七夕SS
見慣れないものが、菅野台高校の生徒用昇降口に出現した。
「なんだこれ? 今朝はなかったよな?」
つい声に出してそう言うと、一緒に出てきていた御影が、それを見て教えてくれた。
「これ、七夕の飾りだよ。ほら見て、笹の葉に短冊とか付いてる。去年もやってたんじゃないかな」
「言われてみれば、なんかこんなのが置いてあった気もするな。誰が置いてるんだ、これ?」
「生徒会なんじゃないかな? ほら、根元のばけつに生徒会備品って書いてある」
御影の指さす方に視線をやると、たしかに青いプラスチック製ばけつには、「生徒会備品」の五文字がでかでかと太い油性ペンで書かれていた。教室の備品だったら度々別の教室で使われていることがあるし、体育で使うバスケットボールなんかも、外倉庫と書いてあるのに体育倉庫から出てくることもある。
とはいえ部活の所有物や特別教室の備品などは、比較的そういった事件は少ない。特にこれら両方の要素を持つ生徒会のばけつなら、勝手にどこかに紛れ込んでいる、という可能性も低そうだ。つまり、この七夕飾りは生徒会が設置したもので間違いないのだろう。
「堅物な連中なんだと思ってたけど、案外イベントごとも取り扱うんだな」
生徒会なんてものはフィクションとは違い、あまり日常的に表に出てくるようなものではないし、誰がいるのか、どこで何をしているのか、さっぱり分からないのが実態だ。ただし各委員会の上に立ち、節目ごとに誰かの挨拶があり、部活予算の調整を行っているとなれば、もう真面目な堅物なんだと思っていた。違ったらしい。
笹の隣には机が置いてあり、そこにはペンと短冊が置いてあった。あと、短冊を吊るすための麻紐と、それを切るためのはさみも。短冊は何色か種類があり、既に何枚か書かれて吊るされている。
「『無病息炎』って、既に災いしてるけど大丈夫か」
「これペンだから間違えても書き直せないんだ」
「しかも署名が、『病人』」
「無病でも息災でもないじゃん」
二人してしばらく短冊を眺め、たまに変な書き込みを見つけては話題に上げる。個人的に面白かったのが、
「『モテたいbyイケメン』。やっぱ世の中顔だけじゃ駄目か」
「本人が気付いてないだけだったりして」
「だとしたら腹立つなそいつ……」
天国に生まれれば天国を認識できないし、地獄に生まれれば地獄を認識できない、みたいな言葉があったはずだ。非モテ側の俺からしたら、顔の良し悪しも重要な要素だとは思うし、顔が良ければ勝手にもてるものだと思っているのだが。駄目な奴は駄目なんだな。新鮮な知見だ。
「こういうの見ると、もう七月なんだなあって感じがしてくるな。朝日出の七夕祭りは旧暦だから、あまり七月に笹見ることってないんだけど」
「折角だし、何かお願い事書いて帰ろうよ」
という御影の提案で、俺たちも短冊を書いていくことにした。
何書こうかな、無病息災とかにしておこうかな。御影は何を書くんだろう、画力とかかな。左隣で短冊に書き込んでいる彼女をちらりと見、今思い付いたものが一つある。この願い事は自分で叶えるべきな気もするけど、決意表明みたいに短冊を書いている人もいる。これもその類だと思って……でもそのまま書いたら良くないか?
「東宮くん、麻紐とはさみ取ってくれる?」
「ほい」
「ありがとう」
流れで何を書いたか覗き見ようとしたら、さりげなく裏返して隠されてしまった。
「短冊、東宮くんはどんなこと書いたの?」
「御影が教えてくれたら俺も答える」
「……意地悪」
不公平だからね。
先に紐を通した御影が笹に短冊を括りつけているのを横目に、俺も自分の短冊を書き込む。なんとなく匿名で書かれているものが多いので、俺も適当な名前で署名しておいた。
「クラスメイトの女の子と仲良くなれますようにby短編家」
そしてこれを御影に見られないように括りつけておく。なお翌日、俺が相沢に、御影が小西に、それぞれ絡まれたのはまた別の話だ。
明日から連載再開ですね、進捗はなかなかまずいです。第一部書くのにどれだけ時間かけたと思ってるんだ……
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