第五話-13
うろちょろとその後も歩き続けていると、平井と白原が知らない少女と話しているのに遭遇した。当番は終わったらしい。もうそんな時間か。焦げ茶色の髪をツインテールにした人物だ。後ろ姿なので誰だか分からないし、分かったとしても、わざわざ声をかけに行くつもりもないのだが。その点は凛も同感だったようで、
「次どこ行こうか?」
と気にせず俺に話題を振ってくる。とはいえ、だ。
「あの二人が当番終わったってことは、多分そろそろじゃないか?」
「そろそろ?」
「ほら、時間」
時刻が表示されたスマートフォンの画面を見せると、凛がこちらに身を乗り出して覗き込んだ。自然光の反射で見えづらかったのだろうか。
「あ、本当だ。そろそろクラスの方行かないと」
クラス企画は小籠包の販売だ。LINERの連絡は来ていないので、売り切れとかはないだろう。一日目の午前で在庫がなくなったらそれもそれで問題である。ということはシフトに行かないといけないわけで、そうすると梨花は……。
「仕方ない、名残惜しいけど、このあとは祖父さんたちと回っててくれ」
「うん、分かった」
そんな感じで祖父さんに電話して梨花を預け、余計なことを言い出す前に凛と二人でクラスの出店場所に向かう。出店場所に、というのは、クラス企画の出店は普段使っている自分たちの教室で行うわけではなく、文化祭期間だけクラスが移動するからだ。店の種類によって、配置されるエリアが決まっているため、毎年大移動するのである。
ちなみに、いつも同じ場所に陣取るグループもあるようで、例えば化学部や文芸・美術合同は毎年出店区分が同じになるため、「もうずっとここでええやろ」というノリで同じ教室が割り当てられ続けている。その歴史はかなり長いんだとか。
おかげで化学部は集客効果の薄い教室が毎年割り当てられ、閑古鳥が常駐しているのだと、健人が嘆いていたのを覚えている。同じフロアに本部しかないのではまあ仕方ないだろう。うちは人通りの多い一等地なので、その差はより顕著に表れてしまう。
なお小籠包を含む食品販売のクラスや団体は、多少人通りが少ない立地でも大抵売り切れるので、文芸・美術合同の展示場が一等地にあるとするならば、食販の売り場は二等地くらいだろうか。ごった返す場所ではないのでアクセスはしやすい。
俺と凛は小籠包を蒸して並べる役割で、接客とか金の勘定はしない。エプロンと帽子を着け、ゴム手袋をはめて、ホットプレートに水と小籠包を流し込んで蓋をし、タイマーが鳴ったら取り出してざるに転がす。これを一時間ほどひたすら繰り返す。一人一台のホットプレートを見るので、待っている間はかなり暇だ。
「結構暇だねえ」
凛も同じ感想だったらしい。そういえば一つ、気になっていたことがある。
「なあ今更なんだけど、部誌の方は分かるとして、なんでここでも一緒なんだ? 偶然?」
「双矢くんは嫌だった?」
「そういうわけではないけど、文化祭関係でやたら一緒になることが多いからさ。ちょっと気になって」
「じゃあ良いんじゃない、気にしなくても? それに、よく知らないクラスメイトよりも、双矢くんみたいに知ってる人と一緒の方が、わたしも嬉しいし」
それもそうか、気にしても仕方ない。俺もクラスメイトにあまり仲の良い人がいないから、ここでのペアが凛になるのは正直ありがたい。余計に気を張らずに済むし、話していられるから暇な時間も苦にならない。まあ、呼ばれるといちいち心拍数が上がってうるさいんだけどね。
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