第五話-9
合同誌の店番交代時刻になり、白原と平井のペアに引き継いだ。俺たちの仕事は終わりだ。
というわけではなく、これからクラスの方の店番もしなくてはいけなくなる。今日の当番まではまだ少し時間があるけど、それまであちこち見て回ろう、というほどの時間もない。なんとも微妙な空き時間だ。
「じゃあ、どうしようか? どこか場所決めて見に行く?」
「それも良いかもなあ。梨花、行きたいところはあるか?」
「分かんない」
「だよなあ」「だよねえ」
梨花を膝にせた俺と凛は、イートインコーナーのベンチに並んで座っている。パンフレットは今朝文化祭が始まる前に生徒全員に配られたもの、俺は一通り目を通したうえで、梨花と一緒に見ている感じだ。凛も当然自分のものを持っているので、同じ案内マップを見ながら話している、という状況。
なのだが、凛が少し近い気がする。気のせいか。距離感自体は同じだけど俺が梨花を膝にのせている関係で少しだけいつもより幅を取っているとか、そんなところか。気にしても仕方ないな。……いや、これ本当にそうか?
「梨花、こことかどうだ? お化け屋敷」
「あれ、今年お化け屋敷あったっけ? どこ?」
同じマップ見てるはずなのにこっちに身を乗り出してきた!
「ほら、ここ。三年三組かな?」
「あ、本当だ。梨花ちゃんが大丈夫なら行ってみる?」
「私も行ってみたい」
「なら決まりだな」
「行ってみようか」
どこまでが梨花の本音かは分からないが、俺もお化け屋敷は気になるので行ってみることにした。文化祭は各出店ごと三〇秒程度のCMを作り、イートインスペースを中心とした各所で放映されている。昨年もそうだったが、お化け屋敷のCMは、なぜか毎年クオリティが高いと評判だ。編集者は毎年違うはずなんだけどな、菅野台七不思議。
俺たち文芸部も出店を行っているのでCMは作っているのだが、美術部と合同で部誌を頒布するため、映像制作は美術部に完全に委託した形だ。それなりの数の部員がいるはずなのに、文芸部には動画編集のできる部員が一人もいないのだ。俺もからっきしなので、正直何も言えないんだけど。
美術部が編集したCMは派手さはないものの、載せないといけない情報が見やすく表示されていたので、あれで良かったのだと思う。俺たちが店番をしている間はそこそこの人数の生徒が展示場を訪れていた。大半は美術部の展示が目当てで、部誌を持って行ったのはそう多くはなかったけど。
そうと決まれば早速お化け屋敷に向かい、廊下にずらりと並ぶ長蛇の列の最後尾についた。なんと、これはお化け屋敷の入場待ちの列なのだ。すごい長さ。待ち時間三〇分らしい。某夢の国のアトラクションかな?
「お化け屋敷は毎年人気らしいけど、すごい列だねえ」
結論から言うと、俺たちは先輩たちのお化け屋敷を舐めていた。三〇分待ちを待って入ったまでは良かったけど、最初は中の装飾なんかを観察して三人で話しながら歩いていたのに、出る頃には二人が無言で震えていた。なんともなさそうなのは梨花だけである。
「「これ絶対、高校の文化祭にあって良いものじゃない」」
あまりの恐怖に出た評価がこれだった。中で一体何があったのか、詳細はもう、思い出したくもない。
「というか梨花? 君は何で平気なの?」
「そんなこと訊かれても困りますけど、強いて言えば、本当に恐ろしい相手に会ったことがあるから、でしょうか……」
よろしければ、作品のブックマークやいいね・レビューなど頂けますと幸いです。




