第二話-14
その後、フードコートを出てから朝日出駅で別れるまでの記憶は定かではない。帰宅したあと梨花と何を話したのかすら思い出せないほどだ。
確かなのは、御影が俺との外出を楽しんでいたという記憶と、俺が御影との外出を(本来の目的を忘れたまま)楽しんでいたという記憶、そしてエコバッグに詰められた、何着かの夏服。
つまりは物質的なもの以外何も確かなものはないのだが、それを惜しく思っている自分がいることに驚いてしまう。情報収集に失敗したから、というのとは少し違う。上手く言い表せないが、その時間が終わってしまったことを惜しんでいるのだ。
楽しかった。それだけは確かなのだが。
翌日、雨の降る中レインコートを着て自転車を走らせ(こんなことをしなければならないのだから、つくづく菅野台高校の立地はひどいと思う)、学校に着くと、珍しく俺より先に相沢たちが教室に着いていた。
「早いな」
しかし隣席から返答はない。早く来てはいたものの、相沢は机に突っ伏して寝ているようだ。低気圧のせいだろうか。小西の方は、相沢の後ろで教科書を読んでいる。真面目だ、期末テストまでまだ二週間あると言うのに。
とはいえ違和感がある。相沢は確かに年中眠そうにしているやつだが、朝から机で眠って起きないという状況は、今までなかった気がする。事情を知っていそうなやつに訊いてみるか。
「小西、相沢のやつ、何かあったか?」
「寝不足なだけだと思うよ」
「寝不足なら、むしろギリギリに来そうなものだけど」
「……まあ、健人は、昨日から私と一緒にいたし」
そゆことね。だいたい察した。
「その割には小西は眠そうにしてないな」
「そこは体質かなあ」
とりあえずそっとしとおこう。相沢は俺がなにかしなくても、必要になれば小西が起こすだろうし。俺はこの二人の邪魔をする気は一切ない。
……そんなことを考えていた俺が馬鹿だった。昼休みのことだ。いつものようにスーパーで安く売ってた惣菜パンを口に運んでいると、小西が急にこちらに話を振ってきた。
「そういえば東宮くん、昨日御影ちゃんとデートしてたんだっけ?」
コロッケが喉に詰まりかけ、俺は慌てて水で流し込む。
「なんで知ってんだ」
「おい、俺それ聞いてないぞ」
「言ってないからな。小西が知ってるのがおかしいんだ、どこ情報だそれ」
「え? 本人情報」
小西が指さす先で、御影が一人で弁当を食べていた。まじかよ、あいつ小西に喋ったのか。全くそんな想定はしていなかったな。
「お前にもついに春が来たか。……東宮だけに」
「うるせえ、ワイヤーで首絞めるぞお前」
やかましい愛妻家は置いといて。
「そんなことより俺は、お前らの弁当が全く同じことが気になるんだが」
「羨ましいか」
「そういう訳じゃない」
鋼のメンタルすぎてカウンターのつもりが無効化されたんだが。鋼のメンタルというか、こいつらはもう、結婚してないだけの熟年夫婦感あるんだよな。
互いを好き合っていることを隠しもせず照れもせず自然に見せつけてきやがるしそれを不思議に思いもしない。「夫婦が仲良くてなんの問題があるの? むしろ理想じゃない?」みたいな。将来を誓い合うとかいう段階あるんだろうか。それだけちょっと気になるな。
「来年くらいには学生結婚とかしそうだな」
「お前が?」
「お前らがだよ」
「する?」
「割と真剣に、プロポーズの言葉は考えてる」
本日もごちそうさまです。
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