第五話-10
化学部の展示に顔を出してみた。去年は確かかき氷を作っていたけど、今年は何をしているのか。
「なんかえらく地味だな」
スライムづくり体験とポスターセッション、だそうだ。ポスターセッションって確かあれだろ? 壁に研究成果書いたポスター一枚張って、それ読みながら質疑応答するんだろ? 客引けるのか? 売れ残りの在庫とか抱えずに済むのは良いのかもしれないけども……。
「その、化学部らしい出し物だね」
「うん、まあ確かにそう言えなくもないのか? でも凛、あまり無理にフォローしなくていいと思うよ……」
確かにポスターセッションは、学会とかでやってるイメージがあるから、理系部のやることとして、イメージに合っていると言えなくもない。というかあれが似合う部活なんて、うちでは化学部くらいしかないだろう。CMでは確か、発表スライドを流していたような気がするけども。
「正直、CMも地味であんまり印象に残ってないんだよな……」
なんというか、堅物らしさが拭えないのだ。部員の奔放さに反し、見た目が真面目過ぎる。白衣って衣装としては優秀だな。
「凛、梨花、これどうする? 寄って行くか?」
「わたしは行くよ。梨花ちゃんはどうする?」
「お兄ちゃん、スライムやってみたい」
「よし行こうか!」
「相変わらず梨花ちゃんに甘いねえ」
そうだが?
ということで入ってみることにした。いたのは健人と小西だ。
「よう、廊下でこそこそしてた連中じゃねえか」
「あ、これ普通にばれてたんだ。だからどうってこともないけど」
「悪かったな地味な展示で」
「まあ他にすることもなかったんだろ。梨花がスライム作りたいってさ」
「おけ。お兄ちゃんも解説聴く?」
「お前にお兄ちゃん呼びされると鳥肌立つな、悪い意味で」
「よし、妹ちゃんにお前の出鱈目吹き込んでやる」
なお、スライムは凛も作ってた。そっちは小西が対応している。
「それで、まず何からすればいいの?」
「ここに洗濯糊があるから、これを紙コップに入れて。砂鉄とか絵具を入れるなら今だよ」
「絵具は分かるけど、なんで砂鉄?」
「これを入れると、磁石で動くんだよ」
「別にいらないかも」
「そっかー」
俺は興味あるけどな……。
「砂鉄ってどれくらい入れて良いの?」
「好きなだけ良いぞ」
「おい待て入れすぎたらスライムとして纏まらなくならないか!? 梨花に変なこと吹き込むってそういう意味か!?」
「なんだよめんどくせえ兄貴だな」
「誰だって突っ込むだろ! 凛もそう思わない!?」
「あ、固まった。不思議ー」
「ここで使ってる洗濯糊は、ポリビニルアルコールが主成分でね、これは澱粉みたいに長い分子の構造してて……」
「だめだちっとも聞いてねえ。そして説明がさっぱり理解できん」
「PVAとホウ砂を混ぜると架橋構造になって水を保持したままゲル化するってことだ、分かったか?」
「健人、お前の前にいるのは、一七年近くを文字に溺れて生きてきた生粋の文系人だ」
「はん、お前の妹ちゃんは分かったってよ」
「一緒にするなよ、梨花は天使だぞ」
「お前の兄貴の尊厳的にはそれでいいのか?」
良いの良いの、そんなもんよ。
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