第2話 東福岡魔法学院
かなめが得意げに取り出した大画面の中にそのかなめの笑いものにされるものは映し出されるはずだった。
そこには見慣れないアルファベットの羅列が数秒映った後、すぐに誠が思わず『SF世界の学校だ』と思うような未来的な建物が映し出された。
そしてその玄関らしい場所に立つ放射能防護服を着たアナウンサーの姿が目に入った。
『こちらNBC福岡放送局です!今日はこの度軍の子弟を専門に扱う画期的な学校が開校したということで皆さんにその実態をお伝えします!』
かなめが日本語しかできない誠に気を利かせたらしく英語の音声は小さく響き、かなめのデバイスを利用したリアルタイム翻訳機能によりかなめの声でアナウンサーが話し始めると周りの人々の視線も集まった。ただのテレビの画像を見せられたことで少しばかりカウラは呆れたような顔をしていた。
「西園寺さん……これってアメリカ信託領ジャパンのごく普通の民間放送局の画像ですよね?これのどこがそれほど面白いんですか?地球ではクバルカ中佐が言ってましたが地球のテレビ局は全部偉い人が保有していてその人の都合のいいニュース番組だけを流す放送局が一杯あることくらい僕だって知ってますよ。そんな普通の番組のどこがそんなにおかしいんですか?でも、このアナウンサーさんがこんないかにもそれらしい放射能防護服を着ているってことはやっぱり地球は外を歩くときは放射能防護服が必要なんですね……まあ、六百年前の地球じゃ、ほぼ毎年みたいに核戦争やってたらしいですし。でもそれは地球人の自業自得でしょ?そんなことを笑っても何の得にもなりませんよ」
誠は噴出すような内容がありそうに無いありきたりのニュース番組を見せられたので少しがっかりした誠は、周囲の反応をちらちらとうかがっているかなめに尋ねた。
「ちょっと落ち着いて待ってろよ。こんなアナウンサーの格好が妙だなんてことはどうでもいいんだ……もう少し前かな?ともかくウケるんだ……まったく地球人の考えることは理解不能だってオメエ等でもすぐに分かるぞ。アイツ等の脳内はどこまでもお花畑のファンタジーの世界だ。そんなネーミングセンスを持っているなんてそもそも理解不能だって嫌でもオメエ等に思い知らせてやる」
そう言うと画面が高速で逆回転して行く。そして学校の入学式のような雰囲気の映像が映ったところで画像は止まった。
『……魔法学院の……』
アナウンサーのその一言にアメリアのいつもは開いているかどうかはっきりしない糸目に光が入った。
「魔法!魔法学院!出来たの?ついにそんな素敵な学校が出来たの?どこの世界?ファンタジー?フィクション?エロゲ?ああ、行ってみたいわね……魔法学院……そこにはファンタジーとエロがたくさん詰まってるんでしょうね!当然、エルフとかスライムとかゴブリンとかも養殖してるんでしょうね?そうじゃ無きゃエロテイストロールプレイングゲームの王道は作れないわよ!当然主人公はかえでちゃんがぴったり!そこで次々とモンスターに襲われるために一刻も早くかえでちゃんにはその魔法学院の生徒になってもらいわないと!でも、いつの間に地球人は魔法が使えるようになったの?入学資格に30歳まで童貞の男限定とかあるの?それだとかえでちゃんは入れないわね……あの嫌ーな菰田の奴がちゃっかり入学できそうなのが実に生々しくて嫌なんだけど」
それまで野次馬を見回しながらかなめの行動を黙殺していたアメリアがハイテンションで叫んだあと、あの『特殊な部隊』で一番の嫌われ者である管理部の経理課長代理をしている菰田邦弘主計曹長のメタボな体形を思い出してテンションが平熱に戻っていた。
誠はアメリアを知る前にアメリアが彼女の部下の運航部の女子達と作った同人エロゲをプレイした経験が有った。
それゆえにアメリアのこの『魔法学院』と言う言葉を聞いて言いそうなことには納得できた。
誠は毎度毎度、アメリア制作の同人エロゲの絵師をやらされるのが当たり前になっていた。
魔法学院を舞台にした典型的なファンタジー作品だったので、アメリアが妙に食いつく理由だけは理解できた。
確かにその主人公が『男装の麗人』として知られる誠をも上回る法術師であり、女性男性問わずすべてを魅了する美貌と巨大すぎる胸を持った、かなめの妹としてサディストのかなめに調教し尽くされた変態でマゾの第二小隊小隊長日野かえで少佐であればさぞ似合うであろうことは誠にも納得だったが、この際そんなことはどうでもよかった。
誠とカウラはアメリアのやたらとうれしそうな表情を見て目を見合わせることになった。確かにかなめが噴出すはずだと納得してうなずく誠を見ながらまだ理解できずにいるカウラに目を向けた。
「まあ……酒を吹き出すほどウケる話題かどうかは別としておいても、変な名前と言うことだけは僕にも分かります。確かにこのネーミングセンスはどうかしているのは間違いないですね。いくらなんでも『魔法学院』なんていう直球過ぎる名前は無いと思うんですけど、さすがに。これじゃあまるで本当にファンタジーじゃないですか。隊長にこれを見せたら大爆笑してさっきの西園寺さんみたいな状態になりますよ。他に何かいい名前は無かったんですかね?一体、地球人はこんな学校を作って何をするつもりですか?菰田先輩みたいな東和でも僕が見てもたとえ一億年生きても彼女が出来るとは思えない男子を強制的にこの学校に入学させて30歳まで女性と会うことを禁止することで魔法使いを生み出そうとでも考えているんですか?そりゃあ、アホ以外の何者でもないですね。地球にはアホしかいないんですか?」
誠のフォローにもカウラはまだ一つ乗れないように首をひねっていた。
「うるせえなあ……もう少し落ち着けよ。それにオメエ等『魔法』って聞くと菰田の馬鹿を想像するって協定でも結んでるのか?他にも整備班で30歳を超えて童貞であるかのせいの高い人間はいくらでもいるだろうが。確かにその筆頭が菰田なのは事実だがな。でも笑えるだろ?地球人の考えることは本当に理解不能だぜ。確かにニュースの中じゃ詳しいこの学校の活動には触れてなかったから恐らく神前の考えた通りのことをやろうと考えているんだろうな。やっぱ、地球人は全員アホだ」
アメリアの食いつきに呆れたようにかなめは言うと画面を拡大した。そこにははるか離れた地球のアメリカ合衆国信託統治領ジャパンの街の一隅にある学校の校門が映し出されていた。誠達はその中の学校の校門の横の石碑に刻まれた文字に目をやった。
「『東福岡魔法学院』……?『魔法』?物語の中だけでなく実際に有るんだな、魔法と言うものは地球では。これはうかうかしていられないぞ、神前もすぐに『ファイアーボール』や『治癒の魔法』を使えるようにならないといけない!それと箒に乗って飛んでくる可能性もある!戦闘中に地球人が箒を持って現れたら要警戒だ!連中は空を飛び『ファイアーボール』を放ってくる。そうなるといくら重装甲の05式でも耐えられる保証は何もない!」
真面目で、ファンタジーエロゲを大量に自分に見せて来るアメリアの影響で少しでもアメリアを理解しようとファンタジー小説にはまったため、なぜかファンタジー世界の理解だけが趣味のパチンコ以外のフィクションの知識でもあるカウラはまるでランが任侠映画の世界が現実だと信じ込んでいる時と同じような反応で誠の肩を激しくたたいた。
「あのーカウラさん、ここは落ち着いてください。これまでの西園寺さんとアメリアさんの言ってることは地球人の壮大なボケに対する乗りツッコミの前フリなんですから。ここでツッコミを入れるべきカウラさんまでボケ始めたらボケが飽和して宇宙が終わるんで」
誠は本気で狼狽えている様子のカウラにそう冷静にツッコミを入れざるを得なかった。
カウラは少し緊張した面持ちで誠から見ても最近の人気パチンコ台でファンタジー世界で活躍する女性魔導士をテーマにしたことがあり多分その影響を受けてこの発言をしたのだろうと納得した。ただ、このカウラの反応がツボにはまったらしく、今度はアメリアが口を押さえて大爆笑を始めた。
「おかしい!地球人は遼州圏で『法術』と呼んでるものが理解できないからって無理やり菰田君みたいに軍人を30歳まで童貞にすれば『法術師』になれるとでも思うようになったのかしら?そんなのこの人口の70%が一生彼女彼氏いない歴=年齢の東和共和国ではほとんどの国民が法術師で無いとおかしいってことになるんじゃないの!本当に地球人はアホなのね!見ていてその遺伝子を継いでいるという自分が情けなくなってくるほどアホな光景だわ!」
ひたすら振袖の長い袖を振り回してはしゃぎまくるアメリアを見ていると誠もカウラも自分があまりに馬鹿な話をしていたことを思い返し少し恥ずかしい気分になっていた。
「菰田は関係ねえだろ。菰田は純血の遼州人だから云々じゃない。単にモテないだけだ。アメリカさんはアタシ等遼州圏の人間が『法術』と呼んでいるものを『マジック』と呼んでるからな。和訳したら『魔法』だろ?連中からしたら遼州人はみんな魔法使いだ。きっと遼州人は箒に乗って移動しているに違いないと連中は思ってるぜ。神前、オメエの実家に帰ったらオメエの母ちゃんから箒を借りて来い。うまく行けばオメエも飛べるかもしれねえぞ。何しろオメエはその『法術』の存在を地球人のアホに教えた張本人なんだから」
かなめは相変わらずニヤニヤ笑いながら誠に向けてそう言ってきた。
「ああ、そうですね。確かにアメリカでは法術を『マジック』と呼称してますから。ただの言葉の遊びですか。分かってしまうと意外とつまらないですね。ちなみに西園寺さんが言うようなことで僕が空を飛ぶことは有り得ません。僕に飛行系の法術が使えないことは法術の専門家であるひよこさんの分析で分かっている事です。例え箒に乗っても僕は空を飛べません」
思わず腹を押さえて二つ折りになっているアメリアに周りの視線が痛いほど突き刺さるのを見ながら誠はそうつぶやいた。
「……おかしい!じゃあここの学校の生徒はみんなマントに杖を持って登校して来るわけね!ファンタジーよ!誠ちゃんも入学したら?」
アメリアは24歳にしてキスさえしたことが無い誠に向けてそう言ってからかった。
「ばかばかしい。そんな都市伝説は地球圏だけのものだ。それをあてはめたらこの東和では男の70%が魔法使いと言うことになる。確かに遼州人のほとんどは遼州圏に住んでいるが遼州圏でも法術が使えるのはその一部だ。アメリア、現実を見ろ」
上機嫌のアメリアの言葉をカウラはあっさり斬って捨てた。それでもアメリアの笑いは収まらなかった。そんな中、急にかなめが真剣な表情で誠にそのタレ目を向けて来た。
「神前はあと最低一年は必要だな、ここに入学するには」
かなめは急に真面目な表情になってそう言った。
「え?そう言う条項があるんですか?学校としてはかなり高年齢の人しか入れない学校なんですね」
誠はかなめの言っていることの意味が分からずそう聞き返した。
「だってお前童貞だろ?今は24歳だから……25になるまであと一年。がんばれよ、菰田に負けるな!アイツは魔法使いになるのは30からだと言い出してるが、それはアイツが26だからだ。もうすでにアイツも魔法が使えるかもな……ああ、使えたわ。アイツは確かに魔法使える。『キモイ』とか『キタナイ』とか『ケチ』とか『メタボ』言う種類の魔法」
誠は怒り狂う誠を敵視してやまない管理部の主計曹長の菰田邦弘の四角い顔を思い出した。かなめの得意げな顔に誠は頭を掻きながら視線を画面に移した。その様子がおかしかったらしく今にも半分に折れそうな様子でアメリアは爆笑を続けていた。誠はかなめの言葉にとりあえず愛想笑いを浮かべながら時間が過ぎることだけを待っていた。
「冗談はここまでとしてだ。地球でも東アジア、特にジャパンにはアメリカに併合されるのを嫌がって甲武に来た日本人と入れ替わって地球の便利な生活にあこがれて移民した遼州系の人間も多いからな。恐らくそのことを睨んで準備が進んでたんだろ。恐らくこの学校にはアメリカ政府の意図が深くかかわっているとみるのが現実的だな。まあ神前が法術の存在を示した『近藤事件』以前からいつでも行けるところまで計画は出来ていたんだろうな。そしてその準備が整って実行に移しただけの話だ。西園寺やアメリアが喜ぶような話ではないな」
カウラは一人、冷静に画面を見つめた。さすがにそんなカウラも見るとアメリアも笑いに飽き、かなめが再び升酒をあおり始めると周りの野次馬も興味を失ったように散っていった。
「しかし『魔法学院』はないだろ?どうにかならなかったのか?まったく。誰かこのネーミング止められなかったのかね……さすがに『法術研究所』までしろとは言わねえが、『魔法学校』とか……ああ、あんま変わんねえな」
ニヤニヤしながらかなめは画面の中の看板に目をやっていた。
「名前が重要なんじゃない。むしろその中身が大事なんじゃないのか?一応、貴様が映したニュースを聞いたところ私立の学校という話だが設立に当たりいくつかの在日アメリカ軍の外郭団体から金が流れているだろうことは考えられる。実際は米軍の法術師養成機関と考えるのが妥当だろう」
カウラは平然とそう言って面白がるかなめに不愉快そうな視線を送っていた。
「なんだよ、カウラは知ってたのか?」
まるで自分の見つけたネタを馬鹿にされたようにかなめが頬を膨らませた。それを見てアメリアもようやく落ち着いてきたというように口元を引きつらせながら立ち上がった。自分のせっかくの出鼻をくじかれたとあってしばらくかなめは不機嫌そうにしていたが再びいつもの意地悪そうな顔つきに戻ると達磨ストーブに乗っていた餅を手にとって口に運んだ。
「姐さん……醤油は?それじゃあ味がしないでしょ」
オヤジが口を挟むがかなめはまるで無視して味の無い餅を何度か噛み締めた後、静かに飲み込んで再び視線をカウラに向けた。
「なるほどねえ、さすがカウラちゃんは勉強熱心でいらっしゃる。だからパチンコでも勝率が高いのね」
アメリアは真面目な顔のカウラを皮肉るようにそう言った。
「貴様等が仕事をサボることばかり考えているからだ。それとパチンコは事前の台の予習をしっかりしていれば確率的にかなりの高確率で勝てるものだ。最近良く分かって来た。このところ勝ちが続いて貯金が増えて仕方がない」
そう言うとカウラはそのままビニールシートを持ち上げてそのまま参道に出た。かなめは升を舎弟の若者に返すとその後に続いた。達磨ストーブの前ですっかりご機嫌で温まっていたアメリアが急いでその後に続くのを見て誠も我に返ってオヤジに一礼するとそのまま参道に飛び出した。
「でも僕も思いますけど『魔法学院』は無いと思うんですけどね……どう見てもやはりファンタジーの世界ですよ。人間が宇宙に飛び出してからの名前とは思えないじゃないですか。じゃああれですか?僕は魔法使いですか?僕の使える『干渉空間』や『光の剣』はどんな魔法なんですか?そんなあの菰田先輩を思い出させるような呼び方はされたくないなあ……自分が菰田先輩と同じ童貞だと言う事実を突きつけられているみたいで。それと僕が女の人とエッチなことをするとそれが使えなくなるようで一生童貞でいなければならないような……いくら地球人から『モテない宇宙人』扱いされている遼州人の僕でも嫌ですよ」
誠はそう言いながらまるで自分が仲間はずれにされていたとでも思っているようにすたすたと歩いていくカウラの後についていく。かなめもアメリアもその後ろからいつかカウラをからかおうというような様子で歩いていた。
「まあ東和警察だって警察学校に法術部門を立ち上げたからな。名前はともかくやっていることはほぼ同じものだと考えるべきだろう。今のところは東都条約の規定により法術の軍事的使用にはさまざまな規制がかかっている……だから表立って軍の施設内で法術師の養成機関は作っていないが、どこの軍も条約を表向きに守っている格好だけを見せる為に条約で除外されている警察の法術師養成機関に兵員を派遣して法術の使える兵の育成に熱心な今日この頃だ。あのようなニュースの一つや二つあったところで不思議じゃない」
カウラは淡々と東和における法術の現状を語った。
「一応はね。でも、法術の軍事利用の禁止。実際それを守るかどうかとなると別問題でしょ?カウラちゃんが言うように警察学校に軍人を派遣している国は多いし、ここ東和だって教導部隊の隊長だったランちゃんが法術師だったってことでひと悶着あったくらいなんだから」
アメリアはそう言うと誠の手を引いて走り出した。
「なんですか!いきなり!」
誠はアメリアのあまりに積極的な態度に驚いたようにそう言った。
「何ですかって言うことは無いんじゃないの?せっかくの正月休み。初詣ならもっと明るい気分ですごしましょうよ!カウラちゃんは真面目すぎ!せっかくのお正月よ!2685年よ!もっと楽しまなくっちゃ!『ビックブラザー』の『永遠に続く1984年』は終わりを迎えたのよ!もう85年だから『ビッグブラザー』にも引退してほしいわね!」
アメリアは誠と手をつないだままそれを大きく振り回した。
「……で?そうすると何でテメエ等が手をつなぐんだ?言ってみろ?理由はなんだ?コイツにはかえでと言う『許婚』がいるんだ。いくらアイツが変態でドMの色魔だとしても泥棒猫は感心しねえな」
明るく誠の手を引こうとしたアメリアの手をかなめは叩いて離させた。
「なによ!なんでかなめちゃんがかえでちゃんの肩を持つの?ははーん、『女王様』としてはあらゆる責めに耐えられる貴重な奴隷のかえでちゃんと誠ちゃんがそう言う関係になるのは嫌なんだ……最近はかえでちゃんに虐められるのも興奮するようになってきたって言ってるし」
かなめに手を振りほどかれてアメリアはムキになってそう叫んだ。
「なによって何だよ!それとかえでの鞭は遠慮がちで駄目だ!リンの非情な鞭がアタシの好みなんだ!それとアタシもかえでがこいつの『許婚』ってことは認めてねえ!あの鬼婆がそう言ってるから仕方なくかえでの奴を立ててやってるんだ!かえでの奴が欲望に抑えきれなくなってこいつに襲い掛かったところをおいしくかっさらう!それがアタシの狙いなんだ!かえでのご主人様としてかえでの所有物を一番食べごろの所をおいしくいただくのが当然の権利だろ?」
いつものようにかなめとアメリアがにらみ合いを始めた瞬間、誠は強烈な違和感を感じて立ち止まった。
これまでふざけていた自分が急に現実に引き寄せられていくような重力が誠の脳内に激しい衝撃を与えていた。
何か自分の頭の中をまさぐられたような不快な感触。もし三人がいなければそのまま吐き気に身を任せて口に手を当てて嗚咽したくなる、そんな感覚が周りに漂っている。
「どうした?また何か感じたのか?」
誠の異変に気付いたかなめが声をかけるが誠の心臓の鼓動は早くなるばかりだった。自分の領域に何かが入ってくる。そして入って来たものの誠の力の大きさをもてあましてどうするべきか迷っているようだった。誠は一瞬とは言え意識をいじくり回している誰かの存在を感じて奇妙な違和感と驚きを感じていた。
それをかなめに説明しようと顔を上げた。だが不快な感覚が脳をぐるぐるとかき混ぜる状況の中、誠は自分の言葉が出ないことに気づいた。
「おい、大丈夫か……カウラ!神前が変だぞ」
ひざまずいて震えている誠をかなめが何とか助け起こそうとするが誠の意識はかなめも、そしてその言葉を気にして近づいてきたカウラやアメリアも見えていなかった。
圧迫されてゆがむような視界の中、ちょうど人の群れが途切れたところには絵馬が並んでいるのが見えた。人々はそれぞれ手に絵馬を持って和やかに話をしている。だが、その中の中学生くらいの振袖姿の少女が急に足を止めたのを見て誠は頭に衝撃のような何かが走るのを感じた。
「昨日は私主催の中尾小劇場でやった『演芸会』のお笑いフェスで大活躍だったから疲れてるんじゃ……」
アメリアがそう言って手を差し出した瞬間だった。




