第五話-5
美術室に遊びに行った三日後、締め切り日。美術部の方から、まとめて原稿が上がってきた。うちの学校には漫研みたいな部活はないので、美術部にはたまに漫画を描いてくる奴がいる。去年は文化祭号の一四ページほどを占拠して読み切りを突っ込んできた人がいたが……今回はいないっぽいな、四コマを三ページぎっちりならいるけど。
俺たち文芸部の短編に付ける挿絵も一緒に上がってきた。皆一人一枚、ところが俺は二枚? 凛、ずいぶん頑張ったんだな。俺のだけ他の面々に比べて二倍近い文量だったので、おまけしてくれたのだろうか。明日会ったときにお礼言っておこう。
「愛されてますなあ、旦那さんや」
「健人お前、今どこから湧いてきたんだよ」
「おん? ちょっくら原稿にひいこら言って締め切りから逃げ出そうとする先生たちを観察しようと来てみたら、文芸部の部室のドアが全開になってたのでぬるっと入ってきたというわけで」
この時期こいつのいる化学部も、文化祭の出店に向けてそこそこ忙しくしているのではなかろうか。その割に皆暇そうに見えるのは、あるいは俺が忙しく感じているだけなのか。
「そういやお前、嫁連れてないの珍しいな。帰り一緒じゃないのか」
「結衣なら美術部の方行ったぞ」
「あ、そう。大体読めたわ」
大方、あっちでも同じような冗句が投げられていることだろう。健人にしろ小西にしろ、なんでこいつらは俺と凛をくっつけたがるのか。俺はいいが、凛に迷惑じゃないのかこれ。そのあたりは分別ついていると信じたいが。
健人は本当にただ冷やかしに来ただけで、本当にさっさといなくなった。小西と合流して帰るなり放課後デートするなりするんだろう。お好きにどうぞ。夫婦仲良くて何よりだ。末永く爆発しろ。
部室には現在、俺と岩沢くんだけだ。白原は美術室に行っているし、部長もどっか行った。これ幸いとばかりに岩沢くんが話しかけてくる。
「俺正直思うんですよ」
「何を?」
「東宮先輩、さっさと素直になればいいのになあって」
「おまいう」
それができたら苦労はしない。凛は割と本気で気になっているが、それ以上は及び腰なのが現状だ。ここからどうしようとかまで考えていない。色々あって、自分が凛とどうこうというところまで考えられないのだ。けどそれを言うなら岩沢くんだって同じではないだろうか。
「あのな、そういうのはお前が玉砕してから言うものだからな?」
「なんで玉砕前提なんですかねえ!」
「いやだって、白原って平井一筋じゃん。常に百合園生み出してるじゃん。冷静に考えて無理だろ、男が割って入るの。そもそもあいつ、男に興味あるのか?」
「合宿のときは、甲斐性次第でどうのこうの言ってませんでした?」
「あれは寝る前で頭回ってなかったからな。仕方ない。心にもないことを言ってしまっても仕方ない」
「ひっでえ先輩だ」
岩沢くんは鞄からエナジードリンクのロング缶を取り出すと、プルタブを開けて中身を一気に流し込んだ。
「ま、俺も分かっちゃいるんですけどね、勝ち目がないことくらい。白原奪ったら、美術部の銀髪のに殺される気がしますもん。ぶっちゃけ手をこまねいているしかないじゃないですか」
比喩じゃなく本当に殺されそうなのが怖いところだ。
「けど先輩は違うでしょ。俺からしたら両想いにしか見えないんですよ、御影先輩に会った回数はそんなに多くないけど」
「冗談。俺なんてただのシスコンだし、どこに好かれる要素があるってんだ」
「そんなに卑下しなくてもいいのになあ。変な意味とかじゃなくて、先輩って髪とか整えれば顔も悪くない方だと思うんですけど」
「素で顔の良いお前に言われてもなあ」
まあ、俺が両想いってのはあり得ん話だ。聞き流すが吉かな。
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