第一話-23
何とか相沢を叩き起こし、慌ててコンピュータ室に駆け込んで遅刻を免れた、その日の放課後。俺は御影とともに、昨日の空き教室に来ていた。
相沢は行き先が違うので、今この場にいるのは、俺と御影、他には先生が一人来るだけだ。今はまだ、この場には二人しかいない。
さて、そうなると問題になってくるのが、この微妙な静寂をどうするのか、という話。何か会話を振った方がいいのだろうか。それとも、ただ待っていればいいのだろうか。そう思ってちらりと御影の方を見ると、
「「……!」」
互いに目が合って、互いに即座に目を逸らした。え、こっちを見てたってこと? なんで?
もう一度、眼球だけを回して御影の方を見てみると、彼女はさっきの姿勢のまま、顔を俯かせて動いていなかった。髪が長いので、顔色や表情は確認できない。なぜこっちを見ていたのかは不明だ。
……まあ何でもいいか。そんなことより、この後何を訊かれるのかと、その受け答えについて考えておこう。
多分、なぜ嘘告白という行為を行ったのか、については改めて訊かれるだろう。そこから、他に方法はなかったのか、ということも訊かれるだろう。あとは……映像を確認はされるだろうと思うが、他に何を訊かれるかは分からないな。
正直な話、俺は作戦に加担しただけで、話せる情報がほとんどない。詳しいことは平井と天宮先輩にでも訊いてくれ、と言うのがせいぜいだ。
……っていうかあの映像見られるのか。黒歴史そのものなんだが。一回死にたいんだが。とかなんとか、纏まらない考えで第n回(正確な数字は今更思い出せない)脳内小田原評定をしていると。
「あ、あのねっ」
「……おん?」
御影だ。さっきのあれは、俺に何か話しかけようとしていたのか。そうしたら同じことを考えていた俺と目が合ってしまって、つい反射的に目をそらしてしまった、と。……え、なにそれ。
「かわいい」
「ふえっ!?」
「へ?」
待て待て待て待て、俺は今、一体何を言った? かわいい? 俺が? 御影に? 何の脈絡もなく? こんな非モテ陰キャ代表みたいな奴に言われてもただ気色悪いだけじゃないか? 画面越しのバーチャルな推しならともかく、面と向かって言ったのか? 俺は馬鹿なのか!?
「あ、あの……今までそんなこと言われたことなかったので、その……」
そうだよね! そりゃあ何の前触れもなくかわいいなんで言われても困るよね! というかきもいよね!
「すいません一回死んだ方がいいですよね俺もう家帰ったらピアノ線で首吊りますわあはは……こんなきもい奴が生きててほんとすいません」
「言ってないっ! わたしそんなこと一回も言ってないっ! そんな、か、かわいいって言われたくらいでそこまで思わないから!」
「あー最悪だ、いじめから抜け出すために嘘告白なんていう意味話分からん博打に出た翌日によく知らん非モテ陰キャのクラスメイトにきもいこと言われたらどう思うか想像することもできない俺は三回くらい死んだ方がいい何なら存在そのものをアカシックレコードから抹消して最初からいなかったことにしてほしいというかもういっそ誰か俺を殺してくれ……」
「落ち着いて、東宮くん落ち着いて! そんなこと思ってないってば! ほら、もう先生来たから! お願いだから落ち着いてよおおお!」
「ごめんなさいごめんなさいこんな人間が生きてて本当にごめんなさい発言を選ぶ理性もない塵が生きててごめんなさい……」
懺悔というよりここまでくるともはや自分を拷問にかけている気分だが、我ながら本当にくだらないことをやらかしたと思う。
教室に入ってきた先生が異常者を見る目でこちらを観察しているが、それもやむなしだ。急に可愛いとか口走った挙句呪詛を唱えだしたら、俺でも同じことを思うだろう。
ああ……死にてえ……。
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