第三話-6
「ディーゼル車だ!」
と目を輝かせる相沢や塚本先生などを乗り換える列車に詰め込み、一五分ほど揺られて無人駅で降車した。今更ながら、とんでもないところに連れて来られた気がする。これは確かに散歩くらいしかすることはなさそうだ。
田舎度がさっき降りた駅の比ではない。あの駅の周りもなかなか閑散としていたが、駅は無人ではなかった。こっちは線路の片側にはちらほら家もあるが、反対を向いてみれば、山と森しかない。家のある方にしたって、畑の広い家ばかりだ。
「『銀の羽衣』、本当にあるんでしょうか?」
「俺が訊きたい」
などと白原と話しながら、置いていかれないように塚本先生について行く。
「この辺り、スーパーとかコンビニとかあるのかな」
「ここに住んでる人達が困るので、何かはあると思いますけど……」
「さすがに自給自足ではないよな?」
「そんなことは……ない、ですよね?」
先が不安になってくるが、とにかく歩いていく。
結論から言うと、もちろん宿『銀の羽衣』はあったし、途中でスーパーにも立ち寄った。大量のお菓子と飲み物を購入し、宿に向かう。塚本先生と鈴村先生は酒を飲みたがっていたが、小西や白原が笑顔を向けると諦めた。強い。
適当に荷解きしたら、俺たち文芸部はカンヅメだ。一ヶ月も先の締切のため、しこしこと原稿を蓄えておくのだ、さながら冬眠前のリスのごとく。そのつもりだったのだが、
「東宮、四人で散歩行こうって結衣と御影が」
「千夏、一緒に出かけない?」
……ご覧の通りの始末である。一文字も書く前にお迎えが来てしまった。
「お前ら、文芸部の予定知ってるよなあ!?」
何か思い浮かびそうだったので邪魔者を追い払いたく、俺がペンを片手に威嚇する傍ら、
「いいよ、どこ行く?」
ペンを投げ出しほいほいついて行く白原。こちらの説得力ががた落ちするのでやめてほしい。
「裏切り者ー!」
という声は、白原と同じく一年生の文芸部員の岩沢くんだ。
「じゃあ岩沢くんもおいでよ、一緒に先輩たち裏切っちゃおうよ」
「うわあ、悪い女だ」
「それも悪くないか、よし乗った」
「「寝返りやがったぞあいつ!?」」
岩沢くんが寝返った衝撃で俺の浮かびかけてた文章もすべて吹っ飛んだので、全てがどうでも良くなった俺も、相沢たちの誘いに乗ることにした。いわゆる無敵の人というのはこうして出来上がるようだ。
「すまんな、部長」
「ブルータス、お前もか!」
あっさりと脱走を決断した俺に、ただ一人残されることが決定した部長の魂の叫びが突き刺さる。どうせあんな名目は取ってつけただけのはりぼてだ。鈴村先生に見つからないうちに逃亡してしまおう。
まあ俺がいなくなっても、部長は原稿を書き進めるだろう。何しろ彼は、平部員と同じように掲載する小説だけでなく、前書きや後書き、さらには部員紹介のページなども書かなくてはならないのだ。むしろ静かに筆を進めるいい機会だ。
これが立場故に押し付けられた仕事であれば、多少なりとも同情するところなのだが、あいつの場合は勝手に一人で背負い込んだからな。ご苦労なことである。単純な作業量でいえば、他の部員の三倍くらいあるかもしれない。
皇帝カサエルよろしく、立て続けの裏切りに発狂寸前の部長を残し、俺たちはカンヅメを抜け出した。抜け出したところで宿近辺には何もないので、散歩中は特筆するような事件は起きなかった。例の二人が終始手を繋いで仲睦まじくしていたくらい。
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