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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第八章 『特殊な部隊』と妙案

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第26話 県警出向という無理筋

「オメー等も余計なことなんかしてねーでさっさと着替えて次のメインイベントに備えろ……アタシは用があるからちょっと出かけて来る」


 ランはそう言って床几を立つとそのままテントから出て行こうとした。


「クバルカ中佐!お願いがあるんですが!」


 鎧を脱ぎ終えて下に着ている鎧直垂に手を伸ばしたアメリアはいいことが思いついたと言う顔で目を輝かせてランに語り掛けた。 

挿絵(By みてみん)

「アメリア……オメーのことだ。さっきまでのアタシの格好がシュールすぎて萌えたから抱きしめさせてくれってーことならお断りだかんな。オメーの思いつく良いアイディアと言うのは大体ろくでもねーのはこれからやる映画で十分アタシも実感しているんだ。そこんところを考えてその良いアイディアと言う奴を言ってみろ。アタシもオメーの上司だから聞いてやる。ただ、つまんねー話だったらぶっ飛ばすからな」 


 笑顔のアメリアをランは警戒するような瞳で見つめた。それを見ていつもはリアクションの少ないカウラが噴き出しそうになるのが誠の目に入った。


「私ってクバルカ中佐には信用無いですねえ。確かにあの映画では原作・監督・脚本・演出のすべてを任されていたのを最終的にはただの眼鏡教師として扱われるようになったのは事実ですけど……それとこれとは別です。これはクバルカ中佐にも悪い話じゃないと思いますよ?この方法なら間違いなく今回の犯人を逮捕したのは県警の捜査官と言う話に持って行けると思いますから」 


 アメリアは苦笑いを浮かべながら抱き着いてくるアメリアを想定して身構えているランに向けてそう言った。


「まあオメーの暴走はいつものことだからな。それに映画の中のアタシの扱いと言い、アタシはこの部隊のマスコットじゃねーんだ。この部隊の副隊長で、シュツルム・パンツァーの運用のすべてを統括する機動部隊長なんだ。そのくらいのことは覚えとけ!それをちゃんと理解した上でアタシにとって悪い話じゃねーというオメーの提案を聞いてやる。言ってみろ」 


 そう言いながらランは振り向いたまま背後をちらちらと気にするようなそぶりを見せた。


 そのいかにも小学生がふざけて五月人形を着てみたというような先ほどまでのランの馬上で笑顔を浮かべる光景を目を輝かせて見つめていたアメリアは先ほどの意見を忘れた様に黙り込んでランを見つめていた。

挿絵(By みてみん)

「それよりクラウゼ。いつまでアタシを見てるんだ?アタシは部隊のマスコットじゃねーってさっきアタシは言ったよな?その視線はアタシを完全にマスコット扱いしている視線だよな?アタシは今貴重な時間を割いてオメーの下らねー提案を聞いてやると言ってるんだ。お願いはどーした?早く言え。アタシは忙しいんだ」 


 ようやくランは話を戻そうとした。しばらくアメリアは話を振られたことを気づかないようにまじまじと大きすぎて時々ずり落ちて来る兜を直しているランを見つめながらただ一心にいかにも珍しい生き物に出会ったとでもいうようにランを見つめて突っ立っていた。


「おい、いつまで黙ってアタシの動きを見ているんだ?そんなにアタシがさっきまで鎧を着て馬に乗っていた人物と同じ人物であると言うことを再確認するのが楽しーか?確かにあの光景はめったに見られないのは確かだが、そんなことはどーでもいーんだ。さっき言ったようにアタシはこれからの映画の上映会でオメーが企画した舞台あいさつのために市民会館まで行かなきゃなんねーんだ。オメーも行くんだろ?時間がねーのはアタシもオメーも一緒だ。早く話せよ。くだらねー話ならぶん殴ってやるから」 


 指を鳴らしながら小さなランがすごんで見せる。誠から見てもその光景はかなり滑稽だった。ランの身長は112cm。一方のアメリアは180cmを超える。小学生がプロスポーツ選手を脅迫しているようにしか見えない。誠にもつい笑いがこみ上げてきた。


「ああ、あまりにもキュートでシュールな光景を目にして私もつい夢中になっちゃって。確かに時間が無いのは事実ですよね。じゃあ言いますね、ぶっちゃけて言いますと私達を派遣してくれませんか?豊川署に。中佐としては県警に手柄を上げて欲しいんですよね?だったら私と誠ちゃんとかなめちゃんとカウラちゃんを県警の警察官に仕立て上げて、その警察官が犯人を逮捕すれば手柄を立てたのはあくまで県警ってことになりますよね?だってその時の私達は出向中の県警の警察官の私達なんですから。そうすれば間違いなく県警に金星を提供することができるような気がするんですけど、違います?」 

挿絵(By みてみん)

 アメリアの突然の一言に一同の目は点になった。


『は?』 


 時が止まったようだった。誰もがアメリアの言葉の意味を理解できずにいた。ただ一人島田は納得したようにうなずいている。


「あれっすね。うちには法術関係捜査の実績はあるから県警も邪険にはしないって読みですか。その経験を生かしての助っ人と言うことなら……受け入れてくれるかもしれないねえ。法術捜査にはどうしても及び腰の県警の連中には願っても無い助っ人になるでしょ?アメリアさんも考えましたね。それに逮捕した時の身分が県警の警察官なら手柄を上げたのはあくまで県警の捜査官と言う話になる。県警の顔も立てて、うちは法術犯罪者の暴走を止めることが出来て、その間オーバーワークの茜お嬢さんたち法術特捜は今追ってる東都の辻斬りの捜査に集中できる。悪い話じゃないように俺にも思えるんですけど……どうです?クバルカ中佐?」 


 島田の言葉にようやく全員がアメリアの意図に気づいた。そしてその視線は自然と法術特捜の全権を握る茜へと向けられた。


 茜は襟元に手をやりしばらく考えていた。


「別にはったりじゃないですし……実績ならありますよ。同盟厚生局事件の報告書は豊川署でも閲覧できるはずですから。それに千要県警の法術捜査官なんてラーナちゃんやひよこちゃんが呆れるくらいの出来損ないの法術師しかいないんですよ。その点、うちにはその法術の存在を全銀河に知らしめた誠ちゃんが捜査に加わるというのに県警に断る理由は無いと思うんですけど……どうでしょうか?」


 アメリアの言葉に茜は小首をかしげて考えにふける。その肩をランがぽんと叩いた。


 そのランの建てた音で誠にもようやく分かった。司法局が捕まえれば、県警の面子は潰れる。だが県警に出向した司法局員が捕まえれば、表向きは県警の手柄になる。つまりこれは、手柄の名義だけを県警に譲るための、かなり無理のある抜け道だった。


「確かにその手があったか……アタシは無理だが……アメリアにカウラに西園寺に……神前。これで十分だな。それ以上の人員はあちらも置いとく場所がねーだろ?それにオメーの話では県警にそれを飲ませる条件は神前がいれば十分だけど、新人の神前一人じゃ何にもできねーのは間違いねーからフォローにいつも護衛についてるオメー等がおまけでついて行けばそれなりに戦力になるだろうからな。そう言う話なら分からねー話じゃねーな」 


 ランは腹を決めたと言うようにそう言って笑った。


「え?島田君達は?」 


 そんなアメリアの言葉にランは首を振った。


「県警に俺が出向?俺にあのしょっちゅうパトカーで手錠を掛けられた状態で入ってる豊川署に行けってアメリアさんは言うんですか?無茶言いますね。俺の仕事はあの『駄目人間』の愛機『武悪』の整備があるんです。時間経過で劣化する特殊な『法術増幅触媒』の素材を使ってるあの機体は手間がかかるんだ。それに『武悪』の改造計画とは関わってねえ情報将校連が集める情報ならアメリアさん経由で色々情報も豊川署に流してやれるし……あちらも玉石混交とはいえそれなりに膨大な資料を扱っているんだ。俺等の知らないことも知ってるはずだし」 


 なんとも他人事のように島田はそう言うと立ち上がった。


「いいんですか?隊長の許可は……」 


 カウラの言葉にランはわかっているというようににんまりと笑う。その笑顔は頼もしく『アタシに任せろ!』と太鼓判を押しているとこの場の誰もが思っていた。彼女はそのまま何も言わずに満足げにうなずくとそのままテントを出て行こうとした。


「中佐?どこに行くんです?時間が無いって言ってたのは中佐だと思うんですが……」


 苦戦しながらなんとか大鎧を脱ぎ終えたカウラに声を掛けられてびくりと震えた後、照れ笑いを浮かべながらランは振り返り、再びいつもの偉そうな笑みを浮かべた。

挿絵(By みてみん)

「実は……『駄目人間』から言われててな。今回の件。誰か志願する奴がいれば捜査に当たらせてやれって。まあうちが機能しなくなるといけねえから、第一小隊か第二小隊のどちらかって話になるんだが……日野の奴に経験を積ませるのにいい機会かと思ったが今回も第一小隊で対応してもらおーか。確かにアメリアの言う通りなんだ。オメー等を出向させて県警の捜査官と言うことにするのなら県警もこれまで島田や日野がかけた迷惑料と言うことで納得してくれるだろ?そもそももしこれが日野が県警に出向なんて話になったら……あの変態が豊川署で何をするか分かったもんじゃねーからアイツはうちの隊舎に隔離しておく必要がある。その点オメー等ならその心配はねーから安心だ」 


 ランはそう言って笑うが明らかに外で誰かを待たせているかのようにちらちらと外を気にしていた。


「ランちゃん……」 


 アメリアはランの英断に対して感動に打ち震えながらそう言った。


「『駄目人間』のいつもの悪だくみだ。それと今アタシのことを抱きしめてみろ……ぶっとばすからな!何度も言うがアタシは隊のマスコットになったつもりはねー!」 


 そう言われるとアメリアはがっくりとうつむいてしまった。それを見ながら黙々と慣れた調子で鎧を脱いで司法局の制服のワイシャツに袖を通しているかなめが大きくうなずいていた。


「まあ叔父貴だからな……裏で何を考えているのやら……まあアタシも今度の事件を起こした馬鹿野郎には着物代を弁償してもらわないといけねえからな。払えねえなら姐御じゃねえが指の一本でも詰めてもらう!」


 かなめはいかにも面白いことに関われることが楽しくてたまらないというようにそう言って笑った。


「かなめちゃんも手伝ってくれるの?当然よね、私とかなめちゃんの仲だもんね!」


 アメリアは目を潤ませて手を合わせる。かなめは思わず引き気味にうなずくとそのまま無視してランに目を向けた。


「で、現在の豊川署の捜査担当の部署は?」 


 一人、冷静なカウラはランに現状を確認した。


「あそこは捜査二課だそうだ。しかも専従捜査官はいねーそうだ……危機感があるのかねーのか……当日は相当な騒ぎだったみてーじゃねーか?そのくせ専従捜査員はゼロ。矛盾だらけだな。本来はここで一番に動き出さなきゃいけねーあの使えねー県警の法術捜査官連中のはずなんだけど……こっちは県警本部長周りの人間が言うにはもっと大ごとになった時の為の最後の手段として県警本部に詰めっぱなしで待機させ続けるそーだ。本当に事件を解決しようという気があるのかと疑いたくなるよーな対応だな」 


 ランは顔を上げてかなめ達を満足げに見上げた。そしてそんなランの言葉に予想通りだというようにかなめは口笛で応じた。


「大山鳴動して軽犯罪ですか……まああれから連続してぼや騒ぎがあれば県警本部から捜査官でも派遣されるんでしょうが……そうなるには同じような事件があと十件は起きないと無理ですよね。怪我人の出ていない法術の違法発動だけならいつもそんな感じですから」 


 誠も胴丸や上半身の小手などを自分でとって足袋を脱ぎ始める。


 一方のランは明らかに外で待っているらしい人物に向けて少し待てというように手を振った後、何事も無かったかのようにまた中の誠達に目を向けた。


「まあそんなところだ。危機感が足りねーんだろうな。この前の厚生局事件の時はあれほど大騒ぎしたのに被害が小さければなかったことにする。まったくお役所仕事って奴さ」 


 ランは諦め半分にそう言うと全員の顔を見まわした。


「それを言うならアタシ等もお役所じゃん」 


 かなめは得意げに揚げ足を取って見せた。


「くだらねーことやってねーで早く着替えろ!」 


 ランの言葉に舌を出すとかなめはすばやく鎧の胴を元の箱に戻した。


「でもさっきの派遣任務の話は本当と受け取っていいんですよね」 


 アメリアは念を押すようにランに向けてそう言った。


「当たりめーだろ?くだらねーこと言ってねーで着替えろ!今日のこれからのアタシ等の仕事のきっかけは全部アメリアが作ったんだ!そのアメリアが市民会館に遅刻したらどうする!早く準備しろ!」 


 ランの怒鳴り声に一斉に隊員達は着ている鎧を脱ぎ始めた。誠も自分の胴丸の背中に手を伸ばしながらこれからの任務に緊張の気持ちを隠すことが出来ずに引きつった表情を浮かべながら結び目の紐を捜した。

挿絵(By みてみん)

 そんな中、ランは外から外で待ちきれなくなって呼びに来た月島屋の看板娘・家村小夏に手を引かれて連れ去られていった。



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