第五話-1 後輩曰く、文化祭には伝説があるのだとか
我らが菅野台高校の、文化祭の時期が到来する。
長いようで短い夏休みが瞬く間に過ぎ去り、俺たち文芸部員は、文化祭で頒布する同人誌……じゃなかった部誌の制作に本腰を入れ始めていた。
これは文芸部だけで作るわけではなく、短編小説や詩歌などを掲載する文芸部と、美術部の画集を兼ねた合同誌になるのが通例だ。今年の文化祭号も通例通り、文芸部と美術部の合同誌の制作が進行している。美術部は今頃忙しくしているだろう。
一方で文芸部の俺たちはといえば、
「自称市民の東宮双矢を、人狼として追放します」
「こんちくしょう、なんで分かったんだ。こういう場面で追放されるのは部長の専売特許なのに」
完全に人狼ゲームで遊んでいました。たった今追放されたのが俺である。原稿? どちら様ですか、知らない子ですね。
こうやって文化祭前二週間のこの時期に、冷房があるからといって部室にたむろして呑気に遊んでいるのにも事情がある。俺たち文芸部員は先の合宿である程度部誌の原稿を上げており、お盆休みが明ける頃には、ほとんど推敲や校正まで済んでしまっているという事情が。
そう、普通に暇なのだ。合同誌の美術部は今頃忙しくしているだろう。反面、俺たちは余裕綽々悠々自適、あとは美術部が脱稿して原稿が揃うまで、進める作業がなくぐうたらしていればよい。
「でも安心するにはまだ早い。人狼は俺を含め、二人もいるんだからなあ!」
「じゃあ今度は部長を追放しましょうか」
「「異議なし」」
「くそがあ!」
「えー、ただいま人狼が二人とも追放されましたので、市民側の勝利となります」
「負けてんじゃねえか」
なんださっきの俺の小芝居。俺が余計なこと言ったから部長が追放されたのか。え、負けた原因俺?
「まあそろそろ良い時間だし、パソコン落として帰るか」
という部長の一言で、後輩の岩沢くんがパソコンの電源を切りに向かう。そしてマウスを操作して一言。
「あっ、シャットダウンじゃなくて再起動押しちゃった」
「なあにやってんだ岩沢あ!」
「そのパソコン、再起動遅いのに!」
「嗚呼、家路が遠のく……」
先輩たちの非難轟々、誰も本気で責めているわけではないが、そこにもう一人、後輩が加わる。白原千夏、文芸部の数少ない女子部員。そして多分岩沢くんが惚れているであろう後輩。彼女が放った一言は、
「帰り際に再起動かけるって、人とは思えない所業だねえ」
「そこまで言わなくても良くない!? 東宮先輩、笑ってないでちょっとなんとか言ってくださいよ! 助けて!」
他の部員がたまらず噴き出し、同じく腹を抱えて笑っていた俺に、岩沢くんは助けを求めた。そうだな、さすがに後輩の一人くらい、先輩なら助けてやらんとな。
「可哀そうに」
俺は最大限の憐憫を込めて、岩沢くんの肩に手を置いて、言った。
「俺みたいな変人ですら人なのにな」
再度爆笑に包まれる部室。窓硝子の耐久値が心配になるが、まあ今更のことだ。
「東宮先輩に助けを求めたのが間違いでしたよ!」
岩沢くんが何か叫んでいるが、聞こえない聞こえない。文芸部は今日も平和です。
連載再開。
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