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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第六章 『特殊な部隊』と過剰警戒

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第23話 法術を恐れる警察署

 カウラの『スカイラインGTR』とパーラの『初代ランサーエボリューション』の二台の旧車は、入り口に並んで立つジュラルミンの楯を並べた厳重警備の機動隊員に見送られながら豊川署の敷地に入った。

挿絵(By みてみん)

 ゲートには車両の通行を妨害するようにバリケードが設置され、眠そうな顔で防弾装備に身を包んだ署員たちが二台の見慣れた『特殊な部隊』の車を迎えた。


 入り口の前に立つ署員は典型的な機動隊員のような防弾装備にジュラルミンの盾を構えてまるで敵襲に備える軍隊のような雰囲気に誠たちには見えていた。


「なんだよ、見るからに厳戒態勢だな……事が法術がらみだとしてもやりすぎじゃねえのか?婆さんが自転車でこけただけだろ?それがこの厳戒態勢。だったら、神前みたいに『光の(つるぎ)』を使った法術犯罪が起きたらどんな対応をするんだ?全員、銃を持ってこの前の道を走る車に一斉掃射でもするのか?そのくらいのことをしねえと釣り合わねえぞ?」


 カウラとパーラの車と入れ替わるように正門からパトランプを点灯させて走り出すパトカーを見ながらかなめがそうつぶやいた。誠もその意見には同感だった。そのまま二台のパトカーをやり過ごして正門を通れば早速警棒を持った警察官に止められた。仕方なくカウラは窓を開いた。


「済みませんが……どちらの……うわっ!酒臭い!」 

挿絵(By みてみん)

 窓に突っ込んできた警官は思わず車内のアルコールのにおいに驚いたようにのけぞった。


「ああ、私は飲んでいない。同乗の馬鹿三人が飲み過ぎただけだ。それに後ろの黄色い車の警部補はこの二人よりよっぽど飲んでいるはずだが理性を保っている。貴様等はそんなことは気にせずに任務を遂行すれば良いんだ」 


 完全素面のカウラが後部座席に座る誠とかなめをちらっと見やりながらそう言った。


「そんなことよりも……これ、身分証。これで通してもらえるでしょ?それにしても警察を狙ったテロがあったわけじゃないのにこの状況はやりすぎなんじゃないの?私はランちゃんと違ってここの署長の顔は見たこと無いけど、あの程度でこの反応なんてここの署長は馬鹿なんじゃないの?」 


 厄介者を見つけたという表情の警官にアメリアが助手席から身を乗り出して身分証を差し出す。その中を見るとすぐに警官は身じまいを整えて敬礼した。


「失礼しました!駐車スペースでしたらそちらの奥が空いています!後ろの車もそうですよね……ちゃんと用意しておきます!」 


 警察官は司法局の実力行使部隊の中佐であるアメリアの嫌味を聞き流してとりあえず事務的な対応に終始した。


「有難う。さっきの私の言った署長の悪口、言いふらしてもいいわよ。この程度の事件でこんな反応をするなんて法術師に日常的に接している私から言わせるとどうかしているようにしか見えないのは事実だから。法術師について知りぬいている上官の意見は参考にしておいてね♪」 


 警官の態度の豹変に楽しそうな顔をしながらアメリアはそう返した。誠が振り返れば先ほどの警官が同僚になにやら耳打ちしているのが見えた。


「法術師一人に県警本部から呼び寄せたことが丸わかりの機動隊だけじゃ物足りなくて非番の署員まで全員召集か?過剰過ぎる反応だな。法術犯罪に慣れてねえったって相手は『最終戦闘フォーム』のランの姐御が暴れてるわけじゃねえんだから意味ねえっての。まあ、『最終戦闘フォーム』のランの姐御には最新装備の地球圏の最強の軍隊でもただの首と胴がこれから切り離されるだけの存在なんけどな」


 かなめは県警の法術への恐れにも似た過剰反応を笑うようにそう言った。 


「西園寺さん。クバルカ中佐の『最終戦闘フォーム』ってなんです?あの人今の状態でも十分『人外魔法少女』ですよ」


 誠は車庫入れをしているカウラを見ながらかなめにそう尋ねた。


「ああ、オメエはまだランの姐御の『最終戦闘フォーム』を見たことが無かったな。ランの姐御が本気でキレると着流しに胸にサラシ、腹にもサラシ、褌締めて雪駄を履いて手に『関の孫六』を持った状態で女子更衣室から現れるんだ。その時は『これから南北アメリカ大陸を首と胴が離れた死体の山に変えてくるから』とか真顔で言って歩き出すんだぜ。その度に叔父貴が土下座して止めるんだ。叔父貴の口八丁にあの『義理と人情の二ビットコンピュータ脳』の姐御の脳がショートしてそのままうちの本部の地下にある営倉で三日ほど過ごす。オメエが来る前には何回か地球圏のその時姐御が腹に据えかねた国を滅ぼすとか言ってその『最終戦闘フォーム』で女子更衣室から出て来る姐御の姿を見たもんだ。マジであそこで叔父貴が止めなきゃ今頃地球圏の200億の人類の首と胴は繋がってねえぞ」


 かなめは呆れたようにため息をつきつつシートベルトを外した。

 

「まあ、ランちゃんの面白おかしい珍行動は今は関係ないじゃない。それよりこの反応は法術を理解していない人間で『近藤事件』や『バルキスタン三日戦争』や『同盟厚生局違法法術研究事件』の結果しか知らない人間だったら当然の反応なんじゃないの?ただ、うちがそもそもあの『人外魔法少女』が常に見守っている環境に居る事に慣れていて鈍感なだけよ。結構法術に対する誤解はあっちこっちであるものなのよ。たぶんここの署長はこの面々でも足りないと思ったから渋々茜さんの所に連絡してきたんじゃないかしら?相当な慎重でいて現場を知らない署長……付き合う部下もご苦労様としか言えないわよね」 


 かなめの言葉を聞くとアメリア諦め半分の言葉でそうたしなめた。誠もこの警察署の対応がある意味今の東和を象徴しているような気分になってきた。法術は意識を介して発動する力だと言うことは訓練でさんざん叩き込まれてきた。自分に力があることを意識すること。それがあって初めて法術は発動する。


 誠自身、法術を使えるようになってから何か自分の生活に変わることがあったという実感はない。そういう意味では誠にとっては法術は決して恐れるような力では無いように思えた。でも力を持たない人には力を使える可能性があること自体が脅威に感じられる。そんな力を持たない人々の数の暴力を正門の前に整列する機動隊の中に誠は見ていた。


「着いたぞ。茜警部の事だ……我々も迅速に行動した方が良い」 


 署長の公用車らしい大型乗用車の隣にカウラは車のエンジンを切った。遅れて駐車したパーラの車の助手席からは真剣な表情の茜が和服の襟元を整えながら飛び出していった。


「元気だねえ……あんなに急いでも状況は何にも変わらねえのにな」 


 そう言いながらかなめは隣に座る誠を蹴飛ばしてどかせると目の前のなかなかドアを開けようとしないアメリアの後頭部を小突いた。


「何するのよ!痛いじゃないの!」


 かなめはようやくドアを開けようとしたアメリアの後頭部をぶった。


「そりゃそうだ。痛くしてるんだからな。この車はツードアだって何度言えば分かるんだ?とっとと降りてシートを倒せ」 


 いつものかなめとアメリアの小競り合いに苦笑いを浮かべながら誠は苦笑いを浮かべた。アメリアは独り言を人に聞こえない程度の声で呟きながら面倒くさそうにシートを倒す。アメリアの助手席が倒れるとかなめに続いて誠はドアから外へ出た。夜だというのに警察署の明かり半分ほどついていてこの署はまさに臨戦態勢にあることは誰が見ても分かるものだった。

挿絵(By みてみん)

「それじゃあ行きましょう」 


 所の玄関で完全武装の機動隊員を横目に着物の袖を気にしながら誠達を待っていた茜の案内で誠達は署の建物に向かった。


「何度も言うけどさ、婆さんがひっくり返って軽い怪我をしただけでこの始末か?何度も言うけどそれ以上の事件が起きたら何をするんだよ」


 緊張した面持ちで走り回る機動隊員を見やりながらかなめは呆れたような笑み浮かべていた。 


「彼等にとっては法術と言うのは未知の存在だからか。人間、知らないものに対する恐怖と言うものは拭えないものなんだ。自分も遼州人だとは言え、法術が使える人間と使えない人間にはそれだけの認識の違いがある。そう言うことだ」 


 カウラの言葉を聞き流すようにかなめは一人入り口で立ち止まった。


「アタシはタバコを吸っているから先行ってろよ。さっき警察無線を傍受して確認したが婆さんは骨折程度で済んだそうだ。酒を切り上げてきてやったんだからそれくらいの気休めくらいあっても罰は当たらねえよな?」


 周りの緊張感とは全く無縁のダルそうな雰囲気をまとったかなめはそのまま喫煙所に消えていった。 


「仕方ないですわね……かなめお姉さまにはそれほど期待しておりませんから好きになさっても結構ですわ」 


 いつものことなので慣れているというように茜はそのまま入り口の戸を押して署に入った。


「これはこれは……法術特捜の方ですか?」 


 茜のどう見ても白人の顔立ちに長いポニーテールの金髪、紺色の落ち着いた風情の和服と言ういで立ちは確かにこの姿は一目見れば誰でも記憶に残るものだ。入り口でのアルコール臭吹きかけ騒動も報告済みのようで、すぐに警部の階級章をつけた初老の捜査官が声をかけてきた。かなめ以外はかなめ以外はほぼ全員が一七〇センチ以上という長身揃いの集団である。しかも島田が免許取り消しになった時などに顔を出していたのでアメリアやパーラあたりの顔はそれなりに知られているようで周りの署員は驚いた様子も無くこの奇妙な集団を無視してそれぞれの持ち場へと歩み去っていった。


「それにしてもお早いお着きで。しかも実働部隊の方も同行されるとは」


 明らかに下手に出てやると言う慇懃無礼なベテラン捜査官の態度に、誠はかなめがこの場にいないことにほっとしていた。

挿絵(By みてみん)

「外の警戒の様子……ちょっと意外ですわね。法術師はその本人に強い意志があればそれほど恐れるべき存在ではありません。それに(わたくし)も法術師ですわよ……今回の事件の関係している誰よりも強力な……」 


 茜は皮肉をたっぷりと込めたという表情でそう言った。しかし、その老捜査官……誠が蛍光灯の明かりで照らされた階級章で警部と確認出来た男には茜が皮肉でそんな言い方をしたことよりも茜が法術師であると自ら言ったことからの恐怖に震えつつも顔だけは満面の笑みを浮かべて茜を見つめた。


「なあに。ようやく県警も法術に関するノウハウを得たのですから。これまでは迷宮入りばかりだった法術犯罪に関する捜査も一気に展開してこれからは反転攻勢に転じます!」 


 明らかに自分に湧き上がる恐怖を紛らわすための強がりにしか見えない態度にカウラが頬をひきつらせていた。


「どうせ東都警察の特殊法術部隊の受け売りじゃないの?その言葉を額面通りに受け取っていいのかしらねえ……震えながらそんな強気なことを言っても説得力ゼロですよ」 


 小声でアメリアが陰口をつぶやくのも誠が見ても当然の話だった。老警部はこれまで何度か茜とは顔を合わせているので茜の立場は知ってはいたが、茜が法術師であることを知ったのは今日が初めてなのはその握ったり開いたりをして恐怖を紛らわしている態度を見れば誠にも丸わかりだった。


「ウォホン!」 


 初老の警部の咳払いに陰口をやめたアメリアだが、その目は完全に千要警察には法術師関連の事件捜査はできないと決め付けるような生温かい目だった。


「じゃあ(わたくし)にも見せていただけませんでしょうか?その法術に関する調査でこれまでの法術の存在が前提で無いと解明不能だったまだ時効が来ていないその事件の捜査資料の一式を。まあ、そこまでは言いませんけど今回の事件が明らかに法術に関するものであることが明白である以上はそれに関しての法術犯罪を前提とした現場の調査資料は出来ていると考えてもよろしいのですわよね?当然、それに基づいた実地の検分等は済ませたんですわよね?そうでなければ先ほどの警部の自信はまったくの根拠が無いものであったとしか言えませんもの」 


 茜が口を開くが猛烈なアルコール臭に老警部は眉をひそめた。そしてその言葉がどこまでも法術が明らかになる以前となってからとではすべてが変わったのだと言う意味が含まれていることが老警部を慌てさせた。


「いや……それは……それより、その様子から見ると警部はずいぶんと深酒をされているようなので……それは素面(しらふ)に戻ってからのほうが……」


 警部もいくら緊急の用事で茜を呼びつけたとはいえ、そのアルコール臭に顔を歪めた。そしてとても正気を保っているのが不思議なアルコール臭を放ちながらも理路整然と自分の痛いところをついてくる娘ほど年の離れた遼州人の彼からすれば外人にしか見えない茜の態度に困惑しているのが誰の目にも分かる。


「これくらいはたしなむ程度ですの。それにこういう事件は初動捜査が犯人逮捕の鍵と言うのが信念ですから」 


 そう言うと茜はそのまま捜査官達がたむろしている階段へ向かおうとする。必死になって老警部が止めた。


「その……酔いが醒めるまで……少し仮眠を取ってから……それに先ほど我々の法術捜査体制が完備されたと言うのは言葉の綾でして……これからも警部の法術犯罪捜査に関する指導は継続していただいてですね……それに対する……協力を……」 


 その場を取り繕うような言葉を吐きながら慌ててしがみつこうとする老警部の手が袖にかかるのを嫌うように茜は身を翻した。


「そうですわね。お酒が入っているのは事実ですものね。それじゃあ明日早朝にはお伺いしたいので今回の事件に関して県警が集めた全資料などをそろえておいていただけません?この程度のお願いは聞いていただいても当たり前の話ですわよね?何しろ愉快な酒を嗜んでいる私の所に事件発生の連絡を入れてきたぐらいなんですから」


 そもそも茜は最初から話し合いに来たわけではなく、無条件で事件の資料を得る確約を得る為だけにここに来た。その為に茜はその言葉を口にするタイミングを狙っていた。誠はそう確信した。法術犯罪解決の手柄が欲しい県警がすんなり資料を渡さないのは彼女も経験で知っているのだろう。初老の警部の表情にはしてやられたという後悔の念が浮かんでいた。 


「ええ、揃えますから!ですから!」 

挿絵(By みてみん)

 土下座でもしかねない相手に軽く笑みをこぼすと茜は呆然と突っ立っている誠達の所にやってきた。そこにタバコを吸い終えたかなめが飛び込んできた。


「おい、行かないのか?おう、そこのおっちゃん、今回の事件の特別捜査本部はどこか知らねえかな?表であんだけ大騒ぎしてるんだ。県警から凄腕が数人来てるんだろ?その責任者に会わせろよ……そのくらいのお使いはお前でもできるだろ?あ?」 


 態度のでかいかなめに先ほどまで下手に出ていた警部が急に姿勢を正してかなめをにらみつけた。


「西園寺!」 


 カウラは傍若無人なかなめの態度に少し引け目を感じて小声でかなめに注意を入れようとした。


「痛え!」 


 カウラが思い切りかなめの左足のつま先を踏みしめた。そのままかなめはうずくまる。


「ああ、こいつが本物の理性を失った酔っ払いです」 


 カウラはそう言って話を聞いていなかったかなめのスタジャンの襟を引っ張った。


「ご機嫌で暴れ出す前に連れて帰るので、資料をよろしく♪」 


 アメリアとカウラがそのまま立ち上がろうとするかなめを羽交い絞めにして引きずって警察署の玄関まで連れ出した。


「何だよ!アタシが何か……」 


 二人を振りほどいて体勢を立て直そうとするかなめの顔の前には茜の顔があった。明らかに不機嫌なのは誠でも一目でわかった。ようやくかなめは自分が何かへまをしたらしいことに気づいて頭を掻きながらさっさと車に向かった。


「ともかく、皆さん。明日はよろしく」 


 今度は打って変わってのかなめは厭味ったらしく見送る豊川署の署員に笑いかけた。カウラは仕方なく笑みを浮かべてそれに応えることしか出来なかった。


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