第五話-8
文化祭当日である。文芸部は自分たちの展示室なんかは持たず、美術部の作品展示場の片隅で合同誌を頒布する形だ。諸々の準備を済ませ、さっき一般開放が始まったところである。
「さあて、どれくらい配れるかな、これ」
即売会ではないので売り子とは違うが、ここでも交代制で部誌配りをする。作品を展示する美術部員を除き、美術部と文芸部から出した人員でローテーションしながら部誌を頒布する仕組みだ。最初のこの時間に担当になったのが、俺と凛の二人。合同誌なので、両方説明ができるようにと、原則両部から一人ずつのペアで組むことになっている。
「ある程度捌けないと困るねえ、あんなに大変だったんだから」
「結構しんどかったもんなあ、同じページを二枚挟みかけたあれとか」
「一ページだけ上下さかさまになってるのがホチキス止め直前に見つかったりとか」
「印刷したページを一回全部ぶちまけたのが諸悪の根源な気がする」
二人して壮絶な記憶を掘り起こし、振り返る。ぶちまけた戦犯は俺なので、あれは本当にやらかしたと思う。余裕持って間に合ったから良かったけど。
そしてまあ、またここでも凛と二人きり。展示の紹介のために美術部の何人かが室内にはいるけど、パーテーションの向こうなので、足元しか見えていない。
長机の奥に並んで椅子に座っていたところで、凛が身体を寄せて囁いてきた。
「二人っきりだね」
「おいやめろ、見えないけど人いるんだからな?」
なぜこう、ここでそんな女を意識させるようなことを言ってくるんだ、考えないようにしてたのに……。そういうこと言ってくすくす笑ってるのを見ると理性がぐらつくし、勘違いしそうになる。
で、最初の客が誰だったかというと。
「おっ、鈴森神社の祭りでデートしとった娘っ子じゃねえか」
そう、うちの祖父母と梨花である。
「違う、違わないけど違う……。頼むから勝手にそういうこと言うのはやめてくれ祖父さん、凛に迷惑だから」
「ほお、名前で呼ぶようになったか。順調に進んでるな」
「おい邪推するなって言ったよな? 祖母ちゃん、祖父さん何とかして」
「正幸さん、孫娘が欲しいってずっと言ってたからねえ、仕方ないねえ」
「もう駄目だこれ。梨花、おいで」
梨花を手招きして膝の上に抱き上げる。義妹の天使が今日も可愛い。お前が東宮家唯一の良心だよ……。
「呼んでおいてあれだが、俺と梨花はともかく凛に絡むならこれ持ってどこか行っててくれ」
「私は良いの?」
「俺は初孫で、梨花は最後の孫だ。祖父母に絡まれるのは孫の宿命、諦めろ」
「そんなあ」
梨花がちょっと可哀そうな声で嘆き、しゅんとうなだれて俺にもたれかかってきた。恐らく演技だろうと思うけど非常に可愛い。そして祖父さん、もうそれ無料配布だから目の前でまじまじと立ち読みするのはやめて。見られて困るものは書いてないけど、割と精神に来るから。
「双矢、お前の小説だけ随分長いな」
「いや黙れ? 結構それ気にしてんだわ」
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