第二話-12
俺の答えを聴くと、御影は納得してくれたようで小さく笑った。
「東宮くん、妹さんのこと大好きなんだね」
改めて第三者に言葉にされると気恥ずかしいものがあるな。否定するつもりはないけど。
「優秀で可愛い妹を愛さない奴を兄と呼べるか?」
「シスコンなんだ」
「悪いか」
「ううん、全然。いいと思うよ、誰かを愛せるって素敵なことだと思うから。もちろん、行き過ぎは良くないけどね」
「……そうか」
なんだかなあ、さっきからペースを握られてるような気がする。特に昼食を摂り始めてから。心なしか顔が暑い。これは多分、フードコートの人口密度のせいだけではないだろう。熱を冷ますため、俺は冷水をちびちびと口に含む。
不満があるわけではないのだ。こういう機会でもなければ、御影と二人きりで話すことなんてないだろうし。
それに、学校では気付かなかったが、表情がころころ変わるのも見ていて飽きない。声も聴いていて心地よい。この際もう正直になるが、俺は多分、御影を意識してしまっている。
──楽しい。俺は今、今日この時間を楽しんでいる自覚がある。本来の目的も忘れそうになるくらい。
一〇〇パーセントただの欲で頼んだわけではないのに、むしろある程度の必要性があって(電話のときは言葉がまとまらなくてデートなどと言ってしまったが)、都合が良かったから御影を誘い出した。
でも、そんな前提というか目的があったせいで、最初は少し、後ろめたさみたいなものがあった。それを忘れるほどに、俺は楽しんでいる。
「「ごちそうさま」」
いつの間にか、食事が終わっていた。あっという間だった。では、次の行動に移らなくては。
「ええっと、次は服を見に行くんだったか。どこから回ろうか……」
「あのね、その前に東宮くん」
考えながらトレーを下げるために立ち上がろうとすると、御影に止められた。
「……? どこか行きたいところとかあるか?」
「そうじゃなくてね? 一回、座ってくれる?」
さっきまでの笑顔ではない。どこか真剣な、真面目そうな表情になっている。俺、何かまずいことをしただろうか? トレーを下げる前に呼び止めて話すことって何だ?
「さっきから東宮くんを見てて思ったの。もしかしたら勘違いかもしれないし、そうならそれでいいんだけど……」
そして、ついに気付かれた。
「このデート、ただのデートじゃないんだよね?」
衝撃が大きすぎて、すぐには言葉が出て来なかった。
そう、これはただ遊びに来たわけではない。少なくとも俺にとっては。本当に、都合とタイミングが良かったから御影に頼んだだけだったのだ。
あのとき御影が電話して来なかったら御影にデートしてくれなんて言わなかったし、そうだったとしたら俺は、白原に助力を求めたか、相沢と小西の話を聴きに行っていただろう。
──恋愛に関するありとあらゆる情報。俺が今必要としているのが、これだった。当初の想定では、別に俺自身がデートをする必要はどこにもなかったし、その相手が御影である必要もどこにもなかったのだ。
それを、どこから伝えればいいのだろう。どう話せば、誤解なく伝えることができるだろう。
「あ、その、怒ってるわけじゃないんだよ? ただちょっと、なんか様子が変だなーって思って確認しておきたかっただけで……小説書くためなら、色々あるんだろうし、お礼だってわたしが押し付けたようなものだから全然気にしないから!」
全然気にしないのはそれはそれでちょっと凹む。というか今さらっと答え出たな。
「分かった、正直に言うよ。ここまで付き合ってもらったわけだしな。まあ今、御影が自分で答え言ってたんだけどね」
「え、わたし何か言った?」
「無自覚だったか。小説書くための情報収集だよ。今度の部誌、夏号を書くのに欲しかったんだ。そのために、御影に何も言わずに……」
だから躊躇ったんだ。常識と良識の範囲内、公序良俗を逸脱しない程度、という許容範囲に収まるとは思えなかったから。
「なんだ、そんなことだったんだ」
だが、御影の反応は俺の予想を大きく外れたもので。
「よかった、東宮くんが変なことに巻き込まれてなくて」
嘘告白で知り合った御影が言うと、それは少し冗談には聞こえなかったけど。
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