第五話-14
小籠包売り(裏方)の当番が終わると、そろそろ腹が減ってくる時間に差し掛かっていた。一一時五〇分、昼飯には少し早いような気もするが、食べるものを探して歩いていれば、自然と良い頃合いになるだろう。
というわけで、ここからは凛と二人で校内を回ることになった。今度こそ文化祭デートと冷やかされても反論できない状態だ。あまり意識しないようにしてはいるが、凛はいつぞやの合宿のときのように、俺の服の袖を小さく摘まんでいる。曰く、はぐれないため、だそうだ。そこまでの人混みではないけども。
「さっきは五階と四階を見たんだっけ。じゃあ次は三階行くか?」
「そうだね、そうしようか」
この校舎は五階建てで、一階が受付や本部、階段を挟んで化学室がある。二階から五階が色々と出店が詰め込まれたフロアで、五階は主に脱出ゲームやお化け屋敷などのアトラクション系と展示系、四階と三階がイートイン式の食販系、二階はテイクアウトオンリーの食販系だ。つまり俺たち二年四組の小籠包は二階で販売していたことになる。
焼きそばは定番、ホットドッグやフランクフルト、どこで手に入れて来たのか鮎の塩焼きなんてものを取り扱っている店もある。業用スーパーに並んでたっけ? デザート系だとワッフルやドーナツ、かき氷なんかもあった。冷凍庫や製氷機が設置されているのは一階の調理室なので、三階のかき氷屋まで往復するのはさぞかし大変だろう。
ちなみに焼きそばは回転率を求めたのか、イートイン形式ではなくテイクアウトオンリーで出店していた。人気だからね。そんな感じで食料をある程度手に入れ、イートインスペースで荷物を広げる。イートイン形式の店も店内で食べなくてはならないわけではなく、申告すれば持ち帰りは可能なのだ。あ、じゃがバターが袋の中で零れてる。
「なんとか確保できたな」
「けど、疲れたよ……。こんなに時間かかるなんて思わなかった」
まったくだ、昼時の混雑具合を舐めていたな。小籠包の方も、シフト終わって出てくるときは、なかなかの行列になっていたし。テイクアウトオンリーだから何とかなっていたようなものだ。
「とはいえこれだけあれば充分だろ。食べるか」
「そうだね」
「「いただきます」」
それにしても、一食分一人前調達しようとすると、結構金掛かるものだな。夏祭りのときほどではないとはいえ、総額は余裕で四桁に届いている。アルバイトでもしていないときついな、天宮先輩みたいにどこかで働き口探してみようかな。その辺りの金銭感覚は凛も同様だったようで、
「明日はお弁当用意しようかな」
と小さく呟いていた。俺もそうしよう、一般来場者が入らない場所で食べることはできるんだし。
その後凛が部活企画の当番(部誌の売り子ではなくイラスト展示の)に行ってしまったため、俺は別棟の図書館企画を一人で覗いて時間を潰すことにした。梨花がいればよかったのだが、昼過ぎあたりに祖父さんたちに連れて帰られたようなので。
文化祭一日目はこんな感じで終わり、二日目も大体似たような一日を過ごした。
月曜日、まさかの八日連続登校だが、今日は午前に文化祭の片付けを行い、その後一部生徒が打ち上げだか何だかに集まるのだそうな。まあ俺には縁のない話だ、と思っていたところ、廊下ですれ違った健人に声をかけられた。
「変人部で打ち上げやるっぽいけど、お前も来るだろ?」
来るか? ならともかく、来るだろ? ときたか。なぜ俺の出席を前提としているのかは大いに疑問の余地があるが、クラスではなく変人部の方なら、まあ顔を出してもいいか、という気はした。
「まあそれなら行くよ、収容人数の上限とかないなら」
「ちなみに幽霊部員は参加権ないから、当日誘って来ない奴まで省いたら人数がっつり減るぞ。多くても一〇人とちょっとくらいだろうからってんで、天宮先輩がこの近くのエイズフォーゲルに話通したらしい」
「そりゃ手の速いことで」
天宮先輩、確かあの店でバイトしてたな。その伝か。最終的なメンバーは、まあいつもの面々というか、合宿参加者から一部除く、みたいなことになったそう。
LINERでそんな話をしながら、俺は部活企画の片付けに参加していた。クラスの方は帰宅部と運動部がいれば人手が足りるので、準備のとき同様、こっちに抜けてきたというわけだ。美術部のイラスト展示はかなり好評だった模様。部誌の裏表紙に載せておいた二次元コードからアンケートフォームが開けるが、その結果が集計されたらしい。
つまり来た人たちには部誌もそれなりに持って行ってもらえたのだ。確かに売れ残りは数冊程度で、かなりいい塩梅に調節できたと言えるだろう。完売とまではいかなかったが、裏を返せば品切れにならずに済んだということだ。欲しい人にはちゃんと行き渡ったのである。
パーテーションの片付けに難儀している平井に白原が手を貸し、なぜか岩沢くんも手伝わされている珍光景を横目に、俺もアンケート結果を見せてもらった。部誌の項目もあり、「どの短編が良かったか」なんていう地獄みたいな質問項目もある。正直見たくないんだけど。これで俺のところだけ〇票とかだったら笑えない。
「大丈夫だよ、ほら見て」
横からパソコンの画面を覗き込む御影に言われて見ると、俺が書いた短編にも数票入っているのが見えた。コメントも一件だけ入っている。
『主人公と親友の関係性に感動しました。ストーリーも斬新さがあって面白かったです!』
そんな見慣れた文を見て、俺はがっくりと肩を落とした。
「それ、本文読んでないときに書く感想やんけ……」
まったく、文化祭の終わりにとんだおちが付いたものである。
本日七月二一日、白原千夏の誕生日です! 千夏おめでとう、生まれてきてくれてありがとう!
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