第33話 外れた読み
男が案内した二階にはどう見ても租界で見たマフィアの若い衆と大差ない男達がたむろして豪華な部屋の中央で雑談をしていた。
「客だ!話があるから出てけ!グズグズするんじゃねえぞ!俺の前に話してた鉄火場で暴れ回った御仁だ!その人の機嫌を損ねて頭に鉛玉食らいたくなければ消えろ!」
男の言葉に若い衆は男に続いてくる千要県警の制服を着た誠達を不審そうな目で眺めながら男の迫力に負けて奥の部屋へと消えていった。そしてそのまま誠達は応接室のようなところに通された。誠は贅を尽くした部屋の調度品に目を奪われた。社長の机の後ろには金の額縁に古そうな書が入っていた。その手前にはなぜかその書を邪魔するように日本刀が飾られていた。両隣の壁は高級そうな木製の棚になっており、中にはこれも磨きぬかれたのが良く分かるグラスや誠が見たことも無いような高そうな洋酒が並んでいるのが見えた。
「おい、儲かるんだなあ……不動産屋は。姐御の世話になってる組の事務所よりよっぽど豪勢だ。まあ、あそこはオメエみたいに金の為なら何でもするってわけじゃねえから同じヤクザでも稼ぎは知れてるってもんだからこの豪華さの理由も納得だがな……」
かなめの嫌味にただ乾いた笑いを浮かべながら男はソファーに腰掛けた。
「ああ、お嬢。それは俺のあずかり知らないところでうちの組がやってるシノギの話しでしょ?俺はそっちの方には手を出してないですから。あくまで、俺の仕事はそのシノギがサツに潰されても組がやっていける安定的収入を確保するのが親父から言われてる仕事ですから。俺の仕事は堅気の不動産屋じゃ相手にしてくれないような後ろ暗いところのある人間に物件を紹介すること……当然そう言う連中は危ないから堅気の人達に嫌がられる訳で、それなりの理由があるんですよ。だからそれなりの割増の料金で俺達は物件を紹介しているだけですから。だから儲かってるって寸法でしてね。別に何の後ろ暗いところは俺には無いですよ。合法的な商業活動以外の何者でもないじゃないですか。それと……連れの方……」
男は手でソファーに座るように合図する。にんまりと笑ったかなめはそのまま中央にどっかりと腰を下ろした。
「おい……アタシは忙しい中来てやったんだ。そこんところをちゃんと分かれよ……な?それにオメエの言い訳を聞きに来たわけじゃねえし、その裏で色々やってなきゃこの立派な掛け軸は買えねえことくらいはアタシにでも分かるんだ、当然のことだけどな。それをこの場では目をつぶってやろうって言うんだよ……良い話だろ?そう思わねえか?そんなに気を使ってるアタシなんだぜ?感謝のしるしに茶ぐらいは出せよ……あ?」
相手を見下すような口調でかなめは明らかにおびえた様子の男に向けてそう命令した。
「わ……わかりました……お茶ですね……」
そう言うと男は恐怖に震えるような様子で振り返り大きすぎる社長の机の上のボタンを押した。
「後ろ暗いところがあるお客を相手にして割増の紹介料で儲けてるってさっきオメエは言ってたな?そんなオメエなら聞いたことはあるんじゃないか?噂じゃあ法術師適正のある人に部屋を貸すのを拒否している業者があるそうじゃないか?法術者への差別は東和の『近藤事件』直後に出した内閣が政令で禁止されてるはずだぜ?すると、堅気の違法行為の世話をオメエがしている訳だ。こりゃあ、警察官として違法行為の被害者を救済しているオメエには感謝しねえといけねえかもな……オメエもそう思うだろ?」
かなめは明らかに男を見下した口調でそう言うと悠然とタバコを取り出した。カウラとアメリアが嫌な顔をするが男は気を利かせたように応接セットの大きなライターに火をつけてかなめに差しだした。
愛飲のコイーバクラブに火をつけてタバコの煙を吐くかなめの機嫌がどうやら悪くないと男は思ったようで少し硬い笑みを浮かべたまま愛想笑いを浮かべた。
「ああ……姐御にそう言っていただけるとは光栄です……よ。まあ、この業界もいろんな人がいますからねえ。まあうちは後ろ暗いことのある人間専門なんで……へへへ……確かにそんな臆病な連中のおかげで結構繁盛してますよ。確かに『近藤事件』で法術の存在が明らかになって、しばらく後に政府が法術適性の検査を行ってくれたおかげで法術適性者を嫌う大家が増えたもんですから……俺達の代紋で文句を言う大家を黙らせて無理やりその法術適性のある借り手を押し付けるってわけでしてね。おかげでうちの売り上げはあれから右肩上がりなのは確かですから」
男はようやく落ち着いたと言うようにそう言って頭を掻いた。
「でもこのお店って『近藤事件』以前にもあったんでしょ?それ以前の後ろ暗いところがある人ねえ……どう見てもやくざに見える人とか?国交のない地球圏の人間とか?確かに指定暴力団の組員と認定されると部屋の賃貸を断っていいって法律もあるし、地球圏の人間は地球人嫌いの遼州人の大家が嫌がることも多いですからねえ……その時もご自慢の代紋で大家を黙らせて無理やり賃貸契約を結ばせる。その時に色々違法行為と言うか代紋をちらつかせた時点で十分アウトなんだけどね」
アメリアの皮肉に男のこめかみがぴくりと動いた。
「なあに。私達は書類上は法令通りの商売をしている善良な市民に迷惑をかけることはしないわよ……ちょっと違法である可能性のあるグレーな存在だと私は言いたいわけ。白黒つけるのは警察のお仕事じゃなくって裁判所のお仕事って言うのはあなたも知ってるでしょ?だからそんな事の為に私達はここに来たわけじゃないの。ねえ、かなめちゃん」
アメリアはこれ以上のかなめの暴走は捜査の邪魔になると判断したようでその『伝説の流し目』でかなめを威圧した。
「そうだな。それは別の部署のお仕事……それでだ。さっき言ったまともな不動産屋にことごとく門前払いされてここを頼って来た法術適性のある借り手の方がアタシの関心事なんだ。それ以外のヤバい連中には用はねえ……こうアタシの興味の範囲が狭まれば、オメエも話しやすいんじゃねえのか?」
曖昧な相槌の後でかなめは手持ちの端末をテーブルに置いた。そして画面を起動させるとそこには豊川市内の不動産業者の一覧が表示された。
「豊川はなんと言っても菱川系企業のお膝元だからな。不動産屋も菱川ホールディングス系列が多い。そしてなぜかここの系列のお店は法術師がお嫌いと見えてアタシの耳にも入居拒否や転居要求の話が届いてきている。アタシが連れてきたデカ物の若造は法術師だ。住むところは寮があるし、都内に実家もあるからオメエの世話にはなる可能性はゼロだがな。コイツが本業でやってるシュツルム・パンツァーのパイロットでは法術師対応のシュツルム・パンツァーに乗ってるんだが、そいつが菱川重工製と来ている。随分と矛盾した話じゃねえか?グループ内部で話を付けて欲しいもんだが、民間企業に口出しをすると自由主義経済のこの国では色々あるわけだ」
かなめは淡々と要件の説明に入った。
「なんだ……お嬢も知ってるんじゃないですか。大手はそういうところには敏感ですからね。特に菱川は政府とつるんでいるから法術の危険性は熟知しているんでしょ。でも基本的に他と比べると財閥系の大手は法術師の入居には寛容な方ですよ。特に菱川の資本比率の高い直系の不動産会社ならその担当者も法術師でも危険性が高い能力は何かくらいの知識は下手をすると法術師に命を狙われかねない俺よりもあるくらいですから。パイロキネシスト……くらいじゃないですかね、それ以外の法術師なら貸しても問題は起きないと言うことで問題なく借りられると思いますよ。まあ、この豊川には菱川直系でそんな出来る窓口担当が居る不動産屋はありませんがね。むしろ付き合いのある中堅クラスの社長とかは法術師は絶対取り次がないとか言ってたのがいますから、地場の中小の業者の方がハードルは高いと思いますがね……あれですか?姐御は今、法術師の差別の調査をされているとか?その兄ちゃんも法術師だってことはそう言うこと……まあ、余計なことは言わない主義でしたね、姐御は」
タバコをふかすかなめがリラックスをしているのを見て男は安心したように笑みを浮かべてそう言った。すぐにかなめの目が殺気を帯びる。余計なことを聞いた。修羅場をくぐったことのあるらしい男はすぐに黙り込んで静かに腕を組んだ。
「俺もこの場で鉛玉を食らって死にたくないんで、お嬢の目的はさて置いて。まあそんな状況ですから……大手に割高な仲介料を払えない連中となると……駅前の三件はかなり法術師にはつらいですからね。あそこの三件とも個人営業でやってるんですが、そろいもそろって法術師嫌いと来て法術適性のある客は一切受け付けていないですから」
男はそう言うと静かにタバコを取り出した。嫌そうな視線を向けるカウラだが、かなめがそれへのあてつけのように自分のジッポライターを取り出した。
「すいませんね……」
男は満面の笑みを浮かべてタバコに火をつけた。
「オメエじゃアタシに手を触れるどころか、アタシのこんなサービスはテメエじゃ無理だったろ?うれしいか?つまりこの豊川にはここ以外で法術適性のある人間に部屋を紹介する店はあるのか?アタシが聞きたいのはそこだ。それが聞けりゃあ、オメエも怖いアタシの顔を見る今の恐怖の時間から解放されるんだ。お互い時間は有限なんだからとっとと要件を済まそうや」
かなめがかつて甲武陸軍特殊部隊員として東和の沿岸部の租界での非合法物資の取引ルートを巡る利権争い『東都戦争』で潜伏して娼婦として情報収集を行なっていたことを誠にも思い出させた。
「となると……南商店街の二件が法術師に平気で部屋を貸すことで同業者の間では知られてますわ。あの二件はそもそも大家自身が法術適性があるような物件をかなり扱ってますからね。大家だって自分が法術師でこれまでそれで生活で困ったことが無いんだから法術師に部屋を貸すのに抵抗が無いんでしょ?ただ、その大家も法術適性があると貸してくれる大家が少ないってことくらい知ってますから条件のかなり悪いそもそも入居者がある方がおかしいような物件を回しているらしいですよ。俺達みたいに紹介料は割高だけどまともな物件を紹介しているよりもそっちの方がよっぽど悪質なんじゃないですか?もしそっちに顔を出すのならその店の店主に俺がそう言ってたと伝えてやってくださいよ」
男はかなめのサービスに少し落ち着きを取り戻してそう言った。男が付け加えた説明にかなめは納得がいったようにうなずいた。
「おう、参考にするわ。しかし、神前良かったな。オメエは寮があるから住む所には困らねえからな。でも士官でアメリアの部下の女芸人たちみたいに自分で部屋を探すことになったらどうするつもりだ?ここにお世話になるか?アタシの顔で格安で紹介してくれるよな?」
かなめは冗談とも本気ともいう言葉を誠に言うと男の指定する店にしるしをつける。そしてそのまま画面に映る商店街の店を眺めながらスクロールさせた。
「かなり絞り込めるな……今回の事件の犯人。手口からして素人。しかもこれまでの事件の傾向から見て相当な小心者だ。そうなるとここみたいな危ない経営者のいるところは避けるだろうから……ちょっと揺さぶりをかけてみるか?」
かなめの挑発的な言葉に男の表情が変わった。
「お嬢。うちは堅気じゃないから良いですけど同業他社で同じような態度を取るのは止めてくださいよ。うちはこれでもまっとうな商売をしているんですから。それとこの情報が俺の口から出たなんてこともどうぞご内密に……この業界も色々あるんで……同じ物件をうちとそちらで扱っているというケースも結構あるもんですから。その中には俺みたいなヤクザがこの会社の社長だと知らない大家もいる。そこの大家に俺がヤクザだってことを警察に垂れ込まれると色々面倒なんて……ああ、姐御自身が警察官でしたね……じゃあ、署内でもそっちの刑事にはご内密に」
淡々と自分を切って捨てたかなめに泣きを入れると静かにタバコをふかした。
「でも私もそうだけど分かるの?不動産屋のどれが危ないとか、どこが法術師には紹介しないとか」
アメリアの言葉に一瞬かなめの手が止まった。心底呆れたと言う顔。それが今のかなめの顔に貼り付いていた。
「オメエ……この店の経営者がこいつだって分からなかったのか?オメエは本当に平和な世界で生きてきたんだな……アステロイドベルトでネオナチの先兵やってた人間が聞いて呆れる」
かなめはあざけるような笑みを誠達に向けてきた。
「そういう事がすぐ分かるのは西園寺くらいの非合法組織と折衝してきた経験が必要だろうな。少なくとも私にはこの店の窓口に入った段階では羽振りの良い不動産屋だという印象しかなかった」
そう言うとカウラは自分の顔に向けて流れてくるタバコの煙を仰ぐ。そしてかなめはしばらく放心したように黙り込んだ。
「つまり……やっぱり駅前の二件も捜査対象か。まあいいや」
かなめはそう言って頭を掻きながら男を見つめた。
「まあ、そんな感じですかね。俺が知ってる業界事情はそんな感じですよ。ただ、姐御の上司はあの『汗血馬の騎手』で知られたクバルカ・ラン先生でしょ?俺の本当の商売の事情なら先生に聞いた方が詳しいと思いますし、先生が寄宿しているあの組には関わるなと言うのは上から言われてることなんで。それこそあのちっちゃい先生は姐御と違って目をつぶるなんてことはしない人だって聞いてるんで」
少しばかり焦った調子の男。それを見るとかなめは視線を誠に向けた。
「やっぱりここでもあのちんちくりんの話題が出て来るな?ヤクザはあのちんちくりんがそんなに怖いのか?確かにアタシも怖いが……そのちんちくりんの一番のお気に入りがこのデカ物なんだ!良かったな!神前!あのちんちくりんの名前を出せばどんなヤクザもタダで飲みにつれて行ってくれると思うぞ!」
肩をバシバシ叩く上機嫌のかなめを見ながら誠はただ訳も分からずうなずいた。そしてかなめのしぐさを見て男の表情が曇るのがすぐに分かった。
「こいつ……いや、先生のお気に入りってことは……この兄さんはさっき姐御が言ったように本物の法術師?もしかして『近藤事件』で巡洋艦を一撃で沈めたパイロットって……このお兄さんですか?」
誠はおずおずとうなずく。そこには先ほどかなめに向けたのとは別の恐怖の瞳があった。理解できない奇妙な生き物に突然であったとでも言うような目。誠も時々こう言う目に遭遇することがたまにある。法術と言う理解不能な存在が明らかになって生まれた溝をそのたびに誠は実感する。
「そう言う事。オメエの言う通りこの『法術』と言う言葉を生んだあの『近藤事件』で暴れまわった奴。なんならコイツお得意の『光の剣』で真っ二つにしてやろうか?オメエの組も法術師は抱えてるんだろ?何なら電話をして法術師の脅されてるから助けてくれって連絡したらどうだ?たぶんそいつも怖がるちんちくりんの方が先に着くからその法術師はちんちくりんに真っ二つにされるか、その場で公務執行妨害で逮捕されてこの店は即座に営業許可を取り消されるだろうがな」
かなめの言葉にさらに男は明らかに緊張していく。それを見ると誠の脳裏に何かが流れ込んできた。恐怖、侮蔑、敵意。それらの感情が目の前の男のものだとすぐに誠には分かってきていた。
「こんなに……法術師が嫌われていたなんて……」
誠は自分達『法術師』の置かれた状況の絶望に絶句していた。
「そんなもんよ、世の中なんて。頼れるときは頼って、邪魔になれば捨てられる。すべての英雄の行き着く先なんてそんなもんよ。ゲームだってそうじゃない。英雄が魔王を倒した後の物語なんてないでしょ?確かにゲーム機のビックコンテンツのシリーズものなんかだとその勇者やその勇者と勇者と結ばれた姫君の息子なんかが活躍するシリーズが続いたりするけどその時はより強力な敵がいることが前提で物語が出来ているじゃないの……敵の居ない世界で勇者なんて良くてただのニートか年金生活者。悪くすると社会の敵ね」
アメリアの言葉に自分がしばらく敵意の視線で男を見ていたことに気づいて誠はうつむいた。
「いつも言ってるだろ?下手な力の有無は敵意を生むだけだって……なあ」
かなめの言葉におびえるように男はうなずいた。確かにこうしておびえられるに足る力を自分が持っていることを誠も自覚していた。
「でも……お兄さんが顔色変えたくらいじゃ法術師かどうかなんて分かりませんよ。俺だって知らなかったらつい貸しちゃうかも知れないじゃないですか」
不動産屋に足を踏み入れたことの無い誠は何も知らずにそう言った。
「そうか?なんでも一部の同業者が入居の条件に法術適性試験の受験を課しているそうじゃねえか。同業者だろ?知ってるんじゃねえか?たとえばさっき言ってた法術師嫌いの社長とか」
そうかなめに詰め寄られると男はただ静かにうつむいてタバコをくゆらせるほかはなかった。
「……」
男が黙るのを見てかなめの顔はサディスティックな笑みにゆがんだ。その様子はカウラも察したようですばやくかなめの前に手を出してきた。
「安心しな……じゃあどこなら法術師の客を扱うことになる?」
かなめは怒りの前と言うような大きな深呼吸をする。アメリアもいつかなめが暴走しても良いようにと鋭い目つきで彼女を見つめていた。
「駅前の三件は法術師の適性検査の陰性が紹介の条件です。それ以外だと……菱川以外の大手ですがそこも担当によっては大家が法術師嫌いだったりすると適性検査を強要するような話もありますし……」
男は言い渋るかのように話を長引かせた。
「不動産屋の現状を調査に来たわけじゃねえんだ。結論言えよ」
いらだつかなめ。男はさらにうつむいて話し出した。
「規模の大小に関わらず担当者に恵まれるまで何度も通うしかないんじゃないですか?まあ小さいところは親父一人でしょうからそこは一発で分かるかもしれませんが」
明らかに殺気を帯びているかなめに少し驚きながら男は静かにそう言った。その言葉を聞くとかなめは立ち上がった。
「お嬢……」
明らかに自分の言葉に不機嫌になったかなめを見て男は表情を変えてそう言った。男が言いたいことは法術師だからといって特定の裏不動産屋に集まるわけではないと言うことだと誠でも理解できた。担当者、大家、物件、紹介料。その組み合わせ次第で、どこでも受け入れられる可能性がある。
かなめの読みは、半分当たって半分外れていた。
「分かった。とりあえずお前が知ってる法術師に部屋を貸しそうな業者のリストをあとでアタシのところまで送れ。それを約束したらここにちんちくりんを送り込むという計画は無かったことにしてやる」
かなめは半分諦めたような調子でそう言うとそのまま部屋から出て行こうと立ち上がった。
「ホントなの?要するに担当者次第ってどこの不動産屋も部屋を貸すってことは全然絞られなかったってことよ!かなめちゃんは豊川中の不動産屋を全部見て回る気?じゃあここに来てあのお兄さんから業界の裏事情を聞く前と何も変わらないじゃないの?それに大手なんかだとプライバシー保護が……」
アメリアが文句をつけるのをタレ目でにらみ付けで黙らせた。
「仕方ねえだろ!足が資本だぜ、捜査ってのは!」
そう言うとかなめはそのまま一人で出て行く。誠は男に頭を下げるとそのままかなめを追った。
「西園寺さん!待って下さいよ!」
誠の言葉を無視してかなめはそのまま階段を駆け下りる。誠は一階のロビーにたどり着くとそのまま全員が立ち上がってかなめを送り出す様に遭遇し違和感を感じながら外に出た。
「畜生!」
かなめが空を見て叫ぶ。
「仕方ないじゃないですか。狙いは良かったんですから……なんなら安そうなアパートを全部回って……」
かなめはキッと誠を振り向いた。明らかに自分に対する怒り。危ない橋をわたっている人間を追い詰めることには慣れてきた自信が有るだけに今回の法術師を紹介する不動産屋を絞り込むと言う策には自信があったのだろう。
「そんな問題じゃねえよ!アタシは半分はここでどこが法術師を扱うことを独占してるかが分かると思った!それが出来なかった!アタシが甘かったのは事実なんだ!こんなアタシの間抜けがアタシには許せねえんだ!しかも今でも犯人の野郎はどこかでこんなアタシの間抜けぶりをニヤニヤ笑って見てるんだぞ!そう思うと……」
そう言いながらかなめはようやく店から出てきたカウラにドアの鍵を開けるようにと指差した。
「慌ててどうなる。貴様の着眼点は良かった。ただ、それでは犯人にたどり着けないことが分かった。それだけでも収穫と言える。意味のない捜査方法が一つ減った。十分じゃないか」
カウラは自分の思惑通りいかなかった捜査に納得がいかないかなめを慰めるようにそう言った。
「悠長にしているほど人間できちゃいねえんでな!オメエもいつもアタシのことを短気だって言ってるじゃねえか!アタシは自他とも認める短気な女なんだ!」
カウラの言葉にかなめは自嘲気味に笑った。
「仕方が無いわね。乗りかけた船だもの。付き合うわよ……私もカウラちゃんと同じで着眼点はかなめちゃんとしては良かったとは思うわよ。でも本当にそういうお仕事をしている人に言わせるとそんな考えじゃ商売なんて無理なんて話は何処の業界にも有るものよ。うちだって県警の捜査方法じゃ絶対に今回の犯人にたどり着く前にこの豊川に血の雨が降ることになるって分かってるっていう同じようなことがあるじゃない?不動産業界にもそんな私やかなめちゃんでも分からないことがあった。それだけの話よ」
アメリアは助手席のドアを開けながら微笑んだ。かなめは自分が許せないと言うように無表情を装いながら車に乗り込んだ。




