第五話-7
帰宅すると、梨花がぱたぱたと出てきて迎えてくれる。
「おかえりなさい、双矢さん」
「天使の出迎えだ……。ただいま、梨花」
天使も何も大天使、義妹ということにしているが、正確には魔力使用者の俺の傍付きだ。対外的には中国生まれでアルビノの従妹をうちで引き取った、ということになっている。アルビノと称するのは、サイドアップの髪が銀色で、つんとした印象の目は深い青色をしているためだ。全体的に色素が薄いと、このような外見になるらしい。
見た目五歳前後の梨花だが、大天使になるだけあって、魔法の能力は確か。傍付きとして生活面でも色々助けられているし、魔法の面では俺の専属教師みたいなもの。その他、日常の癒し成分。
「そういえば、菅野台の文化祭って家族も来ていいんだよな。去年は文化祭の後に梨花が東宮家に来たから、梨花を文化祭に連れて行けるのは今年が初めてなんだっけ」
手を洗ってからソファに身体を沈めながら、準備中の文化祭について考える。なんだかんだ部長になってしまったらしい健人は、よく昼休みにどこかに出かけ、小西に貰っている弁当を食えずにしょんもりしているのを見かける。文芸部の部長も愚痴っていたので、多分責任者の会議だ。連絡だけならメールで済ませればいいのに。
「行けるとして、私はこの見た目ですので、誰か付き添いが必要になりますよ」
「先代はどうしたんだろ。今まで聞いた話だと、多分俺の一個上の先輩なんだけど、何か聞いてる?」
「いつの間にそんな話を……。ええ、一通り聞いていますよ。あの男の場合は、彼の母親と一緒に行ったみたいです。あの子も私とそう変わらない外見年齢でしたから。ふにゅ」
「変な声」
まあ俺が頬を両手で挟んだからなんだけど。クールな表情の梨花なので、たまにはこうしてやらないと。
「けどなあ、母さんに頼むのはなあ……。いや父さんでも多分無理だけど。どっちも仕事だろうし」
「夜中に文化祭の案内を見て、二人揃って肩を落としてるのを見ましたよ」
「詰んだなあ、どうしよう」
今週末だからあまり時間もない。何とかして梨花を連れて行く方法を考えねば。普段土日は一緒にいるのに両日とも文化祭で会えないとなると、俺が梨花欠乏症で死ぬ。たったの一年で、シスコンここに極まれりだ。
夕食を摂りながらあれこれ考え、一つだけ方法を思いついた。
「ちょっと電話してみるか。まだ起きてるよな、〇四二の……」
家の固定電話から子機を取り、慣れた手つきで暗記済みの番号をプッシュ。発信先として電話帳リストに登録されていることにはまだ気付かない俺。あ、出たか。
「はいはい」
「お、祖父さんの方が出た。俺々、俺だけど。ちょっと教えてほしいことがあってさー」
『晶子ー、双矢からオレオレ詐欺だ。録音しといてくれ』
ここまでが天麩羅。テンプレともいう。なお晶子は祖母ちゃんの名前で、祖父さんは正幸。祭りで飯をねだったあの一件以来、オレオレ詐欺ごっこが気に入ったらしい。以前普通に電話したらなぜか気落ちした声で対応されたのだ。どういう趣味?
『録音始めたってよ。よし、喋っていいぞ』
「いやこれまじで録音すんのかよ、別にいいけど。祖父さんでも祖母ちゃんでもいいけど、今度の土日、どっちか空いてる日ある?」
『土日つってもよお』
いくらなんでも話が急すぎたか?
『定年して毎日日曜日みてえなもんだから、日付で言ってもらわねえと』
暇じゃねえか。
「九日か一〇日。うちの両親多分来れないから、梨花連れて文化祭に来ない?」
『駐車場あるか?』
「祖父さんのキザシ泊める駐車場はねえよ。コインパーキングはいくつか近くにあるけど多分全部埋まるよ。大人しく公共交通機関使ってください」
『我儘坊主め』
「学校からのお知らせに書いてあることそのままなんだわ。俺に言われても困る」
それでも車で来る保護者がいて、度々近所のコンビニとかから苦情が入るらしいけど。翌登校日のホームルームで代わりに怒られるのは生徒一同なので、本当に勘弁してほしい。
「梨花、梨花、祖父さんにお願いして」
「お祖父ちゃん、お願い」
『仕方ねえなあ、老体に鞭打って行くかあ』
「ちょろいな。あとなんかすまん」
俺は長らく従兄弟のいない一人っ子だった。祖父さんにしてみれば、初孫にして最後の孫というわけだ。そのためか関係ないかは分からないが、父さんが祖父さんに絡まれてるのを、昔見た記憶がある。なんでも祖父さん、孫娘も一人欲しかったそうな。なので梨花には弱い。その点は俺も同じだが。
ということで、我が家は両親ではなく、祖父母と義妹が文化祭に顔を出してくれることになった。
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