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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第三章 『特殊な部隊』とドキドキ射撃訓練
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第12話 サンドバック弾

 かえでが倒れる音を聞いて現れたのはそれまで自分の射撃に集中していたかなめだった。


 倒れてうつろな目で誠を見上げながら痙攣しているかえでを当たり前のように『女王様』らしく軽く蹴飛ばすとかなめはうんざりした顔をしながら誠を見つめてきた。


「かえでがこんななのはいつものことだからどうでもいいとしてだ。神前、かえでと変なことしやがって。その罰にオメエはアタシ等の動く標的な。オメエはこの馬鹿が変態行為に入るのを止められるのに止めなかった。それはアタシから言わせれば軍規違反だ。懲罰に値する。オメエは大きさと言い、胸の筋肉の厚さと言いこのサンドバック弾の的にちょうどいいや。それだけ鍛えてりゃ肋骨骨折なんてことはねえだろうからな。こっちとしても安心して狙いをつけることができるんだ。銃を置いて向こうに走れ。アタシが撃ってやる。カウラ!アメリア!リン!アン!これから神前が射撃の移動標的役を志願したから準備ができるまで発砲禁止だ!」


 かなめはそう言ってサディスティックな笑みを浮かべながら誠をにらみつけた。 


「西園寺。冗談を言う暇があったら弾を込めろ。神前、安心しろ。さすがの西園寺もそこまで馬鹿はやらない。日野が変態なのは西園寺がそう教育してもう後戻りできない世界まで来てしまった以上もう直りようがない。そもそも日野はこの場には居なかったということでそこに転がしておけば良い」 


 カウラはそう言うと新しい弾の箱から取り出した弾薬を一発一発オレンジ色の銃の下に開いたローディングゲートに弾を込めていった。


 床に転がっているかえではカウラからも蹴りを入れられて快感に浸って口からよだれを垂らして倒れこんでいた。


「カウラさんが言うなら日野少佐はここにいないと思い込みます。それより、どう見ても普通のショットシェルにしか見えないんですけど、サンドバック弾と言うことは普通の鉛の弾以外のモノを使うんですよね?これって何が入っているんですか?」 


 誠の言葉にかなめは大きくため息をついたが、その様子を見てようやく快感から理性を取り戻して立ち上がったかえでがまた普通のかえでに戻って誠の手にしているショットシェルを見つめてにやりと笑った。誠は今の今まで白目をむいて快楽に打ち震えて痙攣していたかえでが何一ついつもの冷静な時のかえでと変わらぬ涼しい顔をして相変わらず床に横たわったまま誠を見つめている事実を見てその驚異的ともいえる快楽からの回復力に半分呆れ果てていた。

挿絵(By みてみん)

「神前曹長は正規軍の教育しか受けていないから知らなくても当然かもしれないね。弾頭には布製の袋が入っているんだ。具体的に言うとその中身は重量のある樹脂が入っているんだよ。約5メートルで10センチくらいの大きさに開いて目標に到達するというわけだ。その撃ち出される重めの質量が生み出す打撃力で相手を無力化すると言うのが売り文句なんだと言えるね。ちょっとした治安出動も勘案した教育を受けている僕には当然の知識かもしれないね」 


 得意げに嬉しそうに誠を見ながら床にはいつくばって足に時折痙攣が走っているのに平然と普通の口調で語る妹を見ながら、その回復力と誠の前での格好をつけて見せる態度に呆れたかなめは弾が全弾バレルの下のマガジンに入ったことを確認するようにローディングゲートを手でさすっていた。


 不愉快そうな姉をしり目にかえでは言葉を続けたそしてそのまま誠にぴったりと寄り添った。


「実際有効性があるのが25メートルくらいかな。僕たちが狙う相手は暴徒だ。どう動くか予測がつかない上に威力の適正に発揮される距離が限定されてくるとなるとかなり銃を撃つタイミングが難しいので注意が必要だよ。クバルカ中佐。とりあえず神前曹長に撃ってもらいますか?それともお姉さまが見本を見せますか?お姉さまならきっといい見本を神前曹長に見せることが出来ると思うのですが?」 


 倒れた状態で時折足首を痙攣させながら、それでも虚勢を張って誠に助言するかえでの姿を見ていたのはカウラだった。


「床に倒れて痙攣しながら普通に会話をする日野には感心するが、それは貴様が変態であると言う証拠以外の何ものでもないのはそういうことには関心の無い私にも分かる。変態の貴様に言われるまでもないが何も射撃と言えば西園寺に限ったことではない。私から行こう。それと日野、貴様はたとえ今の状態から回復したとしても神前に触れるな。貴様の変態が神前に伝染(うつ)って変態になった神前を私は見たくはない。貴様は今自分が救いようのない変態であると言う事実をこの場にいる全員の示しているだけだ。そんな女はいかに戦闘技術が高かろうが我が隊には不要だ」 


 そう冷たく言ってカウラは弾を込め終わると静かにフォアグリップを引いていた。


「おっし。なんか知らねーけどやる気があるみてーだな。口で言っても分からねーだろうからな。ベルガー!そこの鉄板にぶち込んでやれ!後、日野!オメーはそのまま寝てろ!オメーが言うとすべてがむなしく感じて来る」 

挿絵(By みてみん)

 ランがそう言うとそのままカウラは10メートルくらい先の鉄板に狙いを定めた。すぐに初弾が放たれた。銃声の後、鉄板が鈍器で殴られたように大きく揺れた。


「へえ、私はこの手の銃は滅多に撃たないからよく分からないのよね。それにしてもあの音でこの打撃力ってのは結構面白いわね。じゃあ私も。ああ、かえでちゃんはそのままそこで一生寝ててね。変態が伝染(うつ)るのは私も嫌だから」 


 そう言うとアメリアはオレンジ色に塗られたショットガンの銃口を30メートル先のペーパーターゲットに向けた。


 三発の銃声。そして着弾点で土煙が上がった。


「へー……結構、面白いわね。これはおもちゃとしては最高の出来かも知れないわよ!さっきかなめちゃんが言った通り次に島田君が警察の取調室に連行されることになったら運航部の女子全員でこれを使って射撃練習をしましょう!そうすればいくら学習能力のない島田君でもしばらくは大人しくしてるでしょうし!」 


 物騒な提案をしつつニコニコ笑いながらアメリアはテーブルに置かれていた拡大鏡に手を伸ばした。


「ああ、当たってるわね。私すごいわ!島田君を的だと思うとよりよく当たるようになるのね!あの人も少しは人の役に立つことをしているのね!」 


 満足そうにアメリアはうなずいた。その同じ方向をかなめが見つめている。サイボーグらしく望遠機能を使用しているようで静かに額に右手を当てている。


「……当たり前だ、こんな距離。外す方がどうかしてる。それと島田を撃つときはアタシも混ぜろ。どうせあのゴキブリをはるかにしのぐ生命力を誇る島田はそれこそRPGで撃っても死なねえんだ。一人くらい射手が増えても変わらねえだろ?」


 かなめは自信満々にそう言って笑った。 


「じゃあお手本を見せてよ。いい加減寝たまんまで時々足を痙攣させてばかりいないで。自称『許婚』さんも。リンちゃんも今は射撃をしているからスイッチも切ってるからそんなに足を引く付かせるなんて演技なんてして誠ちゃんをさそうなんてことは止めなさいよ。誠ちゃんを独占使用だなんて不埒なことを考える以上、それなりの実力を見せてもらわないと私としても満足できないのよ……戦闘能力がスペック表倒れだなんてそれこそ誠ちゃんの『許婚』なんて二度と口にしないでよね?」


 口を尖らせるアメリアの視線はそのまま誠に絡みつくようにしているかえでへと突き刺さった。


「いや、快感と誠君の前でこの醜態を晒してそれがもたらす心の満足で僕が立ち上がるのにしばらく時間がかかるのは事実なんだ。だからお姉さまに手本を見せるチャンスは譲ってあげるよ。お姉さまがどれだけできるか。僕も見てみたい。そう思うよね?神前曹長も」


 ゆっくりと立ち上がったかえで妖艶な笑みを浮かべて誠の耳に息を吹きかける。


「あのー、日野少佐。気持ち良くって腰が抜けたんですか?それと僕はマゾの日野少佐のおかずになった覚えはありません。そんなことをされると僕は練習に集中できなくなるんですけど……」


 人前で公然と異性から耳に息を吹きかけられると言う初めての体験に顔を赤らめながら誠はつぶやいた。しかも誠は先ほどかえでの膣内と直腸内に射精したことになっている。かえでは明らかに不服だと言うような顔をした後、誠へ送る熱い視線を一度中断してなんとか立ち上がろうと床に手を突いた。


 かえでは内股でよろよろと立ち上がる。吐息が乱れよろめくたびに誠に顔向けているがその瞳はうっすらと快楽があふれ出された涙でぬれて時々開く口元からは唾液が足らりと垂れて光るのが誠にはどう見ても屋外で女性が見せる表情としては完全にアウトなものとしか見えなかった。


 それでもなんとか立ち上がったかえでは一度ピクリと全身を震わせると軽く咳払いをした後、口元を濡らす唾液をズボンから出したハンカチで拭って襟元に手をやって軽く身なりを整えるとそもそもとても人には言えない状態に股間がそうなっているはずだというのにそれを感じさせない冷静沈着ないつものかえでに戻っているのがいつものことながら誠には信じられなかった。


「そうだね、今はその時ではないのはたしかかもしれない。でも君が望むならいつでも君を喜んで受け入れる女が居る事だけは忘れて欲しくないな、僕としては。これもそんな僕の君に対する真心を示す愛の行為だと考えてもらって構わない」


 離れ際にかえではそういって誠に笑いかけた。


「いや、そんな真心なんて僕は聞いたことがありませんけど……というかそんな真心欲しくないです」


 誠は変態モードから見る見るうちに通常モードへと変わるかえでの変化について行けず思わずそう口走っていた。


 対してかなめは妹の暴走に不機嫌そうな表情を浮かべてオレンジ色の銃のフォアグリップを引いた。

挿絵(By みてみん)

 すぐさま五連射。すべてが15メートル先のこぶしほどの大きさの鉄板に命中する。そして満足げに全弾撃ちつくしたと誇るように誠達を見回した。


「さすがよねえ。さすが一番狙撃手。これは一応褒めとくわね。かなめちゃんならこれくらい出来て当たり前。私としても何も言うことは無いわ。でも私が見たいのは撃てて当然、当たって当然のかなめちゃんの射撃じゃないの。誠ちゃんを自分のものだと公言している変態さんの腕前なのよねえ……それなりの腕前を見せてもらわないと私としても納得できないわけ。つまり、それを見せてもらうまではかえでちゃんはただの変質者と言うわけ。愛するかなめちゃんや『許婚』の誠ちゃんには変態扱いされるのがご希望なんでしょうけど部外者の私にまでそんな扱いされるのはちょっと癪なんじゃない?かえでちゃんも」 


 再び拡大鏡を手に取るとうなずきながらアメリアは鉄板を眺めた。おそらく当たった際に飛び散った袋の中の樹脂の塊が染め上げたのだろう。誠から見てもかなめの放った弾丸が全弾鉄板に命中してそれをオレンジ色に染め上げた事実を確認することが出来た。


「じゃあ私ももう一度やるか……変質者に負けるようでは戦闘用人造人間として生まれた意味が無い」 


 カウラがそう言って初弾を装填したところでランがカウラの銃に手を置いた。


「おーい、オメー等なんか勘違いしてねーか?これは定期的な訓練の一部なんだぞ?別に神前の嫁選考会っわけじゃねーし、オメー等が神前の嫁失格なのはアタシは何度も言いきかせている。この訓練はオメー等射撃ごっこしているわけじゃねーんだ。全員そこに並べ。それと日野。教えるんならちゃんとショットガンについて教えろ。ここは童貞に女を教える場所じゃねーんだ。そんなに童貞に女を教えるのが好きなら出会い系サイトでも登録してそっちで男を集めろ。あそこには『モテない宇宙人』である遼州人の中でも特にモテない人間がたんまり登録している。あのサイトの女はほぼ百パーセントそのサイトの運営者の従業員とAIだが、オメーはリアルの女だ。いくらでも男なら手に入るぞ。そう言うことが目的の男が欲しければそっちで漁れ」 


 仕方ないと言うようにカウラは銃口を上に向けてかなめ達が使っていた射撃レンジに立った。かなめもアメリアも小さいとはいえ上官のランに逆らうわけには行かずに隣のレンジに移った。


 かえではランの言葉にも笑顔で答え、銃を手にレンジに陣取る誠の後ろのすぐ手の届く距離に立った。


「あのー僕は?」 


 かえでからのとろけたような瞳の熱い視線に冷や汗を流しながら銃を撃つことさえ許されなかった誠は恐る恐るランにそう尋ねた。

挿絵(By みてみん)

「神前は撃ち方自体がおかしいから。まーオメー等の射撃を見ていたがアタシには西園寺のそれ以外は大したものには見えなかった。戦場で得物が選べるなんて言うことは贅沢な話なんだ。ここでアタシの撃ち方を見てろ!日野!神前にさっき見てーに抱き着いたりしたら張り倒すからな!オメーは神前から少し離れてそこで立ってろ!」


 そう言うと120cmに満たない小さな体には大きすぎるショットガンの銃口をターゲットに向けた。


「まず反動は普通の殺傷弾よりでかいからな。こうしっかりホールドするわけだ」


 ちっちゃなランはどう見ても身長よりも若干短い程度の長さの銃をその小柄な体なりの短い腕を上手く使って固定し、しっかりと狙いを付けた。 


「まずアタシは普通の人間よりちっこいからな。こうしてしっかり銃にぶら下がるわけだ」 


 かなめはふざけた調子でランの声まねをした。思わず噴出しそうになる誠だが上官相手とあって必死になって堪えた。


「お姉さま。おふざけがすぎますよ。神前曹長。クバルカ中佐の言うように戦場では武器を選べる時ばかりとは限りません。クバルカ中佐はその体形ゆえに常に銃器に関しては苦労されてきてその使用法に関して精通していると思いますよ。ですので、自分の体形に合わない銃器、神前曹長には左利きには向かない銃器を扱わなければならない時の良い見本です。僕が手を取り足を取り教える前にしっかり見ておいた方が良い」


 ふざけるかなめと的確な指示を出すかえでを無視していたランが初弾をターゲットに命中させた。そして驚いている誠に見せ付けるようにして短い手で器用にポンピングしながら5発の弾丸を発射して見せた。


 どう見ても小さな体形で無理をして長すぎるショットガンを撃っているランだと言うのにその着弾点は先ほどのかなめのそれと遜色ないほどの見事な射撃だった。


「みんなも見ていた通り射撃っていうものはこうやるもんだ。銃に発射機能があれば後は工夫で何とかなるもんなんだ!日野!まだ神前に触れるんじゃねー!とりあえず神前の銃の撃ち方でオメーがおかしいと思うところが分かるまで少しでも触れたらぶん殴るからな!」 

挿絵(By みてみん)

 ランは全弾打ち終えると満足げに誠を見つめた。そして少しでも誠に近づく口実を得ようとするかえでをけん制した。


「そんなグリップに手が届くか届かないかと言う身体でよくできたなあ……そもそもあの体形であの銃をよく撃てたな。姐御の為にあつらえたようなPMSとは違うんだぞ」


 かなめは確かに誠から見てもランには大きすぎる銃を見ながらそう言った。 


「クバルカ中佐の撃ち方は的確です。腕をまっすぐに伸ばしてハンドルを握り、それでいてちゃんと肩にストックは固定して射撃動作を連続して行う。あの体形ではあの撃ち方が正解でしょう。ショットガンに慣れてる僕がクバルカ中佐のような兵士が部下に居てその兵士にショットガンの撃ち方を教えるとしてもそう言う撃ち方を勧めると思いますよ」


 かえではいつものように冷静にそう言った。先ほどまで快感の波に飲み込まれて痙攣していた人物と同じ人物が発した言葉とは思えないほどその口調は済んでいてあくまで穏やかだった。


「西園寺。一度死んでみるか?それと日野。オメーは褒めるのは上手いが褒めれば相手が気を許すなんて甘い考えはすぐ捨てるべきだな。アタシはそんなに甘くはねーぞ。相手がいくら『許婚』とは言え、オメーのやってることはセクハラだ。アタシの辞書には『パワハラ』の文字はねーが『セクハラ』の文字はあるんだ。それ以前に変なもん股間に付けて勤務するなんてどーゆー神経してるんだ?まったく」 


 ランは明らかに機嫌を悪くして殺気立った。その元々にらんでいる様な顔がさらに殺気を帯びた。


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