第五話-2
「せっかくだから美術部煽りに行こうぜ!(意訳)」という俺の提案で、白原は先を歩く俺の後ろにちょろちょろと着いてきた。
他の文芸部員は全員帰った。岩沢くんは来るかと思ったけど、さすがに露骨すぎると思ったのか、ちらちらと後ろを振り返りながらも帰って行った。そこまでするなら一緒に来ればいいものを、美術部には用事がないから口実がない、といったところか。
俺と白原は、それぞれ別の相手に用がある。開け放たれたドアを軽くノックしながら通過し、美術室の中で散らばった部員にそれぞれ声をかけに行った。
「鈴花ー、一緒に帰ろ」
と呼びかけながら、椅子に座る銀髪の少女にバックハグを仕掛ける白原。仕掛けられて肩を跳ねさせた平井鈴花は、白原と同じ学年で、俺たちの後輩だ。見られたことに気付いて睨みつけてきた通り、なんか俺には当たり強いんだけどな。ほんとなんでだろう。
なお、俺が用があったのは別の少女である。
「お疲れ、凛。そっちは順調?」
御影凛は俺のクラスメイト、ただの友達だ、今のところは。三つ編みで前髪が長い。
「お疲れ様。順調、なのかなあ。締切っていつだっけ?」
「今週末だから、明明後日だな」
「やばいかも」
「やばいのか」
凛の目の前にあるタブレット端末を見ると、ペイントソフトのキャンバスは、ほとんど何も描き込まれていなかった。
「文化祭の画集に出す絵が思い付かない」
「何でもいいとは思うけどな。文芸部の連中なんてあれだぞ、『架空の反省文』以外、まとまりも何もないアンソロと、もはや人前に出せるものでもないリレー小説で、ページ数露骨に稼いでるんだからな」
「自由すぎない?」
「同人誌は自由でなんぼだ、ってうちの部長が言ってた。正直俺の目から見ても、今回は文芸部史上、過去一のごった煮ダークマターが完成すると思う」
合同の部誌を同人誌と呼んでいるあたり、あれはもうだめだ、完全に末期である。そしてごった煮ダークマターが過去一ということは、過去二過去三があるということでもある。要するにいつも通り、文芸部の部誌なんて、毎回そんなものだ。平常運転万歳。
「そんなこと言われたら、もう余計に何も思いつかないよお……」
涙目で弱っている凛も可愛いと思うけど、締切に遅れられるとそれはそれで困るのも事実。文芸部は現在、美術部の原稿を待っている状態なのだ。チェス大会と麻雀大会とポーカー合戦にも、いい加減飽きてきたところだ。
「何かアイデアない?」
と訊かれたので、
「過去作のリメイクとか」
と答えておいた。俺も今回部誌に投げたのは、中学のときに書いた短編の、完全修正版だ。あまりにも出来が悪く誰にも見せずに封印していたのだけど、アイデア自体は気に入っていたから、今の力量でやり直してみた次第。
今見返してみるとそれはそれは蛇足も多く、見るに堪えない文章力ではあったのだが、それらをねじ伏せて出来上がった原稿は、それなりには評価できると思う。
そんな話をしてやると、
「それいいかも。ありがとう、双矢くん」
と言って、凛は表情を明るくした。
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