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嘘告してきた女の子を助けたら懐かれた話  作者: 春井涼(中口徹)
第一部

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第四話-5

 東宮家の祖父さんと祖母ちゃんは朝が早い。俺が自然に目を覚ますのは夏場だと七時頃だが、目を覚ましてすぐに俺が動き出しても、祖父さんはのんびり珈琲を飲みながら新聞を読んでいるし、祖母ちゃんはどこかにウォーキングに出かけている。


 八月九日午前八時、のんびり起きた俺がリビングに出ると、そこには例によって新聞を読む祖父さんの姿が……ない!?


「梨花、どこにいる!?」


「私はここです。お呼びですか、双矢さん」


「祖父さんはどこ行ったん!?」


「双矢さんが起きる二〇分ほど前に、祭りの準備に行くと言って出かけましたが……」


 そういえば祖父さん、鈴森神社祭りの運営委員でした。取り乱したのが馬鹿みたいだ。昨日そんな話してたわ。


「じゃあ朝飯食って、のんびり夕方を待つか」


 食パンをトースターに押し込み、蜂蜜とマーガリンを準備。まさかと思われるだろうが、両方塗ります。そんなことしてたら太るぞ、とはよく言われるが、太れるものなら太ってみたいものだ。できないからこんな痩せっぽちなのであって。万年変わらずなこの体型を見てから言ってほしい。


 こんがり焼けた食パンの片側に蜂蜜を垂らし、残り半分にマーガリン。バターナイフで薄く伸ばし、半分に割いて合わせて閉じる。こうすると一口で食べられる量が増え、手も汚れにくくなる。要するに横着技だ。パンくずは出るけど。


 まあ本当に手を汚したくなければ銀魔力を使えばいいんだけど、さすがに食事で横着をするのに魔法を使うのは、いくらなんでも大袈裟というか、無駄遣いがすぎる。やってみてもいいけど、銀魔力がパンに染みてもなんか嫌だしな。あれって気を抜くと液体になるから。


 そうして用意した朝食を持ってテーブルに着こうとすると、椅子に何やら、布を折りたたんだ何かが置かれているのが目に付いた。


「なんだこれ、昨日はなかったよな。梨花、何か知ってる?」


「ああ、それですか? 正幸(まさゆき)さんが、双矢さんが着るかもと言って、今朝置いていかれましたけど……」


 正幸は祖父さんの名前だ。着るかもってことは何か服か? 俺、あんまり灰色の服は着ないけどな。


 とりあえず皿を置いて手に取ってみる。洋服にしては妙に大きさが……いやこれ洋服じゃないな、浴衣か?


正矢(まさや)さんが昔使ったものだけど、保存が良かったから、大きさが合えば双矢さんも使えるだろう、と正幸さんからの言伝で」


 正矢は父さんの名前だ。


「つまりこれ、父さんのお古ってことか。サイズは多分、父子(おやこ)で体格似てるから大丈夫だと思うけど……」


 いや、俺の方が少し身長低いし痩せてるし、若干サイズオーバーの可能性もあるか? まあそれは後で検討すればいい話だけど、それよりも。


「けど昨日、相沢が電話してきたのって夜の一〇時くらいだったよな。祖父さんなんで知ってんの?」


晶子(あきこ)さんが今朝、正幸さんにお話されていましたけど」


 晶子は祖母ちゃんの名前だ。


「うーん、祖母ちゃんに聞かれてたのは、それはそれでなんか恥ずいな……」


「お二人は、さすがに自分たちの曾孫(ひまご)が着るまで保存は効かないだろう、処分は双矢さんに判断を委ねる、着るなり切るなり好きにしてくれ、と」


「俺に浴衣を何かにリメイクしろって? 相沢夫妻と御影が浴衣で俺と梨花二人が普段着、ってのも居心地悪いし、少なくとも今日は素直に着ることにするけどさ。……あれ、でもそうすると、梨花が一人だけ普段着ってことになるのか? それはそれでなんかな」


「いえ、私の浴衣は、晶子さんが既に用意した、と」


「まじかよ祖母ちゃん用意良すぎか」


 そうか、梨花も浴衣なのか。そうかそうか。


 夕方の楽しみが、一つ増えたな。

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