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嘘告してきた女の子を助けたら懐かれた話  作者: 春井涼(中口徹)
第一部

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第三話-10

 平井が白原の腕に収まってばば抜きがもう一周した頃、星を見に行っていた化学部が帰ってきた。


「見えた?」


「だめだな、あれは」


 相沢に訊いてみると、諦めたような残念そうな声で返事が返ってきた。


「夕方から雲が出始めたらしくてな、(さそり)見たかったのに」


英雄(オリオン)追いかけてどこか行ったんじゃねえの。しかしそうなると、白鳥とか三角もだめだったか」


「だめだめ、何も見えん。せっかく『銀の羽衣』まで来たってのにな。お前も外見てみろよ、月すらどこにあるか分かんねえぞ」


「昼間は晴れてたんだけどなあ」


「こりゃあ夜も気温は下がらんな、明日は蒸し暑くなりそうだ」


 無駄に気が滅入る情報まで寄越されてしまった。何もこちらまで陰鬱な気分をお裾分けしてくれなくてもいいじゃないか、と言いたいところだが、文句を言う暇はない。


「そんなことより東宮……と文芸部の部長、お前らなにやってんの?」


 疑念を高純度で含んだ視線が突き刺さる。室内には、「ああ、それ訊いちゃいます?」みたいな微妙な空気が流れた。


 俺の膝には、はしゃぎ疲れた部長が寝転がっていた。


「何というか、成り行きと道連れというか……」


 寝転がってるというか寝ているのだが、これは平井のせいである。白原に捕まったままばば抜きを一周したところ、今度は平井が勝ったため、彼女が罰ゲームを発動したのだ。


 こいつは疲れ始めて眠そうにしていた部長を見て何を思ったか、「東宮先輩に預かられてください」などと言い放った。そう、今回もうちの部長が最下位だったのだ。ここまで来ると不憫になってきた。そしてなぜか俺が巻き込まれ、現在部長は俺の膝枕で爆睡中である。


「頼むから寝るなら自分の部屋で寝てくれよ……」


 足が痺れてきた。御影も何か言いたそうにしているが、今のところ、何か言ってくる様子はない。そして平井は依然として白原の腕の中におり、解放される気配はない。あ、なんかあっちも眠そう。


 寝た奴を起こすのも悪いよな、ということで、部長はこの部屋に敷かれた布団に押し込んで、俺たちは場所を変えることにした。疲れたらしい岩沢くんを部屋に残し、俺たちはもう一つの男子部屋に移動する。そこで化学部員を交え、カードを再開する。


「といっても、化学部(うち)の人間は俺たち二人だけどな」


 つまり相沢夫妻である。参加者を整理すると、俺と御影、相沢と小西、平井と白原だ。男子部屋なのに女子の数が多いのは以下略。さっきまで使っていたカードは岩沢くんの私物なので返却し、代わりに相沢の持っていたものを取り出した。お前も持ってたのか。


「……鈴花ちゃん、すごく眠そうだけど大丈夫なの?」


 御影が心配するのも当然で、平井は今にも寝そうなほど頭をがくがくと揺らしてカードを保持している。未だに白原に捕まっているという事情もあって、ここは二人一組で参加するらしいが、もう寝かせた方が良さそうな気がするのも事実。


「まあいざとなったら、あたしが部屋に連れていきますんで、心配しなくてもいいですよ。慣れてますし」


「そういえば、二人は中学から一緒だって言ってた気もするな」


「……? あたしそれ、先輩に言いましたっけ?」


「言ってたぞ、小田原駅で。割と最初の方に」


「じゃあ言ったんですかね。全然覚えてないや」


「東宮が覚えてたことに俺は驚いたけどな。お前でも人の情報覚えられるんだな」


「健人、頭疲れてくると口悪くなるよね」


「でもごめんなさい、わたしも相沢くんと同じこと思ってました」


「こ、こいつら言わせておけば……!」


 あまり人に興味がないのは事実だが、それなりに仲良くなった人の話は割と覚えてる方だぞ。


「だってお前、俺の話の半分は一時間で忘れるし」


「誰が好き好んで人の惚気話逐一記憶するかよ」


「この間は締め切り前なのにネタがないからってせびってきたくせに」


「あれは例外的な特殊パターンだ忘れろ」


 あれこれと話しながら、カードを交換し捨てていく。そうしているうちに、気付いた。


「もしかして、御影も眠い?」


「え? うーん、少し眠くなってきた、かも。東宮くんは大丈夫なの?」


「俺はまあ、疲れがないと言えば嘘になるけど。でも多分まだいけるな。深夜テンションってやつで」


 時計の針は既に一一時を過ぎているが、深夜というにはまだ序の口だ。正直、これくらいの時間から書き始める小説が一番面白いまである。多分理性と迷いを捨て去れるから。


「御影はそういうのないのか? 深夜の方が正直に絵が描ける、とか」


「そんなのあるのかよ?」


「言われてみればあるかも。一気に描いた後は寝付きがいい気がする」


「そんなのあるのかよ……」


 創作ってそういうところあるよな、やっぱり。創作素人の相沢が驚愕しているが、勢いで何とかするのに、深夜テンションほど役に立つものはない。環境を変えようがエネルギーを充分に補給しようが、ブレーキを叩き壊して踏み込むアクセルの強さには、何物でも敵わないのだ。


 そうしてばば抜きが一周すると、今度は小西が勝った。最下位は相沢だ。さっきから順位が大いなる何かの意志に左右されている気がしてならない。


 小西は相沢に何かを囁いたが、その内容は俺には聞こえなかった。相沢の表情の変化からして、たぶん聞こえなくて良かったやつだと思う。

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