第四話-10
「身動きが、取れない……!」
あまりの人の多さに、俺たち三人はもみくちゃになりながら、かろうじて繋いだ手を離さずに繋がっている状態だった。これはなんというか、デートがどうだとか言っている場合じゃない。死ぬ。
「相沢の奴め、こんなところだと知っていたら来るのを拒否したものを!」
「東宮くん、そういうこと言ってる場合じゃない。なんとかしてここから出ないと、梨花ちゃんが潰れちゃう」
まずいなそれは。
「御影、左の木の根元に逸れよう。あそこなら少しは人口密度がましなはずだ、少なくともそう見える」
「え、どこそれ?」
「しまった、御影の身長だと見えないのか。梨花、こっち来れる?」
「わ、私はここに……きゅう」
「梨花はなんとかして俺にしがみついとけ。御影も、こっちだ」
「え、どっち?」
もう手探り状態。梨花を手繰り寄せて抱き上げるように捕まえ、それによって引っ張ってこられた御影の手も掴んで傍に寄せる。うわ手小さくて柔らかい、今それどころじゃないからまだ平気でいられるけど、これ最初から握ってたら本当に危なかったかもしれん。
人混みを掻き分け掻き分け、泳ぐようにして横に抜けていく。急に視界が開けると、そこは整備された石造りの道から外れていて、小さな段差を降りて土を踏んだ感触が、草履越しに伝わってくる。
「おっと、危ない。御影、そこ足元に段差あるから、躓かないように気を……」
「わ、あっ!?」
「遅かった!」
人の列が動いて押し出されたのも理由の一端だろう、段差で足を踏み外した御影がバランスを崩し、こっちに倒れるというか飛び込んでくる。咄嗟に目を閉じてしまったので、思ったより軽い衝撃があったことしか分からなかったが……。
「いてて、なんだ、今どういう状況?」
衝撃で俺もバランスを崩し、梨花を抱えていない左半身が、すぐ後ろにあった木の幹に衝突したらしい。この一瞬で、我ながらよくそんな反応ができたものだと感心する。それにしても、左半身が何かに挟まれているような気がするのは気のせいか?
いやこれ気のせいじゃない、前側から俺を押す圧力の正体は御影だ! え、なにこれどうしよう。この場合どうするのが正解? あっ、いい匂い。
「み、御影、大丈夫か? どこか怪我とかしてない?」
「う、うん。大丈夫……」
「そ、そうか、それなら良かった。あの、それならそろそろ離れてもらえると……」
「あ、ご、ごめんなさい!」
まだじんわりと御影の体温が残る左半身を意識してしまい、身体がじわりと熱くなる。あと少し長くくっついていたら、少し危なかったかもしれない。
「ふう……梨花も、大丈夫だったか?」
「うん」
「なら怪我人はなしか。ああ、良かった」
正直に言えば、俺は木の幹と衝突した背中が少しだけひりひりする。もしかしたら少しだけ擦ったのかもしれない。でもまあこれくらいなら些事だ。軽傷ともいえるかどうか、そんな程度。擦りむいていたら、後でシャワーを浴びたときに染みて気付くだろう。
しかしこれ、梨花は下ろせなくなっちゃったな。こっちはこのまま抱っこしたまま移動するとして……え、俺御影と手繋いで歩かないといけないの? 心臓何秒くらい耐えられるかな。
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