第五話-6
美術部の原稿が上がってきたその日は軽く内容を確認しただけで、編集は翌日行うことになった。現場は文芸部の部室だ。文書ソフトの入ったパソコンを持っているのがうちなので。ただこちらの部室は手狭なので、美術部員は代わる代わるこっちに来ることになった。
編集の主導は双方の部長で、特に短編の部分とかは、作者と挿絵担当が二人でチェックする。つまり白原と平井はセットで動くし、俺の番になると凛がこちらに来るというわけだ。
とはいえ内容に問題がないかとか配置に問題がないかとか、そういう軽い確認が主だ。特筆事項は特になし。それが済んだら美術部員は別ページの画集とかも確認するが、それもデータが壊れてないか見るくらい。すぐに帰っていく。少し名残惜しい気がするのは脇に置く。
「ともかくこれで、確認作業は全部終わりか……」
「おう、あとは製本するだけだな」
部長はそう言うが、その製本が面倒なのだ。「だけ」という言葉で済ませる問題ではない。明日以降の作業が憂鬱だ。なにしろ、大量のページを印刷機で印刷し、一ページずつ取って一冊にまとめホッチキス止めしてテープを巻き……。これを五〇冊分やるのだから正気の沙汰ではない。業者か。同人誌即売会のサークルか。
とりあえず今日の作業はもう終わりだ。部長が鈴村先生を探しに出かけたから、帰ってきたら解散である。印刷機は普段から先生たちが使っているものを借りるので申請が必要だし、この時期は使用者が集中するので、今日中に作業する、というのは無理なのだ。
「というわけで、文芸部はもう帰るところだ」
「そっか。明日印刷機の予約が取れてよかった」
「まあ明日が大変だけどな……」
美術部も帰るところらしく、俺と白原が遊びに来てみると、凛や平井も帰り支度をしているところだった。その傍ら、俺は凛が使っていたらしい道具の片付けを手伝いながら、少々憂鬱な気分のおすそ分けだ。
「わたしも手伝いに行くよ」
凛がそう言ってくれたのは、印刷した原稿の運搬と製本のことだ。いずれにせよ、美術部にも人手を借りる予定ではいた。合同で作るのだし、労働力はそれぞれから出すのがフェアだろうという、部長同士の話し合いの結果だ。
「助かる。じゃああと二人くらい人手を借りたいんだけどって」
「そっか、なら私も行くよ」
「鈴花ありがと!」
「……一人は見つかったみたいだな」
「みたいだね」
なんかそんな気はしてた。平井は白原が文芸部にいる限り戦力としてあてにできる気がする。
「平井だったら、二人分の仕事させても平気なのでは?」
「え?」
「平気なわけないでしょう、後輩の女子になんて事させようとするんですか」
俺が名案とばかりに手を打つと、凛が驚いてこちらを二度見するのと同時に、即座に離れたところから突っ込みが飛んできた。
「耳の良い奴め、俺に盗聴器でも仕掛けていたか」
「なんで東宮先輩にそんなもの仕掛けないといけないんですか。面白味がないでしょう、仕掛けるなら千夏に仕掛けますよ」
「えっ」
おいお前の親友がびっくりしてるぞ。まあ平井だったら、ご自慢の(というと少し違う、普段は隠しているから)妖術で音を集めていたとしても不思議ではない。同じ室内にいるし極端にうるさいわけでもないから、耳が良ければ普通に聞こえたのかもしれないけど。
そう、平井鈴花は妖怪だ。語弊があるかもしれないが、これは別に、俺が彼女を酷く嫌っているが故の蔑称とかではない。なぜか妙に平井からのあたりは強いが、俺は彼女を嫌っているわけではない。妖怪と称したのは、単純に平井が雪女だからである。
だからどうした、という話だが。見た目と能力が常人と違うだけで、後輩は後輩だ。第一、見た目はともかく能力が常人と離れているのは、条件付きでは俺も同じことである。
義妹の梨花がいれば、俺は魔力使用者としての魔法能力を使うことができる。とはいえ平井に比べるとその能力は大したことなく、梨花に言わせれば、先代の細川先輩は対照的に外れ値的な才能の持ち主だったという。死んで入れ替わるはずの魔力使用者なのに彼が生きていると平井に聞いたときは、何の冗談かと思った。
「梨花を連れて来ることができるなら、俺も多少は仕事できるんだけどなあ」
やろうと思えばできないこともないけど、そう滅多にやることではないのでやめておこう。
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