第二話-5
「だから杉本先生も大岩先生も、過去に似た事例があったって言わなかったんだ……」
そういう事情があったとなれば、納得がいく。事情聴取の際、嘘告白によるいじめの解消という特殊なケースに前例があったと知れていれば、学年が違えど先生がなんのリアクションも見せないはずがないのだ。
杉本先生も大岩先生も、少なくとも俺が入学したときには菅野台高校にいた先生だ。いじめのような深刻な問題があったとなれば、それを共有されていないわけがない。解消の仕方が特殊であれば、忘れる事も出来ないだろう。
だが、そんなことがどうでも良くなるような爆弾が、天宮先輩から投げられた。
「うん、そうなの。それが今回君に謝らないといけないことに繋がっててね。君が今回の加害者をまとめて捕まえたところ、僕のクラスメイトに見られてたんだ。そして、君が加害者だと誤解されていた」
「……!」
つまり、銀魔力が見られたのだ。俺が魔力使用者だという事実は、基本的に他者には秘密にしている。だがそれが見られていたというのは、無視できない。魔力使用者などという異常な存在が表に知られれば、何が起きるか分からない。
しかも、俺がいじめの加害者だと誤解されたのも、同じくらい大きな問題だ。主に、俺の名誉と矜持にとって。わざわざ関わりたくもないいじめに関わり、しかも加害者として認識された。冗談じゃない。
やばい、どうする? まずは梨花に相談か?
「その誤解は既に僕が解いておいた。だけど、あれだけの時間的猶予があったにもかかわらず、周囲の注意が足りてなかったのは僕の責任。ごめんね」
先輩の声で、俺は大きく深呼吸する。冷静になれ、今我を忘れても、何にもならない。またあれを繰り返すわけにはいかないのだ、しかも、こんな短期間のうちに二度も。というかこんな所で暴れても、先輩と店の迷惑になるだけだ。
「謝らないでください。あの時俺は、自分の感情に我を忘れて、あの三人に殺意を抱きました。御影が止めてくれなかったら、俺は学校内で、人を三人同時に殺していたかもしれない。感謝される理由も、謝罪される理由も、俺にはないんです」
自分だけ銃刀法が適用されない日本で、拳銃を常に携帯しているようなものだ。だから俺は、今まであまり魔法を頼らなかった。
「人を殺せる力を、充分に自分でコントロールできなかった。それが、今の俺には怖い」
すると、天宮先輩が椅子から立ち上がり、俺の隣に座った。何を、と訊ねる間もなく、先輩の手が俺の頭に乗せられる。
「本当に、よく頑張ってくれたね」
そう言って、頭を撫でられる。心地よくて、不思議と、振り払う気にはならない。
「先輩、俺は」
「ごめんね、僕は君の辛さを分かってあげることはできなくて。一人で怖い思いをさせてごめん」
「それは、先輩が謝るようなことじゃ……」
「大丈夫、君は大丈夫。凛ちゃんも僕も、もちろん鈴花ちゃんも、みんな君に感謝してる。君はみんなを救ってくれたんだよ。ありがとうね」
胸の内にあった黒々とした感情が、霧散していく。まったく、天宮先輩には敵わないな。
年上好きなやつは、こういうところがいいんだろう。俺は、撫でられながらそんなことを思った。
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