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嘘告してきた女の子を助けたら懐かれた話  作者: 春井涼(中口徹)
第一部

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第二話-13

 嘘告白より前、相沢としたどうでもいい会話を、なぜか今でも鮮明に思い出せる。いつもの如く、早く彼女を作ってダブルデートがどうたらこうたらせっつかれてたときのことだ。


「東宮、彼女欲しいとか思わないのか?」


「思うが?」


「あ、そこは人並みに思うんだ」


「人並み……いやそれ以上かもしれないな。ある意味、それ未満かもしれない」


「さすが文芸部、文学人の言い回しはときに難解で俺にはよくわからん」


「皮肉か」


「すまんまじで分からんから理系人の俺にも分かるように話してくれ」


「恋愛をしたいというより、創作のインスピレーションのために彼女欲しい。彼女欲しい欲は強めにあるけど動機が一般人のそれよりはるかに不純。性欲の方がまだ純粋に見える」


「それはまた別の意味で不純極まってると思うが……なるほど、そりゃ彼女できないわけだ」


「非モテ陰キャ相手に今更何言ってるんだ。だが今度こそ馬鹿にされたのは分かった、焼くぞお前」


「怖い怖い。どうせ焼くならマシュマロにしよう」


「この会話のどこに食欲を刺激されたの……?」


 最後にはいつも通り掛け合い漫才に発展したが、要するに、俺は恋人を求める資格も恋愛を求める資格もないのだ。結局、ただ観察して参考資料にしたいだけなのだから。




「……いやこれ本当に、怒られても文句言われても仕方ないと思うんだけど」


「創作やってる人なら普通じゃないの?そんなに珍しいことでもないと思う」


「そこで理解を示してくるとは思わなかった。あまり褒められた思想じゃなくない?」


「イラスト分野とはいえ、わたしも創作してる身だし、分からない感覚でもないし」


「だから絶対受け入れられるっていうわけでもないだろ。それもたった今、利用されてた身で」


「わたしが言えたことでもないけど、東宮くんはどうしてそう簡単に卑屈になっちゃうかなあ……」


 悪かったな、昔色々あったせいで、根本が卑屈な陰キャに調整されたんだ。夢は叶わないから夢なんだし、星は手が届かないから星なんだって思い知らされたんだよ。まあさすがにそんなことを言えるわけがないので、これは俺の中に留めておくけど。


 そもそも御影と俺が釣り合わないのは当たり前だし、多少意識してるくらいで、明確に恋愛感情を持っているわけではない。そんな奴にただ資料として観察するためだけにデートに連れ出されて愉快な人間がいるとは思えない。いるわけがないのだ。


 ……なのに、御影はなぜ、こんなに落ち着いていられるのか。創作家だから分からない感覚ではない? そんな簡単に割り切れるものとは思えないし、それに限度というものがあるだろう。ほら、御影の手が……あれ、なんかこっちに伸びてきて、顔を、挟まれた?


「あのね、東宮くん」


 テーブル越しに顔を押さえられ、名前を呼ばれる。動けない。この状況で動けるわけがない。あ、今呆れた顔された気がする。


「わたしね、午前中楽しかったの。本屋さんで本を選んだのも、二人でスマホケースを買ったのも、今お昼食べてたときもそう。言ったでしょう、他に一緒に来てる人がいなかったから、話しやすかったって。でも、それだけじゃないよ。東宮くんじゃなかったら、こうはならなかった」


 言葉が、出てこない。ほぼ強制的に合わせられた御影の目から、目を離せない。逃げられない。動けない。動きたく、ない。


「それに、東宮くんだって、途中からは情報収集とか忘れて楽しんでたように見えたよ。今は、それでいいんじゃない? 一緒にお出かけして楽しいって。それも一つの生の感情、参考になるんじゃない? だからね、東宮くん」


 手が、離される。なぜだろうか。なぜ、少し名残惜しく感じるのだろうか。でもそんなことより、続く言葉に耳を傾けたいと思ってしまうのは、なぜだろうか。


「今日は、誘ってくれて、ありがとう」


 そう言って柔らかく笑う御影から目が離せないのは、なぜだろうか。

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