第20話 かなめの勘
「まあいいか。そう言えば忘れてたけど……アン!かえでが探してたぞ!第二小隊でクバルカ中佐相手にもう一度仕上げのシミュレータで模擬戦するそうだ。オメエのテリトリーのサーチ能力が必要なんだと!早くしろよ!」
かなめはいかにも先輩風を吹かせてアンに向けて無遠慮にそう言った。
「ああ、すいません!今すぐ行きますので!」
着替えの終わったアンはかなめの言葉にはじかれるようにして飛び出していった。
「あのー西園寺さん」
誠はデリカシーと言う文字が辞書にないかなめに向けて恥ずかしながらそう言った。
「なんだ?」
訳が分からないと言う顔でかなめはそれに答える。
「なんでいつまでもここにいるんです?西園寺さんも何件かクバルカ中佐に書類の作成を頼まれてましたよね?そのほとんどが西園寺さんが壊した隊の備品の請求書を管理部が作る時に添付する顛末書……そんなの実際に壊した西園寺さんしか作れませんよ」
誠は上着に袖を通しながらそう言った。その言葉を聞くとかなめは急に顔を赤らめた。
「その言い方じゃあまるでアタシが破壊神みたいじゃねえか!さっさと着替えろ!アタシの仕事はアタシの仕事だ!オメエがどうこう言う話じゃねえ!」
かなめは誠の股間を見つめたままそう言い放った。
「ふーん。こうして一歩、誠ちゃんと仲良くするわけね。それで妹から『許婚』を奪う……『悪女』であるかなめちゃんの考えそうなことね」
突然の言葉に誠もかなめも驚いて入り口に視線を向けた。いつの間にか現れたアメリアが満足げな表情でまだ制服に着替え終わっていない誠をまじまじと見ていた。
「アメリアさんまでそんな……というかなんでここにアメリアさんがいるんです?暇なん……ですよね?」
誠は予想外の闖入者に慌ててそう言った。当然のことながらアメリアは誠の言葉を聞いていて完全に無視していた。
「まあ、かなめちゃんが破壊神アピールして力づくでかえでちゃんから誠ちゃんを奪おうと考えているみたいだけど、ランちゃんでさえ奥の手を出さないと勝てないかえでちゃんに法術師でもないかなめちゃんの力づくが通用するのかしら?それに私もかえでちゃんから誠ちゃんを奪う気満々だから。その手段はかなめちゃんにもかえでちゃんにも思いもしない手段でね♪かなめちゃんも覚悟しておくことね」
アメリアは得意げにその大きな胸を揺らしてかなめをにらみつけた。
「お二人とも!こんなところで喧嘩は駄目ですよ!ここは男子シャワー室の更衣室です!女子の入るところじゃありません!まあそもそもお二人とも僕の言うことなんて聞かないことはこれまでで十分理解してますけど一応僕はそういう意見だったと言うことだけは理解しておいてくださいね!」
誠にとってはもう先ほどのかなめとアンのやり取りだけでも十分精神的に疲れ果てていたのでこれ以上の面倒ごとは御免で、一刻も早くランに急かされている報告書の作成に取り掛かりたかった。
「私は別に気にしないわよ。ここで誠ちゃんが気にするのは当然のことかもしれないけど、年中月島屋で酔っぱらって脱いでる誠ちゃんじゃない。その理屈だと女子は月島屋には入れないことになるわね。そうしたらあの店潰れちゃうわよ」
呆れたような顔に変わったアメリアの表情。明らかにそれが作ったような顔なのでかなめはその頭をはたいた。
「痛いじゃない!いつも気に入らないとすぐに暴力に訴える。マゾのかえでちゃんなら喜ぶでしょうけど残念ながら私はマゾじゃないの!ああ、かなめちゃんに言っても無駄よね。かなめちゃんはぶつのもぶたれるのも好きだから。ぶってぶたれるのが最高の愛情表現なのがかなめちゃんだもの。誠ちゃんもかなめちゃんと付き合うようになったら5分に一度は蹴ったり殴ったりされる訳よ?マゾになりたくなければかなめちゃんだけは止めておくことがお勧めだわ!」
アメリアは嫌味の様にそう言って怒りの表情を浮かべるかなめをその長身から見下ろした。
「くだらねえこと言ってねえでオメエも神前の言う通り仕事しろ!暇なのか?だったらエロゲの原案や新作落語の一本でも仕上げろ!聞いた話じゃ茜の奴に法術関係の捜査の資料を取って来いとか言われてたろ?そっちの方は終わったのかよ?ランの姐御と茜はうちでは珍しい仕事第一人間だ。そんな人間には仕事の結果を出さねえ限りいつでも見下すような視線で見つめられる羽目になる。アタシはもう慣れてるから良いが、オメエは……なんやかんやで期日までには提出してるんだよな……どうやってんだ?ネット直結の脳を持ってるアタシでさえ無理な仕事量をあれだけ遊んでばかりいてもこなすなんて……叔父貴か?オメエは?」
かなめは最初は怒っていたものの、その自分の言葉が導いた結論がアメリアがどう考えても遊んでしかいないのに書類の提出が遅れたことが無いことに気が付いて首をひねっていた。
「なんで私をあの『駄目人間』と一緒にするのよ!確かに、隊長は自分の任期が終わったら私に譲ると公言しているけど、それは私くらいしか隊長の能力を継げる人間が司法局に居ないというだけの話。それに私の遊びは有意義な趣味として昼間のテレビ番組でもニューつとして取り上げられてもいいものだけど、隊長の趣味はそのほとんどが深夜帯でもアウトなものがほとんどで、一部は昼間の報道特集で犯罪として取り上げられる類のものじゃないの!あんなのと一緒にされたら不愉快だわ!」
嵯峨と同類とかなめに言われたアメリアはうんざりとした表情でそう言った。
「でも、確かに風俗系は深夜帯でも最近はあまり出てこないし……ああ、オートレースは短波ラジオとかで昼間でもやってるから昼までも聞けるぞ。それ以外が報道特集で扱われるものなのは間違いねえが」
入り口でにらみ合う二人。その二人の話題がお互いの悪口からいつの間にか隊長である嵯峨の悪口にすり替わっているのが誠には理解できなかった。誠は上着の袖を見てみるとそこにはすっかりシャワーのしずくが刎ねて濡れていた。さらに背中をさするとそちらもびっしょりと濡れた感触が手に感じられた。
「誠ちゃん風邪引くわよそんなことしていると」
アメリアは完全に傍観者を気取ってそう言って濡れた上衣に困り果てた顔の誠を笑う。
「西園寺さんが水浸しの所に投げたせいじゃないですか!それとアメリアさんが入って来たからそこのストーブで乾かすとかできなかったからこうなったんです!」
ともかく二人に出て行ってもらいたいという気持ちが誠にそんな言葉を吐かせた。
「もしかして私のせい?別に私のことなんか気にせずに服を乾かせばよかったのに」
かなめと誠にアメリアはそれぞれ視線を向けた。二人がうなずくのを見ると次第にすごすごと入り口に向かうが、当然のようにかなめの袖を引いている。
「外で待ってるからいったん上着を脱いでそこの電気ストーブで上着を乾かせ!オメエも行くぞ!」
それだけ言うとかなめは誠を見つめていたアメリアを強引に引っ張って入り口の引き戸を閉めて外に出て行った。
一人きりになりようやく安心して、いったん上着を脱ぐとべったりと水でぬれた上着の背中を電気ストーブの前にかざした。
そしてまた1分立っていない時だった。
「まだかー」
待つと言うことを知らないかなめの声が廊下に響いた。
「まだですよ!あれだけびっしょり濡れたのがそんなにすぐ乾くわけないでしょ!」
待ちきれないかなめが外で叫ぶ。その隣であくびをしているアメリアの吐息が聞こえる。
しばらく経ってかなめの短気が爆発するのを恐れていた誠は背中一面から湯気が上がり始めたのを見るとこれ以上かなめを待たせるのと生乾きの不快感に耐えることを天秤にかけてかなめを待たせた結果起きる現象の方が自分にとってダメージが大きいと判断して嫌々ベタベタした感覚の征服の上着に袖を通して更衣室を出た。
「よし、行くぞ」
ようやく出てきた誠を一瞥するとかなめはそのまま歩き始めた。
「本当に気が短いんだから。服が乾く時間くらい分かるでしょうに……というか、誠ちゃんまだ生乾きでしょ?まあ、暖房が聞いてるから風邪をひくことは無いでしょうけど」
アメリアは短気なかなめに呆れたようにそう言うと足取りを早めた。
「何か言ったか?」
かなめは妙な緊張感を孕んだままアメリアをにらみつけた。
「べーつーに……」
振り返るかなめにとぼけてみせるアメリア。いつものように運航部の扉の前にある階段を上がり、医務室と男女の更衣室が並んでいる二階の廊下を歩いた。誰もいない廊下に足音が響き。誠達はそれを確認しながら会議室の扉の前に立った。
アメリアが会議室のドアをノックをした。
「どうぞ 」
澄んだ声。部隊長嵯峨惟基の実娘、嵯峨茜警部の声が響いた。そのまま開いた扉の中を見ればすでに資料をテーブルにおいて準備万端と言う様子の茜とその隣では携帯端末にひたすら何かを打ち込んでいる彼女の唯一の部下であるカルビナ・ラーナ巡査の姿が有った。
他にも部屋にはカウラと先月の『同盟厚生局違法法術研究事件』で捜査を担当した整備班長の島田正人准尉と行きがかり上捜査に携わることになったアメリアの部下の運用艦『ふさ』の管制官であるサラ・グリファン中尉の姿があった。
「誠君。髪の毛濡れたままじゃないですの……。かなめお姉さま。そんなに神前を急かす必要なんてないんですのよ。私は今日は豊川で一日過ごす予定になってますから」
茜の言葉にむっとした表情のままかなめは茜の隣の椅子にどっかと腰を落ち着ける。その大人気ない様子にカウラは大きくため息をついた。
「さあ、皆さんそろったんですから……」
なんとか和ませようと中腰で仲介するのは今は『武悪』の整備で手が離せないはずの技術部の整備班長の島田正人准尉の姿があった。隣にいるアメリアの部下のサラ・グリファン少尉も雲行きの怪しい誠達のとばっちりを避けたいというようにうなずきながらかなめを見つめていた。
「そろったと言うことで」
ホワイトボードの前に立つ茜が室内を見回した。
「まあな。それじゃあ何のためにアタシ等が呼ばれたか聞かせてもらおうか」
かなめの声に茜は微笑みで返す。
「ではさっそく本題に入りますわね。実は最近演操術系の法術を使用しての悪戯のようなものが多発していますの」
茜のヨーロッパ風の顔立ちと金色の髪のポニーテールには紺の東都警察の制服が似合う。以前の主にこの豊川司法局実働部隊駐屯地に詰めっぱなしだったときの東和陸軍と共通の司法局実働部隊の濃いブルーの制服とは違う新鮮な姿に誠は惹きつけられていた。
「例の誠の実家近くの神社であった不審火みたいな件か……結局アタシ等にお鉢が回ってきたわけだな。東都警察の無能もここに極まれりだな。全員すぐに辞表をかけよ。甲武だったらアタシはその辞表を受理してやる」
かなめの苦笑いを見ながら茜はなにやら端末を叩いている助手のカルビナ・ラーナ巡査に目を向けた。
白いボードに何かの映像が映った。焼け焦げた布団。ばっさりと切り裂かれた積み上げられたタイヤの山。ガードレールが真っ二つに裂かれているのにはさすがの誠もぎょっとしてしまった。
「ごらんのようにボヤや器物の損壊で済んでいますが……」
何事も無かったかのように茜は話を始めた。
「おい待てよ。こんなちっぽけな事件をうちで担当するのか?うちは『シュツルム・パンツァー』なんていう人型機動兵器を扱う力任せの実力行使部隊だぞ?それが、こんな軽犯罪を……そんなの警察の交番勤務の巡査の手柄にでもしてやれよ。アタシも神前もランの姐御に宿題を出されてるんだ。こんな会議一瞬でも早く終わらせたいんだ。こんな事件の終わった現場の写真なんて延々と見せられるなんてまっぴらだ」
話を進めようとする茜をかなめが不機嫌な表情で止めた。茜は明らかに笑っていない目でかなめを見つめた。
「なんだよその目は?軽犯罪者の逮捕までうちの仕事になったのが気に食わねえってアタシは言ってるんだよ!」
かなめはそう言ってつまらない事件を押し付けられることを何とか回避しようとした。
「今は小さな事件でも、いずれ大事件へと発展する可能性がある。同盟厚生局の事件を忘れたのか?結局あの時も最初は通常の警察官が対応可能な事件かと言うことで捜査を始めてみれば、最終段階では神前の05式が無ければ大惨事だった……今回もそうならない保証は無いと言い切れるのか?」
立ち上がって叫ぶかなめにカウラはポツリとつぶやいた。かなめは完全にカウラの言葉にキレていつものように一触即発の雰囲気が漂った。島田とアメリアはとりあえずいつかなめがカウラに飛び掛ってもいいように身構えているのが誠からすると滑稽に見えて噴出してしまった。
「神前君。不謹慎よ!大事件になるかも知れないのよ!私だってあの時は大変だったんだから!」
同じくにやけながら噴出した誠をサラがいさめた。
「どれも容疑者として上げた法術師はそんな意識は無かったと容疑を否認しています……誠君達が出会ったのもそんな事件の一つってことになりますわね」
じゃれあいに発展しかねないかなめとカウラのにらみ合いを見て、あくまで冷静を装いつつ茜はそう言った。
「そんなとこっすね。これまでも何件か似たような事件は起きてますから」
そう言うとラーナはかなめに目を向けた。かなめは首筋のジャックにコードをつなげてネットワークと接続している最中だった。
「どの事件も発生場所は東都南部から湾岸地域に集中しているな。それに時間も夕方6時から夜中の12時まで。唯一の例外が正月のアタシ等が出会ったボヤ。同一犯の犯行と考えるのを邪魔する要素はねえな」
かなめは分かり切ったこととでもいうようにそう言うと退屈そうな表情を浮かべた。
「西園寺大尉!馬鹿にしないでくださいよ。そんくらいのことは茜警部もわかって話してるんす!」
不愉快だと言うように茜の唯一の部下であるカルビナ・ラーナ巡査が叫んだ。茜は彼女の肩を叩いてうなずきながらなだめて見せた。
「でもそれならなおの事うちよりも東都警察に頼むのが適当なんじゃないですか?うちは豊川ですよ。ここの管轄は千要県警。それに事件が起きてもどんなに急いでも、都心へ出るだけで半日は移動に消えますから。それに先日の同盟厚生局事件の時に活躍した東都警察の虎の子の法術師部隊を待機させてローラー作戦でもやれば一発で見つかるでしょ?法術を操る法術師なら法術師を囮にそれに引っかかるのを待てば意外と東都警察だけでどうにかなりそうな感じなんだけど?」
アメリアの言葉にもっともだと誠もうなずいた。
「アメリアの言う囮作戦だが良いアイディアだ。当然東都警察も気付いているはずだ。東都警察がそれをやりたいというのなら我々にそれを反対する理由は無いな。クラウゼの言うことが今のところ正しく見えるのだが……そもそもなんで東都警察はそんな単純な作戦を実行に移さないんだ?そうすれば間違いなくその法術犯罪者は食いついてきて事件解決だ。我々の出る幕はない」
カウラも同意しているのを見てかなめはやる気がなさそうに端末につないでいたコードを引き抜いた。
「アメリアさんの言うことも分かるんですけど、一つ大事なことをお忘れでは無いですか。東都警察がこの種の事件に虎の子の法術師部隊を投入するだけの興味を持っていればって限定が入りますわよね?そのような大規模捜査を東都警察が行うのは。このような軽犯罪、東都警察のお忙しい皆さんは関わりたく無いのが本音ではないかしら。先ほどかなめお姉さまがおっしゃった程度の認識しか今のところ東都警察には危機感が無い。これが大事件に発展するなどと考えている幹部は東都警察には一人もいない。残念ですけど、何度か東都警察の法術犯罪の担当者とお話しした限り、彼らのこの事件に対する見方はその程度のものなのです」
茜は静かな口調でそう言った。そして自分達が遼州同盟の司法捜査官であり東都警察の捜査官と違うと言う現実に目が行った。
「確かに東和警察は解決を急ぐつもりは無いようっすね。どれも他愛の無い悪戯程度で済んでいますから……でも得てしてこういう愉快犯はいつか暴走してどうなるか分からないなんて言うことはこれまでのこの種の事件の経過を見ればわかることだとおもうんっすけどねえ。それよりなんて言っても相変わらず東都警察とやりあってる法術師の辻斬り事件。そちらに対応するのがあそこの今の最大の関心事項っすから。これまで計5人の殉職者を出している以上あの人達に正常な判断力を今期待するのは無理っすね」
法術関連の捜査官の勘がラーナに最悪の事態を予想させているのが誠にも分かった。
「要は自分達は仲間の敵討ちで忙しいから、暇そうなアタシ等が大事になる前に捕まえろってことか?面倒だなあ。どうせならその犯人がこっちに引っ越して来てくれるといいんだけど。さっきアメリアが言った通り、この事件現場を全部回るだけでその日一日潰れるぞ?それこそタイヤが切られるとかの事件の度にアタシら全員が一日潰してその現場を見て帰ってきて……時間の無駄じゃねえか」
かなめはまるで絵空事を望んでいるかのような口調でそう言うと関心が無さそうな笑みを浮かべた。
「犯人が千要のこんな果ての地まで引っ越して来る?西園寺、何を馬鹿なことを言っているんだ?そんなに都合よく行くわけ無いだろ?貴様のご都合主義にも困ったものだがそれも仕事だ。神前も茜警部の法術もクバルカ中佐のように場所が特定されれば瞬間移動できるわけでは無いんだ。時間がかかると言っても事件が起きた以上それに時間を使うのが仕事というものだ」
かなめの言葉にカウラがツッコんだ。そのいつもどおりの情景に誠はいつの間にか癒されるようになっていた。
「でもあれだぜ。あの正月の事件以来もう半月経ってるんだ。あれから同種の事件は発生していねえんだろ?もしかすると引っ越し準備でもしてるんじゃねえの?行き先が豊川じゃないと良いな。そうすればうちとは関係ねえ。さすがに豊川から一日じゃ行けねえところに引っ越してくれればアタシ等にもお呼びはかからねえだろう。ただ、その県の県警から茜とラーナが呼びつけられるのは出張になるんだろ?そん時はそこのできの悪い法術師の捜査官をせいぜい鍛えてやってくれ。ただ、こっちに来るって言うんならアタシ等が手を課すのも悪くはねえんじゃないかな……」
周りを見渡してかなめは無責任にそう言うとにんまりと笑った。だが全員が大きなため息をついて白い目で彼女を見つめた。
「西園寺さん。結構無責任なことを言うんすね。もしかして犯人は現在引っ越し準備中で豊川近くに部屋でも借りに来ているとでも言うつもりですか?そんな都合よく話が進むなんて……」
それまで沈黙を黙っていた島田がそう言った。隣では彼に同調するように赤い髪のサラが大きくうなずいている。
「でもあれだぞ!今の時期は年度末を控えていろいろ引越しとかあるんじゃねえの?この犯罪者の奴にも仕事とか学校とかあるんだろうから。こんないたずらでおまんまが食えるほど世の中甘くねえだろ?飯のネタの都合で年度末に引っ越しをする。東和じゃ普通の話しだ」
かなめはなんとか自分の意見を正当化しようと強情にそう言い張った。
「それだとなんで豊川市に引っ越して来るんだ?東都首都圏は広いんだ。そんなに都合よく物事が運ぶわけがない。それこそ先ほど貴様が行ったように遠く関西などに引っ越した場合はその事件に対応するために茜警部とラーナ巡査が出張することになるだろう。大坂府警も法術捜査部隊を編成したと以前聞いたことがある。東都警察の法術対応部隊ですらあの体たらくだから期待はあまりできないだろうがな」
カウラは呆れるを通り越して哀れみの目でかなめを見つめた。追い詰められたかなめは必死に出口を探して頭をひねった。そして手を打って元気良く叫んだ。
「何も大坂に引っ越すなんて言ってねえだろ!きっと奴はこの豊川にやってくる!当然その目的は法術を最初に展開して今みたいな状況を作ったアタシ等に復讐するためだ!アタシの理屈は完全に通っている!間違いねえ!」
かなめは決め付けるようにそう叫んだ。
「あのなあ、西園寺。その発想は島田レベルだぞ……まあいい。第一小隊はこの件での茜警部の補佐任務を主任務とすることにしよう。もし隊長の許可が出たら機動部隊としては隊長のクバルカ中佐に上申して正規任務については第二小隊に対応させるから。それで勘弁してくれ」
第一小隊小隊長としてのカウラの言葉に茜はうなずくとテーブルを整理始めた。周りの面々もそれぞれに立ち上がり持ち場へと急ごうとした。
「何だよ!テメエ等!寄ってたかってアタシを馬鹿にしやがって!そんなにアタシの勘が信用できねえとでも言うのか!」
怒鳴るかなめの肩にそっと茜が手を乗せた。
「よろしいんでは無いですの?要は犯人を捕まえれば分かることですわ。ただ、このまま沈黙が続くのなら……それが一番のことだと思いません?彼がいたずらに飽きてくれるのが一番の問題解決方法。でもそうはいきそうにないのが法術犯罪というものなんですわよ……そう、悪戯以上の事が出来るとこの犯人が気付いた時にすべての状況は変わるかも知れません」
茜に真正面からこれ以上無い正論を言われてさすがのかなめも参ったというように肩を落とした。誠もカウラもこれから先彼女と付き合って捜査を行うだろう今後を思いやりながらそれぞれに席を立った。




