第一話-24
「少しは落ち着きましたか?」
「はい、すみませんでした。お見苦しいところをお見せしました」
俺たちのいる空き教室に現れた担任の杉山先生に言われ、俺は意識を再起動した。
冷静になってみると、さっきの出来事は徹頭徹尾黒歴史だ。もうそこだけでもアカシックレコードから消してしまいたい。
誰にも覚えていて欲しくないし何なら自分でも忘れたい。家に帰ったら、記憶をパンドラの箱に封印する魔法がないか、梨花に訊いてみよう。
御影の心配するような視線が非常に痛い。やめてくれ、せめて嘲笑ってくれ。
「ええっと、今日は昨日の嘘告白に至った経緯を確認しようと思ったのだけれど……そもそもあなたたち、どういう関係? 答えにくかったら答えなくてもいいけど、本当にただのクラスメイト?」
そういえば俺たちはどういう関係なんだろう。そもそも御影と俺の間に、直接的な関係は今までなかったはずだ。最初に会話したのなんて、それこそつい一昨日なのに。
どう答えようか、ちらりと御影の方を見てみると、彼女もまた、同じことを思ったのか再び目が合ってしまった。そのまま互いに首を傾げ、口を開く。
「どういう関係……?」
「どうと言われても……」
出てきた答えは同じだった。
「「嘘告白をした側とされた側?」」
「ああ、うん、多分なんとなく分かったわ。話を進めましょう」
一体今ので何が分かるというのか。
「それで、御影さん? あなたが嘘告白をした理由を教えてくれる?」
嘘告白だけを切り取ってみれば、なかなか許されないような行為に見えるだろう。だが今回の件については、背景にいじめがあったことは既に伝わっているらしく、杉山先生の口調は責めるようなものではなかった。
まあそもそも、された側である俺も合意の上であって怒っていないので、責める理由が今のところ存在しない、という事情もあるだろう。
「いじめに遭っている証拠を残すためです」
御影の説明は、俺が聞かされたものと大して変わりはなかった。
「わたしが受けたいじめは、特に周囲に分かりにくいものでした。人前で悪口を言われた訳ではないし、分かりやすく物を盗まれたり壊されたりしたわけでもないし、身体的な暴力を受けたわけでもなかったし。最初は誰かに相談することも考えました。でも、証拠がなかったので、誰にも信じてもらえないと思ってしまったんです」
むしろよくまあ、証拠を残さずにここまで追い詰められたものだ。その技術、絶対使いどころを間違えているだろう。なぜ人を傷つける方に行ってしまったのか。
「最初にわたしがいじめを受けていることに気付いたのは、部活のみなみ先輩でした。今月に入ってからのことだったんですが、その頃にはもう、人を頼ることを諦めていました。でも気付いてくれたのは先輩だけだったし、思い切って相談してみました。証拠がないって信じてもらえないんじゃないかと思ったけど、先輩はわたしの話を信じてくれて、いじめを終わらせる方法を、一緒に考えてくれました」
天宮先輩すごすぎるな。改めて思うが、よく気付いたものだと思う。自身という前例があったとはいえ。
「みなみ先輩は、後輩の鈴花ちゃんにも声をかけて一緒に考えてくれました。嘘告白を使おうと言い出したのも鈴花ちゃんです。証拠を作るなら、誤魔化しがきかないように、第三者を味方につけようって。仲のいい人を巻き込んだら逆にでっち上げを疑われるかもしれないし、だったら今まで話したことがないくらい無関係で、肩入れする理由のない人を選ぼう、って」
「あー、それで俺が選ばれたんだ。妥当なところだな」
実際には、俺が魔力使用者であって銀魔力をあてにしていた、という理由もあったし、勘違いする非モテ陰キャの方が見た目的に面白いと思わせることもできた、という、かなりどうしようもない事情もあったわけだが。まあそこまで説明する必要もないだろう。
杉山先生が、「事情も知らずに協力してたの?」とでも言いたげな目で俺を見ているが、それはさておき。
「そこからは、完全に鈴花ちゃんが頼りでした。一晩で計画を立てて、東宮くんに話を通して、西園さんたちに……どうやったのかは分からないけど、わたしに嘘告白をさせるように働きかけて。本当にどうやったのかは分かりませんけど。それで場を作っておいて、嘘告白を実行しました。そこからは、記録された映像の通りです」
本当にどうやったのかは分からないが、今回の計画のMVPは平井で決まりだろう。加害側に嘘告白をやらせるように働きかけるってどんな工作だ。仲間になったふりとかしたんだろうか。
「なるほどね、東宮君も、今の話に間違いはない?」
「大丈夫だと思います。……一晩で計画立てたってところは、聞かされてませんでしたけど」
本当に、今回の件はどうなってたんだろうな。謎が多すぎるわ。
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