対応をしてやるのが人間としての当たり前の行動じゃねえのか?」 


 かなめはそう言うが、撃ちまくったのはかなめで自分は一発も撃っていないと誠は反論したかった。


「撃ちまくるのは誠ちゃんじゃなくてかなめちゃんでしょ?それ以前に誠ちゃんの下手な鉄砲を市街地で撃ちまくられたら私も困るわよ。目の前で戦ってるのは私達よ。誠ちゃんのどこに飛んでいくか分からない弾が目の前の私達の背中や後頭部に当たる確率の方がはるかに高いわ。その点、今回は単なる戸別訪問。そもそも普通の一般人のお宅にお邪魔するだけ。そこに自動小銃やRPGを構えて待ち構えている人間がいるとかなめちゃんは思ってるの?思い込みたいんでしょうね……かなめちゃんとしてはそちらの方が好みだから」 


 入り口に立ってニヤニヤ笑っているかなめを押しのけるようにしてアメリアはそのままドアを出た。そしてそこで何かとぶつかってよろめいた。

挿絵(By みてみん)

「ごめんなさい……ああ、ラーナちゃん!ごめんね!茜ちゃんのお手伝いで忙しいんでしょ?本当はお手伝いなんてお願いできる立場じゃないのは分かってるんだけど、私ももう手詰まりなのよ!お願い、手伝って!」 


 大柄なアメリアはよろめく程度で済んだが走ってきた小柄なラーナは廊下に倒れてぶつけたひじをさすっていた。ラーナはすぐに手にした荷物が無事か確認すると申し訳なさそうにアメリアを見上げた。


「あまり廊下は走るものじゃないな。だからそう言うことになる」 


 気遣うような調子でカウラが立ち上がろうとするラーナに手を貸した。


「すいやせん!ベルガー大尉!前見てませんでした!」 


 カウラを見つけてラーナはすぐに立ち上がって敬礼をした。さすがに司法局法術特捜本部の捜査官と言うこともあって警察の制服はしっかり板についている。彼女ならこの手詰まり状態を打破してくれると誠は期待して彼女を見つめていた。


「神前曹長……」 


 ラーナはすぐに誠の襟の階級章を見て誠が自分より階級が上なことを悟った。


「ああ、こいつは巡査部長だそうだ。役に立たないけど法術が使えるだけで巡査部長とはこの世も末だな。先生にあたるラーナより階級が上とは神前は生意気だ!オメエの階級は今日から『巡査見習い』だ!ラーナ、神前の徽章は巡査部長だがこれからはアタシ等の中では神前は『巡査見習い』として扱うからオメエも格下として神前を顎で使って良いぞ!」


 皮肉るようにかなめはそう言ってラーナを見つめる。 


「そうなんですか?まあ、西園寺さんは滅茶苦茶言うから無視していいって茜警部に言われてるんでそれは却下っす。神前曹長が巡査部長ってことは、部長って呼ばなきゃならないんっすね?それと西園寺さん。警察には『巡査見習い』なんていう階級は無いっす」


 ラーナははきはきとそう答えた。


「部長ねえ……ずいぶんとまあ貫録の無い部長だこと」 


 ニヤニヤ笑っているかなめから話を聞いてラーナは少しばかり得意げに誠を見上げていた。


「まあ無駄な挨拶は抜きにして、失礼するっす……」 


 そう言うと慣れた手つきで中央のテーブルに腰をかけたラーナは、手にした大きなバッグから携帯端末を取り出すと、手早く立体画像表示システムを起動した。すぐに近隣の交番のデータがオープンになり、その近辺のアパートの状況を表示する画面が映った。

挿絵(By みてみん)

「時間が無いので最初に押さえておきたいことだけ言っておくっすけど、やはり捜査の基本は地道な聞き込みっすよね。恐らく犯人は年明け前後にこの豊川に転居してると思われるっすから各交番に新規の入居者のいるアパートやマンションを訪問する指示を各交番にするっす」 


 ラーナはこれまで誠達が考え付かなかった捜査方法を提示してきた。誠はそこで初めて、ラーナという人物を茜の荷物持ちではなく、警察官として見た。


「良いのかよ……簡単に言うけど。アタシ等は捜査会議にも出れない身分なんだぜ。それに訪問するって言ったって用件はどうするんだよ。『あなたは犯人ですか?』とか聞いてまわる気か?」


 パイプ椅子に腰を下ろすと、自嘲気味な笑みを交えてつぶやくかなめにラーナはこともなげに微笑んで見せる。 


「訪問の名目については問題ないっす。防犯担当の署員には話はついてるっすから私たちは防犯強化の特別活動として防犯指導に関するパンフレットの配布に来たと言う形で書類を持って訪問つう形をとるっす。それに先程ここに来る前に防犯課からその手のパンフレットはもらってきてるっすから。それに何かあった場合のフォローも刑事課に寄ってきたっすからすでに話は通ってるっす」 


 かなめの不安そうな顔に淡々と答えるラーナの顔が面白くて誠が噴出しそうになる。それに腹を立てたかなめは殴るポーズをした。それを無視してラーナは端末の画面を切り替えた。


「みなさんにも今朝のメールでお知らせしたとおり、現在6万件分のアパートやマンションが対象になるっぽいすけど、犯人が法術適正のある人物と仮定した場合、正直あまりいい物件には出会わないっすから、家族向けや高級マンションは除外するとなるとかなり件数は減らせるっすよ」 


 そう言うとすぐに画面が検索中のものに切り替わった。そして豊川市内の地図に赤い点と青い点が点滅する画面へと切り替わった。赤い点はどちらかといえば駅の周りや旧街道の周りという再開発前の古い町並みの中に集中していた。一方青い点は新開発の公営団地や新しく延伸された私鉄の路線近辺に散らばっていた。

挿絵(By みてみん)

「この赤い点がかつて警察が別の事件で捜査のために入ったことのあるアパートやマンションす。一方青いのが捜査を受けてないマンション。青い点の方は正直あまり当たりが無いと思ったほうが良いっす。警邏(けいら)の担当者も都合があるっすから赤い点から優先的に聞き込みを開始するのをお勧めするっす」


 事も無げに言うラーナの言葉に誠達はただ感心しながら聞き入るしかなかった。 


「あれか……建ててから年数が経ってるとか、駐車場が無いとか……条件が悪くてあまり入居者を選ばない物件の方が当たりを引く可能性が高いということか?」 


 あごに手を当てながら納得しながらカウラがうなずいた。


「ベルガー大尉。さすがっすね。悲しいことっすけど入居条件の緩いところのほうが犯罪発生率は高いっすから。そこでさらに念を押す意味を込めてこの赤い物件に関しては直接私達が訪問するっす」 


 ラーナはそう言うと今度は地図から表へと画面を切り替える。


「おい、ラーナ。ずいぶん簡単に言うけど……減らしたとはいえそれなりに数があるぞ?これを全部アタシ等で分担して戸別訪問か?それこそ日が暮れるぐらいの騒ぎじゃねえぞ」


 あっさり『直接訪問』などと口にするラーナをかなめは慌てたような声でいさめようとした。だがラーナはまるで動じることなくそれに答えた。 


「西園寺大尉も心配性っすね。この前の同盟厚生局の事件に比べたら調べる範囲は半分以下っすよ。しかも私達は司法局から法術関連の専門家ということで捜査に参加って形っすから。率先して捜査活動を行わないといけないのは任務上仕方ないっすよ」 


 ラーナは思わず笑いを漏らしていた。アメリアも納得がいったように腕組みをしながらうなずいていた。


「当然分かれての捜査になるな。全員で回るのは効率が悪すぎる」 


 カウラはそう言うと誠達を見回した。


「私と神前。それにカルビナで回る。西園寺とアメリアで行動してくれ。アメリアは警部なんだ。それくらいは出来るだろ?」


 カウラは冷静にそう言うと不満を言って来るだろうアメリアに目をやった。 


「えー!なんで私とかなめちゃんなの?それになんでカウラちゃんがそう言うことを決めるのよ!私は警部!カウラちゃんは警部補!警察と軍隊は階級がすべて!私が決めるのが当然じゃないの!」


 まるで子供のように抗議するアメリアにカウラは穏やかな笑みを湛えながら続けた。 


「お前は何か理由を見つけるとすぐにそれを理由にしてサボるからな、ほっとくと。西園寺も楽がしたいとか飽きたという理由でサボるがアメリアの監視には趣旨が違うから最適だ。それに司法局では階級はあまり意味は無いってことになってるだろ?先に決めたほうが勝ちだ」 


 カウラはそう言うと自分の小型携帯端末を胸のポケットから取り出しラーナの情報のダウンロードを始めた。


「さてと……犯人め!見つけたらギトンギトンしてやる!アメリア!しっかりついて来いよ!今のアタシは犯人逮捕に向けての情熱に燃えてるんだ!オメエがサボる気配を見せたらすぐに射殺してやる!」

挿絵(By みてみん)

 誠は暴れるかなめを想像して冷や汗をかきながら彼女を見つめた。 


「西園寺さんそれだけは止めてください。世間体と言うものもありますので……犯人もアメリアさんも射殺しちゃだめです」 


 パンチのポーズをとるかなめを誠がなんとかなだめた。そんな誠達の様子を端末をしまいながらラーナは楽しそうに眺めていた。



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