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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第十三章 『特殊な部隊』と何気ない一言

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第36話 ラーナという切り札

 島田は豚串を一串平らげ、烏龍茶を一気に飲み干すとその見事な食べっぷりに言葉を無くして見守っていた誠達に目を向けた。


「俺を見てたって事件は解決しませんよ。それより何か作戦会議でもしてたんでしょ?続けてくださいよ……何かいいアイデアとかあったら教えますから。俺は馬鹿ですけど悪知恵だけは働くたちなんで……なんか狡いことを考えていたんでしょ?さっきも言いましたけど県警は豊川署にアメリアさん達が張り付いているってこと良いことに、うちから見えない様に県警も千要の中央署に捜査本部を設置して私服の捜査官をかなりの数投入してきてますよ。それへの反転攻勢の秘策。IQ250の天才艦長のアメリアさんなら閃いてるんじゃないっすか?」 


 島田は自分が原因だと分かっているくせにニヤニヤ笑いながら誠達を面白そうに眺めていた。


「続けろったって……よう。まあ、県警のアタシ等へのこれまでの当たりから考えてそんなことをしてくるのは予想の範囲だけど、だからと言って法術犯罪特有の捜査方法なんてアタシ等に思いつくと思うか?オメエが天才扱いしている単なるオタクのアメリアは本来東和海軍からの出向!アタシは甲武陸軍からの出向!カウラは東和陸軍からの出向!神前は東和宇宙軍からの出向……いや、今は籍は甲武海軍にあるんだったな。そもそも捜査のイロハなんて一度も習ったことなんかねえんだよ!犯罪者の逮捕の為に警察学校でひたすら座学と実習を重ねてから交番勤務で経験を積んで、それで初めて刑事になった県警の人間とはそもそも考え方が違うんだ!そんなアタシ等に何を期待するんだ?オメエ、期待する相手の顔を見て期待をしろよ!オメエはバイク乗りなら自転車屋にバイクの修理を頼むか?頼まねえだろ?それとおんなじことだ!」 


 かなめはそう言うと再び酒の入ったグラスに手を伸ばす。島田はそれを奪い取った。むっとした表情のかなめだが、すぐに彼女はいつもどおりつまらなそうに視線をそらすとそのまま立ち上がろうとする。

挿絵(By みてみん)

「酒に逃げるのはやめた方がいいですよ。それに今の言い訳は見苦しく聞こえますねえ。事件は起きていて、その専門教育を受けている県警もあれだけの数の私服警官を出していながら犯人の尻尾すらつかめていない。限界なんでしょ?通常の捜査なら……つまり専門家でもどうしようもない犯人ってことだ。俺は犯人の専門家だからその点は俺に意見を求めるのもアリなんじゃないっすか?」 


 島田はどうやらアメリアの出向が上手く行かないだろうことをヤンキーの野生の勘で理解していたらしい。そして、その時こそ年がら年中なにがしかの容疑で豊川署に連行されている自分の出番だとひたすら待ち続けていたという顔をしていた。


「オメエが逮捕されるのは全部現行犯かオメエが誰が見ても犯罪なのを自分は良いことをしたと勘違いして連絡先を現場に残しているからだろ?そんなのとは今回の犯人の行動パターンはまるで違うんだ!いくら警察でも現行犯でもなきゃ令状無しじゃ何にもできねえんだよ!犯人は確実に東都都心からこっちに移って来た!しかもこの一月の間でだ!そこまでわかっていながら……令状を出す権限があるのは裁判所!それは県警も同じはずだ!でも連中には経験と圧倒的なマンパワーがある!少しでも尻尾を掴んだら元々そう言う手続きに慣れてる連中はあっという間に犯人を特定して裁判所に根回しをして令状を取って即逮捕だ!そうしてアタシ等を『無能』と呼んでこれまでのうっぷんを晴らそうって腹だ!さらに仲の悪い東都警察の鼻も明かせるとなったら千要県警が手段を択ばねえのは見えてるだろうが!」 


 そこまで言うと悔しそうにどっかりと腰を下ろすかなめ。同じようにカウラとパーラがうなずきながら唇を噛み締めていた。


「俺は難しいことは分からねえですけど、でも奴はこの豊川に居る。そして県警は奴が誰なのかを特定できていない。だったら西園寺さん達で連中より先にとっ捕まえてやれば良いじゃないですか?県警が相当数の私服を街に巡回させている中をサクッとおいしく持っていく。それに、令状の手配なら茜お嬢さんは元東都警察のキャリアで元弁護士なんだから県警と勝負しても勝ち目はありますよ。ですから、ここは俺とサラを捜査に加えてもらえないですかね……いい加減『全自動温泉卵製造器』の世話は飽きたんで。正直あそこは暑くて立っているだけで疲れるんで」 


 あっさりと島田はそう言う。彼の部下の技術部の士官達なら警察上層部に知られずに楽に不動産取引のネットワークに侵入して情報を得ることができることは知っていた。だが犯人を闇に葬ることが目的の非正規作戦任務ならともかく警察官の身分の誠達にはどれも無理な話だった。


「それに今回は足を使うしかねえですかね……隊長は『放っておけ』って話ですし。でも俺とサラなら隊長から『アイツ等は何をするか分からない』認定されているんで。別に仕事をサボっても隊長は何も言いませんよ。ランの姐御はうるさいですけど、事件解決後に二人で並んで『全自動温泉卵製造器』の前で1日正座すれば済むことですから」 


 島田は春子が運んで来た二杯目の烏龍茶を飲みながらそう答えた。


「叔父貴が?アイツはサドだな。アタシ等が突っ走った果てに息切れすることを知っててこの出向を許可したんだ。それにあの『駄目人間』はプライドゼロが売りだから県警にいくらうちが笑いものにされようが全く気にならないと来てる。あと、島田。叔父貴のオメエの評価は戦力外通告って言うんだ。そんな事を自慢して何が楽しいよ」 


 かなめの言葉にサラが噴出す。かなめがにらみつけるが迫力不足のようで二人は相変わらず笑い続けていた。

挿絵(By みてみん)

「大変みたいね……私のおごり。島田君の言うことは少しあってると私は思うわよ。皆さん仲間なんでしょ?だったら助け合う。島田君とサラさんはあのサウナ状態のハンガーで1日正座してもいいって言うんだから協力してもらえば?」 


 厨房から出ていた春子が鶏の刺身の盛り合わせを持って現れた。


「これは旨そうですね……クバルカ中佐のお気に入りの鳥刺しですよ。いいんですか?」


 誠の言葉に笑みを浮かべて春子がうなずいた。母親の甘さに小夏がいつものようにかなめをにらんだ。


「ええ、色々煮詰まって大変なんでしょ?でもいつでも新さんの力を借りてばかりじゃ駄目でしょうしね。少しは自立しないと。私も新さんが私の前から消えた時に夜の仕事を止めてこういうお店を持つことを決めて初めて本当の意味で自立出来たんだから。皆さんも今がその時なんじゃないかしら?」 


 春子は年上の余裕で諭すような口調で誠達にそう言った。


「いただきまーす……と言ってもさあ……あー!頭にきた!鶏と言うとあの鳥類の顔をしたあの杉田とか言う刑事の顔を思い出しちまった!あの顔どっかで見たことがあると思ったらアレは鳥類の顔だ!アイツは鶏から進化したんだ!」 

挿絵(By みてみん)

 そう言いながらかなめは立ち上がると厨房に飛び込んだ。


「大丈夫かな……かなめちゃん。そもそもあの人は遼州人だからこの1億年間一切進化はしていないと思うわよ。確かにあの人の顔がどっかで見たことがあるなあと思ってたらかなめちゃんの言う通り鶏顔なのは事実だけど」 


 アメリアの心配そうな声だが厨房ではまったく音がしなかった。


 誠達が黙っていると無表情のかなめが手に取り皿を持って現れる。そしてそのまま一同に配り始めた。必死に怒りを押し殺している。そのかなめの奇行を見ながら誠にはそんな彼女の思いが痛いほど分かった。


「そうカリカリしなくてもいいじゃないですか!それより俺とサラの捜査協力……許可してもらえるんですよね?」 


 島田はそう言うとにんまり笑う。その表情にあわせるように小夏が笑みを浮かべた。


「なんで笑ってるんだよ。人が困ってるのに笑うなんて人格を疑われるぞ?それにオメエ等が加わって何をするんだ?前回の『同盟厚生局違法法術研究事件』でオメエ等がしてたのは海上保安庁とか港湾事務所とかの役所巡りじゃねえか。今回の犯人は役所には関わってねえぞ?それに軍の基地を襲撃したって今回の犯人は誰がどう考えても軍人じゃなくって民間人だ。軍の基地に犯人がいるわけじゃねえ。つまりオメエ等があの事件で得た捜査の経験は何一つ役に立たねえんだ。そんな役立たずが増えたところで状況が何か変わるのか?え?」 


 そう言いながらかなめは刺身に一番に手をつけた。うまそうに頬張りまた酒を口に流し込む。

挿絵(By みてみん)

「捜査の基本は……餅は餅屋だ。俺やサラでは力不足と言うのなら、真摯にお巡りさん達に教わればいいでしょ?豊川署の連中が信用なら無いなら茜警部からラーナ巡査でも借りれば良いじゃないですか?あの人は法術関係の捜査のプロですし、警察の事情にも精通してますから。茜警部は忙しい人だからどうしようもないですけど、その助手で資料整理担当のラーナちゃんならなんとかなるんじゃないですか?何なら俺から話しましょうか?」 


 島田の『ラーナがいる』の一言はまるで天啓のように一同を驚かせた。


 その名前が出た瞬間、誰もが一拍だけ黙った。忘れていた。法術特捜には、茜以外にも本物の警察官がいる。


「そう言えばいたわね。そんな名前の『いまだに焼き畑農業がメイン産業の法術師の天国遼帝国』からやって来た影の薄い捜査官が。法術特捜と言えば茜ちゃんと言うイメージしか私には無かったからあのそばかす娘の存在をすっかり忘れてたわ」


 アメリアは法術師のパラダイスとして知られる遼帝国出身のそばかすの捜査官の名をその時初めて思い出した。


「今頃くしゃみでもしてるんじゃないか?何も影が薄いとか言うことは無いんじゃないか?確かにラーナが何かの役に立ったという記憶は私にも一つもないが少なくとも茜警部の作る資料をまとめる業務は出来ている。つまり茜警部の手柄の一部はラーナの物だったと言えるわけだ。それに資料の整理とか警察との調整とか茜警部も重宝してるっていつも言ってるぞ」 


 アメリアとカウラが笑顔で顔を見合わせる。誠はようやく明るい兆しが見えてきたのでおいしく見えた鶏の刺身に箸を伸ばした。


「何事も一人で解決するのはなかなか難しいものですよ……まあ俺もクバルカ中佐と出会うまでは一人で何でもできる気でいたから。あの人もいつも言ってるじゃないですか!『オメー等は全員半人前だ!全員でようやく一人前だ!』って」 


 島田は昔を懐かしむように天井を見つめて笑っていた。


「島田先輩にもそんな時期があったんですか?というか、たぶんその言葉をクバルカ中佐に言われてるのは先輩の整備班だけだと思うんですけど。僕はそんな言葉を一度も中佐から言われたことは無いんで」 


 口に刺身を入れたまま誠がつぶやいた言葉に仕方がないというようにうなずきながら島田は烏龍茶を飲んだ。


「まあな。グレて族に入ってそのトップになって有頂天になってた俺を、立ち直らせてくれた偉大なるクバルカ中佐のおかげで今の俺があるわけだ」 


 確かに島田なら暴走族のヘッドくらいは務まるだろうと、その無限のタフさと喧嘩っ早さを思い出して誠は苦笑した。


「グレてたんですか……予想通りですけど」


 誠はそう言って島田を見つめた。


「そうよ。相談すれば知恵も出てくるものよ。だから皆さん元気出してね」 


 隣で話を聞いていた春子は笑顔でそう言った。


「ガンバレー!」 


 春子と小夏の言葉になんとなく癒されながら誠はビールに手を伸ばした。


「ラーナか……確かにアイツは茜警部と同じ警察での捜査に関する正規の教育を受けた根っからの警察官だ。善は急げだ。とりあえずメールくらいはいいだろう」 

挿絵(By みてみん)

 そう言いながらカウラは端末に手を伸ばした。


「なんだか忙しくなりそうね。なんなら私も運航部の非番のメンバーにも招集かけるわよ」 


 事態の対応策が見えてきたことに興奮してサラはそう言って黙り込んでいるパーラの肩を叩いた。


「サラ……それは勘弁してね。あの子達は邪魔になるだけで戦力としてカウントできないし。それにあまり大げさになると県警の面子もあるのよ。今は少数精鋭で行きたいというのがアメリアの意向だし。それに県警が私服捜査官しか出していないということは県警もこの事件は出来るだけ隠密に処理したいってことなのよ。そもそも防犯が目的ならば制服を着た警官を辻々に立てた方が効果的だもの。それを私服警官の増員で対応している……その意味くらい分かりなさい。それにアメリアが残していった『ふさ』の設備更新に関する書類ごとを全部アタシにやれっていうの?アメリアにこき使われるのは慣れてるけど運航部のあの子達からもこき使われるなんて……もうやってられなくなるから」 


 パーラはやる気満々のサラに向けてそう言うと笑顔で烏龍茶を口にした。誠もようやく捜査の核になる人物が現れると言うことに最後の望みをつなぐことに心を決めた。



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