第四話-4
夜寝る前に、相沢から電話がかかってきた。
「よう、まだ起きてたみたいだな」
「言うてもまだ一〇時だぞ、お前じゃねえんだから」
「まあ確かに、学校あるときはこれくらいの時間に寝てる日は多いな」
「そういうとこは健康的だよなお前。じゃあおやすみ」
「あ、おいこら待てやお前! せっかく友達が電話したってのによお」
「いやあ正直よ、これから寝ようって時間帯に、野郎の声聞いても仕方ないというか……」
「それなら理想の嫁の声にでも変換して聞け、明日の話だから」
理想の嫁ってなんだよ。
「で、何を話しておこうって?」
「ああ、まあ待ち合わせ時刻と場所の確認と、あとは服装だな」
「服装今言うのは遅くねえか?」
「確かに。だから別にこうしろとか言うつもりはない。ただ、俺たちは一応浴衣で行くとだけ伝えておく。あとお前の嫁も」
「いねえんだよ俺に嫁なんて」
こいついない人間の服装なんてよく知ってるな、まあ御影のことを言ってるんだろうけど……。
御影は別に、俺の嫁でもなんでもない。ただの友人で、クラスメイトだ、少なくとも、今現在は。それを勝手にダブルデートごっこに巻き込んで、挙句の果てには嫁扱い。さすがに一言言ってやった方がいいだろうか。
「あのな相沢……」
「ああ、待った、お前の言おうとしたことは理解した。それに関しては俺たちも考えないでもなかったよ。実際気が早いし、多少強引ではあった。それは認める。まあ今更、明日の予定をキャンセルにしたりはしないけどな」
「当たり前だ、むしろされても困る。何のために祖父さんのとこに泊まる日をここにしたんだって、文句を言うことになる」
「それは困るな、だからキャンセルはしない。予定通り、鈴森神社駅北口に一七時に集合だ。じゃあな」
「あ、おいこら待て話は終わってねえぞ! ……切りやがった、あいつまじか」
俺は通話の切れたスマートフォンを布団の上に投げ出し、どさりと倒れ込んだ。電話中、いつかのように静かに待機していた梨花を抱き寄せ、撫で繰り回して癒しを得る。
梨花がいなかったら、俺はストレスのあまり、焼き切れていたかもしれない。いや、魔力使用者にならなければ、御影と関わることはなかったのか? でも相沢たちとの関係はあっただろうし、誰か適当な女子が現れたら遅かれ早かれか、諸悪の根源め。
「本当に、いつもありがとうな、梨花」
「……? 急にどうされたんです?」
「いやあ、こうしていると、何か疲れることがあっても精神が癒されるからさ。俺にはもったいないくらい良い子だよ、君は」
「そうですか」
「うん、そう」
「先代の魔力使用者の彼だったら、そんなことは私に言いませんよ」
うーん、先代かあ。ついでだから訊いてみるか。
「なあ、それで思い出したけど、その先代って今生きてるの? 魔力使用者って、死んで代替わりするんじゃなかったっけ」
それは俺が魔力使用者になったときに言われた話。ピンク色の丸っこい魔王とやらに聞かされた、魔力使用者に関するいくつかに含まれていた情報。俺の持っているこの情報だと、先代が生きているのはおかしいのだ。梨花は俺の腕の中で、ぴくりと反応した。
「それ、誰かに聞いたのですか?」
「ってことは本当に生きてるのか。いや、実は五月くらいに小田原に行ったとき、平井って後輩に言われたんだよ。平井鈴花、梨花は聞いたことある? 梨花が俺の義妹ってことまで知ってたけど、面識とかあった?」
「平井鈴花さん、ですか。名前は聞いたことありませんが」
「先代と深い面識があるようなこと言ってたな」
「……ああ、それでですか」
「うん?」
梨花が小さく何かを呟いたけど、彼女の顔が未だに俺の腕の中にあることもあって、よく聞き取れなかった。まあ梨花なら、本当に必要な情報なら開示してくれるはずだ。あえて明かさなかったということは、それなりの理由があるのだろう。
そうしているうちに俺は、相沢に大事なことを聞き忘れたことに気が付いた。それはつまり、
「……解散、何時だよ」
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